闇夜のウルの街防衛戦線
太陽が落ち、闇夜が支配する時、
悠里達がウルの街に戻ると街はパニック状態だった。
無理もない。千に近い竜の群れが此方に向かっているのだ。
街の反対方向へ我も我もと逃げ出していく。
悠里達は屋根を跳びながら愛子達を探す。
愛子達は避難誘導を行なっていた。
途中でデビット達が逃がそうとするが、彼等は人混みに押されて何処かへと逸れてしまう。
愛子や生徒たちも可能な限り逃そうとは考えているが、相手は空を飛ぶ竜だ。徒歩や馬車では直ぐに追いつかれてしまう。
戦うと言う選択は無かった。
余りにも数が多過ぎる。生半可な魔物相手なら、生徒達と騎士団、それに冒険者が協力すれば何とかなるかもしれないが、相手は魔物の中でも最強クラスの竜だ。
愛子は力の無い自分を恨んだ。
生徒達が戦っているのに自分は助けられるかも分からない偽善を行なっている。
街の周辺ではウィルを真っ先に逃したゲイル達や街の防衛する兵士達が弓や魔法で足止めしようとするが、届きはせず……何体かが此方に襲ってきた。
ゲイルは死の覚悟を改めてし、恋人に心の中で謝る。
そして、竜が此方に向かってくると
ドゴォン!
光が竜を貫いた。
「何だ!?」
星空に竜とは違う何かが空を舞っていた。
もう来やがった。
仕方がない。
「ハジメ!俺が竜を少しでも倒して足止めする!」
「!……分かった!!」
「気をつけてね!」
「……任せる」
「死なないでよね!」
「死んだら、僕も死ぬよ!」
ちょっ、最後ぉ!!
俺は気を取り直し、
戦闘スイッチを第三のチート用に変える。
「宝物庫」
俺の周りにインローターヘリが無数に現れる。
「全機、フルブラストアクション!」
「「「「「アイアイサー!」」」」」
インローターヘリの中にいる人形達が威勢の良い声で操縦していく。
「イヤッホー!出番だ!出番だ!」
「ブチ殺してやんよぉ!!」
「悲しいけど、これって戦争なのよね」
白衣に眼鏡の人形達がインローターヘリに搭載されたレールガンで、ミサイルで、回転式機銃で撃ち倒していく。
思ったより弱い?
今の攻撃で二割弱は吹き飛んだぞ。
もしや、あれはフリード製では無く、転生者製のドラゴン?もしや、アイツは……変成魔法を覚えているのか?
確証は無いが、転生者が好き勝手動いているなら、あれだけの竜を戦力に出来るのだろう。
俺は計画を変更して、この場で敵の殲滅を開始した。
「畑山先生!」
ハジメは畑山先生を見つけて、近くに降り立つ。
「南雲くん?一体何処から?」
「そんな事より、逃げてください!敵の狙いは……お前だよ!」
ハジメは下卑た顔で愛子の顔に
忍手“暗刃”“睡掌髑髏”
眠りの香を嗅がせた。
「おっと……」
ハジメ……いや、偽ハジメは愛子を抱えると、
「愛子っ!!」
デビットが人混みから脱出すると偽ハジメが愛子を眠らせ、抱き抱えている姿が見える。
「貴様っ!愛子に何をした!?」
デビットは憤慨し、剣を抜いた。
「はっ、雑魚風情が……」
偽ハジメは手を振るい、何かを飛ばした。
デビットは何とかそれを視認し、剣で防ぐが……
剣が燃えた……
「馬鹿なっ!?」
デビットは驚くもすぐ様刀身を取り外し新たな刀身を取り付ける。
「(奴は先日の愛子の生徒に似ているが……他の者がいない。
噂の偽者か?……いや、関係ない)
愛子は俺が助ける!!」
「無駄無駄ぁ!」
忍手“暗刃”“灼華繚乱”
燃え盛る角質を飛ばすが、デビットは何とか見えたそれを、避け、弾き、技を持って炎を散らしていく。
「おいおい。マジかよ?」
偽ハジメは少し驚き、戦法を変える。
忍手“暗刃”“不死身の電撃漢”!!!
偽ハジメは地面に暗刃を穿つ。
穿った瞬間。指先から電撃が流れ出しデビットの足元へと向かう。
瞬間、直感で地面に剣を突き刺し、剣に雷が流れ、鎧へと伝わり、地面へと流れた。
全身に火傷を負うが、それでもデビットはまだ生きている。
痛む身体の悲鳴を無視して、構える。
「何で死なないんだよ!俺が死ねって思ったら死ねよ!!クズ風情が!!」
偽ハジメはガシガシと地面に苛立ちをぶつけ、その姿を見ていた
デビットにはまるで我が儘な幼児をそのまま成長させたように見えた。
「もう許さねー!!テメェは苦しみながら死ねぇ!!血は……」
偽ハジメの怒りと共に顔が変化する。
優男の面から顔に多数の目が有る異形に、
そして手は多数の目の付いた口の様な物に変わり、青紫色の焔が作られる。
しかし、作られ放つ直前に何処からか放たれた弾丸が焔を貫き、爆散する。
「ガァっ!!」
爆散した衝撃で後ろへと吹き飛ぶ偽ハジメ。
「大丈夫ですか?」
ハジメ達はデビットの前に立ちドンナーやガンブレードを構えて、
ドンドンドンっ!!ダダダダダダダっ!!
ボォ!!!
容赦なく撃ち、螺炎で焼く。
龍太郎やメルドクラスの耐久が無ければ死ぬ程のダメージを与えはするが、
「クソがああぁぁぁぁ!!」
偽ハジメ……否、異形は転がり廻り火を消す。
「殺す!殺してやるぞ!クソがぁ!!」
異形は背中から手を幾つも生やし手から炎を撒き散らす。
「血は炎」
手から螺炎を超える熱量の火炎が幾つも放たれる。
「くっ!」
ハジメ達は通常状態のドンナーで相殺出来ないと確信し出力を控えたレールガンで迎撃しつつも異形に手傷を負わせる。
「クソがっ!クソがっ!クソがぁ!!!」
ドゥン!
そして、遂に異形の頭蓋を撃ち砕いた。
「終わった?」
ハジメ達は倒したが、悠里の右腕を破壊したヒュドラの件も有り、倒していても警戒を続けた。
暫くしても異形……の死体は動きが無かったので倒したと確信するハジメ達。
意識を失っている愛子を回復したデビットが抱き抱え香織、恵里、鈴の三人が護衛の形で街の外へと逃げる事にした。
残るハジメ、ユエ、ティオは悠里の援護に向かう。
しかし、悠里による蹂躙劇はすでに終わっていた。
インローターヘリが最後の竜を撃ち貫き、そのまま、インローターヘリは何処ぞへと消え去っていった。
そしてそれを見た誰かは、
アレはエヒト様の使いでは無いのか?と言う。
そして周りもそうだ!そうだ!とやいのやいのと騒ぎ出しエヒト様バンザーイと化した。
悠里は其れを傍目から見据え、アレの行動原理が読めないな……
と小さく呟いた。
そして……その日の内にウルの街の領主の屋敷に潜入するも、シア・ハウリア達の姿はなかった。
居たのは無惨に殺害された領主とその家族や使用人達の遺体だけだった。
翌日……倒された竜の死骸を片付けようと街の人々が解体道具を手に竜の死骸に向かうと、
死骸は燃えていた。
幸いにも竜の死骸の殆どは街の外だった為に被害は壊れた家屋が幾つか焼失したものの人的被害は無かった。
しかし、観光地であるウルの街が直接被害を受けた事と領主が殺された事が合わさり、ウルの街の経済は長い間衰退してしまう事は誰も知らない。
竜が燃えているのは転生者の能力の特性です。