次の日、母校広場―
翔一にとっては久しぶりの休暇。この日、ベルファストと1日過ごすという約束をしていた。デートというやつだ。
―ご主人様っ
―おはよう、ベル
―おはようございます
ベンチに座っていた翔一を目掛けて小走りしたベルファスト。彼女は赤い帽子に茶色のセーターを揺らしていた。そんなベルファストを見つけ、翔一は立ち上がると彼もベルファストに近づいていく。やがて2人の距離はゼロとなった。
―ふふっ、ご主人様…
ベルファストは翔一に抱き着く。
―どうしたんだい?今日はすごく甘えん坊だね
―躊躇なく甘えられるようになっただけです
翔一の問いにベルファストはそう答えた。
―そうか
今まで彼女は、翔一のメイドとして彼と接するという感情を表向き持っていた。お互いに愛し合っていると分かっていても、メイドであることから彼女は自分の感情をある程度殺していたのだ。しかし、昨日その感情を爆発させてしまったことで素直な感情を出せるようになったらしい。
翔一は彼女から向けられる、子供のようにあどけなく、それでいて艶やかな微笑みに胸を高鳴らせた。
―…
―ご主人様、もしかして、照れていらっしゃいますか?
―そ、そんなことないぞ
―ふふ…
―な、なんだよ…
―貴方が困っているお顔…かわいいです
今までになく積極的なベルファストに翔一は赤面してしまう。そんな彼を置いていくようにベルファストは言う。
―さあ、ご主人様。エスコート、していただけますか?
ベルファストは翔一の腕に絡む。
―もちろん
翔一はそう答えて、歩き出した。
――――――――――――――――――――
海岸―
特に何もすることはなくただ歩くという、デートというには地味な時間を過ごしたが、2人にはそんなことは関係なかった。2人にとって、お互いと過ごすということこそが幸せなのだから。
―ここは…今となっては懐かしいですね…
―そうだな
海が見渡せる海岸に近い道、以前ここで翔一はベルファストのことを”ベル”と初めて呼んだ場所だった。
―ベル…
何の気もなく呼んでみる。
―はい…
ベルファストは静かに答えた。
―…何でもない
―もう…ふふふ
何の意味もないようなやり取りが2人を包む。心が温かくなる。翔一はベルファストを見つめた。
その時、母校に危険を知らせるサイレンが鳴り響いた。
―ご主人様…!
―ああ、こんな時に来るなんて
サイレンが鳴って直後、翔一のWARSブレスからも通信が入った。明石の声が聞こえる。
”指揮官!今までにない高エネルギーのセイレーンが現れたにゃ!気を付けてにゃ!”
―分かった…!
通信が切れると翔一はベルファストの方を向く。
―ベル、行くぞ!
―はい!
2人は港に走り出した。
――――――――――――――――――――
海上―
翔一は今回出撃するKANSENを招集し、早速海へ出た。皆は今、指揮艦を囲んで航行している。後方に2人、赤城と加賀、前方にエンタープライズ。またその前にモナークを配置し、主力としている。前衛艦はベルファスト、ローン、プリンツ・オイゲンだ。また前衛のバックアップに伊168がついている。
―明石、敵の詳細な情報はやはり分からないか
KANSENが損傷した場合の応急処置要員として、指揮艦に常駐している明石は、翔一の問いに眉間にしわを寄せて答える。
―分からないにゃ…でも、今までになく強いセイレーンであることは間違いないにゃ。おそらくヒト型にゃ。もちろん周りには量産型もたくさんいるから、そこらへんも気を付けてにゃ
今までになく強い。そのような言葉を聞くと、以前にKANSEN達を苦しめた、WARSと同じ形の黒い影が頭に浮かんでくる。少し嫌な予感がよぎったが、今は目の前のことに集中しようとブリッジの窓から遥か前方の水平線を睨んだ。
―そうか…
―期待に沿えなくてごめんなのにゃ
―いや、気にすることはないよ。どちらにせよ、もう敵のいる場所まであと少しだからな
翔一が見たレーダーからは、そろそろ肉眼で確認できるほど近くに敵の反応が迫っていた。
そんな中赤城が翔一に話す。
―指揮官様、敵は量産型の巡洋艦と駆逐艦が多数です。私と加賀はもう敵への攻撃が可能ですが、いかがいたしましょうか?
続いてエンタープライズ。
―たくさんいる割には、かなり広がった陣形をしているぞ。どうする?
空母達にはいつも通り周囲の警戒と偵察をしてもらっていた。彼女たちは今、その情報を翔一に報告した。
そして翔一は一瞬考えると言う。
―…以前のように敵の性能が強化されている可能性を考えると、こちらもバラバラに攻撃していては戦闘が長引くな…ひいてはこちらが大きく消耗することもあるだろう……まだ航空攻撃はせず、情報を集めていてくれ
―”了解”
何か有効に、効率良く敵を殲滅できる方法はないだろうか。KANSEN達をできるだけ傷つけずに戦わせるためにも翔一は考えた。
―そうだ、ローン、オイゲン
翔一は1つ作戦を思いつくと、遠く前方で航行する鉄血のKANSENを呼ぶ。
―はい、なんですか指揮官
―ん?なぁに指揮官
柔らかい声音で返事をする彼女たちに翔一は続ける。
―お前たちは一定時間シールドを出せたな?
彼にオイゲンが返す。
―ええ、出来るけど。どうするの?
―2人で敵が一点に集まるように誘導してほしいんだ
ローンが続く。
―その時にシールドも出す、ということですね?
―ああ、そうだ
囮を引き受けてもらう以上、ある程度の危険は減らしたい。だから翔一は、シールドを発生させ自分の身を守れるローンとオイゲンに指示を出したのだ。
ローンが妖艶な微笑みを浮かべて言う。
―でも、壊してしまってもいいのでしょう?
―ああ、可能なら攻撃してもいいぞ
オイゲンは目を細める。
―そんなに簡単にいくかわからないけどね
―もしもの時は俺がそちらに行くから任せてくれ
―あら、それは心強いわ
翔一の言葉にオイゲンは口端を上げた。
そして彼は作戦の続きを話しだす。
―もう少し詳細に作戦を説明するぞ
―まず主力のKANSEN達は敵の攻撃範囲外で待機、その間にローンとオイゲンで敵を誘導だ。敵がある程度密集したときに赤城と加賀、エンタープライズで爆撃と雷撃、その時にモナークがとり逃した敵を確実に撃破だ。そのバックアップに俺とベルといろはがつく。以上だ。何か質問はあるか?
皆の反応がないことを確認すると、翔一は”大丈夫そうだな”と続け、早速作戦開始の合図を出す。
―よし、作戦開始だ!ローン、オイゲン!
―”了解!”
2人は海面を蹴って走り出す。並走する彼女達の後ろ姿がだんだんと小さくなり、やがてセイレーンの砲撃の音が聞こえてきた。同時にローンとオイゲンの砲撃も開始され、わずかではあるが敵へのダメージが蓄積されていく。
敵の数は多い。しかし幸いにして、今戦闘を行う2人が展開するシールドが彼女たちを守れているようで、作戦遂行に問題はなかった。
―っ…私がこんなに攻撃しているのに落ちないなんて…!
そんなローンにオイゲンが言う。
―そう簡単にはいかないって言ったでしょ
オイゲンは1発セイレーンに砲弾を放ち、大したダメージが与えられないのを確認する。今回も相手の耐久能力は高いようだ。
―ふっ…そのようですね、素直に指揮官の言った通りに動きましょう
―それが一番いいわね
2人は自分たちに近い敵艦に攻撃をし足止めしつつ、遠い艦をおびき寄せるべく動き回る。
少し経ち、敵が密集してくる。
―ローン、オイゲン、よくやった。そのまま戻ってきてくれ
すると2人は翔一のいる方向へ戻ってくる。敵艦はそんな2人を追いかける形となった。
―赤城、加賀、エンタープライズ、攻撃開始だ!
―”了解!”
空に艦載機が飛び出す。バラバラとプロペラの音を響かせながら宙を舞う鉄の翼達は、敵艦の頭上へ一直線に進んでいく。
―指揮官様。私の戦い、見ていてください!
―この程度の敵、取るに足らん…!
―この攻撃に、全てを乗せる!
落下する爆弾と迫る魚雷が敵を襲う。凄まじい勢いの攻撃で爆発が爆発を呼び、敵艦はこちらに攻撃を行う余裕もなくなる。その激しさは、使命を終えたローンとオイゲンにも炎が届きそうなほどだ。
―背中がちょっと熱いわ…もう、遠慮がないんだから
―でも、この熱を感じるほど、私の胸は高鳴ります
恍惚な表情を浮かべるローンに、オイゲンは”やっぱりこうなるのね”と苦笑いを浮かべた。
空母のKANSEN達が攻撃を終えた。エンタープライズが翔一に言う。
―指揮官、敵の数は相当減ったぞ。そろそろ片付けよう!
―ああ、ありがとうみんな。ベル、いろは、行くぞ!
―”はい!”
翔一はブリッジから出ると同時に、明石に”行ってくる”と一言告げる。
―気を付けてにゃ
翔一は甲板を走り左手を構え、WARSブレスを出した。
―エンゲージ!
ブレスの舵を回す。
”WARS ENGAGED”
彼が光に包まれ、純白の姿に変わる。
―モナーク!俺たちが敵の密集範囲に行くまで援護を頼む!
―分かった!
モナークの砲撃の轟音と共に航行するWARSとベルといろは。彼らが敵に近接したときにはもう彼らの仕事は無くなっていそうなくらいの速度で沈んでいく敵艦達は、それでもと言わんばかりに反撃を行ってくる。
数分とかからずWARS達はセイレーンの集団を目前にする。一方いろはは頭上で鳴り渡る砲弾の音を聞きつぶやく。
―ふふん、海の下なら楽勝なんだからっ
そう言って彼女は得意げにしながら目の前の敵に近づいていく。しかし、そんな意気で行動すれば戦場では…
―…!
当然対潜ミサイルが降ってくる。まともに当たれば致命傷だ。その時、
”NAUTILAS DEFORMATION”
その音と同時に濁った爆発音が聞こえた。そして、
―危なかったな。気を付けるんだぞ、いろは
WARS
―ぅぅ…ありがと、指揮官…
敵の攻撃は1発では終わらない。WARSは迫りくる対戦ミサイルをトーピードで迎撃すると言う。
―だが安心するにはまだ早い。行くぞ!
―うん!
2人は共に、縦横無尽に海中を駆け抜け魚雷を発射する。程なくして敵艦の数は残りわずかとなった。
―いろは、こちらは任せたぞ。俺は上に戻る
―ええ、分かったわ
”WARS DEFORMATION”
通常形態へ戻ったWARSは海面へ上がっていく。彼の目に映るものは、やはり相当数が減った敵艦達だった。
―ベル、もう少しだ。この調子でいくぞ!
―はい、ご主人様!
WARSは両手にレールガンとレーザーを持ち、ベルファストは両手と艤装の砲を構える。
砲撃の轟音が海に響き、モナークの援護も相まって残りのセイレーンはもう数えるほどとなっていく。幸いここまで味方のダメージはほとんど無い。そんな中で最後の敵艦が爆発し、暗い海へ沈んでいく。
―もう、敵はいなさそうね
オイゲンがつぶやく。
―あまり敵を壊せなかったのが心残りですが、今日のような戦闘もいいですかね
ローンも海上で火を噴きながら動かなくなったセイレーンの量産型を眺めながら言った。
WARSが周りを一瞥する。
―みんな、敵はもういないだろうが、念のため警戒しておこう
彼はそう言うと、フォームチェンジする。
”AETHER DEFORMATION”
WARS
WARSは能力を発動させる。周りに稼働可能な敵はいないことが分かった。
―もう何もないようだな…いや、待てよ
ここでそういえばとWARSは思い出した。今回出撃することになった理由は、突如出現した強力なセイレーンが現れたからだ。恐らくヒト型であろうと明石が予想していたが、今までそのような存在はなかった。まさか、戦闘中に逃げたのか。
その時、
―指揮官!何か上から来たにゃ!
明石が叫ぶ。WARS含め、KANSEN達は空を見上げた。
―む…あれは…
エンタープライズがそうつぶやくと、小さな黒い雲が現れた。そして加賀も続く。
―セイレーンの増援か?
―そのようだけれど…ん?
赤城が気付いたのは、雲からゆっくりと現れる赤いヒト型のセイレーン。それは未確認の新型だった。その姿は艤装にシャチを思わせるデザイン、そして戦艦のような砲身がついていた。
そして、次に現れたのはオブザーバーだ。彼女はKANSEN達を見渡すと怪しく微笑みを浮かべる。
―ふふ…さっきのような量産型では流石に苦戦しなくなったのね。しっかりと成長しているようで嬉しいわ
そんなことを言う彼女にローンが同じように微笑む。
―あれが噂の上位個体…傷つけたらどんな声を聴かせてくれるんでしょうか…ふふふっ
オブザーバーはローンを見て鼻で笑った。そして、最初に現れた赤いセイレーンについて語りだす。
―さあ、このままでいても退屈でしょうから、少し教えてあげる
そう言う彼女にWARSが言う。
―なんだと…?
オブザーバーは”まあまあ、そんなに怖い声をしないで頂戴”と続ける。
―この個体はあなた達も分かっているでしょうけど、最新のものなの。まだ試作機だから、みんなでテストしてあげて
この言葉に、体を水面から出したいろはが言う。
―あんた、ふざけてるの?
―いいえ、至って真面目よ
売り言葉に買い言葉。そんな状況に、いろははオブザーバーを睨んだ。
―それじゃあ、楽しんでね…行きなさい、ストレンジャー!
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