ある弟の激情
その日、隠統括に呼び出された。
俺もここの孤児院ではそこそこ古参な方だけど、会ったことはない。鬼殺隊の御館様に次ぐ柱と同格の地位の隠のまとめ役。
なんで、俺だけ呼び出されたんだろう。怒られるのかな? 何かやらかしたっけ? 先生たちにも怒られてないけど本当になんでだ? 頭にたくさんの疑問符と緊張を浮かべて扉をノックする。
「ああ、入っていいよ」
「あっはい! 失礼します!」
久世先生たちにみっちり教えられたことを思いだして、大きな声で返事した。扉を開けて見えたのは、優し気なちょっと冴えない感じのおじさん。いかつい感じの人じゃなくてちょっと安心した。
「ははっ、元気がいいね。いらっしゃい」
「はい! 失礼します」
少し駆けだして、走るなって言われたことを思い出して歩くことにした。お守りを手慰みにいじりながら言うことには、
「渡したいものがあって、来てもらったんだ」
「渡したいもの? わざわざ隠統括が?」
「ああ、別に僕からじゃなくても良かったんだけど、その親近感があってね」
そう隠統括がはにかんだ。なんだ、このおじさん、全然怖い人じゃないじゃんか。隠統括はお守りを優しい手つきで机に置いて、机の下をのぞいた。このお守り、端が赤黒く汚れてると気づく。汚れ洗わなくていいのか、と考えた。
取り出して見せてくれたのは、家から唯一持ち出せた深緑の羽織。
俺より先に隊士として戦うから少しでも助けになってほしいと思って、兄さんに預けた、兄さんが任務の途中で行方不明になると同時に見ることが叶わなくなったやつだった。
震えた手で取り落としそうになりながら受け取りながら、聞く。
「ど、して、今頃になって。兄さんは、兄さんは生きてるんですか!」
「二年半越しだけど、正式に死亡が確定したよ。それは遺品だ」
「どうして!」
反射的に叫んだ。帰ってこないだけで生きてるんじゃないかと信じていた最後の希望が砕かれた。どうして――!
隠統括は机の上のお守りに一瞥くれると、俺に向き直って口を開いた。
「犯人が分かったからだ。彼女が悪趣味にも収集してたから遺品が返ってきた」
「はっ⁉ 鬼だろ! どういうことだよ!」
「鬼じゃなかった」
「えっ」
「鬼じゃなかったんだ。今は安穏と医療屋敷で寝てる女だ」
訳が分からない。兄さんは鬼と戦うために隊士になったんじゃなかったのか。どうして守っていたはずの人間に殺される羽目になるんだ。
ひどく混乱していてどうやって隠統括の部屋を出たのかも覚えてはいない。医療屋敷、寝てる、女、殺された、兄さん、許さない、どうして、ふざけるな、そんな言葉が頭を駆け巡っていた。
俺は沸騰するような熱い思考にうなされて、兄さんの羽織に袖を通して、自分が何をしたいのかも分からないまま医療屋敷に向かっていた。
今回出てきた男の子は、鬼殺隊というある種復讐を正当化している組織の中に、身内を殺害する対象以外に殺害された(比較的幼い)子がどういう行動に出るかというシュミレーションでもあります。そして教育の失敗でもある。自分だけが復讐をしてはいけないというのが飲み込めない。周りは鬼に復讐も八つ当たりもしている。でも自分の仇は人だから駄目、そんなのおかしいだろうと。