どう考えても、俺が三股疑惑かけられるのはまちがっている。   作:サンダーソード

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「……ヒッキーは、これが本気だったらどうするの?」

 週が明けて、月曜日。

 寒空寒風は今日も元気で、先週末に比べても遠慮を捨てた視線は不快にまとわりついている。ただ、含有される悪意が薄まっている気がするのはあいつが何かした結果なのだろうか。まあ、どうでもいいか。

 自転車を置き場に突っ込み、染みついた動線を辿って昇降口まで。

 行儀悪く靴を脱いで、無造作に拾ったそれを下駄箱に突っ込もうと開いたとき。

 

 一通の手紙が投函されていることに気が付いた。

 

 思わず固まり、脳裏に巡るは中学時代の思い出。

『なあ、ゲームしねえ? 偽ラブレター書いて、あの、ほら、あいつの下駄箱入れて騙せたら勝ちな』

『おっ、おもしれえじゃん。勝ったら何もらえんの?』

『んじゃあカラオケ無料、他全員で割り勘でどう?』

 なるほど完璧な作戦っスねーっ。それを俺がいる教室で話してるって点に目をつぶればよぉ~。

 どさっと重めの落下音が聞こえて、我に返る。いつの間にか手にしていた手紙を余所に、自然と音の方を見れば鞄を落とした由比ヶ浜が呆然とこちらを見ていた。

「あっ……や、やっはろー」

「お、おう」

 なんかつい先週もこんなことあったなと思いつつ、ぎこちなくかけられる声に返事をする。

 たっと一歩近寄る由比ヶ浜に、近付きすぎる距離に押されるように教室への一歩を進める。流れのまま、俺たちは並んで歩き出した。

「ね、ねえ……それって……」

 注がれる視線はしまいそびれた手紙に集中していて、物問いたげな雰囲気が端々から発されていた。

「あ、ああ。なんか下駄箱に入ってた。程度の低い悪戯だな」

「えーっと……。イタズラかどうかって……」

「いや悪戯じゃなきゃなんなんだよ」

「……本気?」

「有り得ねえ……」

 由比ヶ浜の愚にもつかぬ冗談にげんなりするが、当人はいたって本気なのか俯き加減に深刻な顔で歩いて行く。っておい、そっち道違うから。

「由比ヶ浜。由比ヶ浜!」

「……っえ? あ。な、なにヒッキー」

「いや、階段こっち。どこ行く気だよ」

「あ、う、うん。ありがと……」

 彼女の挙動に先週の我が身を思い出しつつ、え、じゃあ由比ヶ浜本気で心配してるのだろうか、とか都合のいい妄想が勝手に浮かぶのをむりくり沈めて、迷うように近付いた半歩の距離をそのままに、俺たちは階段を登っていった。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

『ゆきのん、いろはちゃん』

『なにかしら』

『なんです?』

『ヒッキーがラブレターもらってて』

『は?』

『は?』

『いやだから悪戯だろ』

『昼休み集まりたいんだけど、どうかな?』

『承認』

『決定ですね』

『うん』

『まあ別にいいけどよ』

『話す意味あるのかとは思うが』

『先輩は黙っててください』

『それで、誰からの恋文?』

『何が書いてあったの?』

『いや読んでねえし』

『そう』

『それなら昼休みに開封作業に入るとしましょうか』

『さんせーでーす』

『ヒッキー、それでいい?』

『構わんけど』

『では、決定ね』

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

 あっという間の昼休み。俺たちは各々の昼食を前に、多少の緊張を孕みながらもいつもの座席に着いていた。気が向いたのだと俺の分を毎度用意してくれる雪ノ下、少しずつでも成果を出そうと足掻き続ける由比ヶ浜、多めに作ったんですと笑って分けてくれる一色、こんなん頭が上がらんわ。完全に胃袋握られちゃってますね。違うんだ小町俺の胃は小町専用で……。

「それで、比企谷くん。詳しく説明してくれるかしら」

「詳しくっつっても、ただ下駄箱開いたらこれが入ってたってだけで」

 俺は鞄から取り出した純白の横型封筒をひらひらと振る。ご丁寧にハートのシールで封をしているため、一見してラブレターに見えなくもない。と言うかまあ俺の下駄箱に入っていたという前情報がなければ普通はそう見えるか。

「むむむむむ……。まさかわたしたちがいるのになお突撃してくるような猛者がいるとは……」

 一色が頭を抱えて呻くが、それだとこの偽ラブレターが本物っぽく聞こえるぞ。

 なんだかんだあって眼鏡のせいで本気でモテるようになってしまったらしいことは理解したが、それでもこれは悪戯だと断定する根拠はあるのだ。

「いやだからただの悪戯だっての。冷静に考えろお前ら、仮にも三股屑野郎が公然と……その、なんだ、恋人たちと……いちゃ、交際、してるのに、どんな立ち位置の人間ならそんな男にラブレター送るんだよ」

「……ヒッキーは、これが本気だったらどうするの?」

 今日一日口数少なく、部室に入ってからもずっと俯いて何か考えているようだった由比ヶ浜が、ここに至ってようやく口を開いた。正直まるで予想もしていなかった方向からの質問に、俺は目をしばたたかせる。

「え、そりゃあ……」

 由比ヶ浜の問いかけに、気付けば雪ノ下と一色も視線を俺に集めていた。どこか熱っぽく、一筋の不安が混じったように揺れるそれに俺の方が思わぬ緊張を強いられてしまう。

「……念のため確認するけど、これお前らが出したんじゃないよな?」

 人差し指と中指で挟んだ手紙を指使いだけでくるりと回し、三人に問い返す。いや有り得ねーし何様だこの自意識過剰がと自分でも思うが事が事だ、石橋を叩く必要もあるだろう。

 虚を突かれたように三人は顔を見合わせお互いを伺うが、程なく全員がまたこちらを向いてめいめいに否定の意を示す。それなら話は簡単。

「そら断るだろ」

「え、それって」

「……? あ」

 由比ヶ浜がつい口から出たとばかりに声を漏らし、揃えた指で慌てて塞ぐ。それを見た一色が連鎖して何かに気付いたようだが、なんだ? なんか勘のいいガキが嫌われるような余地あったか?

「どうした?」

「あ、ううん。なんでも」

「はい、ないですないです。話の続きお願いします」

 ふるっと首を振って否定する由比ヶ浜と大袈裟に両手を振る一色だけど、こんなの絶対嘘でしょ……。雪ノ下と顔を見合わせるもこいつ自身はさっぱりらしく、互いに首を捻るだけで終わってしまった。

 話の途切れに、俺はようやく手元のお弁当に箸をつけ始める。彼女らもそれを見て、その存在を思い出したように食べ始めた。

「話の続きっつっても断りますで終わりなんだが……。え、これ以上の何を話せと?」

「そりゃもうなんで断るのかとか、どうだったら受けるのかとか、好みのタイプとか、色々あるじゃないですか!」

「いやおかしいだろ特に最後の。……あー、前から順に気紛れ運次第ゴーストもしくはあくで」

「この人まともに会話しようという気がない……」

 まともな会話の枕じゃねえだろそもそもが。だいたいなんで断るかってそんなもん分かりきってんだろうに。人が眼鏡かけただけでラブレター出してくる輩とかもぅマヂ無理リスカしょ……ってなるわ。

 まあそれ以前にこれが本気だったらって仮定が破綻してるけどな。

「それで、比企谷くん。その、中身は……」

「ん、ああ……」

 口ごもる雪ノ下の視線に、そういえば封切らずのまま予想と仮定の話だけが先行してたと言うことに気付く。何やってたんだ俺ら。

 もうこのまま忘れてなかったことにしねえ? と思わなくもないが、三方から注がれる視線の熱量にまあ無理だなと自ずから悟る。

 ハートのシールを開こうとして半ばまで破ってしまい、存外に脆いんだなと思いながら残りを剥がす。中から三つ折りの便箋を取り出し終える頃には、右手に座る雪ノ下、左手に座る由比ヶ浜、背後からは一色が両肩に手を置き覗き込んでくる完璧な布陣が完成していた。あの……これだとぼく身動き取れないんですが……。

 それでも三人の急かすような空気に押されて、腕を極力固定したまま指の先だけで手紙を開く。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

『比企谷先輩へ。

 

突然のことで驚いているかもしれませんが、この思いをどうしても伝えたくてラブレターを書きました。きっと先輩は私のことを知らないと思います。

 

私は田沢と言います。私が先輩を知ったのは先週のこと、いろはちゃんととてもとても仲良く遊んでいたあのときでした。黒縁の奥に隠れた無気力な瞳、厭世と退廃を併せ持つ雰囲気、公然と三股かける爛れた倫理観、それでいて雌を発情させる甘い言葉に蠱惑的な所作、本当に一目ぼれでした。

 

名前も顔も全然知らない私からいきなりラブレターを渡されて不審に思ったかもしれませんが、言葉に出来ないくらい先輩のことが好きです。是非私にも首輪をつけてください。今日の放課後、先輩が来るまで校舎裏でずっと待っています。まずはお試しからでもいいので、よろしくお願いします。』

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 雪のような無言が部室に降り積もる。食い入るように前のめりで見ていた左右の二人は固まっていて、背後から肩を掴む手のひらの力は強まっていた。

 溜息と共に指先で手紙を畳むと左右の金縛りは解け、咳払いや照れ笑いを伴って密着寸前の距離から拳二つ分程度のパーソナルスペースを取り戻す。

「……やっぱり悪戯だったな!」

 いやもうマジでなんだこれ。電波のレベルが高すぎて脳が理解を拒むんだけど。突っ込みどころが列をなして群れで襲いかかってくる悪夢。大丈夫? SANチェックする?

「そうね。まあ比企谷くんにラブレターなんて来るはずないのは分かっていたけれど」

「あはは……。ごめんね、なんかあたしがもし本気だったらとか変なこと聞いちゃったから」

「あー、別にお前が」

「いや、これ多分本気ですよ。書いてることは狂人のそれですけど……」

 悪いとかいうわけじゃ、と続くはずだった言葉が、予想だにしなかった背後からの発言に奪われる。

「は? いや、は?」

 あまりに頭無惨な発言に俺の耳か一色の頭かそれとも世界の理か、何がおかしくなったのかとたった一文字で問い返す。

 右を見れば雪ノ下が理解の限界を突破したような狼狽を見せていて、左を見れば由比ヶ浜が聞き間違いかと不安げに俺たちを伺っている。どうやら俺の耳が原因ではないようだ。

「あの、わたしが何かしたとかじゃ……いえ原因の一端くらいは担ってるかもですが、だいたい先輩のせいですからね?」

「ええ……なんでこっちに飛び火してんの……?」

 どんなピタゴラスイッチが嵌まれば俺のせいになるんだよ。風が吹いて桶屋が儲かったのか?

「今、一年生の間でチョーカー……ってか意味合い的には首輪ですね、見た目はともかく。首輪が流行ってるんですよ。先輩のせいで」

「なんでだよ俺関係ねえだろ」

「ないわけないじゃないですか。かっこいい先輩に首輪付けて飼われたいみたいな気の狂ったブームがこっそりと起こりはじめてんですよ? 頭沸いてんじゃないですかねあいつら」

「お前がそれを言うのか……」

「あー……。二年生でもぽつぽついるね……チョーカー着けはじめた子」

「マジかよ嘘だろ嘘だと言ってくれ……」

「見るのは他のクラスだからヒッキー気付かなかったのかもね」

 どうやらおかしくなっていたのは世界の理だったようだがそれが分かってだからどうしろとおっしゃるんだ。

「……いやちょっと待て。もしかしたら原因に心当たりがあるかもしれない。っていうか原因が俺であってほしくない……」

「え、そうなの?」

 俺は立ち上が……立ち上がろうとしたところで一色が肩から手を離したので改めて立ち上がって、多機能目覚まし時計からすすっとメッセージを送る。

『電話求む』

 間を置かず見知らぬ番号から折り返しの電話がかかってきたので、部屋の隅に寄ってからそれに出る。リア充様はレスポンスも早いのな。

「君からアクションがあるなんて思いもしなかったな。どうした?」

「……お前か?」

「何がだ」

「……今下級生の間で首輪つけて上級生に飼われたいとかいう地獄めいたブームが沸いてしまってるらしいんだが。お前がなんかしたのか?」

「……………………」

「おい?」

「……いや、絶句してた。それでか……。あまり首輪っぽくないチョーカーをつけてる子が少数いたのは確認してる。普段とは一線を画した熱っぽい目で見られることもあったが……」

 そうか、一時的狂気患った下級生にしてみればこいつむしろ最高の飼い主様か。大変だなと今は皮肉でも当てこすりでもなんでもなく純粋に思うことが出来てしまう……。

「……で、お前がなんかしたからこうなったのか?」

「なわけないだろ俺が知るか! と言うか何をどうしたらそんな気の狂ったブーム作ることが出来ると思ったんだよ。人の業を超えてるぞ……。君たちのトラブルに起因する奇跡的な連鎖反応を起こした結果の自然発生だろ」

「マジか……そうか……マジか……」

「……一応気にはかけておくが、沈静化には期待しないでくれ。人の手には余る」

「いや、いい。悪かった……」

「君にそう言われるとはな……。それじゃあな」

「ああ」

 げんなりした心持ちで電話を切る。席に戻ろうとしたところで三人の視線とかち合い、注目されていたことにようやく気付く。そりゃ部室でいきなり電話したらそうもなろうな……。何故俺外に出なかった。でも弁当も食わないで見守るほどのものでもないと思うの……。

「あー、心当たりは外れてたようだ。忘れてくれ」

「えーっと……。隼人くん?」

「まあ、そう、だな」

「先輩、葉山先輩の連絡先知ってたんですね」

「あー、まあな」

 葉山とそういうやりとりをしていたことがどうにも俺の自意識に引っかかって歯切れを悪くさせる。彼女らも自分の席に戻り、俺も弁当の続きを啄み始めた。

「何を話していたかは後で報告させるとして……。あの男の悲鳴くらいは電話越しにも聞こえたわ。……ブームの熱狂というのは恐ろしいものね」

「俺こんなもんに流されるくらいなら一生ぼっちでいいわ……」

 俺と雪ノ下は示し合わせたように大きな溜息を吐く。なおこの手のブームに一番弱そうな由比ヶ浜は苦笑と呆れの合いの子みたいな表情を浮かべていた。この上ない反面教師となってくれたようで何より。

「ちなみにわたしが聞きたくもない会話を拾い聞いてる限りでは、主な感染源はうちのクラスらしいです。反吐が出ますね」

「あ、じゃああのラブ……手紙の子もいろはちゃんのクラスメイトなの?」

 あれをラブレターと表現するのはどうにも感性が許さなかったらしく、由比ヶ浜は当たり障りなく言い換えた。

「え……さあ」

「さあて」

「……あまり関わりのないクラスメイトの名前って中々覚えられないですよね」

 いろはすー、ちょいちょい闇を見せてくるのやめないー? まあこいつがクラスメイトと折り合い悪いのは今に始まったことじゃないが……。

 一色はけぷけぷあざとい咳払いで話を流し、こちらを見る。

「っていうか先週末の昼休み、わたしに勉強教えてくれたときもチョーカー着けてるの居たと思いますけど見ませんでした?」

「演劇中はそれどこじゃねえよ。直接話したわけでもないのにそこまで見てる余裕はないわ」

「あー……。ヒッキー一番大変だもんね」

「そうね。コンセプトが三股である以上、比企谷くんは出ずっぱりにならざるを得ないもの。負担の軽減は必要よね」

 そう言って雪ノ下は考え事を始めるが、話が盛大にズレ始めていることを感じた一色が両手を振ってそれを遮る。

「あーはいはい、それは後で考えるとして、今はその紙切れですよ。……先輩、ぶっちゃけちゃんと断り切れます?」

「は? 当たり前だろ」

「えー……」

「なんでだよ」

 しかし一色はほんとかこいつみたいな疑惑の目で見てくる。半信半疑どころか三七くらいで疑いに寄ってそう。

「だって先輩、押しに弱いじゃないですかー。特に年下からの」

「あー……。それはそうかも」

「一色さんが言うと説得力あるわね……」

 由比ヶ浜と雪ノ下も一色の意見に同調してしまい、俺の味方がいなくなる。あ、はじめからでしたね。

「っていうか、仮にも三人も恋人がいる初対面の先輩相手に後からずかずか上がり込んできてわたしも混ぜてくださいとか言う面の皮分厚い自走式追尾型地雷女ですよ? 先輩の防御力じゃ簡単に抜かれて言質取られたりしそうじゃないですか」

 一色のめったくそな評価が苛烈すぎて怖いんだけど。なのに雪ノ下も由比ヶ浜もその形容をごくごく自然に受け取っている。林檎に赤いって言ってるくらいの自然体。

「お前らがラブレターもらったときとおんなじで、別にわざわざ告白断りに行かなくてよくね? 既読スルー最強だろ」

「んー……。わたしも基本的にはそれでいいと思うんですけど、でも怪文書にはずっと待ってるとかしれっと書いてるんですよね。正直役満電波女が風邪引こうが別にどうでもいいんですが……」

「なんだかんだでヒッキー気になっちゃって、あとでこっそり一人で戻って話したりしそう……」

「……ええ、目に浮かんだわ」

 いや、俺のリスクリターンの計算能力はちょっとしたものよ? 数学より難しくないしな。そんな危険な真似絶対にしたりしない!

「だからわたし考えたんですよー。嘘告白チャレンジでお断りの練しゅ……う……?」

 妙な話の中でもどこか弛緩していた空気が、一色の嘘告白という単語で一瞬にして張り詰める。しかも断られる前提でとかお前……。短文に引き摺られて頭を過ぎる最新鋭のトラウマに、三者三様に互いを伺い目を逸らす。蚊帳の外である一色は疑問顔で首を捻るが、こればかりは聞いてくれるな……。

「えーっと……。それかその、保護者同伴で一緒にお断りしに行くとか」

 幸い複雑な事情を察してくれたようで、一色はすぐに別案を出してくれた。由比ヶ浜もほっとして笑みを零し、雪ノ下は冷めた紅茶に口をつけて精神を整える。

「お前ら俺の保護者かよ」

「そんなようなものでしょう?」

「みんなで行くの?」

「ですねー。わざわざ分かれる理由もないですし」

「それはいい……いやいいかどうかは分からんが置いておくとしてだな」

 先週のラブレター騒動の話し合いを思い返す。そもそも俺たちの関係は。

「便宜上対外的に三股のふりっつーか真似事して見せてるけど、実際はそういうわけじゃねえだろ? どんな名目でついてくるつもりなんだ?」

「は? そりゃもう人の男に色目使うな泥棒猫って感じの彼女面で」

「お前それ相手にあなたこの人のなんなんですかとかなんの権利があってそんなことをとか言われたらどうするつもりだよ」

「だーいじょうぶですって。疑われる要素なんてゼロですよゼロ。むしろ彼女じゃないとか言う方が信じられませんよこんなの」

 一色は手をひらひらとさせて、俺の危惧にまるで取り合わない。

 ちり、と鳴った儚い音の元を辿れば、自らの首輪に指をかける由比ヶ浜。

「そっか……。そういえばあたしたち、ヒッキーからもらった首輪着けて皆の前でいちゃいちゃしてるだけだったんだね」

 物憂げに数秒ほど、ちり、ちり、と金具を弄んでいた彼女だが、ん? と可愛らしく小首を傾げると、自分の口にした言葉の意味を反芻したのか爆発したように慌てだす。

「えっ、えっ、だいじょぶ!? あたし頭おかしなこと言ってない!?」

「大丈夫だ、言ってはいるが言ってることはまちがってない。頭がおかしいのは現実と状況だ」

「……私は何をしているのかしら」

「我に返らないでくださいよ」

 他人の口から改めて現状を聞くと狐狸妖怪にでも化かされてるんじゃないかと思えてくるほどに意味の分からん状況である。

「聞かれるわけないと思うんですけどねえ。じゃあもう先輩が一人で戻って来れないように、完全下校の時間まで放課後デートでも」

「それがいい! 賛成!!」

 一色の言葉を途中で奪って、由比ヶ浜が勢いよく立ち上がると共に元気いっぱいな一票を入れる。

 分かりきった結末を語る必要はない。彼女の鶴の一声で、俺たちの放課後の予定は確定した。

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