夜戦があった次の日
―ご主人様、起きてください
翔一が起きる時間の前だが、いつもよりはやく来たベルファストがまだ寝ている彼の肩を優しく揺するが、なかなか起きない。
―ご主人様…
ベルファストは翔一の顔を見つめた。そして、今までになったことのない不思議な感覚になる。なぜ普段より早い時間にここに来てしまったのだろうか。
―…
起きない翔一を起こそうとするのをやめると、静かに右手の人差し指を彼の唇に当てた。
―………!
そして急に恥ずかしくなり、指を離した。顔が熱くなる感じがした。それと同時に翔一が目を覚ます。
―…ん?
ベルファストは、悪戯がばれた子供のような顔をした。
―あ…お、おはようございます。ご主人様
―…おはよう…寝坊してしまったか
―いえ…私が早く来てしまっただけです…
翔一は、自分でも驚くほどの疲労があった。夜戦のせいかもしれないが、それとしても不自然なくらいにだ。そういえば、あの砲撃をした時から疲れがあったと思う。それはそれとして、せっかくいつもより少し早く目を覚ましたのだ、もう起きよう。そう思い体を起こした。ベルファストの顔を見ると、何やら妙な表情をしている。
―どうしたんだ?
―い、いえ、何でもありません…
―そうか……えっと…
いつも起きて直後に着替えているので、ベルファストがいる状態だと中々動けない。
―着替えるん…だけど…
―メ、メイドとしたことが、申し訳ありません!すぐにお手伝いを!
耐えかねて、歯切れ悪く翔一がベルファストに話すと、彼女は本来翔一が伝えたかった意味と異なった解釈をした。今日の彼女は変だ、顔も真っ赤になっている。
―と、とにかく一旦部屋から出てくれ
ベルファストの背中を押しながら、寝室から執務室に続く扉に近づくと、彼女が言う。
―あの、着替えのお手伝いは!?
―い、いや、自分で出来るから!?
ベルファストを部屋から出し、そそくさと着替えるのだった。
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朝食を終えた後の出来事。
―先ほどはお騒がせしました…ご主人様
―いや、大丈夫だ。気にしてないよ
―え…
―ん?
―あ、いえ…
―なんだか今日のお前は変だな
翔一がこの母港に来て以来、KANSENたちは少なからず彼に興味を持っていた。ベルファストもその一人であり、赤城ほど過剰ではないものの、ひっそりと翔一に思いを寄せていた。しかも、いつもメイドとして近くにいるから尚更だ。
そんな相手にあっさりと”気にしていない”と言われた。少し、悲しくなった。
―ちょっと、歩くか…
翔一は、ベルファストを連れて海を見渡せる花畑に来た。海岸側には一本だけ木がある。翔一がベルファストをこんなところに連れてきた理由は、純粋な善意からだった。朝から様子がおかしい彼女を見て、心配になったのだ。この景色で、少しでも気持ちが和らいでくれればいいと思っていた。
―…
実は翔一も、ベルファストに思いを寄せていた。いつも身の回りで一生懸命手伝いをしてくれているので、結果的にベルファストとは過ごす時間が長かったから、という理由もあるだろう。それがメイドの仕事だと言われれば何も返せないが。しかし、いつからか彼女の優しい微笑みに惹かれていったのだ。
―…
残念ながら、お互いにその気持ちは知らない。会話もしない。しかし、ベルファストの心を和ませるのに、互いに身を寄せ合う以外に必要なことはなかった。二人で木を背もたれにし、海を眺めるだけでよかった。
―…
いつまで座っていただろうか。ベルファストが翔一の顔を覗くと、彼は眠っていた。ベルファストは起こさないように、そっとその頭を自分の腿の上に置いた。彼が起きたらどんな表情をするのだろうと想像する。彼の頭をなでながら顔を見つめていると、自然に口元が緩んだ。
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目を開けた。翔一はその瞬間、寝てしまったかと思ったと同時に見慣れない景色に驚く。ベルファストに膝枕されていた。そして、自分が彼女を元気づけるつもりだったのに、ただ幸せを感じていた。
―お目覚めですか?……うふふ、寝顔が大変可愛くてつい起こすのは惜しくて……ベルファストの膝枕はいかがでしょうか?いつまでも心ゆくまでお楽しみくださいませ
ベルファストに頭をなでられていることと、声を聞くことに心を奪われていて、しばらく口を開けなかった。
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メイドの膝枕を堪能して、ようやく体を起こした翔一は、そろそろ執務室に戻ろうとベルファストと歩き出していた。
―心配事があるなら、行ってほしいんだ
やっと本来の目的を思い出して言った言葉は、とても簡単なことではあるが、彼にとっては大きなことだった。指揮官として母港を運営していく中で、KANSENたちが不満を感じるのであればそれは良くないと翔一は常々思い、悩んでいた。今朝のベルファストがいつもと大きく違っていたことから、なにか自分に出来ることはないかと考え、先ほどまであの花畑にいた。
―心配事、ですか…?
―ああ、今朝のお前はいつもと様子が違ったからな…
ベルファストは朝のことを思い出し、ついメイドあるまじき言葉を発した。
―あれは…あなたのせいなのですよ?
この言葉を聞き、翔一は情けない気持ちになった。指揮官である自分が、しっかりしなければならないのに。
―やはり、そうなのか…
―そうです
―なにか、解決出来る方法はないか
翔一は真剣そのものだったが、それゆえに次のベルファストの言葉は意外に感じた。
―それならば、一人のメイドのわがままを、聞き入れてくださいませんか?
―わがまま…?
―わがまま、です
今から”わがまま”を言われるのかと、思わず聞き返してしまった。そして、どんなことでもベルファストのためならばと、
―なんでも聞こう
そう言うと、彼女は翔一に目を合わせずに言う。
―これからは…ベル、と…お呼びください…
―…ベル……
―…!
少し緊張したが素直に言う事を聞くと、ベルファストは勢いよく背を向けた。翔一は意味も分からず立ち尽くしたが、一向にこちらを向かないので、彼女の顔を見ようと近づく。そして、日の光を浴びて輝く銀髪が振り乱れたかと思うと、ベルファストはその顔を翔一の胸に押し付けた。
―なっ、ベルファスト
―ベル、です…
―…ベル……
―…
―顔を見せてくれないか
翔一は、まだ胸に押し付けられている顔を見ようと、彼女の肩に手をかけると、
―…ダメ!みないで…!
―え、えぇ?
さらに顔をうずめられてしまった。仕方ないと、そのままの状態でベルファストの頭を上から見ると、真っ赤になった耳が見えた。翔一はベルファストを愛おしく感じ、ついに抱きしめてしまった。彼女は細かく震えていた。
―…
―…
震えが止まるまでどのくらい待ったのか分からないが、翔一がそれまで閉じていた口を開ける。
―帰るか…
―はい…
二人はやっと動き出した。
ちなみに、顔をうずめられたせいで感じた2つの柔らかいものについては気にしなかった。………気にしなかった。
―倉庫
薄暗く、青白い明りのある空間。ここは、明石が普段作業しているドックの一室。そこでは、いつも怪しい研究がされているらしい。今日の彼女はいつにも増して興奮している。
―にゃにゃにゃ!できたにゃ!KANSENのパワーアップアイテムにゃぁあああ!
―うるさいですね…またガラクタですか
そう言うのは不知火だ。これに明石は心外とばかりに言葉を発する。
―ガラクタぁ?違うにゃ!これはこの母港の戦力を一気に増幅できる激ヤバアイテムにゃ!
―そうですか…ただの指輪に見えますが…
指揮官も知らないところで、人類の新たな希望が完成していた。
細かい設定、設定画はここ(ピクシブ)にゃ
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