アズールレーン~希望への航路~   作:ざぎねぅ

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19話 最強の赤き戦艦 file5

 

 WARがエンタープライズを見つめてさほどの時間は経っていない。しかし彼女には長い時が経ったように感じていた。息をするのも忘れるような緊張感が漂う。すると、瞬きをするよりも短い間にWARSから砲弾が放たれた。

 

 ”ドンッ”

 

―…!

 

 ストレンジャーを窮地に追い詰めたあの砲弾がエンタープライズに迫った。彼女は目を見開く。なんの躊躇いもない容赦のない攻撃は空間を無理やりに引き裂き、衝撃波を纏っても尚まるで減速しない。感情も何もない、廃車をスクラップにするが如き作業(攻撃)だった。

 しかし、

 

―指揮官…!

 

 しかしエンタープライズの前には、勇ましく立ち構え深紅の髪をたなびかせる”彼女”がいた。

 迫る砲弾からエンタープライズを守るために立った彼女は、それを先程までの彼のように真正面から受けた。

 

―な…馬鹿なことを…!

 

 加賀がそう言うのも当然だ。あの攻撃をまともに食らえば、他のKAN-SENと比べ装甲が固いといえど木端微塵になるのではないだろうか。

 音速を超える弾は”彼女”に激突し、大きな爆発を呼ぶ。そして”彼女”を中心に、爆風と共に煙が上がった。その背後にいたエンタープライズはその勢いに吹き飛ばされてしまうが、直撃は避けられたおかげか傷はできない。

 分厚い煙の中で”彼女”は静かに語りかけるように言い出した。

 

―指揮官、私はお前を守ると言った…

 

 ”彼女”が語りだしたことは説教のようなものだった。

 

―しかし今のお前はどうだ……自分を失い、ただ力を振るうだけではないか…!

 

 ただその厳しい言葉には、彼に対する絶大な愛が込められていた。

 

―あの時私を守った…危険を顧みず私を救ったその心はどこへやった!!

 

 またWARSの砲弾が”彼女”を襲う。しかし”彼女”は怯む様子はなく再び立ち昇る爆煙の中で言った。

 

―戻らぬのなら、私が元に戻そう…

 

 その時、煙の中から黄金に輝く2つの光が見えた。そしてその光は煙全体に広がっていく。

 

―お前の気が済むまで….私が相手になろう…!

 

 ”彼女”は今”彼のため”に戦おうとしていた。”彼を守るため”に、自らの身を彼の前に立てて、揺るがない決意を心の奥底からぶつける。

 

―だから…目を覚ませ!…指揮官…!!

 

 瞬間、爆煙が一気に晴れた。そして、

 

―私が!このモナークが!お前を救う!!

 

 現れたのは、全身を金の光で包み悠然と立つ”彼女”の姿だった。

 彼を救う。それは”彼女”なりの、もう1つの愛の叫びだった。

 その言葉を理解したのか否か、WARSは両肩の砲を放つ。それが戦いの開始を告げるゴングのように鳴り響くとその瞬間、モナークは海を力強く蹴った。彼女は激突する弾はものともせず、自分に纏わりついた爆煙から体を勢いよく押し出し、WARS目掛けて全速で航行する。背に携えた、彼女を包むほどの大きな艤装で反撃を行い、WARSの体勢を崩す。そんな姿から、彼の困惑する表情さえ見えるように感じた。

 しかし彼もそのままではいない。彼はモナークへ向かって走り出すと2発、3発と砲撃を繰り返す。だが、その攻撃はストレンジャーに当てた時のようにはやはりいかない。モナークはそれをすべて腕を振るって弾き飛ばし、彼女の斜め後ろで3つの爆発を起こしたのだ。

 物理攻撃では無駄だと判断したか、彼は右手にレーザーを出現させると即座にモナークに照準を合わせ、照射する。照準を合わせてから照射するまでは恐ろしいほどの速さだった。しかし、それも無駄。彼女は目の前に平手を出し、素手で防いだのだ。彼女の手の組織が溶けることもなく、何ともないといった様子で、遂にモナークはWARSと肉薄した。レーザーを防いだ手を握り、彼の純白の頬にぶち当てる。

 

―指揮官…思い出せ…!

 

 ”ガン!”

 

 WARSはモナークから見て左によろめく。そしてもう一度拳を振り上げ更に続ける。

 

―お前が愛する者たちを…!

 

 ”ガン!”

 

 今度は逆によろめく。そしてもう一度殴る。

 

―お前が止まるまで私はやめない!!

 

 ”ガン!”

 

 立て続けに打撃を与えられるWARSは、後方へ跳ぶ。そして、

 

 ”Destroy weapons within WAR-

 

―うるさい!

 

 ”ガン!”

 

 満足に機械のセリフも言えずに殴られる始末だった。

 モナークは懲りない子供にお仕置きするようにしては乱暴に、何度も彼に手を上げる。

 

 ”Destroy weapons with-

 

―指揮官…!

 

 ”ガン!”

 

 ”Destroy weapo-

 

―指揮官!

 

 ”ガン!”

 

 ”Dest-

 

―しきかあああああん!!

 

 ”ガン!”

 

 渾身の一撃。それを食らって懲りたのか、遂にWARSはその場であっけなく膝をついた。

 

―はぁ…はぁ……はぁ…

 

 振るった拳をそのままに、荒げた息を整えていると、WARSは最後の報告をしてくる。

 

 ”May increase damage to the brain…”(脳へのダメージが増大する可能性があります)

 

 ”It is impossible to continue the battle…”(戦闘の続行は不可能です)

 

 ”Forcibly release the metamorfose…”(変身を強制解除します)

 

 どうやら、やっと終わるらしい。

 彼は膝をついた状態で頭から変身が解除されていく。そして倒れる彼をモナークは優しく抱きとめた。

 一瞬、翔一の意識が戻ったようで、彼の声がモナークの耳に届く。

 

―モナー…ク…

 

 開ききらない目を彼女に向けて彼は呟いていた。

 

―もう大丈夫だ…指揮官

 

 彼女はそう言って、翔一の頭に頬ずりする。

 その姿は、こっぴどく叱られ泣いている子供を抱いているように見えた。そして、彼女が纏っていた金の光は柔らかく消えていく。同時に、彼も目を閉じた。

 そんな光景に他のKAN-SEN達は、今度こそ戦いは終わったと安心するばかりであった。赤城はモナークを睨んでいたが。

 

――――――――――――――――――――

 

医務室―

 

 

 翔一は普段、世話になることのない部屋で寝ていた。開かれたカーテンからの眩しい日差しで彼は目覚めた。窓とは反対側で鳴る音が気になり、首を向ける。

 

―あら、お目覚めですか?

 

―ヴェスタル…

 

 彼に背を向けて作業していたヴェスタルは翔一の方を向くと微笑んだ。

 

―出撃した、みんなは…?

 

―昨日の夜中のうちに損傷の確認をして、今は自分の部屋か、仕事場にいると思いますよ

 

―夜中のうちにって…今は!?

 

 翔一は上半身を上げる。

 

―そんなに心配しなくて大丈夫ですよ。出撃したのは昨日です

 

 彼女のその言葉で、彼は窓の外を見る。そしてまた室内に目を戻し、時計の日付表示を見て今が前回の出撃の次の日、その昼過ぎだということが分かった。

 そしてもう1つ彼は気付く。

 

―…俺、あの姿になってからの記憶がほとんどないな…急に頭が痛くなって…それで…

 

 ぼそぼそと呟く彼にヴェスタルは言う。

 

―ちょっと、その話をしましょうか…と、言いたいところだけど、指揮官、まだ寝ていてください

 

―でも…

 

 翔一は眉を下げて言うが、ヴェスタルは逆に眉を若干上げた。

 

―だめ。指揮官、貴方あのセイレーン相手に、WARSの装甲が駄目になるほどのダメージを受けたんですよ…他の子の戦闘映像を見せてもらったけど…あんなに血も出して…

 

 そして急に悲しそうな顔を見せると続ける。

 

―だから、まだ駄目です。今日は寝ていてください。貧血で倒れてしまいますよ

 

 そんな彼女の表情を見て翔一は素直に上げた上半身を寝かせた。

 

―分かった。しばらく休むよ

 

 そう言うと、部屋の扉をノックする音が響いた。

 

―はい

 

 ヴェスタルが答えると、部屋にやってきたヒトの声が分かる。扉の外なので濁って聞こえるが、翔一が聞き間違えなどしない、鈴のような音色が彼の耳に届く。

 

―ベルファストです。よろしいでしょうか

 

―どうぞ

 

 促され、扉が開かれると、白と紺のメイド服が彼の目に映った。ベルファストの目はまず彼を向くと、心底安心したように細くなった。可愛らしいその表情に、彼の頬も緩んでしまう。そして彼女はヴェスタルに近づく。

 

―ご主人様の具合はどうでしょうか

 

―少し貧血だけど、それ以外は全然問題ないですよ

 

 ヴェスタルは優しい表情で言う。

 

―よかった…

 

 ベルファストはそう言って、翔一のベッドの隣にある椅子に座った。

 

―ご主人様…

 

―ん…?

 

 ベルファストは彼を呼んだだけ。そしてそんな様子に翔一は続きを促すが、彼女はそれ以上何も言わず、口を弓なりにした。

 

―ふふ…

 

 そうして翔一の頬に手を伸ばし撫でると、そのまま彼の前髪をどけて、額に唇を近づける。翔一に大きく影がかかると、程なくしてもう一度彼に日が差した。

 

―様子を見に来ただけです

 

 ベルファストは頬を染めて喉をころころ鳴らして笑う。そうしたところで、部屋の扉がもう一度開いた。

 

―指揮官…起きていたんだな…

 

―エンタープライズちゃん…

 

 彼女の登場にヴェスタルは少し心配するような表情を浮かべた。よく見ればエンタープライズもあまり良い表情をしていない。ベルファストまでも彼女を見て曇らせた。

 最近彼女の様子が変だとはいえ、それ以外のKAN-SEN達もこのような反応はするのだろうかと、翔一は不思議に思う。

 何となく暗い雰囲気の中で、少しでも流れを変えようと翔一が口を開く。

 

―えっと…

 

 その声に皆が彼の方を向く。それはそれで少し話しにくかったが続ける。

 

―ストレンジャーは…倒したんだよな…

 

 あのセイレーンの名前を告げた時に少しだけ体をびくつかせたエンタープライズが歯切れ悪く言う。

 

―ん…ああ、そう…だな…

 

 彼女はベルファストと向かい側の椅子に座ると再び口を開く。

 

―そんなことより、指揮官が何ともなさそうでよかったよ

 

 そう言うと彼女は俯き加減に、つばを掴んで帽子を下げた。

 

―それで…俺、その時の記憶がないんだよ…

 

 先程ヴェスタルに寝ていろと言われた矢先、勝手に話をしてしまった。どうしても気になってしまう。当のヴェスタルは何も言わないままエンタープライズを一瞥していた。

 彼の言葉に食い気味に、エンタープライズが話した。

 

―まだ、その話はいいんじゃないか。ほら、指揮官も万全になったわけではないし…

 

 そう言ってまた俯く。

 いくら自分がまだ全回していないと言っても、そこまで避けるような内容なのだろうか。

 しかし、翔一は考えてしまう。ストレンジャーに瀕死のダメージを与えられ、ベルファストが海に沈んだ時に、いやベルファストでなくとも彼はあの姿になっていたのだろう。

 あの姿となった時、彼には体の底から漲る力を感じていた。実際にその力はストレンジャーを容易に破壊することの出来るもので、彼はその力を得たことに喜びさえ覚えていた。しかし彼が知っているのはストレンジャーを追い詰め、破壊までもう時間の問題というところまでで、それ以降の記憶が全てない。辛うじて、視界が水蒸気に覆われ凄まじい頭痛に襲われたこと、光に包まれたモナークの姿が見えたことを覚えているくらいだ。

 耐えられずに聞いてしまう。

 

―やっぱり…何か、あったのか

 

 そうすると、エンタープライズにまた食い気味に返される。

 

―いや、何もないんだ…指揮官の具合が悪くないなら、私はそれで…

 

 複雑な表情を見せるエンタープライズに、翔一は彼女の目を見ることが出来ず、天井を見つめた。電灯が1つだけ彼の目に飛び込む。光をともさないその代わりに、窓からの日が彼の横顔を照らした。そして、彼は瞬きの一瞬で昨晩の光景とこの部屋での出来事を思い出す。

 今までの最大の敵、ストレンジャーは倒され、一時の平和が訪れた。ストレンジャー破壊の瞬間については全く分からないが、恐らく自分がやったのだろう。記憶がない間のことがやはり気になってしまうが、今は皆話したがらないようなのでまた聞くことにする。

 しかしもう1つ、翔一は気がかりなことがあった。彼は隣に座るエンタープライズを見つめる。彼女は俯かせた顔を翔一に向けると困り顔で、どうしたんだと言うような顔で微笑む。

 

―…?

 

 翔一の目には、やはり彼女は無理をしているように映った。

 翔一はもう一度天井に視線を移し、意味もなく睨むと思う。

 

 

 

 俺は一時的にとはいえ”絶大な力”を手に入れたというのに、彼女1人の悩みさえ分からないというのか

 




今回の話はここで終わりにゃ!どうだったかにゃ?
とんでもなく強い力を手に入れたっぽいけど明石は何にも知らないのにゃ…
それに最後の指揮官…ちょっと怖かったにゃ…

あ、WARSの暴走理由とかが書いてある設定もあるからよかったら読んでほしいにゃ!

WARSの設定についてはここ(ピクシブ)を見てにゃ
感想もよかったらよろしくにゃ
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ
アンケートもあるからそっちもよろしくにゃ!

どんな所がよかったですか?

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