アズールレーン~希望への航路~   作:ざぎねぅ

33 / 40
19話 最強の赤き戦艦 file3

 

―ストレンジャー……か…

 

 WARSが呟く。

 彼らはこのセイレーンによって窮地に追い詰められたことを思い出す。凄まじい強さのストレンジャーに、WARSが変身解除にまで至ったこともあった。WARSブレスを使ったベルファストが何とか対応できていたようだが、今回も正直、このストレンジャー相手に善戦できる気がしない。そう思わざるを得ない程に強大な存在だった。

 更に、自らのレーダーに頼らずとも周囲を見渡せば、量産型の敵艦はまだかなりの量である事が分かる。KAN-SEN達が抑えているとはいえ、これでは消耗するだけなのは目に見えていた。

 

―だが、やるしかない

 

 自分に言い聞かせるように口に出すと、WARSは皆に指令を出す。

 

―量産型は今まで通りに対応してくれ!ローンは俺とストレンジャーの相手だ!

 

―"了解!"

 

―ふふっ…指揮官と2人で強大な敵を破壊する…ぞくぞくしちゃいますっ

 

 赤城の視線を感じたが今は気にしている場合じゃない。

 WARSは全速力でストレンジャーに迫る。

 

―ローン、援護!

 

―はぁい

 

 ストレンジャーから放たれる砲弾を交わし海を蹴るWARSは、ローンに言うと同時にフォームチェンジする。

 ブレスの舵を回し、巡洋艦のマークを表示させた。

 

 "WARS DEFORMATION"

 

 ストレンジャーから見れば12時の方向からWARSが迫り、2時の方向からローンの砲撃が来る。

 徹甲弾は腕で弾き、榴弾は全て交わすという、器用な荒技を見せる姿にローンは舌打ちするが、WARSがストレンジャーに掴みかかった事で1発だけ榴弾を食らわせることが出来た。ストレンジャーとWARSを中心に爆発が起こる。

 しかし"ガン"と殴られた音と同時に、彼らを包んでいた爆煙から飛行機雲のように煙を携えてWARSが吹き飛んでいく。先の攻撃はストレンジャーに直撃していた。しかし、その威力はストレンジャーになんの損傷も与えず、代わりと言わんばかりにWARSを殴ったのだ。煙が晴れれば傷一つないストレンジャーの姿が拝める事だろう。

 

―ぐっ…あぁ…!

 

 WARSは背中で海面を滑る。そんな姿を目の端に捉えたKAN-SEN達は、やはり彼の力を持ってしても勝てないのかと歯を噛み締めつつ量産型の処理を続けている。

 しかし彼の姿を見ているだけなのを耐えかねて、その持ち場を離れる者がいた。

 

―指揮官様!

 

 赤城がWARSに向かって飛び出し、式神の艦載機をストレンジャーに差し向けた。赤い爆撃機は対空装備で次々と落とされていくが、それでも彼を守るためと左右の手に持つ式神達を続けて繰り出す。

 

―姉様!戻ってください!

 

 量産型の相手だけでも手一杯な状態を更に悪化させるわけにもいかず、加賀が叫ぶ。しかし、分かってはいたが彼女は戻って来ない。WARSの側に早く着きたいと言わんばかりに、何百メートルも離れる彼の方向へ一直線に飛んでいる。

 衝撃波は出ないまでも、彼女の飛行速度はかなりのものだった。

 何秒経ったか、赤城がWARSの後方まで迫ると、ストレンジャーを包んでいた爆煙が晴れる。ローンの攻撃を受けても何の損傷もない姿に、彼女の表情は激情に昂った。

 

―私を見たのに自沈しないだけでなく沈めるのに私の手まで煩わせるなんて……許せないっ…!!

 

 彼女のそんな言葉に耳を傾けるふりもないストレンジャーに、彼女は砲弾を連発する。

 

―食らえぇ!!

 

 ローンのがなり声がストレンジャーに届いたか否か、赤く輝く瞳がローンに向く。

 しかし、迫り来る弾は当たる事を知らず、挙句に最後の一発はストレンジャーの手に収まった。その弾は先端が鋭い。徹甲弾だ。

 

―なっ…!

 

 怒り狂うローンは、流石にその光景に驚きを隠せなかったようだ。

 そして、ストレンジャーは手に持つ弾を力強くローンに投げた。力任せに投げたように見えるが確かにそうだ。しかし、その狙いは極めて正確に彼女に向いていた。

 

―っ…!

 

 嘘のような現象を前に、ローンは避ける余裕も失い立ち尽くす。そして音速を超えて迫る弾が彼女の腹を貫いた。

 

―くっ…あぁぁ…ぁぁ…

 

 サラサラと青い粒子が腹から溢れている。そして激痛ではないどころの苦痛に、今にも泣き出しそうな呻き声を上げるローン。すぐに再生されて元通りとなるはずだが、兵器であることが分かっていても痛ましいと思える光景がWARSの目に飛び込んだ。

 

―ああ!ローン!

 

―いけません、指揮官様!

 

 ローンに駆け寄ろうとしたWARSを、やっと彼の隣に降りた赤城が引き止めた。

 

―赤城!何で来たんだ!!

 

―指揮官様が心配なのです!私もお側で戦います!

 

 叫ぶ赤城に、WARSはストレンジャーに背を向けて言う。

 

―駄目だ、戻ってろ!

 

―でも…!

 

 しかしやり取りのうちに、ストレンジャーはその隙を突かんとWARSの真後ろに迫っていた。その拳を彼の背に向ける。

 

―指揮官様!

 

 気付いた赤城は、自らが盾になろうとWARSの背に回った。しかし、

 

―赤城!

 

 そんな彼女の手を無理矢理引き、ストレンジャーに振り向くと、赤城を自分の背に寄せた。

 当然、ストレンジャーの拳がWARSの胸に突き刺さる。

 

―ぐぅ…!

 

―あっ!

 

 吹き飛ぶWARSを赤城が抱き止めようとするが勢いは殺せず、10メートル以上2人で後方に飛んでいってしまう。

 やっとのことで勢いが収まると、2人は水面に体を預けた。赤城がWARSを抱きかかえる。

 

―指揮官様…あ、あぁ…そんな…

 

 彼の胸にあるキューブがひび割れていた。そんな状況に赤城は眉を顰める。

 

―大丈夫だ、赤城…俺は…まだやれる…

 

 そう言ってWARSは立ち上がるが、余裕の表情でもいられなかった。

 

―くっ……あぁ……ぅぅ…はぁ…ぁ…はぁ…

 

 彼は胸を押さえながらストレンジャーにゆっくりと歩いていく。

 当然ながら赤城は彼を止める。

 

―指揮官様、そんな体では…

 

―駄目だ!

 

 今までに1度もKAN-SEN達に放ったことのない語気。

 

―ぁ…

 

 流石に怯んだ赤城だったが、尚も彼に手を伸ばす。しかし"お前じゃ無理だ"と続け、その動きを止めた。

 そしてWARSとストレンジャーは互いにゆっくりとその距離を縮めていく。あと5歩で接触する。その時、WARSは右手を上げて拳を作った。同じくストレンジャーも拳を作り、互いに一気に迫った。

 

 "ガンッ"

 

 拳が当たる。

 

―ぐあぁ…

 

 当たったのはストレンジャーの拳だ。先程の一撃で弱っていたWARSは出遅れ、一方的にストレンジャーの攻撃を受けてしまう。

 受けたが最後、体制を崩したWARSを逃がさんと再び拳が迫る。2度、3度と左右の頬に爆発の様な衝撃を受けた。

 あまりにも耐え難い苦しみに遂にWARSは両膝をつく。周りの量産型が放つ砲の音しかない静かな海に、2つの重なった波紋が広がった。

 

―指揮官様…指揮官様ぁ!

 

 もう倒れんとする彼に赤城は駆け寄るが、ストレンジャーの砲撃によって後方に吹き飛ぶ。その光景はもちろんWARSには見えていた。しかし、もはや彼女を呼ぶ気力すらなくなっていた。

 逃げられるのなら脱兎の如く逃げ帰りたい。それ程までに、ストレンジャーの攻撃は凄まじい苦痛を与えるものだった。

 ストレンジャーは膝をつくWARSの首を右手で掴み上げる。彼はマリオネットの様に立ち上げられた。

 そしてストレンジャーは左手で彼の黒い胸部装甲を殴る。

 

―ぐ…ぁ…ああ…ぁあ…!

 

 目の前に居る人型の繰り出す拳が何度も体に突き刺さるたびに、心の奥底から叫びが上がる。繰り返しになるが出来る事なら逃げ出したかった。しかし、皆の為にそれは出来なかったし、何よりも敵がそうさせなかった。降り注ぐ拳は未だWARSを狙う。ゴンッ…ゴンッと、消してテンポは早くはないが確実に彼の装甲を抉っていく。

 

―ぁぁ…く…あぁ…

 

 KAN-SEN達は、文字通り手も足も出せずに、喉から苦しみの音しか出さないWARSの姿を目の当たりにした。

 

―何なのだ…これは…

 

 加賀が顔を顰めて目を逸らす。

 

―そんな…そんなぁ…

 

 ブレマートンが口元を抑え今にも泣きそうに呟く。

 

―指揮官!

 

 リノは彼に向かって駆ける。しかし、ぐらりと揺れたストレンジャーの砲身から放たれた弾がリノを襲った。

 

―ぁあ!

 

 信じられない速度の弾にリノは避けること叶わず、爆煙を纏って海面を滑る。

 

―しき…かん…

 

 ボルチモアは彼を呼ぶことしか出来ず、立ちすくむ。

 エンタープライズは叫びながら彼の元に飛び、モナークはストレンジャーに砲を放った。

 

―"指揮官!"

 

 結果は他とさほど変わらない。エンタープライズはストレンジャーの砲で阻まれ、モナークの弾は片腕で弾かれる。

 皆は自然とWARSの周りに集まっていた。量産型など放ってだ。彼女達の彼への想いなのか、はたまた"指揮官"を守る為に組み込まれたプログラム故かは知れないがしかし、彼女達は殴られる彼を見つめるだけで何も出来なかった。

 何故か。

 それは、彼の悲痛な呻き声を聞き、その姿を見ればすぐに分かる。

 

―か…ぁぁ…

 

 ストレンジャーの拳は遂に、WARSの胸部装甲を凹ませ、割ったのだ。そのひびからは、力の源であるメンタルキューブの粒子と、鮮血が流れていた。鈍く、重い音が海上に響くたびに、紅の飛沫が飛び出す。その赤い粒は、翔一がKAN-SENを凌駕する力を手にしていても尚、人であるという証だった。

 あまりにも痛々しい光景。

 そして、続々と集まるKAN-SEN達の姿を確認した翔一は思った。

 それは、彼女達が自らの周囲にやってきた事に対する否定だった。

 

 "駄目だ、来るな…それでは…それではいけないんだ。俺が皆を…"

 

 そこで翔一は小さな、しかし重大な疑問を覚えた。

 

 "皆を…何だ?"

 

 "俺は戦って、皆をどうしたいんだ?"

 

 "卿は指揮官として、どんな気持ちで戦っているんだ…?"

 

 いつか聞いたツェッペリンの声が一瞬、脳裏によぎった時、彼の耳に1つの声が届いた。

 

―ご主人様ぁ!

 

 戦闘に似合わない長いスカートを翻し、ベルファストは泣き叫びながら、水面に足がついていないWARSに迫っている。

 砲を放つがストレンジャーにはやはり無効で、WARSの首を掴んだ逆の腕でそれを弾く。跳弾した弾はベルファストの前に落ち、海中で爆発する。目の前で大きく立った水柱をものともせず、彼女のは両腕を顔の前で交差しその壁を突破した。涙なのか海水の粒なのか分からない水滴をその顔につけて彼に近付く。

 ストレンジャーはそんな行動を見て、表情は変えないが呆れたように、WARSを掴む手を離した。そして顔をベルファストに向ける。

 WARSは、ぽしゃりと音を立てて水面にうつ伏せで倒れた。

 

―…!!

 

 声にならない声を上げ、ベルファストは主人の為にその拳をストレンジャーに向かって繰り出した。その時、

 

 "バシャンッ"

 

 最後の希望の星は砕ける。

 ベルファストの握った手は遂にはストレンジャーに届かず、代わりにストレンジャーの拳が彼女の頬を叩き、彼女はそのまま海中に飲み込まれるように落ちた。頭から真っ逆さまだ。

 WARSが水面に預けたその顔は、海中に落ちる前のベルファストの方を向いていた。

 翔一は、暗い深海の、冷たい海水でも鎮めることのできない、滾る激情を覚えた。

 そしてたった1体のセイレーンに蹂躙される、絶望という状況を打破する為に1つの解答に至った。

 ごく簡単な答えだ。

 

―力を……もっと力をぉぉ…!




 指揮官…立ってにゃ…!

WARSの設定についてはここ(ピクシブ)を見てにゃ
感想もよかったらよろしくにゃ
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ

どんな所がよかったですか?

  • キャラ
  • ストーリー
  • 文章(全体)
  • 文章(セリフ)
  • 文章(地の文)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。