私は生まれたその瞬間から、劣等感の塊だった。
何をしても、自分が何かを成し遂げられると思えなかった。しかし今思えば、生まれた瞬間に見えた青い光は私のココロの奥深くにあった、この世界への期待や希望だったのかもしれない。
さて、
私は
しかし私はこの世界に生まれた。やっとこの世界に生まれてきた。だからこそ、ただ、何か役に立ちたかった。
しかしどうだ。張り切って戦場に出てみれば、いつも一番役に立つのは”彼”ではないか。一番傷付き、そして一番この母港に貢献するのは”彼”ではないか。
私の使命は、人類の為に戦う事なのに。私が一番、彼に貢献しなければならないのに。
それなのに彼は一番前で戦う。一番生きなければならないのに私達を守りながら戦う。
その内私は、彼にも劣等感を抱いた。妬みまではしなかった。しかしいつも活躍する彼を見て、私には価値がないのかと、これまで以上に思い詰めた。
いつのことだったか意を決して、いや、命令を無視して敵艦隊に突っ込んだ事があった。あの時私は敵の大群の中心で、狂気の混じった劣等感と、暴走した彼への献身を力に変えて戦った。
あの時叫んだ言葉が蘇る。
”このモナーク、ウェールズやヨークよりも優秀である!”
”指揮官もそう思うだろう!?”
初めは戦えていたがしかし、じきに精神の限界が私を襲った。
ここで果てるのか。そう思った時にはやはり、彼が私を迎えた。
”モナーク…お前の目は、金ではなかったよな…”
そこから先は覚えていない。
自室で目覚めた時、2人が来た。私の妹になるかも知れなかったウェールズと、デューク・オブ・ヨーク。彼女達は短く私に話した。
悩みがあるなら言え?
最優でなければならない私に、そんな気遣いは苦痛でしかなかった。二人から向けられた目は、その時の私には憐れみにしか見えなかった。しかし今思えば、あれは純粋に私を心配する目だったのだろう。
しかし、そんな目に耐えられず逃げ出して、いつの間にか広場のベンチで俯いていた。目の前には碇のオブジェが立つ噴水があった。
もうこのまま動けなくなるのではないかと、地面に根を生やすような感覚が全身を伝った。そんな時に来たのが彼だった。”やっと見つけた”と独り言のようにつぶやいて、いつからか落としてしまっていた私の軍帽を彼は私にかぶせた。その時の私にとって彼は、一番会いたくて、一番会いたくない人だった。
それから私は、聞かれてもいないのにボロボロとココロの内を彼に漏らした。誰よりも強くなければならないこと、少しの失敗でも落ち込んだこと。そして、少なくとも母港においては最強である彼に、なんとも言えない気持ちを抱いていたこと。
そんな気持ちをひとしきり零すと、今度は知らず内に、頬が濡れていた。喉が震えていた。彼の胸で、泣きじゃくっていた。
しばらくして泣き止むと、ゆっくり、彼と共に私の自室に向かった。歩を進める中、私は今まで強がっていたのだろうと、そんな思いが脳裏に浮かんだ。そうして自室に帰り、ベッドで横になると彼は私に優しく布団をかけた。その時に感じたのは、彼への暖かな気持ちだった。頬が熱くなって自分が恥じらいを感じたのを自覚すると、思わず目から下は布団で隠した。そして、彼にもう少しここにいて欲しいと、私が寝りに落ちるまででいいからとねだる。いつもより若干高めの声がでていた。あの時は、普段の私の声音からしたら相当努力したものだろう。それに、誰かに甘えるようなことをしたことも初めてだったし。
そんな私のわがままに、結局彼は優しく応えてくれた。あの夜より良く眠れたのは、あの日まで一度たりともなかった。今でも覚えている。
しかし数日たった時のことだった。彼の様子は少し変化していた。
以前、私達を相手に無双と言っていいほどの力を振るったセイレーン”ストレンジャー”に、2度目に遭遇したときのことだ。戦闘不能に追い込まれた
何故って?
それは今まで彼が私達に見せてきた行動は、あのような暴力じみたものではなかったからだ。それほどまでに彼は豹変していたのだ。
その時、私は胸中で恐怖というよりは、特に彼への”違和感”を覚えていた。あれは本当の彼ではないと、いや、というよりは、いつも私の中にいる彼ではないと思ったのだ。
そのうち彼は意識を失い、WARSの戦闘システムに身を任すばかりだった。私を含めKAN-SEN達は、敵とはいえ
そうしてストレンジャーの機能が完全に停止すると、遂に彼の砲身が私達に向いた。そして発射された砲弾は一直線に、まずはエンタープライズの方へ飛んだ。
その時、私の体は勝手に彼女の前に向かっていた。当然、砲弾が全身に激突して爆発を起こす。しかしなんてことはなかった。
そして爆煙に包まれながら、私は今まで抱いていた”違和感”の正体を突き止めた。
なんだ、憧れていただけじゃないか。
そうだ。この気持ちは、彼に憧れていたからこその違和感だった。
私は彼と関わることで、大切な仲間を守りたいという思いが芽生えていたらしい。それは今まで言語化できていなかった感覚だった。しかしあの時、心を失った彼を見て、いつものように皆を守るために戦う心を取り戻して欲しいと強く願ったのだ。その為なら、私は彼に拳を振るう覚悟さえ出来ていた。
お前が心を失なうのなら、私が目覚めさせてやる。お前の持つ愛を、私が思い出させてやる。
胸がそんな気持ちで満たされた時、暴走する彼を見る私の目は黄金に輝いていた。
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私は何かを壊すのが好きです。何かが崩れた時、とても恍惚とするんです。快感すら覚えてしまうかもしれません。私のこの性癖とも言えるような嗜好は多分、生まれ持ったものだと思います。そしてそれは、”彼”に出会った時から更に強いものとなりました。
彼に対する忠誠心のような思いは彼を見た瞬間に彼への愛となりました。
さて、
私は
そして私は何かを、モノを微塵にすることで、敵を破壊するというKAN-SENの使命を果たすことで、彼に必要とされたかったんです。
そんな思いの裏で私は、何かを壊すことで彼への愛を感じていました。特に、彼を愛する娘を壊す想像をするだけで身が震え、自分でも恐ろしく感じるほど口端が上がります。
もしかしてこれは、嫉妬…?
まあ、それでも良いでしょう。彼の周りにヒトが居なくなれば、最後には私だけを見つめてくれるでしょう?
だからこそ私の偽物が現れたとき、
”奪われる”
そう、奪われると思ったんです。何をって?
彼からの愛をです。
彼から私に向けられるべき愛を、あの
その時、腹の底から煮え湯より熱いカンジョウが溢れ出しました。私はそのゲキジョウのままに砲を放って、ニセモノをグチャグチャにしました。
”指揮官、扉を閉じましょう”
そう言った時の私の顔は冷たい表情だったでしょう。しかし、内心では絶頂に達しようかというほどに興奮していました。胸の奥底から溢れ出る、彼への愛を全身で感じていたんです。
もう、癖になってしまっていますね。こうすることでしか彼への愛を感じることが出来なくなっていそうです。
今日もまた名も知らぬ草を、花を、踏み付けることで彼への愛を感じます。
形あるものが、無惨にその姿を醜く変えていきます。
指揮官、これならどうですか?
たくさんのモノを壊す私のことは好きですか?
私の愛は、届いていますか…?
ああ、愛されたい…
彼から…愛されたい……
WARSの設定についてはここ(ピクシブ)を見てにゃ
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ
感想もよかったらよろしくにゃ
この物語とは別時空の母港で繰り広げられるオムニバス小説があるから、そっちもぜひ読んでにゃ!
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