アズールレーン~希望への航路~   作:ざぎねぅ

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 前回の出撃で再びストレンジャーが出現した。WARSの暴走によりストレンジャーを圧倒し破壊に成功するも、そのまま暴走し続ける彼をモナークが制止し、結果的にセイレーンの撃退に成功する。
 KAN-SEN達はWARSの暴走についてそれぞれで思いを抱くが、特にエンタープライズの様子はどことなくおかしくなっていた。
 そして彼女の裏で、翔一も自らの力について深く考えるのだった。


20話 力を振るうとき file1

~母港、病室~

 

 

―申し訳ありませんでした…!

 

 翔一の目に飛び込んだのは、こちらに向けられた狐の耳と頭だった。そして同時に彼を震わせたのは彼女の、赤城の自責の言葉だった。

 

―あの時、私の勝手な行動で指揮官様を極めて危険な状況に晒してしまいました…!

 

 絞り出すような声と、頭を下げたまま微動だにしない姿に心底驚く。

 それにしても、彼女に危険な状況に晒されたことなどあっただろうか。薄れている前回の戦闘の記憶をたどり、そして今だ上手く働かない頭で考えを巡らせた。

 一瞬だけあの拳(ストレンジャー)に殴られたときのことを、赤城を庇おうとして、情けないことに彼女を下敷きにしながら吹き飛んだ時のことを思い出す。

 

―ああ、もしかしてあの時の…

 

 そうつぶやいて、もう一言彼女に言う。

 

―赤城、頭を上げてくれ

 

―……っ…

 

 頑なに曲げた腰を伸ばさない赤城にもう一度口を開く。

 

―赤城…

 

―…

 

 渋々といった様子で彼女はゆっくりと表情を見せると、一瞬だけ合った目を逸らしてしまう。

 いつもなら熱すぎる視線を向けてくるが、今はそんなものは微塵も感じない。赤城はただ不安気な顔をするだけだった。そんな姿を見せられては流石にこちらも寂しくなってしまう。

 前回の、あんな馬鹿げた敵の攻撃から身を呈して守ろうとしてくれただけでも嬉しいのだ。その結果がどうであれ、彼女に感謝はしても責める気などは一切起きなかった。

 赤城にはいつも微笑んでいて欲しい。

 目が笑っていないことも多々あるがそこはまあ置いておくとする。しかし、彼女が重桜の駆逐艦達などに向ける優しい目を思い出すと、勝手ながら彼女は微笑んでいて欲しいと思うのだった。

 

 そしてそれが、翔一が”赤城の為”に思ったことだった。

 

 何の音もなくそして無言の空気が流れる病室の中、やはり暗い表情を絶やさない赤城に、出来るだけ優しい声音を意識して言う。

 

―申し訳ないなんて、そんな事は思わなくていい。それにあの時、俺の盾になろうとしてくれたんだろ?

 

―…

 

 しかし、彼はそんな赤城を庇って傷ついた。

 

―でも俺も、お前が傷付くのが嫌だった…

 

―…

 

 一呼吸入れて、もう一言続けた。

 

―心配しなくて良い、赤城…今度はしっかり、お前を守れるようにするからな

 

―…

 

 翔一は更に、赤城の頭を優しく撫でる。いつもならこんな事をすればここぞと言わんばかりに猛烈なアピールをしてくるのだろうがしかし、彼女の表情は陰り、目を逸らすばかりだった。

 なぜこんな顔をするのだろうか。

 

―…

 

 赤城は口を真一文字にしたままだ。普段と比較すればありえない程に話さない彼女に、なんとも言えない恐怖すら感じる。

 

―…指揮官…様…

 

 実際に過ぎた時間よりは長く感じる間を開けて、やっと彼女は口を開く。

 

―…ん?

 

 そう返すと、彼女はこちらをじっと見つめる。その瞳は、不安気に震えていた。

 

―それでも…私は…

 

 そう言って以降、また彼女は自身を無くしたように押し黙る。そして、

 

―…申し訳ありません指揮官様…今日は…これで失礼します…

 

 赤城の声はだんだんと、最後には聞き取れなくなる程に削ぎ落とされていった。

 彼女はそのままそそくさと病室を出る。何かから逃げるような足取りは、こちらを不安にさせるかのようだった。そんな背中を見送って、思う。

 

 

 

 ”やっぱり、大切な人のあんな顔は見たくない…もっと…もっと強くならなくちゃ駄目なんだ…”

 

 

 

 心の中で歯を食いしばった。

 

――――――――――――――――――――

 

~母港学園、庭~

 

 

 目覚めてから3日も経たずに病室から出ることが出来た翔一は、ヴェスタルに背を見送られながら歩いていた。

 何の気なしに足が向かったのは、学園にある花壇だった。そんな足がふと止まる。足先には、綺麗に並んだ花々を前にしゃがんで、小さく影を落とすヒトがいた。黒い服に身を包み、こちらに背を向けている姿がゆるりふわりと振り向く。

 

―あら、指揮官…

 

 ローンだ。彼女は柔らかい表情を浮かべると続ける。

 

―いつの間にか復帰していたんですね

 

―ああ、おかげさまで。とはいえ病室を出たのは数分前なんだけどな

 

―そうでしたか。あの戦闘の次の日、私がお見舞いに行ったときにはまだ目覚めていなかったので、とっても心配したんですよ

 

 ローンは翔一に向けていた顔を、もう一度花の方に向けた。しゃがんだままの彼女に並ぶように、彼も膝を曲げると言う。

 

―そうか。しばらく顔を見せられなくて、ごめんな…

 

 すると、ローンは困り眉を浮かべる。

 

―いえ、そんな…

 

 そして翔一を見つめた。

 

―指揮官…本来、私たちKAN-SENはあなたを守ることも使命としてあります。前回は、むしろ私が謝らなければならないような結果なんです

 

―ごめんなさい…指揮官……私は…

 

―違うっ…そんなことを思う必要はないんだっ……俺が強くなかったからっ…力がなかったからっ…!

 

 病室から出た今でも己の心を支配する無力感が自らへの怒りとなって喉を震わせた。そして、そんな思いをローンに吐き出したことで、己の弱さを確信できてしまったようで恥ずかしくなる。

 すると彼女は優しい声音で囁いた。

 

―優しいんですね、指揮官は

 

―え…?

 

 自分の使命を果たそうとしているだけでそんなことを言われるとは思わなかった。息を荒げて八つ当たりのような態度で話したのに、彼女に柔らかい表情を向けられて驚いたのだ。

 ローンは花にもう一度目を向けると手を伸ばす。

 

―それにしても…ふふ…花は綺麗ですねぇ…

 

 そして指の先に据えた黄色い花を、乱暴に引き抜いた。

 

―…

 

 突然のことに驚く様子を見せる暇もなく黙ってしまう。

 彼女は手に取った花の匂いを嗅いだ。しかし、何か物足りないという寂しげな目を見せた。

 

―花は…好きですよ…でも、こうやって手に取って愛でようとすると…

 

 そして、花びらを1枚1枚むしり取った。好きだと言いつつ自分でそんなことをしても尚、憂う目を花に向けている。”愛でる”と彼女は言っていたが、少なくとも傍から見てそんな風には見えなかった。

 

―崩れてしまうんです…

 

 彼女はつまんでいる花びらを離す。ひらひらと落ちるそれはローンの足元に向かう。

 

―好きすぎるから、力が入り過ぎるんでしょうか……それとも本当は、私は花が好きじゃない…?

 

 彼女は”でも…”と続け今までとは打って変わり恍惚な表情を浮かべると、突然立ち上がると地面に横たわる花びらを踏みつけた。

 

―こうやって、ぐちゃぐちゃにすることも…ふふっ…

 

 元々ローンは一般的には理解しがたい趣味というか、価値観があるのは分かっていた。しかしそうとはいえ、こうやってぐりぐりと地面を踏む様子を見れば流石に目を疑った。

 そんな翔一の思いを気にすることもなく、ローンは続けて言う。

 

―私は好きなものを愛でるのがとっても好きなんです……それを壊すことも…とっても好き…

 

―矛盾しているようですが…どちらも本当の私の気持ち…

 

―指揮官はどちらですか…?

 

―それとも、私のようにどちらも…?

 

 立て続けの言葉に引き込まれ、何も言えなくなる。

 

―…

 

 さらに彼女は続ける。

 

―私にはとても強い”思い”があるから、こんなことが出来るんです

 

―私に何の”思い”もなかったら…たぶん、私の周りには何もないと思うんです

 

 そう言ってもう一輪の花を引き抜いた。そして同じように、今度は花びらをむしることもなく足元に落とし、踏みつける。

 

―私に愛という”思い”があるから、こうやって”やりたいこと”を出来るんです

 

 意味が分かるようで分からない、奇妙なローンの言葉に答えることは出来ず、その代わりに彼女に問うた。

 

―…本当に、好きなのか…?

 

―はい、好きです

 

 咲かせた満遍の笑みは女神も恥じ入るほどに美しかった。

 

――――――――――――――――――――

 

~海岸~

 

 

 ローンと別れた翔一はしばらく歩いた。その足の先は知らず内に、白い砂浜に向いていた。いつも演習をしている海。しかし今日は、どの陣営も演習はしていないらしい。

 

 "初めてしっかりとWARSになったのも、この場所だったか"

 

 足を前に出す度に、仲間と共に互いを鍛えてきた思い出が蘇る。

 やがて足を止め、きらきらと日の光で輝く海原の奥を見据える。

 

―…

 

 以前の戦闘後から芽生えた翔一の悩みの答えは、いつまでも遠くにある事だけは分かって、決して手に掴むことは出来ていなかった。そんな、まるで水平線のような悩みが心を覆っていた。

 

 "せっかく新たな力を得たと言うのに、それをまともに扱うこともできず、あろう事か味方まで…どうすればいいんだ…!"

 

 変わらずに手の届かない水平線を睨んだ。

 すると、

 

―指揮官…

 

 背を撫でたのはツェッペリンの声だった。翔一にとっては、珍しく優しげな彼女の声に振り向けば、見えるのは切長で睨んだようにも見える彼女の目だった。

 

―ツェッペリン…どうしたんだ、こんなところに…

 

 悩みを抱えそのまま孤独になってしまいそうな、恐怖にも似た感情が和らぐ。しかし同時に、そんな弱い自分を見られる事の恥が襲ってきた。

 耐えられず目を逸らしてもう一度海原を見やると、ツェッペリンが隣に立った。彼女の肩が二の腕に触れる。

 

―指揮官…

 

―ん…?

 

 変わらずに慈愛の込められたような彼女の声に、軽く喉を震わせて答えると彼女は言う。

 

―不安か…?

 

―…っ

 

 見透かされた気分になり、何も言えなくなる。しかし、"全てを憎んでいる"とはどこへ行ったのやら、彼女の声にはこちらを更なる悩みの底に追いやるような雰囲気はまるで無く、寧ろ愛で包み込むようだった。

 

―失うのが、怖いか…?

 

―…

 

 彼女はそう言って、今度は翔一の手の甲を自分の指で撫でる。

 

 ”ご主人様ぁ!”

 

 ベルファストの悲鳴が脳裏に響く。しかし、そうして失うことがないように、まずは力をつけることが肝心なんじゃないのか。しかし力を持った結果があの様なのだ。どうやって使えば良い。どうすれば制御できる。

 グルグルと回り続ける終わりのない思考に、翔一は短く嘆息してしまう。

 

―…はぁ

 

 その時、

 

―大丈夫だ、指揮官…

 

 ツェッペリンは同じように、囁きにも聞こえる声で優しく言う。そして、翔一を安心させるにはあともう一押しと言わんとするように、彼女は彼の手を軽く握った。その手に力がないのはただの恥じらいではなく、ツェッペリンの彼に対する優しさの表れだった。

 しかし、

 

―大丈夫じゃ…ないんだ…っ

 

 翔一はそう言ってツェッペリンの手を払う。

 

―ぁ…

 

 ツェッペリンの表情が寂しさを帯びた。しかしそんな彼女の気も知らず、翔一は続ける。

 

―どうすれば良いか…分からないんだよ…っ

 

 一瞬声を荒げてそれ以降、翔一は黙り込む。ツェッペリンはそんな彼の顔を見つめた。未だに自分から逸らされた彼の顔を彼女は両手で包み、自分と向き合わせる。そして小さく口を開いた。

 

―指揮官、よく聞け

 

 彼女はそう言って手を離すと、ゆっくりと語り始めた。

 

―この前、卿は我に、仲間と共に居たいと思わせてくれた。それから我は、戦うことに疑問を持つことがなくなったのだ

 

 そんな事を思わせた事があったかなと一瞬思考を巡らせたが、やっぱりそんな事はなかったと思う。しかし彼女がそう言う以上、何かしら自分の言った事が彼女の悩みを解決する糸口になったのだろう。それであったのなら良かったと、内心素直に喜んだ。

 彼女は真っ直ぐにこちらを見つめて続ける。

 

―しかし今、卿はただ戦っているだけに見える…

 

 ”ただ戦っている?…そんなことはない。今だって俺は、何にも負けない力をもって…”

 

 頭の中で彼女の言葉を否定するのは簡単だった。しかしその先の言葉を紡ごうとすれば、途端にそれは叶わなくなってしまった。

 

 ”何にも負けない力をもって、それで何だ…?”

 

 脳裏にそんな言葉が響いた。

 

―…

 

 彼のその気持ちに気付いたか否か、ツェッペリンの真紅の瞳が憂いを帯びた。まるで寂しく説教でもしだすような目に吸い込まれそうになる。

 

―それだけでは駄目なのだ…指揮官…

 

―だったら…何がいるんだ…?

 

 ツェッペリンの肩を両手でつかみ聞く。

 突然の行為に緊張したのか彼女は肩をすぼめ、目を逸らした。そして言いづらそうに、少し恥じたように言う。

 

―ココロ…だ…

 

 

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―は…?

 

 あまりにも想像から離れた答えに呆けた声返してしまった。

 心と力に何か関係があるかと気を巡らせるが、やはり思いつかない。

 

 ツェッペリンは頬を染めてそっぽを向くと続ける。

 

―と、とにかく卿は…その…ココロを……忘れる…な…

 

 段々と小さくなっていく声はしかし、翔一の心にしっかりと響いていた。

 

―それだけだっ

 

 口早にそう言うと、急くように背を向ける。

 

―あっ…ツェッペリン…

 

 彼女はさっさと走り去って行った。

 

―…

 

 心か。

 先ほどのローンの言葉が蘇る。

 

 ”私にはとても強い思いがあるから、こんなことが出来るんです”

 

 彼女は、”強い思い”があるからあのようなことでも出来るらしい。それにしてもすることが極端な感じはする。それも”強い思い”故だろうが。しかし、その”強い思い”だけなら自分にもあるんじゃないか。

 あまり考えても仕方ないので彼女の言葉は忘れようと一瞬思ったものの、もう一つ思い出す。

 

 ”私に何の思いもなかったら…たぶん、私の周りには何もないと思うんです”

 

 周りに何もない。どういう事だろうか。全部破壊してしまうという事だろうか。

 

―…全部、壊してしまう

 

 この前の戦闘を思い出す。自我を失い敵艦を屠り、エンタープライズを吹き飛ばし、ストレンジャーを殴り続けた。文字通り敵味方など関係なく、あの時は全てを壊しそうになった。

 

 ”卿はただ戦っているだけに見える”

 

 ツェッペリンは、俺がすべてを壊しそうになったことを、俺の力に何の思いもなかったと言いたいのか。

 

 そんなことはないと、先程のように否定したくなる。しかしそんなことを考えてしまう自分に苛立ちも覚えた。

 

 俺はそんな…ただ戦っていたわけじゃないんだ。でも俺は力を得て、それで…

 

 それで、自我を失ってあの様じゃないか。

 

 ”卿は指揮官として、どんな気持ちで戦っているんだ…?”

 

 随分前の記憶が逡巡した。確かあの時は、WARS ACHILLESを使いこなせるように訓練していた時にツェッペリンから聞かれたことだったか。

 

―どんな気持ちで…か…

 

 そう考えれば先程ツェッペリンが言ったように、ストレンジャーを前にして、気持ちも何も持たずにただ戦い”目の前の脅威を破壊する”だけだったと言えるのか。

 

―…

 

 でもそれなら、なぜあの時あんなにも巨大な力を手に入れられたのか。本当に何の気持ちもなければ、あんなことになることもなかっただろう。

 

 メンタルキューブはヒトのオモイに答えてその力を発揮する。それならあの時に、何か思いが、”ただ力を求める”ことでなく”力を求める理由”という強い思いがあったはずなのだ。

 

 もう一度、あの力を得る直前を思い出す。

 

 ”ご主人様ぁ!”

 

 ベルファストの叫び声が聞こえる。

 

―そうか…そうだったな…

 

 あの時、自分の愛する者達が傷つくのが嫌だった。

 

 

 守れないことが、すごく辛かった。すごく怖かった。

 

 

―だから俺は…俺の愛する者達を守るために戦う……それが戦う理由、だったな…

 

 なんだ、ツェッペリンは俺にそのことを思い出してほしかっただけじゃないか。でもそれは、自分で気付かなくちゃいけない。そうでないと”力”を使いこなすことなんて出来ない。だから”ココロ”なんて言い方をしたのか。

 

 ようやく自らの持つ力の意味を思い出して立ち上がる。

 

 

 ありがとう、ツェッペリン。

 

 

 海を背にして歩き出した。

 

――――――――――――――――――――

 

~ドックの奥~

 

 

 普段なら明石が夜な夜な作業をしていて埃が舞うドックの倉庫。ところどころにキューブの青白い光がチラチラとあることで雰囲気だけは小綺麗なそこには、珍しく彼女以外のKAN-SENがいるようだった。

 

―…ふぅ

 

 疲れからか、短くため息をついて手を止めたのはリノだ。

 彼女は明石の作業を手伝っていた。昨日から徹夜に近い状態でリノは手を動かしている。

 そんな中、明石はと言えばリノの手伝いに甘えるようにぐっすりと眠っていた。リノは小さく上下する彼女の体から目を離すと作業を再開する。

 

―んん~にゃうにゃうにゃうぅ…

 

―…ん?

 

 突然喉を鳴らした明石にもう一度目を向けた。

 

―…

 

 彼女は先程と全く体勢が変わっていない。直ぐにまた静かな寝息が聞こえてくる。

 

―ふふっ…かわいい寝言

 

 リノは明石の、普通の猫のような姿に少しの癒しをもらった。そして視線を目の前のモニターに移す。

 

 ”リノが指揮官を助けるんだ…!”

 

 そうしてリノは、何度思ったか分からない決意を脳裏に反芻させた。

 

 ”明石の研究…しっかりやるんだ…!”

 

 思いながら、ホログラムのキーボードを操作する。モニターに表示されているのは、以前暴走した時の(WARS)の姿。しかしその形は、微妙に違うものだった。肘、足、背。ところどころに、船の煙突のような意匠が施されている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 明石は翔一が暴走して以来、一睡もせずにあの形態を彼の制御化に置けるように研究を行っていた。そんなところに、リノが手伝いを申し出たのだ。

 

 ”こんなに莫大なエネルギーの熱損失を廃熱する機関…明石、よく考えたなぁ……リノのヒーローガジェットに組み込んだらもっと凄いのも作れそう”

 

 研究の手伝いと言いながらも、リノは明石の技術に感心するばかりであった。というのも、リノがここに来た時点でもう暴走の問題は解決済みだったからだ。

 WARSが敵味方関係なく攻撃した原因は、はっきり言ってその大き過ぎるエネルギーによる熱暴走だった。その影響で、翔一の脳だけでは為しきれないWARSの制御を担うAIのバグが発生。そしてWARSは周りの兵器という兵器を破壊しようとしたのだ。なのであれば、単純に廃熱機関を強化してしまえばいい。そうして明石はこの機関を開発したのだ。彼女が言うには、もう少し調整をすれば完成らしい。

 

 ”でもリノに出来る事、そんなになかったけどね”

 

 もっともリノに出来たのは、廃熱機関のデザインを考えてそれをモデルに組み込むくらいだったが。それでも徹夜してまでそのデザインを考えていたのは、彼女のヒーロー好きが故か。結局単純なもの(煙突の意匠)になってしまったが。

 デザインを施したWARSのモデルを保存する。ファイル名は"WARS MIGHTY"

 

―んぅ…ふぁああああ……あぁ、よく寝たにゃ…

 

 ほぼ一日眠り、やっと目を覚ました明石はむくりと体を起こした。彼女はリノに目を向ける。

 

―リノ、追加機関のデザインはどうかにゃ…?

 

 まだ寝ぼけ眼の明石がそう言うと、もそもそとリノの方に歩く。

 

―ばっちり出来たよっ

 

 そう答えるリノから肩越しに、明石はモニターを覗き込むと微笑んだ。

 

―おお、これは中々カッコよくなってるにゃ

 

―うん、ちょっと付け足しただけだけどね

 

―ん、ありがとにゃ。後の調整は明石に任せてにゃ

 

―うん

 

 リノは椅子から立ち上がると明石がそこに入れ替わる。そのままリノはドックの出口に歩き出した。

 

 ”結局、リノが指揮官に出来る事…ほんの少ししかなかったな…”

 

 湧き上がる少しの無力感を、肩を落としてせきとめた。

 

――――――――――――――――――――

 

~執務室~

 

 

 今までの悩みが不思議なほどすっきりと消えていることに気付いたのは、翔一が久しく執務室の扉を開けた時だった。

 扉の向こうには若干目を丸くしたエンタープライズの表情があった。

 

―あ…指揮官、もう…大丈夫なのか?

 

 突然の出来事で驚いたのか、彼女の言葉は簡素なものだった。

 

―ああ、待たせたな。もう大丈夫だ

 

 そう答えると、今度は部屋の奥からもう一人、銀の長髪をなびかせてこちらに来るヒトがいた。

 

―ご主人様っ

 

 ベルファストの姿が目の前にあった。彼女の目は若干、駆逐艦のKAN-SENにも思えるような無邪気さというか、純粋さのような光があるように見えた。

 そういえば病室にいる間はベルファストに会っていない。寝ている間に彼女は来たのかもしれないが、彼女にも心配をかけてしまったな。

 そんなベルファストは美しく微笑んで言う。

 

―おかえりなさい

 

 彼女の言葉は短い。しかしそれだけでも翔一の心は温かく包まれ、その疲労を癒すには十分だった。

 

―うん、ただいま

 

 安寧の場所に帰ってきた感覚が言葉になる。

 

―さっ、ご主人様、早速お仕事をしていただきます。貴方がいない数日はとても忙しかったのですよ

 

 ベルファストの冗談交じりのセリフに、翔一は彼女の自分への気遣いを感じた。

 

―ははっ、ああ、しっかりやるよ

 

―ふふっ…お願いします

 

 何やら完全に二人の世界に入っていそうな雰囲気は、他のKAN-SEN、特に赤城や大鳳が見たらどうなるかは想像に難くない。

 

―…

 

 しかしそんな姿を、エンタープライズは表情一つ変えずに眺めていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

~重桜エリア~

 

 

―はぁ…

 

 病室で翔一と話して一日か二日か、彼が仕事に復帰したと聞いた赤城は彼の姿を見に行こうとした。しかし、何か自分の中にある彼に遠慮するような気持がココロを覆い、結局引き返してきてしまった。そんな中今は、正に得体の知れない、何とも言えない気持ちで自室につながる縁側をとぼとぼと歩いている。普段なら彼を思いながらふわりふわりと揺れる尻尾も、今日は力なく重力に身を任せていた。

 しばらく前の、彼がまだ病室のベッドにいた時の言葉を思い出す。

 

 ”申し訳ないなんて、そんな事は思わなくていい。それにあの時、俺の盾になろうとしてくれたんだろ?”

 

 彼の言う通りだ。しかし、彼はそんな赤城を庇って傷ついた。そのために彼はあんな部屋に横たわっていたのだ。

 

 ”でも俺も、お前が傷付くのが嫌だった…”

 

―…

 

 確かにその気持ちは嬉しい。人によって作り出されたもの(ココロ)でも、踊りながら天に昇っていきそうなくらいの気を持ってしまう。

 だがしかしと、あの時赤城は喉から出そうになる気持ちを抑えていた。

 

―違うのです…それでは指揮官様は…貴方は…

 

 ”心配しなくて良い、赤城…今度はしっかり、お前を守れるようにするからな”

 

―…うぅっ

 

 あの時彼はそう言って、頭を撫でた。いつもならあんなことをされれば有頂天になっていたはずだった。しかし違った。彼の気持ちから逃げるように、申し訳の立たない感情を抑え込んで目を逸らすしかなかった。

 なぜならあの彼の言葉は赤城にとって、

 

 "お前は役に立たないから俺に任せろ"

 

 そう言っているようなものなのだったから。

 

 本来、KANSENはセイレーンの殲滅だけでなくそれを指揮する者を防衛する使命がある。しかし今や(WARS)は、KANSENと比較しても比にならない程に強い。セイレーンの殲滅だけで見れば、確かに彼を戦士として守るという”戦略”はあっても、守ろうとするあまりに自分が打撃を負ってはいけないのかもしれない。

 しかしそれでも彼のために彼女が取った選択は、彼の盾になるという事だった。

 

 ”お前を守れるようにするからな”

 

 彼の言葉で罰を受けたような気持ちになった。失望されたような気になった。

 もちろんあの時、彼がそんなつもりで言っていないということは百も承知である。しかし、それでも己の無力を確信するようで、悔しさで溢れそうになる涙を堪えることしかできなかった。

 

―……はぁ…

 

 無意識に出るため息の音が耳を打つたびに、脳裏にあの時の戦場がよぎった。

 

 ”指揮官様!”

 

 ”赤城!”

 

 ”指揮官様…あ、あぁ…そんな…”

 

 彼の為を思ってした行動に裏目が出たこと、そして、

 

 ”駄目だ!”

 

 ”お前じゃ無理だ…”

 

 彼への思いを彼から否定されたこと。

 

 あのセイレーン(ストレンジャー)は自分では万に一つも撃破できなかっただろう。今も鮮明に思い出せる苦い気持ちは、自らの全身を吹雪のように襲った。

 

―違うのです…それでは指揮官様は…

 

 しかし今にも凍り付きそうなココロは、それでもと彼を求めている。

 

 ”私は貴方のために出来る事なら…なんでもしたいのです…例えこの身が滅びようと…”

 

 赤城はそう決意めいた思いを抱いた。

 

 

 

 それから母港にサイレンが鳴り響くまで、さほどの時間は経たなかった。

――――――――――――――――――――

 

~海上~

 

 

 セイレーン撃退の命令を告げるサイレンを受けてから、既に翔一達は母校から遠く離れていた。

 指揮艦のブリッジからはっきりと見えるのは4人。中央にローン、その左右にベルファストとリノ、そしてちょうどローンと船首の間にモナークが、数十メートルの間隔を置いて航行している。残り三人、指揮艦の船首より若干前方に位置し、更に左右に配置されているのは赤城と加賀、そして艦の後方にいるのはエンタープライズだ。

 前回の出撃からは日が浅い。そんな中で多少体は鈍っているのだろうがしかし、戦いに赴く感覚というのは、彼の中ではっきりとしていた。

 

 ”戦えば、またあの姿になるのかもしれない”

 

 脳を通じて、砲弾を放つ衝撃と拳に伝う鈍い感覚が体に蘇るようだった。

 久しく指揮艦の窓から見る、今は静かな海が心を覆う。

 

 ”しかし俺は、もうあんな風に心は失わない…失うわけにはいかない”

 

 外にいる仲間からの、その決意を試すような目がこちらに向いているようにも感じた。

 覚悟を持ったからと言って、あの形態の制御が可能となるのかどうかは分からないが、それでも純粋にその決意ができる理由は他にもあった。

 

 ”頼むぞ、明石”

 

 窓から目を離して後ろに振り向く。

 彼女はあの形態を制御できるシステムを開発し、現在は最終調整中だと言って指揮艦の奥に篭っていた。翔一に出来る事はあと一つ。彼女を信じて待つだけだった。

 

―…

 

 もう一度目を窓の外にやり、海を見渡す。すると今度は翔一の脳裏に出撃直後の明石の姿が浮かんだ。

 

――――――――――――――――――――

 

~出撃直後、ブリッジ~

 

 

―指揮官!前回の出撃のようにあんな風(暴走状態)にならないように、明石はしっかりと対策をしているにゃ!これで安心にゃ!

 

―これは…?

 

 指揮艦が母校を出てからしばらくした頃、翔一の肩越しに明石がひょっこりと顔を出した。横から彼女が差し出すホログラムプロジェクターを受け取ると、そこには見慣れないWARSの姿があった。よく見れば、”WARS MIGHTY”と表示されている。

 じっとその姿を見つめていると、明石は聞く。

 

―見おぼえないかにゃ?

 

 一瞬考えるが、翔一にはやはり見覚えはななかった。

 

―うぅん、ないな……いや…

 

 と、口に出すが瞬間、以前ストレンジャーに打ち付けた腕が思い浮かんだ。もしかしてと思い聞いてみる。

 

―この前の…俺の姿か

 

 前回の戦闘で変身したあの姿かと問うと、彼女は頷く。

 

―そうにゃ。でもちょっと違うところがあるのにゃ!

 

 明石は興奮気味にそう言うと、腕、足、背、横顔の拡大画像を投影させた。翔一の手元のホログラムが目まぐるしく変化する。

 今までのWARSの形態には見ないような、特殊な形の衣装が施されているのが分かった。ぱっと見たところ、艦船の煙突を小さくしたパーツがWARSのところどころに取り付けられているようだ。

 そんな発見が小さく唇を動かす。

 

―これのことか…?

 

 プロジェクターを持った逆の手で指をさす。

 

―そうにゃ!ちなみにそれは、今までのWARSの設計の大幅な変更からつけたものなのにゃ!

 

 その彼女の言葉で、翔一はもう一度問う。

 

―見るだけならこんなに小さな変化でもか?

 

 大幅な変更と言いながらも、取り付けられたパーツは形としては多少の大小はあれどどれも小さなものであった。

 明石はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに深く頷く。

 

―んにゃ

 

 ”ちょっと説明するにゃ”と続けた。

 

―まず、前回WARSが暴走したのは、しっかりと廃熱が出来ていなかったからなのにゃ

 

―なるほど…

 

―そもそもKAN-SEN達は戦闘用の力を使おうとすると、少なからず熱損失が生まれるのにゃ。そんで、その冷却はみんな足の裏から行ってるにゃ。もちろんその冷却方法はWARSも同じにゃ。にゃんだけど…あの形態のWARSは攻撃力が大きすぎた故に、通常の冷却方法では熱損失の除去をやりきることが出来なかったのにゃ…う~ん…明石は指揮官がWARSになって以来そのデータを解析し続けてるけど、普通はあんな大出力は出ないはずなんだけどにゃぁ…WARSにもまだまだ謎は多いにゃ…ま、それだけメンタルキューブの力に可能性があるってことかにゃ

 

 長々と話しながら段々と声を落とした明石だったが切り替えは一瞬。再び説明を再開した。

 

―とりあえずそんなことがあった中で、このフォームだけ廃熱方法をほぼ作り直すことになったのにゃ。その結果、足とか背中に煙突型の廃熱機関が出来たというわけにゃ!指揮官、これでもうあの姿になっても大丈夫にゃ!

 

 嬉しそうな雰囲気を帯びた彼女の声がブリッジに響く。翔一が感じていた、若干くすんでいた気持ちは彼女の声で拭われて、中から漏れ出した安心という温かい光が翔一の唇を動かした。

 

―そうかっ…よかった

 

 一息つくように漏れたその言葉はしかし、それをひっくり返すように明石が言う。

 

―でもまだ最終調整に時間がかかってるにゃ…もしかしたら今回の戦闘で、WARSに変身してからの戦闘には間に合わないかもしれないのにゃ…

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女に”大丈夫だよ”と続ける。

 よくよく考えてみれば、明石には多大な苦労を強いてしまっている気がする。彼女は戦いに直接参加することがない代わりに、こうして翔一の隣でKAN-SEN達へのサポートをするのみにとどまらず、本来であればイレギュラーな存在の、WARSの形態変化(フォームチェンジ)の研究開発までしてくれている。それに、彼女だけじゃない。

 

 ”やっぱり、自分が使う力ばかりを求めている場合じゃなかったんだな…俺の周りにはみんながいる…みんなが俺を支えてくれているじゃないか”

 

 逡巡するように、今まで自分を思ってくれたヒト達の表情が思い浮かんだ。今まで、気付いているようで気付いていなかったのだ。自分の周りにはたくさんのヒトがいるということを。そのおかげで戦えていたということを。しかし今は違う。皆の思いをしっかりと考えて、それを受け止め、自分に出来ることを考える。そうすることで初めて、自分が使いたい力を、使うべき力を求め、手に入れることが出来るのだ。

 気付いた時には、口は開いていた。

 

―明石…俺は、いつもお前のおかげで戦えるよ…ありがとう

 

 感じた気持ちは言葉となり、明石の耳を揺らす。

 彼女の白い頬が桜色に染まった。

 

―そ、そうかにゃ…

 

 明石は何となく、報われた感じがした。

 彼がWARSとなってからその能力について研究していく中、自分が勝手に始めたこととは言え思った以上の作業量に疲弊してうんざりしたり、彼の力を新しく引き出す度に、しかもそれを彼に押し付けるように使わせて、彼は鬱陶しいと思っているかもしれないなんて事も思っていた。

 だから彼の今の言葉は明石の、船体のように硬く冷たくなりそうだったココロを優しくほぐしたのだ。

 ちょっと恥ずかしくなって、話を少し逸らす。

 

―あ、あとっ…この廃熱機関の衣装を考えてくれたのはリノなのにゃ!リノにもちゃんと感謝するにゃ、指揮官っ

 

 この情報もとても大切。正に排熱機関の開発で疲弊して眠りそうなっていたところで、リノに助けられたのだから。

 

―そうなのか

 

 翔一はつぶやいた。そして彼は、明石の言葉で改めて思った。

 

 "自分が気付かないところでも、俺を支えようとしてくれるヒトが沢山いる"

 

 そしてそれに気付いて、甘えるだけではいけない。次に自分がやるべき事は"皆を守る為"に全力で戦う事だ。皆で無事に帰る事だ。そうやってお互いが思い合い、何かを成すこと。それが絆を紡ぐと言う事なのではないだろうか。

 

―みんなが居れば…本当に心強いな

 

 そう言って微笑めば、明石からも柔らかい表情が返ってきた。

 

――――――――――――――――――――

 

~海上~

 

 

 "戦場だというのに…"

 

 何を考えているのだろうかと、赤城は自分に言い聞かせた。

 

―…

 

 いくら忘れようとしても頭に粘り付くように離れない、彼への思いを抱いていた。それは決して普段の甘い思いでは無い。とにかく、彼を思えば思うほど自分が彼から遠ざかっていく様な、底の無い悲しみを覚えていた。

 その感情は内に秘められたままではなく、表にもでている。九本の茶色い尾が重力に身を任せたまま、今にも海面に付きそうだった。

 覇気も何も感じられ無い彼女の様子に、加賀は話しかけた。口は閉じたまま。

 

 "姉様…"

 

 ”何?…秘匿回線なんか使って”

 

 ”どうかしましたか…?”

 

 平坦な声音が赤城の脳に響く。加賀の声でやっと自分の気持ちが外にも現れている事に気付いたか、彼女は俯いていた顔を上げた。折れ曲がっていた尾をゆっくり戻しながら、数瞬遅れて通信を返す。

 

 "何でも無いわ"

 

 "そうには思えませんが"

 

 普段見せないような落ち込んだ赤城の言葉に、加賀は即答した。いつ敵がレーダーにかかるか分からない状況で、すぐ戦闘を行える気構えが抜けている赤城に若干の苛立ちを覚えたのだ。

 

 "…"

 

 赤城は黙り込んだ。そんな様子にしびれを切らしたか、加賀は厳しい声音を送る。

 

 "赤城、戦場に無駄な感情を持ってきているなら、そんな物は今すぐ捨てろ"

 

 "………"

 

 やはり何も答えない。

 

 "まあいい…とにかく、戦闘が始まったら普段通りに動けるのならばそれでいい"

 

 加賀は諦めたのか、最後にそっけなくそう言うと通信を切った。

 すると、それを待っていたかのように他のKAN-SENから通信が送られてきた。今度は通常回線だ。ベルファストの細い唇が開く。

 

―ご主人様、そろそろセイレーンの出現地点です。いかがなさいますか

 

 聞きなれた、彼女の美しくも凛々しい声がブリッジに響く。翔一はレーダーを確認した。

 

―ありがとうベル、こちらでも確認した

 

 そう言って続ける。

 

―赤城、加賀、エンタープライズはセイレーンを補足次第爆撃開始。一時、敵の動きを鈍らせ、その隙にベル、ローン、リノは雷撃後、接近して砲撃。モナークはその後方支援だ。俺は前衛に混ざってアキレスで出る

 

―以上、質問あるか

 

 ”ありません!”

 

 皆の答えを受け、合図を出す。

 

―よし、作戦開始!

 

 ”了解!”

 

 気合が入ると同時に更なる緊張が翔一の胸を包むが、振り払うようにブリッジを出ると左腕を構える。現れたWARSブレスの舵を回し叫ぶ。

 

―エンゲージ!

 

 ”WARS ACHILLES ENGAGED”

 

 WARS ACHILLESとなり海面に足をつけると、駆逐艦のKAN-SENをも引き付けない航行速度で前衛のKAN-SEN達に近づいていく。やがてローンとリノの間に身を置くと、程なくして赤城の声が聞こえてきた。

 

―指揮官様、敵駆逐艦5隻、軽巡洋艦3隻補足しました。攻撃を開始しますっ…

 

―ああ、頼む…!

 

 答えると、前衛艦隊にも注意を促す。

 

―ローン、リノ、ベル、肉眼での補足はまだできないが、敵の砲撃に気を付けてくれ

 

―はい、どんな敵でも捻り潰して見せます

 

―リノ頑張るよっ

 

―メイドの役に恥じぬ働き、しっかりさせていただきます

 

 三者三様の言葉が身を撫でる。遠くを飛ぶ戦闘機を一瞥すると、WARSは彼女達にまた新たに指令を告げた。

 

―敵を視認次第、単縦陣で丁字戦法を取る。足の速い順に陣形を組むんだ

 

 するとリノが言う。

 

―じゃあ、最初に指揮官、その次にベルファスト、リノ、そんで、ローンってことだね

 

―そうだ

 

 彼女の言葉に頷くと、ローンは若干不満げな表情を見せた。

 

―あら、この前のように自由にさせてくれないのですね…

 

―今回は敵の詳細な数などはまだ分からない。レーダーに掛かっているものだけとも限らないからな。少し我慢していてくれ

 

―ふふっ…そうですか。ではその時を楽しみにしていますっ

 

 柔らかい微笑みに妖しさを帯びさせる彼女がWARSを見つめる。

 

―ははっ、俺もお前の活躍を楽しみにしてるよ…

 

 気合を入れて来て早々気圧される彼であったが、すぐに切り替える。敵艦隊が視認できたのだ。赤城達の戦闘機がその目前に迫っている。

 

―航空攻撃が始まるようだな、こちらもすぐに攻撃に移れるようにするぞ

 

 ”はいっ”

 

 敵艦隊に対して横隊していた皆は、WARSの合図で陣形の変形を開始する。WARSが素早く先頭を切ると距離を置いて3人が続いた。

 遠方から僅かに響く爆撃の音を捕まえながらしばらく航行した。爆撃機の攻撃も薄くなり、こちらの射程範囲に敵を収めようかという時だった。加賀の声が聞こえてくる。

 

―指揮官、前方に新たに敵艦を発見した。空母も確認できる。戦闘機はこちらで最大限対処するが、討ち漏らしに警戒してくれ

 

 彼女の通信と同時に敵艦の詳細情報が送られてきた。駆逐艦が10隻、重巡洋艦が5隻、戦艦が3隻、空母が3隻だった。

 

―分かった。十分警戒する

 

 そう答えると、WARSは後ろに続くKAN-SEN達に話す。

 

―ベル、リノ、ローン、加賀の通信は聞こえていたな。航空攻撃にも注意をしておくんだ

 

 ”了解!”

 

 そうこうしている内にいよいよ接敵した。さっと状況確認すれば、始めに赤城に報告を受けた駆逐艦は3隻に、巡洋艦は1隻に減っていた。当然後続してくるセイレーン艦も視認できるがそれでも、見た通りの数なら殲滅にさほどの時はかからないだろう。

 

―よし、雷撃準備!

 

 まずは面制圧で敵の機動を妨害する。WARSに続き前衛艦隊が右舷側に方向転換した。蹴立てた波が一直線の弧を描く。敵に対して横隊し完全に丁字有利の状況となるが、相手に引き返す様子はない。KAN-SEN達が構える魚雷の鼻先も敵に向いている。

 このまま攻撃しても問題ないか。ならば…

 脳裏にそう響かせて指示を出す。

 

―…攻撃開始!

 

 ”了解!”

 

 WARSは前方に跳び背骨を軸に回転、背を海面に向けて魚雷を放つ。KAN-SEN達からも次々と魚雷が放たれ、敵艦を襲った。迷いなく敵に向かっていくそれは敵の暗闇色の船体に突き刺さり破裂する。そして敵陣から放たれる砲弾を器用にかわし、お返しと言わんばかりに砲撃の雨を降らせた。爆発が爆発を呼ぶ戦場で、アズールレーン艦隊は調子よく戦線を上げていく。

 

―このまま一気に行こう!

 

 リノが言うとローンが続いた。

 

―私が出ずっぱりになる必要もありませんでしたねぇ…あっけない…ふふっ

 

―そうは言え皆様、油断は禁物ですよ

 

 WARSは同意する。

 

―その通りだ、あまり敵に近付き過ぎないようにしなければな

 

 しかしそう言った時だった。

 

―…!?

 

 頭上に爆弾が投下されていた。明らかに戦闘機による爆撃だったが、レーダーには一切反応はなかった。何もない場所から現れたように降り注ぐ爆弾をかわすべく行動に移す。

 

 ”OVER CLOCK”

 

  WARS ACHILLESの特殊能力を発動し、3秒ほど音速で爆弾の雨から遠ざかる。周りはどうかと見渡せば、幸いなことに味方に攻撃はされていないようだった。KAN-SEN達は、ただこちらに驚いた表情を見せている。

 十分な距離を移動しオーバークロックを解除すると、元々居た場所に凄まじい音と共に水の柱が立つのが見えた。

 突然の異常にエンタープライズが叫ぶ。

 

―指揮官っ…何があったんだ…!

 

―何もないところから爆撃された…!

 

 そういう風にしか表現できなかったのでそのまま言葉にした。

 

―え…?

 

 当然の反応が返ってくるが、直後に合点がいったようだ。彼女は新たに戦闘機を発艦しながら言う。

 

―…確かに、今の爆心地周囲に敵の反応はなかったな…どうやってあんな攻撃を…

 

 彼女の疑問を反芻させながら海を蹴る。未だ戦場に残る敵艦を射線に抑えるKAN-SEN達を目前に、WARSも両腕のアームバルカンを繰り出す。超近距離の連続テレポーテーションによる高速移動にエネルギーを使う故、破壊力に若干欠いた光の弾はしかし、確実に敵の装甲を削いでいった。

 

―皆様、またあのような攻撃があってもおかしくありません。気を付けましょう

 

 ベルファストは冷静に言うが、レーダーが感知せず視認すらできない敵機による攻撃にリノは戸惑う様子だった。

 

―で、でも、あんなのよけられないよっ

 

―あのような攻撃を受ければ、いくら重巡の私でもひとたまりもありません…どうすれば

 

 ローンまでも危機感を表にする中、WARSはようやく戦線に復帰する。彼は隣にローンを据えて言う。

 

―前衛艦隊はエレメントを組め。俺はローンと、ベルはリノとだ

 

 その言葉にベルファストは答える。

 

―エレメント…空軍でいう、編隊の最小単位のことですね。了解いたしました

 

―やはり先ほどのような攻撃がいつ来るか分からないからな。目が多くあった方がそれなりの速さで対応もできるだろう。しかし、特にローンはどうしても咄嗟の反応が遅くなってしまう分、俺がそれを補うことにした

 

 リノは合点がいったようで”なるほど”とつぶやく。それから間もなくローンが言う。

 

―指揮官は私を守ってくれる白馬の王子様ですね。色的にもバッチリですっ

 

―まあな

 

 ローンは、この手の話にしては珍しく素直な彼の返答に”あら”と頬に両手を当てるのだった。その時、

 

―あ…!

 

 早速と言うべきか、ローンの目の前に魚雷が迫っていた。空から落ちてきていたため戦闘機による攻撃だ。WARSはもう一度能力を発動する。

 

 ”OVER CLOCK”

 

 WARSのシステムボイスが鳴り終わる前に動き出し、ローンの盾になるように彼女の前に立つ。もはや動いているようにすら見えない水中の魚雷に向かってアームバルカンを掃射し、オーバークロックを解いた。

 

―指揮官っ…

 

 ローンの声が聞こえた直後、バルカンの命中の答え合わせをするかのように魚雷が爆発する。どうやら全問正解のようだ。同時にその場で周囲を確認。追加の攻撃が無いか見つつ、奥に未だ立ち並ぶ敵艦に向けてバルカンを放ちながらつぶやく。

 

―他に攻撃は…無いようだな…

 

―…早速守られてしまいましたね

 

 ローンがそう言う。

 

―元からそのつもりだったからな。傷ついていないようで良かったよ

 

 WARSは答えると今度はベルファストの声が響いた。彼女は周囲を見渡しながら言う。

 

―それにしてもご主人様…

 

―ああ、やっぱりレーダーに感知は無かった、目にも見えない…!

 

―それならば…

 

 彼女の短い言葉に続いてリノが声を上げた。

 

―アイテールいこう!

 

―おう!

 

 気合を入れるとWARSブレスを構え、舵を回す。

 

 ”AETHER DEFORMATION”

 

 ブレスのディスプレイに空母のマークが映し出され、体が変形していく。

 

―どう指揮官?

 

 WARS AETHERの超探知能力で見えない攻撃の正体を突き止める。見覚えがある姿が空中に映し出された。

 

―居るな…以前戦ったハイダーだ。情報を送る

 

 KAN-SEN達に情報を共有する。ハイダーはその姿を補足してしまえば特に問題なく撃破できる。あのセイレーンの一番の脅威は見えない事なのだ。しかし今回はそれだけというわけではなかった。

 

―かなりの数ね…

 

 赤城の言う通り、多いのだ。敵の数が。空に向かって一瞥くれてやるだけでも前衛艦隊の周囲に30は浮いていた。まるで彼らを集中的に囲うように。加えてその内4体は他の個体にはない赤い光を携えていた。何か特別な個体なのだろうか。

 現段階では何の判断もつかないが、とにかく新たな指示を出す。

 

―前衛艦隊はハイダー殲滅を優先!主力艦隊は今まで通り前方の敵艦の対応!

 

 KAN-SEN達は即座に行動を開始する。WARSも背からなびくグレイフライヤーを放ち、ハイダーに送る。

 そんな中、早速1体撃ち落としたローンがつぶやく。

 

―ふふっ…ゴキブリは飛んでもゴキブリのままですよ…

 

 しかし砲弾の一発で撃破されるほどハイダーも貧弱ではない。とはいえ、立て直す隙を与える程の慈悲を持ち合わせていないローンは、再び浮遊しようとする”ゴキブリ(ハイダー)”に砲身を向けた。

 

―手を煩わせないでくださいねぇ

 

 にこりと微笑みを見せながら、ダンダンダンと砲弾を放つ。朗らかな表情から撃ち出される、冷たい顔色の熱い弾は、やはりハイダーに慈悲を向けることはない。主人に示された弾道を素直に進み、ただ真っ直ぐに着弾点を目指した。ゴール(ハイダー)に辿り着いた弾は、時に爆発し、時に貫き、その体を崩壊させた。力なく重力に身を任せたハイダーを見送ると言う。

 

―さて…次の虫を駆除しましょう…

 

 ローンの瞳に再び空が映った。

 そんな彼女の数十メートル遠く。そこには激しく、そして美しく白髪を乱す2人がいた。

 

―ベルファスト!お願い!

 

―はい!

 

 大量のハイダーに囲まれても物ともせず、どころか舞うように砲を放ったベルファストはリノの合図で煙幕を散布する。

 

―こちらは消えることは出来ませんが、目くらましなら!

 

 KAN-SENが用いる煙幕はただ敵の索敵性を奪うだけではない。この煙幕を通すのはKAN-SEN達が通信に使用するエネルギーのみである。セイレーンが用いる通信網は煙幕の中では機能することなくスタンドアローン状態となり、連携を取る事はもちろん、KAN-SEN達の位置情報を掴むこともできない。敵が行えるのは運よく攻撃が当たることを祈る事か煙幕から出る事のみだ。しかし白い霧から出ようと背を見せようものならKAN-SEN達の砲撃に襲われる。どうすることもできず、しかしただの機械兵器が運に賭けることもできず、ハイダーは悪い視界の中攻撃対象(KAN-SEN)を探し回るのみであった。

 そして、

 

―居場所はバレバレだよ!

 

 リノは煙幕で不可視となった、しかしレーダーで丸裸になったハイダーに砲口を向けて2発、3発と弾を放つ。

 

―見つけられるでしょうか、私たちを…!

 

 続いたベルファストはリノと同じ方向に砲弾を放った。数度の爆発音と共にレーダーから一体の敵情報が消えるのを感じる。

 エレメントによる攻撃は想像以上に上手くいったようで、リノは両拳を上げた。

 

―やった!

 

―二隻一組での戦闘はあまりしたことがありませんでしたが、このまま殲滅できそうですね

 

―うん!このまま一気に行こう!

 

―ええ!

 

 2人は迷子のようにふらつくハイダーを次々と破壊していった。

 一方、WARSとローンも順調に”浮遊するゴキブリ”を相手取っていた。

 

―指揮官!

 

―おう!!

 

 WARSはローンの背後に構えられたハイダーの砲口を塞ぐようにグレイフライヤーを飛ばすと、その穴めがけて小さなビームが放たれた。砲身の中で熱がぶつかり合い爆発が起こると、爆煙の中からひしゃげた砲が顔を出す。

 

―さすがですっ

 

―この為のエレメントだからな

 

 こちらでも作戦は上手くいっているようだ。そんな時、

 

―…?

 

 ベルファスト達の方から、今まで二分していたハイダー達がやってきているのが見えた。煙幕で攻撃出来ないことにしびれを切らしたか、二人への攻撃を諦めこちらに10を超える敵が迫っている。

 

―あちらの煙幕の効果があり過ぎたらしい

 

―はい、そのようですね

 

 最初から前衛艦全艦とハイダーを煙幕で閉じ込めてその中で戦闘を行った方がよかったか…いや、それならハイダーだけを煙幕で蓋をして…しかしこれも現実的ではないか…どちらにせよ攻撃を諦めて潔く主力艦達の方へ行ってしまうだろう。

 長々と考えながら未だ周囲に残る敵を狙う。1発撃つたびに煙幕から離れたハイダーがこちらに近付いてくるのが分かる。たまに目を向けてみれば、背から火を噴いて煙幕から飛び出すものもいた。当然すぐに、ばしゃりと音をたてて海の藻屑となるが。

 

―完全に囲まれる前に出来るだけ減らすぞ!

 

 WARSはローンを一瞥しながら言う。

 

―しつこい虫共…!

 

 しかし撃っても撃っても中々減らない敵に、彼女は苛立ちを覚えているようだった。一体の戦闘能力は小さくても、数が多いのだ。おまけに機動力もある。弾が外れることもあった。それでも何とか的あてを続け、周囲に火の花畑を作る。

 やはり数が多いというだけでたいしたことのない脅威であったが、敵はハイダーだけではない。

 

―…!

 

 WARSは背後に迫った砲弾を避けた。

 

―掴まれた。もうそんな距離か

 

 少し前に加賀から報告を受けた艦隊が前衛艦隊を射程に収めたのだ。ベルファストとリノには煙幕があるため、当然WARSとローンに攻撃が集中する。ただでさえ面倒な戦況に、当たればダメージの大きい攻撃がトラップのように二人を襲った。

 

―ローン!敵の本隊が近い!奥の方にも注意するんだ!

 

―チッ…!

 

 苛立ちを抑えられないのか、彼女は無心に空を睨んでいた。

 

―おい!聞いてるのかローン!!

 

 言った直後、ローンに敵艦からの主砲が迫っているのが分かった。

 

―…あ!

 

 彼女は振り向きもしない。かといって自らが盾になるには時間がなかった。

 

―ローン!

 

 それならと、最終手段に出る。意識を集中させると、ローンが一瞬硬直した。

 

―…

 

 すると彼女の体勢はそのままに、その艤装の全砲門が、彼女に迫っていた砲弾に向けられた。そして全弾発射される。

 強制制御。指揮官である翔一だけが可能な、KAN-SEN制御の手段だ。

 放たれた砲弾は、ローンに迫っていた砲弾に激突。直後、爆発が起こった。

 

―…はっ

 

 強制制御が解除された彼女は驚いたように目を見開く。

 

―落ち着け、ローン

 

 再び迫るハイダーを迎撃しながら言った。

 

―…はい…ごめんなさい、指揮官

 

 ローンは目を逸らした。取り乱した末に強制制御で助けられたことに気付いたのだ。

 

―とにかく、ハイダーだけでなく向こうの砲撃にも備えろ。いいな

 

―はい

 

 一応の落ち着きを見せた彼女の裏で、もう一人冷静さを欠いた者がいた。

 

―指揮官様っ…今から赤城がお傍に…!

 

 赤城は、激化した敵の攻撃に襲われるWARSに叫んだ。彼女は指揮艦から離れ、走り出した。勝手な行動に加賀が声を荒げる。

 

―赤城…!

 

 WARSが続けた。

 

―大丈夫だ赤城!ここは前衛艦隊だけでなんとかする!お前は本隊を!

 

 そう言って赤城のいる後方に向いた時、WARSの背が爆発した。敵本隊戦艦の榴弾だった。

 

―ぐお!

 

―あっ…指揮官!

 

 ローンが口を開けた。

 WARSは一瞬、敵の攻撃対応への集中が途切れたのだ。彼の崩れた体勢に群がるようにハイダーのビームがWARSを襲う。

 

―くぅ…ぁあ…があ!

 

―ぁあ!し、指揮官様ぁ!

 

 苦しむWARSの声を聞き、赤城は悲鳴にも近い声を上げた。

 

―戻るんだっ…赤城…!

 

 そう言いながら、WARSは自らを狙っていたハイダーをグレイフライヤーで攻撃するが、いまいち押しきれなかった。セイレーンにおいては最大の脅威であるWARSを真っ先に排除したいのか、攻撃が彼に集中する。そのときWARSの目に、黒い後ろ姿が映った。全身に受けていた痛みが消える。

 

―…!

 

 ローンがシールドを出して、WARSの盾となっていた。

 

―ローンっ…

 

 鋭い衝撃から解放され、膝をついたWARSは彼女の背を見上げる。しかし、そんな姿を敵が見逃すはずもない。前方遠くの戦艦から放たれる砲弾がWARSを襲った。苦しみに吐く息の音すらなく吹き飛ぶ。

 

―指揮官…!

 

 ハイダーからのビーム攻撃に耐えながら叫んだ。

 

―ぐぅ!……墜ちろぉ!!

 

 感情のない兵器も怯えるような、鬼の形相を見せたローンは全弾発射する。

 

―はぁ…はぁ…

 

 今の攻撃でとりあえず目の前のハイダーは全滅した。残りは僅か4体。

 

―…はぁ……はぁ…

 

 全力を掛けた攻撃は功を奏した。そう思いたかったが、

 

―次は…何だ……

 

 体重く立ち上がったWARSはそうつぶやく。2人の周囲では、4つのハイダーが円を描くように飛びまわっていた。体に赤い光がついている。現れて以降、器用にWARS達の攻撃を避け続けていた個体だが、やはり特別な役割を持っていたらしい。

 

―何を…しているんでしょう…

 

 先程まで激しい攻撃を繰り出してきたハイダーだったが途端に不思議な行動と共に静かになる。

 加賀が通信を送ってくる。

 

―指揮官、何が起こっているんだ

 

―レーダーの通りだ。攻撃すらしてこない…

 

 WARSがそう返したとき、無理やり持ち場を離れていた赤城が彼の近くに迫った。

 

―指揮官様ぁ!…赤城が…指揮官様はこの赤城がお守りしま……っ!

 

 そう言う彼女の願いは彼に辿り着く前に砕かれた。赤城は足を止める。

 

―!…何だ!?

 

 突然渦潮が発生したのだ。海の変貌に足元をのぞき込むと、みるみる内に渦は大きくなっていくのが分かる。そろそろ足をすくわれそうだ。近くにいるローンがこちらに目配せした。

 

―指揮官…

 

 これ以上ここに居続ければ動くことも出来なくなりそうな程に渦潮は大きくなり、そして波は激しくなった。時間を掛ければ渦潮の外に出られなくもなかったが、その間に何が起こるか分からない。そこで思いつく。WARSはすぐ隣にいるローンに手を伸ばした。

 

―ローン、こっちに

 

 ローンは”はい…”と、不思議そうにWARSの手を掴む。彼はそのままローンの身を自分に寄せ、抱き上げる。俗に言う”お姫様抱っこ”の状態だ。

 

―え…?

 

 当然の反応。戦場で何をしているのかと一瞬理解できなかったが、次の彼の言葉で腑に落ちる。

 

―飛ぶぞ、捕まってろ

 

 なるほど。荒れた波で足が使えないならば、飛んで一旦離脱しようというわけだ。

 

―はい

 

 ローンは素直にWARSの行動を受け入れると、彼に出来るだけ密着する。WARSが膝を軽く曲げ飛び上がろうとした時、波に、文字通り足を掴まれた。

 

―…!

 

 下を覗き込もうにもそれは出来ず、抵抗する暇もなくローンと共に海中に引きずり込まれた。そんな光景を前にベルファストとリノは叫ぶ。

 

―ご主人様!

 

―指揮官!

 

 主力のKAN-SEN達も唖然とするしかなかった。そして、

 

―指揮官様ぁあああああ!!

 

 赤城の悲鳴はWARSに届くことなく渦に消えた。




WARSの設定についてはここ(ピクシブ)を見てにゃ
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ

この物語とは別時空の母港で繰り広げられるオムニバス小説があるから、そっちもぜひ読んでにゃ!

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