―指揮官、ちょっと話があるから画面繋いでにゃっ
――――――――――――――――――――
海上―
―あれか…
翔一は指揮艦のブリッジから呟いた。
今、彼をブリッジの窓と隔ててその遠くにあるのは、指揮艦と丁度同じくらいの大きさの灰色の雲だった。
―そうにゃ。もう一度確認するけど、あの雲は多分、鏡面海域が発生する前兆にゃ
彼の隣で明石が言う。
エンタープライズの異常を心配し、気にかけていた翔一達だったが、現在彼らは明石からの連絡を受けて出撃していた。
明石は委託に出ていたKAN-SEN達から、航路に小さく怪しげな雲が発生していたという報告を受け、細かく解析を行ったらしい。その結果、鏡面海域のようなエネルギー反応があると分かり、翔一に出撃の願いを出したのだ。
そんな中、今指揮艦を囲って航行しているのは、前衛に、ベルファスト、ローン、リノ、ボルチモア、ブレマートン。主力にモナーク、エンタープライズ、赤城、加賀だ。
エンタープライズには明石からの連絡の後出撃せずに休んで欲しいと伝えたが、出撃すると言って聞かないので彼女にも海域に出てもらうことにした。
―鏡面海域…KAN-SENたちの偽物が出てくる可能性があるということだな
翔一はそう言って明石に顔を向けると、彼女は静かに頷いた。
翔一は正面に向き直し、KANSEN達に指示を出す。
―赤城、加賀、エンタープライズはあの雲に戦闘機を発艦、警戒させてくれ。俺もアイテールで行く
―"了解!"
―…了解
一航戦の姉妹はいつも通りの反応だったが、エンタープライズはそうではなかった。
やはり何かに気を取られたような様子で、俯きがちに戦闘機発艦の準備をしている。
力強く引っ張った弓から、弱々しく鉄の翼の矢が放たれる。向かう先はもちろん灰の雲。左右に揺れて機体を安定させるその尾翼の動きは、エンタープライズの様子も相まって、機械にはないはずの迷いにさえ見えた。
続いて翔一は前衛のKAN-SEN達に指示を出す。
―前衛とモナークはその場で待機、すぐに戦闘開始してもいいように備えておいてくれ
―"了解!"
そして翔一はエンタープライズの後ろ姿を瞳の奥に小さく映し、立ち上がる。
―行ってくる
―気をつけてにゃ
明石はブリッジを出る翔一を見送った。程なくして彼は両足で甲板を掴むと、左腕を構える。WARSブレスが出現すると、舵を回し、ブレスの小さな画面に空母のマークを表示させる。
―エンゲージ!
一瞬だけ翔一の両眼が金に輝くと、彼の胸に青く煌めく立方体が浮かび上がる。それを中心として翔一の体は白と赤と黒の強化皮膚に変化していく。そして全身に金のラインが走ると、軍帽型に変化した頭に碇のエンブレムが現れた。
最後に翔一の変身が完了した合図が鳴り響く。
"WARS AETHER ENGAGED"
普段は通常形態に変身するところを、今回は早速アイテールの固有武器"グレイフライヤー"を使うために、最初からWARS AETHERとなった。
WARSは発艦させたグレイフライヤーを見送りつつ、エンタープライズの側に降り立った。彼女は少し驚いた顔を見せると、若干気まずそうな表情を見せる。
WARSは無線を使わず彼女に話しかけた。
―エンタープライズ…本当に大丈夫か
彼女を案じての言葉だった。
―…良いんだ、指揮官……気に、しないでくれ…
WARSは彼女の横顔を見つめると言う。
―…分かった
正直気にしてしまうが、これ以上彼女に言っても逆効果だろうとWARSは素直に引き下がった。
最後に彼は柔らかい声で言う。
―だが、油断したり警戒を怠る事はするなよ
―ああ
彼女は優しい顔を見せ、そう返した。その表情は、酷く疲れたような微笑みだった。
WARSは彼女に頷いてもう一度飛び立った。向かった先はモナークの隣だ。
再び無線は使わずに話しかける。
―モナーク
―ん…どうした指揮官。無線を切ってまで話など
―いや、少し…エンタープライズの事についてなんだ
―…ああ、何やら様子がおかしいようだな
少し怪訝な顔を向けていたモナークだったが、WARSの小さな声に彼女は合点がいったらしい。
モナークもエンタープライズの異常に気付いていたようだ。
―それで、なんだ?
彼女は豊かな胸の下で腕を組んで聞いた。
―お前も気付いている通り、エンタープライズは今、心に何か抱えてる。その影響で彼女の戦闘に支障が出ないとも限らない。だから…
―守れ、ということか?
―あぁ、うん…そういうこと…
先程から言いたい事を当てられ若干困惑するWARSに、モナークは微笑む。
―お前の言いたい事は分かる。それ程までに私の心は……いや、なんでもない。とにかく、あの者が極端な危険に遭わないよう、援護すれば良いのだな?
―ああ、任せられるか?
WARSがそう言うとモナークは即答した。
―もちろんだ。だが、お前が危険な目に遭えば、私はお前の身を優先する。それがKAN-SENの仕事でもある
―…そうだな
彼女の言葉に、翔一は一抹の違和感を覚えた。はっきりしたその違和感の正体は掴めずに、WARSは少し考えるように俯く。
モナークはそんな彼の様子に気付いた。
―ん…?
問うように呟くと同時に、彼女は腕を組み直した。当然の如くその柔らかな胸が持ち上げられる。
考え事で若干俯いていたWARSの細長い目に、不意にその景色が映された。少し気まずくなる。
―あ…
―どうしたんだ、俯いて
―い、いや…何でもない
今彼の顔はしっかりとモナークの胸の方を向いてしまっている。それに気付いた彼女は少しだけ頬を染め、からかうように言う。
―…ふふっ……これが気になるのか…?
モナークは腰を曲げ、上目遣いにWARSを見ると彼に近付く。
―あ、いや…そういうわけじゃ…
―恥なくていい…それに私は…お前が望むのなら…いつでも……
モナークの言葉は、警戒していた雲に変化があった事で打ち止められた。そして普段の凛々しい横顔を見せる。
―と、言っている場合ではないようだ
そう言い終わる頃には、KANSEN達の頭上に灰の雲が広がっていた。
――――――――――――――――――――
頭上に雲が広がったかと思うと同時に、嵐のような風が吹き荒れた。波は荒れ、飛沫が皆を襲う。近くにいたモナークは荒波に囚われWARSから離れてしまう。
―皆様!はぐれないように気をつけて!
ベルファストが叫ぶと同時に、今度はWARSに近づく者がいた。
―きゃっ、指揮官様っ、赤城は指揮官様が私とはぐれないように、しっかり掴まっていますからねっ
荒れ狂う天候に対抗するように、目を輝かせながらWARSにしがみつく赤城を、彼は受け入れた。自分でも不思議なことに赤城を抱き止めると、片手を彼女の後頭部に優しく手を当てる。
―ああ、ちゃんと掴まってろ…
―え?…あ……ん…
彼に情熱的なアピールをし続けるも、うまくすり抜けられてきた赤城にとっては、今の彼の行動には疑問もあった。しかし彼に抱きしめられ、そして見ただけでは冷たく思える、彼の硬く温かい体を全身で感じることで、彼女の頬はたちまち赤く染まり、力が抜けてしまう。
彼からもちゃんと掴まっていろと言われた矢先、ふにゃりとしてしまった事に少しの情けなさを覚えたが、彼に甘えたいと言う気持ちがそれを上回っていた。
一方、翔一はモナークの言っていた事を思い出した。というより、その事を考えていたから、赤城を抱きしめてしまった。
"俺が危険な目に遭えば、モナークは俺の身を優先する"
モナークでなくともKAN-SENであれば皆そうするだろう。しかし、それがなんとなく気掛かりだった。
止まない嵐の中で深く考える。
自分が危険な目に遭えば、他のKAN-SENはどうなる。
自分の力が及ばず、他の誰かに危害があったらどうなる。
もしかしたら、かつてのベルファストのように…
そして翔一は考えた末に結論を出した。簡単な結論だ。
俺は皆の為に戦う……"力"がなければ…
意思を固めた。それを示すように、赤城を抱きしめる力が少し強くなる。腕の中で、彼女が小さく震えるのを感じた。
しばらくして嵐は段々とおさまり、夜の海のように暗く、冷たい景色が広がっていた。
――――――――――――――――――――
鏡面海域―
風はないが尚も広がっている灰色の雲は晴れる気配がない。
WARSは周りを見て、そしてKANSEN達の位置情報を感覚で知る。どうやら先の嵐ではぐれた者は居ないらしい。抱きしめていた赤城を見る。彼女は熟す寸前の様な林檎の頬をして彼を見つめたと思うと、すぐに目を逸らした。しかし彼女の両腕は未だ彼の太い胴を捕まえている。
―赤城、もう大丈夫だ
―はい…
WARSが赤城の肩を軽く掴むと、彼女は名残惜しそうに離れた。
一瞬の静寂が訪れる。暗く怪しい海の上には似つかわしくない一瞬の平穏。それが過ぎると、次はWARS達の前に大きなひびが出来た。ガラスが割れた様な、黒い歪な線の塊だ。空間に亀裂が走っている。
そんな光景に加賀は言う。
―っ…来るか…!
その声の直後、モナークから通信が入る。
―指揮官、エンタープライズが居ないぞ
そしてローンが続く。
―あら、少し前までは肉眼でも見えていましたが…どこに行ってしまったんでしょう?
翔一もそれに気付く。先程までレーダーにも反応があったが今は何もない。
一方、ボルチモアとブレマートンはエンタープライズの身を案じる。母校でのことも相まって、2人の彼女への心配は他のKAN-SENより大きい。
―エンタープライズ…どこに…
―波に飲まれた…なんてこと無いよね…
再び静寂が訪れた時、彼らより遠方から白い影が飛んでくる。
―みんな、すまない。遠くに流されてしまったよ
WARSはボルチモアとブレマートンに迫る彼女を見つめる。
―”エンタープライズ!”
2人はエンタープライズの無事を喜ぶように彼女に近づいた。しかし、
"ダンッ"
エンタープライズの胸に穴が空いた。そこから、黒い光の粒子が噴き出す。
2人は突然の出来事に目を見開き、恐怖を覚えたような表情を浮かべた。
―ぁあ…!
―な…
彼女に空いた大穴から小さく、レールガンを構えたWARSの姿が見えた。ただ作業をしただけ、という様なその出立ちに思わず2人の心は縮み上がったが、彼から通信が入る。
―偽物だ…メンタルキューブで構成されていない
ボルチモアはゆっくりとうつ伏せに倒れたエンタープライズを見るとそこから溢れるものに気付いた。
―本当だ…黒い…
ブレマートンも彼女に続く。
―ブラックキューブで作られているのね…
皆が黒い光となって消えていく偽エンタープライズを見届けると、今度はひびが入った空間が割れ、そして聞き知った声が聞こえて来る。
―あら、見破られちゃったのね
割れた空間の中、暗闇から現れたのはオブザーバーだった。彼女のタコのような艤装には、エンタープライズが囚われている。これは今度こそ本物だ。しかし、彼女の抵抗も虚しく、腕からは脱出できない。
オブザーバーは呟く。
―ゆっくりデータを集めたかったけど……もう少しやり方を考えた方が良いかも知れないわね…
―どう言うことだ
WARSは静かに言うと、エンタープライズを掴むオブザーバーの艤装の腕を、新たに自らの手に出現させたレーザーで焼き切る。
黄色い斑点のある、黒く太い腕と共に落ちるエンタープライズをモナークが抱き止めた。モナークの目がオブザーバーを睨む。
―っ……まったく…容赦のない男ね…
オブザーバーは"まあいいわ"と更に続ける。
―さ、今日も貴方たちの相手は私じゃないわよ
そんな言葉にローンは楽しそうに口を三日月にする。
―なら、どんな子が来るのでしょうねぇ
ローンを一瞥したオブザーバーは"ふっ"と笑うと言い放つ。
―コンパイラー、行きなさい
彼女が言うと同時にWARSは、ローンの真下の海中に、新たな敵の反応を感知した。
―…!
WARS AETHERの特殊能力故に、ギリギリのタイミングでコンパイラーのステルスを看破出来たがもう遅く、その魔の手がローンに迫る。
―…情報収集モード、起動
―ローン…!
WARSは彼女に叫ぶしか出来ない。
―ん?
すると、ローンの周囲に幾本のケーブルの様なものが飛び出す。それが彼女の手足を掴んだ。
―っ…!…何これ!
突然と拘束され、苛立ちを覚えたローンは歯を噛み締めた。抵抗は受け付けず、それどころか暴れるほど拘束の強さは大きくなるばかりだった。しかし、掴まれるだけで特に攻撃のようなものはない。
とはいえ放って置くわけにはいかないため、WARSは皆に指示を出す。
―俺はノーチラスでコンパイラーの相手をする。他はオブザーバーへ攻撃!
―"了解!"
WARSはブレスの舵を回して、その画面に潜水艦のマークを表示させた。
"NAUTILAS DEFORMATION"
WARS NAUTILASに変身した彼は早速海中に潜ると、ローンの真下にいるコンパイラーに迫っていく。ふわりとした青い光は、段々とはっきりとした形となった。クラゲの様な姿の彼女は顔を彼に向けると、触手のように揺れるケーブルを彼に放つ。そして彼の腕に巻き付いた。
―…!…ローンのデータ…?
そんなことを言う彼にコンパイラーは驚いた様な表情をすると、間もなく巻き付く力を緩めて言う。
―やっぱり止める…
WARS NAUTILASの特殊能力を恐れてか、ケーブルでの攻撃はしないと判断したらしい。
WARSはケーブルに触れていた一瞬の時にコンパイラーの記憶装置のハッキングを行っていた。その時ローンの情報が記憶されていたことから、セイレーン達は彼女のデータを何かに使うのだろうと、彼は考えを巡らせるのだった。
一方、彼以外のKANSEN達はオブザーバーへの攻撃に集中していた。
オブザーバーは空母の艦載機を迎え撃ちつつ、そして降り注ぐ砲弾をかわしながら言う。
―1人で相手にするのも骨が折れるわ
すると彼女の後方で空間が割れ、そこから量産型が這い出てくる。巨体故にゆっくりと海を掻き分けて迫るように見えるそれらは、今までに類を見ない程の数だった。
―多いな…
加賀は目の前で蠢くその船の群れを見て言った。それにエンタープライズは続く。
―しかし、沈めなければ…全部…
そうして静かに呟く彼女を赤城は一瞥した。そして、言い放つ。
―これくらいの敵、私1人でも十分だわ。それにしても貴方、さっきのような様で本当に戦えるの?
蔑んだような瞳の赤城に、エンタープライズは自信を無くしたように俯く。
―足手まといになるなら、指揮官様の為にもいない方が良いわ
―…っ
赤城の言葉に、エンタープライズは己の内から無力感が湧き出る。彼女は敵艦を睨むことしか出来なかった。
しかし、そんなことがありながらも彼女達は艦載機を飛ばし爆弾の雨を降らせている。
一方、前衛艦達は波を蹴立ててセイレーンの量産型に迫っていた。
魚雷を張り巡らせ敵の行き場を限定し、撃ち出す砲弾で敵の力を削ぐ。
バラバラとプロペラの音を轟かせる艦載機と砲弾の爆音の中、リノは興奮気味に言う。
―なんかヒーロー達の総力戦っ、て感じだね!
そんな彼女にボルチモアが言う。
―ああ、でも流石にこの量…しかも倒してもまた新しく出てくる…キリがないぞ
しかし指揮官が帰ってくれば。そう思った時、その彼が相手にするコンパイラーに変化があったようだ。
―くっ…損傷甚大。撤退を提案…
すると、ローンを掴んでいたケーブルが彼女を離れていく。
―逃がさん…
WARSは静かに呟き、自らの周囲にトーピードを発生させた。戦闘に特化していないコンパイラーでは、時間の問題でWARSに轟沈させられてしまう。
そんな時、
―…仕方ない、撤退しなさい
オブザーバーは少し考えつつも指示を出した。WARSからしてみれば嫌な指示だったが、彼女の声の直後、たちまちコンパイラーはWARSの前から闇に姿を消していった。
―…
WARSが繰り出したトーピードは行き場を失い、何もない場所で爆発する。敵を沈められなかった惜しみは目の前で弾ける水泡となって消えた。
そして、WARSは次にやるべき事の為、海面へと黄色く光る目を向けた。
水上に上がるまでの時間は1分とて掛からない。ものの十数秒で足を海面につけると、近くのローンを見る。
―指揮官…
―ローン、問題ないか
―はい、損傷は全くありません…でも…
そしてオブザーバーを睨む。
―何をしたか知りませんが…私をここまで阻むなんて……許せないっ…!!
そう言って文字通り牙を剥くローンは、今にも標的に襲い掛からんとする狼のように吠えた。即座に2度、3度と彼女の主砲が放たれオブザーバーを襲う。
―んっ…危ないわね、そんなに焦らないで頂戴
ひらりと砲弾を交わし背後に海水の飛沫を携えたオブザーバーは、片手を前に出すとホログラムを表示させ、何か操作すると言う。
―そろそろこの子と遊んであげて…もう一度ね。今度は前回のようなことはないから、存分に楽しみなさい
妖しく微笑むと彼女は闇へと消えていった。そしてその入れ替わりに海に降り立つ赤い人型セイレーンがいた。
どんな所がよかったですか?
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キャラ
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ストーリー
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文章(全体)
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文章(セリフ)
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文章(地の文)