これは、ストレンジャーが2度目に現れる直前のある日の話。
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海上—
ある日、リノ達が指揮官からの委託任務を終えて、みんなで帰投する時のことだった。
—リノ!早く戻るわよ!
ブレマートンがリノを呼ぶ。無線通信を使わず両手の平を口に当てて、わざわざ遠くから大声で話す姿をリノは追いかけた。海面に小さく波を立てる音が心地良い。そんな穏やかな振動を感じながら私は言う。
—そんなに急がなくても良いんじゃない?
リノはそうしてまた一言続ける。
—ゆっくり行こっ
しかし、ブレマートンはリノの言葉に少し呆れたような表情を見せると言う。
—もう…母校を出る前はあんなに騒いでたのに…早く指揮官に会いたいんじゃないの?
—そ、そうだけどぉ…
リノはしばらく前に指揮官とお出かけする約束をしていた。母校にある小さな映画館で、ヒーロー映画を見る予定だった。
それが今日だったけど、そんな中で委託の任を務める事になった。当然彼からの命令なので断る事はないけど、ちょっとだけ残念だった。しかしどうしても、とお願いされてしまうと、普段の彼の大変さを見ている身としては中々彼を責める気持ちにもなれない。
リノはそれならと、せめて早く帰投して彼との時間を過ごそうと思っていた。彼もその願いを受け、帰投した後はリノと過ごしてくれると言ってくれた。
—でも、この綺麗な空を見たら、なんかゆっくりでも良いかなぁ…なんて思っちゃって
リノ達はKAN-SENとして、この美しい空や海を守っているのだな。と、陸の上にいる人々には勝手ながら思った。
—そっか、なら…それでも良い?エンタープライズ
ブレマートンは委託任務を命じられていたもう1人、エンタープライズに言った。彼女は先程から雲一つない空を見上げていた顔をこちらに向ける。
—うん、私はかまわないよ
そう言ってまた空を見上げた。その横顔は少し寂しそうだった。
そんな彼女を励ますように、ブレマートンは言った。
—さ、ゆっくり行きましょうかっ。でも何があるかは分からないから陣形は崩さないように。帰って指揮官に報告するまでが任務だよ!
—りょーかい!
エンタープライズが今回の任務の旗艦だったけど、いつの間にかブレマートンに仕切られていた。
それに続いてみんなは母校に歩を進めていく。
—…
それにしてもリノはエンタープライズの事が気になっていた。航行には何の影響もないけど彼女は今も、上を向いていた。広がる、透き通った青い空をただ求めるように見つめている。
そんな様子をブレマートンも気になっていたのか、彼女はエンタープライズに話しかけた。
—ね、エンタープライズ
—…ん?
静かにそう返すエンタープライズにブレマートンは続ける。
—あとでさ、一緒にご飯どう?
そんな誘いにエンタープライズは驚いた顔をする。
—今日のリノは母校に帰ってからずぅっと指揮官と居る予定でさ、ほんとは3人でって思ってたんだけど、1人抜けちゃうからなぁ
そう言ってブレマートンは悪戯で可愛い顔でリノを見た。
多分、リノは今顔が真っ赤だと思う。とても頬が熱いから。
でも、お湯に浸かったようにふやけそうな顔を一生懸命動かした。
—も、もう…ご飯くらいなら一緒に行くよっ
—ははっ…そうか
微妙な笑顔を浮かべたエンタープライズだったけど、その表情はすぐに固くなった。
—でも…私は遠慮しておくよ…
断られてしまったが、ブレマートンがあんな誘いをするのも道理だった。彼女は仲間思いで、みんなのお悩み相談をするほどだ。噂によれば指揮官も彼女を頼った事があるとか無いとか。リノもブレマートンに助けられてばかりで、それもあってか今彼女はリノの大切で、大好きなヒトだ。
そんな中で彼女は多分、さっきから寂しい様子のエンタープライズを少しでも元気付けようとして、ご飯に誘ったんだと思う。
顔を逸らすエンタープライズを彼女は見つめる。
—んー、そっか
少し眉を下げたブレマートンだったけど、すぐにパッと笑顔を見せた。
—でも、気が向いたらいつでも言ってね。私、待ってるから!
—うん…
エンタープライズが頷いた時だった。突然彼女は叫ぶ。
—セイレーンだ…!
リノたちはレーダーで敵の反応を感じた。
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海上—
よりによって委託の帰りにセイレーンに遭うのは嫌なことだった。しかし逃げていてもしょうがない。セイレーンを倒す事がKAN-SENの仕事なので、リノたちは黒い敵艦に相対していた。
3人で相手取るには少し多い敵に手間取っていると、"彼"が現れた。
"WARS ENGAGED"
合成音声を響かせてやって来た指揮官が、いや、WARSがリノたちに背を見せていた。
帰投を待たずして現れたセイレーンの登場に、リノたちは指揮官に応援を頼んでいた。後ろを振り返ると彼と共に来た赤城と加賀がいる。
—問題無いな、みんな
彼の横顔が見える。そして落ち着いた低い声がリノたちを包んだ。
—指揮官!
リノは彼の登場にはしゃぐ。そういえば彼のこの姿を実践で見るのは初めてだ。堂々とセイレーン艦に構えた彼はまさしくヒーロー同様の悠然さを感じさせ、リノは内心興奮してしまう。ここが戦場である事は分かっていても、憧れの存在を前にして嬉しくなった。
彼はWARSブレスの舵を回す。
"AETHER DEFORMATION"
WARS AETHERとなった彼は命令を出した。
—エンタープライズは俺と、敵の戦闘機を落としてくれ。赤城と加賀はその間に爆撃!
—敵の攻撃が弱まったところで、リノとブレマートンは相手の懐に飛び込め!その時は俺も行く!
—"了解!"
そうしてリノたちの反撃が始まった。
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母校—
翔一達は現れたセイレーンを撃退し母校に帰投した。普段ならやっと終わったと一息つきたいところであったが、今回はそのような余裕は少なくとも翔一には無かった。
—加賀…
医務室のベッドの隣で座る彼はそう呟いた。彼は目を瞑る加賀を見つめている。
—…何だ?
彼女は突然瞼を開けると、ぎょろりとその目を翔一に向けた。
—っ…起きていたのか
—ああ、お前が来る少し前にな
—そうか…
翔一は目を伏せた。そんな様子の翔一に加賀は小さく口を開く。
—それにしても、この様な失態を見せてしまうとは…指揮官を守らなくてはならない身としても、恥いるばかりだ
加賀は先の出撃で大きく負傷した。敵艦の砲撃が直撃、崩した体勢を逃すまいとその身に多数のビームが襲ったのだ。以前のベルファストの件を除けば今までに無い程の大損傷を前に、翔一は大きく気を落としていた。
そんな彼女の放った言葉に、翔一は間髪入れずに言う。
—いや、俺が守れれば良かったんだ…
—違う。それは私に"力"が無かったから故…次はどうなるか分からんが、そうなったら私がそれまでだったというだけの事だ
それに立て続ける翔一。
—それだと万が一のことがあれば…!
若干息を荒げる彼の話を無視するように、加賀は立て続けに語った。その表情は、ひどく優しい。
—だが、それでもお前が最前線に出るようになった頃から、皆の被弾や負傷はかなり減ったのだぞ
—それに何故だか知らないが、お前が近くにいるだけで力が漲るような気もする…ほんの気持ち程度だがな
―後は士気も上がったよ
加賀は"ふふっ"と息を短く吹く。
—特に姉さまは顕著だった
そこで一旦落ち着くと、彼女はぽっと頬を染めた。彼から目を逸らして言う。
—…すまない、少し話しすぎたな
そして恥ずかしげに静かに言う。
—さっきからお前の言動が少し変だったのでな、励ましたつもりだよ
—そうか…そうか…
未だ表情の晴れない翔一に加賀は告げる。
—で、お前はここに居るべきでは無いのではないか?
—…え?
加賀は彼の背後に目を向ける。釣られて彼も見れば、そこには観葉植物然としながらも、彼を憂う様な目をしたリノがいた。彼女は彼に声を掛けるべきか迷い、口も開けずに唇を動かしていた。
—あ…し、指揮官…
今度は困り眉で控えめに手を振る。
—早く行ったらどうだ?
—あ、ああ……それじゃあ、しっかり休んでくれ
促され、彼は加賀に背を向け去っていく。彼女はその背を見つめるだけだった。
翔一はリノと並んで廊下を歩くがしかし、もはや彼の心にリノは居なかった。
加賀は先程、"力"が無かったからと言った。それではその状況を生んだのは、そんな彼女を指揮官として管理しなければならない、翔一の"力"が無いからである。
翔一は加賀からの励ましに納得というか、その気持ちを理解はしたものの、彼の中では上手く言えない無力感的なものが反芻していた。
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母校、広場—
—ねえ、指揮官
リノたちはベンチに座っていた。彼と改めて会ってから、ずっと暗い表情をしている彼を見てリノは思い出す。
"この様な失態を見せてしまうとは…"
"それは私に力が無かったから故…"
多分指揮官はさっき言われた事に悩んでいるんだと思う。
今隣にはリノが居るのに、他の女の子に言われた事をずっと気にしている様子なのはちょっとムスッとしてしまいたくなるけど、それでもリノは彼の事が心配になった。
—ん?
リノの呼びかけに力弱く答える指揮官。やっぱり元気は無さそう。
—あ、あのね…
彼に元気が無いなら、リノはそれをあげたい。リノと一緒にいる事で彼が元気になるなら、そうしてあげたい。ブレマートンまでとは言えなくても、リノに頼って欲しいと思った。大した事は何も考えずにリノは指揮官に出来るだけ笑顔で元気に言う。
—指揮官はリノのヒーローなのっ
—だからね…えっと…
貴方が困っているなら頼って欲しい。リノの憧れの人が苦しそうにしているところは出来るだけ見たくないから。貴方が笑っているところを見たい。
そう言おうとしたけど、やっぱり恥ずかしくて言えなかった。
—…
彼はリノを見ずに黙っている。
—…ごめん
少し怖くなってしまって、何故か謝ってしまった。
彼の負の様相にリノは飲み込まれ、押し黙る。ただ、時間が過ぎていくだけだった。
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