翔一が着任し、しばらくの間はセイレーンは現れなかった。着任する前は、たびたびそれが出現していたという事をKANSENたちから聞いている。
そんなある日、翔一が眠りから覚める前。ベルファストは翔一の生活部屋へと足を運ぶ。いつもならこの時間は翔一は起きており、その日の仕事の準備をしている。翔一の許可を得ずに、彼のプライベートな空間に入るのはどうなのだろうかと感じたが、彼の生活リズムを崩さないようにするのもメイドの務めだろうと思った。扉をノックし、静かに部屋に入る。
―失礼します、ご主人様
部屋のカーテンは開けられていない。案の定、翔一もぐっすりと寝ている。ベルファストはカーテンを開けると、朝日に照らされる。 今日も天気がいい。まだ寝ている彼の寝顔を見てみると、普段はキリッとしている顔も柔らかな表情をしていた。いつも見ない一面にふと、かわいいなんて思ってしまう。
とはいえ、ずっと見ているわけにもいかないので、早速起こそうと試みた。
―ご主人様…もう朝ですよ、ご主人様
軽く肩を揺すると、翔一は目を開ける。
―ん……!?
いつも目を覚ました時と違う光景に驚いた。
―ベルファストか、どうしたんだ…って、こんな時間!
―今日はお寝坊さんですね?どうされたんですか?
―いや、ただの寝坊だよ…たぶん…
翔一はベルファストの問いに微妙な答えをした。
―もうすぐエンタープライズ様も来ると思います。お早めに準備をお願いしますね
―うん、すぐ支度するよ
ベルファストが執務室の方に行くと、翔一は着替えながら思い出した。
夢を見ていた、細かく思い出せないが、優しく包まれているようなとても懐かしい夢だった。
着替え終わると、執務室の扉を開ける。ベルファスト以外にもエンタープライズと、今日の副秘書艦がいた。
―今日は明石か
―よろしくにゃ!
彼女には普段は母港の設備を管理してもらっている。おかげで快適な暮らしが出来ていた。
エンタープライズが話しかける。
―それにしても指揮官、寝坊したんだって?
―ま、まあな
これに翔一は歯切れを悪く返した。
―最近セイレーンは現れないが、気を緩ませてはいけないぞ
―ああ、気を付けるよ
そんな言葉を交わし、まずは朝食を取りに行くことにする。
―指揮官、ごはん食べに行くにゃ。おなかすいたにゃ
―そうだな、それじゃ行こうか
―――――――――
食堂で朝食をとった後、明石が話してくる。
―指揮官、今日は暇にゃ?あんまりすることがないなら手伝ってほしいことがあるにゃ
―今日はあまり仕事はないな、何をすればいいんだ?
「今日は」というより、着任してからもほとんど忙しい仕事があったわけではない。専ら、演習の付き添いをしたり、他の報告書などを作って提出したりするだけだった。それはそれで平和なのだが、本当にこれでよいのかと思っていたところなので、こういう風に何かを手伝えるのは、個人的にはありがたいことだった。
―オフニャと饅頭ハウスをちょこっと改装するから手伝ってほしいにゃ
―ああ、あのちっちゃい奴らの…
―そうにゃ、あの子たちの家の扉が壊れたらしいにゃ
―わかった、手伝うよ
ベルファストが言う。
―お部屋のお掃除も同時にしてしまいましょうか
―それもいいにゃ
――――――――――
オフニャと饅頭ハウスの扉は共通していて、そこから先はオフニャの住む場所と饅頭の住む場所へ廊下が分かれている。また普段はどちらの部屋も住人が掃除をしているが、部屋自体はKANSENたちも入れるような大きさなので、オフニャや饅頭では届かないところもあり、定期的にメイド隊が掃除をしに行っているらしい。
―みんな~来たにゃんよ~
明石の声に部屋からオフニャが出てくる。
―待ってたニャス
―さて、これは派手にやられてるにゃ
あるはずの扉が見事に倒れていた。蝶番が取れているようだ。
―早速治すにゃ!指揮官!
これを受けて翔一は明石のもとに向かう。
―ベルファストとエンタープライズは中の掃除をお願いするにゃ!
明石は、2人にも声をかけた。
―それでは行きましょうか、エンタープライズ様
―ああ
2人は中に入っていく。エンタープライズは、部屋の中をのぞくとつぶやいた。
―それにしてもオフニャや饅頭はたくさんいるな
広大な母港の管理をKANSENだけでしていくことはなかなか難しいため、このサポートをするために作られたオフニャ、特に饅頭はかなりの数がいる。これだけの量が毎日行き来していれば、当然扉も壊れるだろう。
扉の修繕があらかた終わったころ、明石が翔一に聞く。
―ねえ指揮官、私たちのこと、どう思うにゃ?
ひどく曖昧な質問だった。それに翔一は聞き返す。
―どうって…?
―兵器として存在しているKANSENについてにゃ
この母港で生活しているヒトたちは、かわいらしい姿をしているが、結局は人間が開発した兵器だ。これについてどう思っているのかということだろう。
―どうなんだろうな。セイレーンに対して有効な戦力になると分かってはいるが、少女の姿をしたものたちを戦場に出すというのは、少し変な感じがするよ
―そうかにゃ…
明石の言葉に続きはなかった。
―――――――――――――
黙って作業を続けていると、サイレンが鳴り響いてきた。
―この音は…セイレーンか
ベルファストとエンタープライズが駆けてくる。
―ご主人様!
―出撃だ!
翔一は強く頷いた。
―――――――――――――
翔一は、指揮官専用の船「指揮艦」に乗ってセイレーンの現れた地点に向かっている。この船は、一般的な軍艦のように大きい船体ではなく、基本的に指揮官と数人のKANSENが乗り込めるようになっているため、かなり小さい。そんな中で今回線上に向かっているKANSENは、明石、綾波、ジャベリン、Z23、ラフィー、ベルファスト、愛宕、エンタープライズだ。明石は基本的に指揮艦で待機し、万が一誰かが大ダメージを負った場合の救急要員として待機してもらっている。
しばらく航行していると、いよいよセイレーン艦隊の反応が大きくなる。これを受けて、みんなに海上に出てもらう。陣形は、エンタープライズを基準に、その前方に綾波、ジャベリン、Z23、ラフィー。そして左右にベルファスト、愛宕がついている。指揮艦はその後方にいる。今はエンタープライズに艦載機を飛ばしてもらい、セイレーンの細かい位置を確かめてもらっている。
―…見えたぞ!
どうやらセイレーンを発見したようだ。
―よし、行こう
翔一の声とともに、みんなが前方に進みだす。
ジャベリンが言う。
―うう、久しぶりだからちょっと不安だな
これに駆逐艦3人が返す。
―大丈夫です。綾波たちがいます
―いつもの演習のようにすれば大丈夫よ
―眠いからはやく終わらせる…
ジャベリンは3人の言葉に元気づけられた。
―うん、頑張るよ!
一方、愛宕が指揮官に話しかける。
―指揮官~お姉さんが活躍するところ、しっかり見ててね~
翔一が返す。
―期待してるよ
ベルファストが反応する。
―これは、メイドとして負けていられませんね
―あら、メイドさんの力、どんなものなのかしら
―優雅に敵を倒す姿をお見せしましょう
そうこうしているうちに、セイレーンの艦隊が肉眼で見えてきた。
―みんな、行くぞ!作戦開始!
翔一が合図を出すと戦闘が始まる。まず駆逐艦の4人が前方に走り、一斉に雷撃を行う事で敵の前衛戦力を大きく削いでいく。そこへ、ベルファストと愛宕の砲撃で取り逃がした敵を確実に仕留めていった。
―お?結構やるじゃん!
そう言ったのは、シュモクザメの形の艤装をしたセイレーン、ピュリファイアーだ。
―来たか!
―ははは!今日はどんな活躍をしてくれるのかなあ!エンタープライズ!
ピュリファイアーの攻撃をかわしつつ、エンタープライズは矢を放ちながら言う。
―相変わらず激しい奴のようだな
そういいつつも、ピュリファイアーの後ろで砲撃を続ける敵の船に、艦載機が攻撃を続けている。
―後ろがあいていますよ
ベルファストがそういうと彼女の砲撃がピュリファイアーに直撃する。ピュリファイアーはドンという音と共に吹っ飛んでいく。
―わぁあああぁぁあああ!
飛ばされながらも笑っている。
―あは!いいじゃんいいじゃん!もっと戦ってよ!
ピュリファイアーは新しく船を出現させていく。
―…増えた、めんどくさい
―一斉射撃で片付けちゃおう!
―鬼神の力、味わうがいい!
―行くわよ!
駆逐艦たちの雷撃と砲撃で敵艦船がダメージを負っていく。
―ふふ、こっちも忘れてもらっちゃ困るわ!
―メインディッシュはこれからです!
巡洋艦の砲撃も敵に致命傷を与える。
―終わりだ!
とどめはエンタープライズの爆撃だ。一気に船を沈めていく。これを見てピュリファイアーが言う。
―おお!結構強くなってるね!これも「アイツ」のおかげかなあ!!
エンタープライズがつぶやく。
―アイツ?…なんのことだ
ピュリファイアーが答える。
―さあ!なんでしょうねぇ!
そして満足したように告げる。
―今日はこんなもんかなぁ?…ん?
突然、快晴だった空に黒雲が出現した。
―あ、来ちゃった
ピュリファイアーが言うと、黒雲から黒い雷が落ちる。そして雲が晴れていくと、その中から黒い影が表れた。
―あれは、何でしょうか…
―見たことないな…
ベルファストとエンタープライズが言うと、その影は太陽を背にマントをたなびかせながら降りてきた。
直後、攻撃を仕掛けてくる。レーザーやKANSENでも撃てないような速さの弾が飛んでくる。前衛にいた駆逐艦たちが、真っ先に攻撃を受ける。
―きゃあああ
―くっ…何ですかこの攻撃
―ほんとにセイレーンなの!?
―…!…いたい
明石が叫ぶ。
―にゃにゃにゃ!大変にゃ!綾波、ジャベリン、ニーミ、ラフィー!すぐ戻ってくるにゃ!
この攻撃を見たピュリファイアーは慌てた反応をした。
―ちょちょ、今倒しちゃやばいでしょ!
この言葉に影は低く冷たい声で答える。
―安心しろ…倒しはしない…
愛宕、ベルファスト、エンタープライズは相手の攻撃が止むと、とっさに反撃を開始する。しかし
―あれ、撃てないわ
―魚雷も発射できません…
―艦載機も出せないぞ…どうなってるんだ
なぜか攻撃が出来なくなっていた。これに翔一は、指揮艦に搭載されている主砲を発射しようとする。
―いけるか!
主砲の轟音とともに、飛んでいく弾を見ると少し安心する。それが影に直撃し、灰色の煙が上がる。
―やったか…
翔一はそうつぶやくが、煙が晴れてもそれをものともしないように、影は浮遊していた。この光景にジャベリンと綾波は静かにつぶやいた。
―なんなの…あれ…
―強いっ…
やがて影は、ベルファストの方を見つめる。
―………まだだな
そう言うと、振り返りピュリファイア―に告げる。
―ピュリファイアー、撤収するぞ…
―え、あ、うん
彼女も素直にその言葉を受け入れた。2人の周囲に再び黒い雲と雷が現れて、そして消えていく。ほどなくして、前線に出ていたKANSENたちが指揮艦に戻ってきた。
―――――――――――――
母港に帰還しながら一行は話していた。
―結局あれは何だったんでしょうか
ベルファストが言う。
―あんな奴は初めて見た、あの黒い鎧…凄まじく強い力を持っていたようだが…
エンタープライズが続く。Z23とラフィーは
―攻撃もできなくなってしまったし…
―ラフィー、あんな攻撃を受けたのは初めて…つかれた
これに翔一が続ける。
―それにしてもなぜ指揮艦の砲撃は出来たんだ…?それにあいつが去る前、ベルファストの方を見ていたような…
ベルファストは、そのことを思い出していた。確かにあの時見られていたと思う、でもなぜ…と。
―まあ、そのことは置いておくとして、1体であんなことが出来る戦力がセイレーンにあるとは…どうしたものか
翔一の言葉にエンタープライズが言う。
―ああ、今回はあちらが撤退してくれたから良かったが、あのまま責められていたら確実に全滅していた
そして明石は皆を心配し話しかける。
―ジャベリンと綾波以外はけがはないかにゃ?少しでも異常があれば言ってほしいにゃ…
ジャベリンと綾波はあの鎧の攻撃でひどく損傷ができた、指揮艦に戻ってくると同時に明石が応急処置をし、今は簡易医務室で横になっている。翔一はこれを見て、指揮官として、そして1人の男として情けない気持ちになっていた。少女たちを戦場に出し、あまつさえ自分の指揮不足でひどい怪我をさせてしまった。そして、それを自分は見ていることしかできない。KANSENたちも見たことがない鎧が表れた、という特異な状況でありながらも、自分を責める気持でいた。
ベルファストが翔一の顔を見て心配の表情をする。
―ご主人様、自分を責めることはございません。今回は状況が特殊でした。全員で帰還できるだけでも幸せなのです
エンタープライズも続ける。
―そうだ、まだ次があるさ。その時までに、また強くなっていれば良いんだ
翔一は2人の言葉に、「ああ…」と、頷くことしか出来なかった。
にゃ!ついに明石が登場にゃ!この小説では重要な立ち位置になるから注目していてほしいにゃ!
今回の設定にゃ!この世界の指揮官も、原作の通りにKANSENたちと前線に立って指揮しているにゃ。また指揮艦は基本的に指揮官や明石、中で待機するKANSENしか乗らないので、本物の軍艦とは違ってそんなに大きい船体では無いにゃ。じゃあ、どうやって速く航行するかって…?にゃふふ…それはメンタルキューブの力にゃ!それに、普通に砲撃が出来る他にもいろいろな機能が隠されているのにゃ!その能力は後からのお楽しみにゃ。
それじゃ、次回も読んでにゃ!
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ
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