トリオで生き抜け! 鬼滅世界   作:緑燕

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ある鎹鴉の心象

 俺は(とばり)。鬼殺隊で伝令係をしてる。つまり鎹鴉って事だ。

 鎹鴉が仕えるのは総じて鬼殺隊そのものだが、一羽一羽担当する隊士は違う。だいたいの鴉は自分が担当している隊士が好きだ。尊敬していたり、友達だったり、信頼出来る仲間だったり形は様々だが、凡そ仲良しだろう。しかしまあ例外だっている。担当隊士を何度も亡くして疲れて距離を取った鴉や、単純に性格が合わないやつなど、俺はどちらかと言えば後者だ。

 そう、鎹鴉として有るまじきことだが、俺は俺の担当隊士、辻宮千里が好きではない。

 

 あれは俺にとって初めての相棒、俺の担当隊士が亡くなって、さすがの俺も落ち込んでいた時だ。オヤジさんに「今年の合格者が多くて鴉も足りねー。休みなくて悪いが新人についてやってくれねーか?」と言われて会ったのが辻宮千里だった。こいつ、お互い挨拶したあと何も喋らないんだ。あいつはうるさいくらい話していたのに。こいつはずっと俺の名前を呼んだことさえなかったんだ。

 それから家に招待してもらった時の対応も甚だ可笑しかった。母親とも妹も一言も話しやしないんだ。

 妹さんなんて本当にいい人だった。「帳さん、お願いがあるの。千里ってあんな態度でしょう? 階級上がっても、怪我しても私たちに連絡くれないんじゃないかと思うの。だから貴方が私たちに千里の様子を伝えてくれないかしら……心配なのよ」だぞ! もちろん二つ返事で頷いたよ。当たり前だろう。

 なんでだよ! なんでせっかく家族が生きているのになんて酷い態度をとるんだ。なんでこんな家族を大事にしない奴が生きてて、あの心優しい俺の相棒が取り残された挙句死ななきゃいけなかったんだよ! 可笑しいだろう! だから俺がこいつを好きになれなくたってしょうがないだろうよ。

 

 

 最近のこいつはなんか可笑しい。嫌いな奴だって担当なんだ。そのくらいは分かるさ。

 可笑しくなったのはあの亜麻色の髪の女を保護してからだ。初めて見るびっくりするほど優しい顔をしていた。なんでこいつはそれを妹さんに向けてやらないんだ。それに鬼殺の効率だって上がった。鬼の場所をあっという間に見つけるようになり、倒すのだって早くなった。今まで以上に稽古もしている。もともと強い奴だったが一気に強くなったように思う。一体何が起こったって言うんだ。女か? 女ができたからなのか? 

 

 今日の任務も終わったようだ。探すのに手間取った割に異形でもなんでもない雑魚だった。

「まだだ。まだ終わりじゃない」

「ハア⁉」

 任務は終わったという俺の判断を止められる。

「なぁ帳。信じてくれるか? まだもっと強いお……」

「ナッ、オ前、俺ノ!」

 名前を呼ばれただと⁉

「ああ、名前か。知ってるよ。覚えているに決まっているだろう。俺のくだらない兄への憧れなんかで邪険にしてて悪かった。すまん」

 言いながら走りだす奴を慌てて追いかける。覚えていたのか。そうだったのか。

「ト言ウカ、オ前兄ガ居タノカ⁉」

「ああ、知らなかったのか? 帳は妹と仲がいいから知っていると思っていたけど……」

「知ラ無イ」

「二人いてな。二人とも隊士だったんだ。もう死んだけど。とにかくな、次兄の真似をして親に俺の階級を伝えないようにしてたんだ。だから少しお前に苛立っていたのかもしれないな」

「ナ、ンデ、ソンナ事ヲ」

「悪い。隠れてろ。鬼だ。俺は帳、お前を信じてる。だからこの戦いを見ていてくれ」

 本当に信頼を帯びた声がしていた。

「分カッタ。俺モ信ジヨウ」

 飛び去り、安全を取って鬱蒼とした木の陰に止まる。

 そうか、理由があったのか。兄がいたなんて知らなかった。あいつも安穏と日々を過ごして来た訳ではないのかもしれない。あの妹さんもそんなこと一言も言っていなかった。邪険にしていたのは俺の方だったかもしれないな。反省だ。

 俺も信頼に応えよう。

 そう考え再び戦いの方を見やった。「下弦の肆だ!」千里の叫びが届く。嘘だろう⁉ 十二鬼月だと言うのか。無理だろう。嘘だ。なんで。やっとあいつと信頼関係を結べそうだったというのに。嫌だ。やめてくれ。こんなところに死なないでくれ。お願いだ、頼む。

 俺の目では戦いの様子を確りと捉えることさえ難しいが、それでも目が離せなかった。ここ最近ずっと調子が良かったから、こんな見ていて落ち着かない戦いは久しぶりだった。祈って祈って、ただ様子を見続けて、前の相棒の死に際を反芻しながら見続けて、数分だったのかもっと長かったのか、とにかく長く感じる時間がようやく終わった。

「──任務完了。帳、見ていてくれたか?」

 なんてことない様子で空に向けて千里が言った。バカだな、俺とは反対方向じゃないか。

「見タ、見タトモ。良カッタ良カッタ」

 枝から飛び出してぐるぐると周りと飛び回る。左腕の切り傷だけだ。五体満足。生きている。良かった。

「凄イ凄イ! 十二鬼月ヲ倒シタ! 偉業ダ!!」

「大げさだな。柱なら沢山倒したことあるやつだっているだろ」

「柱! 柱二ナルノカ!」

「ああ、なるよ。そのつもりだ。証言してくれるか?」

「モチロンダ! 幾ラデモシヨウ!」

 今までがどんなものだったとしても、俺も千里を信用しよう。お前は俺の相棒だ。今決めた。これからは千里の為に頑張ろうと決意した。




 チョロ鴉、帳くんでした。こんなに堅物そうな口調の癖にチョロいです。そしてだいぶ視野が狭いです。でも良く働くいい鴉ですよ。
あと妹ちゃんは次兄くんが階級偽って家に入れる収入を減らしてたのが嫌で、鴉を丸めこもうとしただけなんです。別にいい子じゃなし心配もしてない。いや心配してはいるか、収入源として。この母にしてこの娘ありって感じ。まぁ案の定千里くんも家に報告なんてめったにしませんでしたが。
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