「遅い………ソウゴ、大丈夫なのかな………」
一方その頃、三玖は独りでソウゴを待っていた。何気なく鏡に映る自分を見つめていると、先程の一花の言葉を思い出す。
『女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ』
「………………………」
三玖はヘッドフォンとお面を置くと、長い髪を纏めるのだった。
「……………ソウゴは褒めてくれるのかな……………?」
「急なお仕事頼まれちゃって。だから花火は見に行けない。ほら同じ顔だし一人くらいいなくても気づかないよ」
「それは無理があろうかと思われます、なんだが…………」
「あっ、ごめんね。人を待たせてるから」
「ちょ待てよ!せめて何でかは説明してくれ!」
「なんで?」
「へ?」
なんで、とは…………?
「なんでお節介焼いてくれるの?家庭教師だから?」
「ちげーよ、花◯香菜」
「だからそれ誰!?」
中の((ry
「何で俺がお節介を焼くか?そりゃあ、ユーが俺の大切な友達だからよ。お節介を焼くのにそれ以外にまだ理由がいるか?」
「……………そっか。ありがとね。でも、私は……」
「あ、ちょっと!?」
路地裏から出ていこうとするのを慌てて止めようとするが
「あ、やば」
出ていった瞬間にすぐ戻ってきた。そして身を引いて様子を伺っている。俺も顔だけ出して一花姉さんが見ている方向を見てみると、髭のおっさんがいた。
「上杉が言ってた髭のおっさんか?」
「うん。あの人、仕事仲間なの」
「ユーを探してる説が濃厚だな………って、こっちに来たし!」
慌てて俺と一花姉さんは顔を引っ込める。
「どうしよう………抜け出してきたから怒られちゃう!」
「どうしようって……………奥から逃げれば良いんじゃね?」
「あーもう!間に合わないよ!………あ、そうだ!」
何かイカしたアイデアを思い付いたのかと思いきや、一花姉さんは俺に抱きついてきた。
「フアッ!?」
「ほら、もっと近くに来て!」
「え、あ、はい…………」
一花姉さんに言われるがままに密接し、手も回して抱きしめた。そしてやって来た髭のおっさんがこちらを見る。角度的に一花の顔は見えていない。…………あのおっさんからしたら抱き合ってるリア充カップルに見えてんのか?
「よっこいしょ」
そこに座るのか………。
「あの~一花姉さん?我々はいつまでイチャイチャしてれば良いんですかね?」
「ごめん、もうちょっとだけ」
よもやよもやだ。人生初のハグを捧げる相手が一花姉さんになるとはな。
「私達、傍から見たらカップルに見えるのかな?」
「そりゃそーだろ。俺には聞こえるぜ。『爆発しろ』、『イチャイチャしてんじゃねーぞ』、『リア充、タヒね』とか呪詛の声がな」
「あはは…………本当は友達なのに悪いことしたみたい」
「まぁ、別にこれくらい良いんだけどよ……………」
そんな会話をしていると、路地の出口にいるひげの男の声が聞こえてくる。
「もしもし………少しトラブルがあって………撮影の際は大丈夫ですので………」
撮影?
「そういや仕事って…………?」
「あの人はカメラマンなの。私はそこで働かせてもらってる」
「カメラアシスタント的な?」
「…………うん、まぁそんな感じ。いい画を撮れるように試行錯誤する。今はそれがとても楽しいんだ」
はえー、カメラアシスタントの仕事か。
「何か面白そうだね、カメラアシスタントって。どんな事するの?」
「えっ……………と…………それは………」
「一花ちゃん見つけた!!」
なっ!?しまった、油断したかっ!……………と、思ったのも束の間。
「こんなところで何やってるの!言い訳は後で聞くから、早く行こう!」
「えっと…………えっ?」
おっさんに手を引かれていたのは───────。
「「三玖!?」」
髪を結んでイメチェンした三玖だった。
「まさか、私と間違えて………」
「つーか、上杉と五月は何やってんだ!?三玖と合流してたんじゃ…………って、んな事は後回しだ!さっさと止めないと!」
俺と一花姉さんは慌てて路地裏を飛び出す。するとジャストタイミングで上杉と五月が現れる。
「ひ、火野君に一花!大変です、三玖が変な人に連れ去られました!私がたこ焼きを買いに行った隙に!」
「俺も歩き回って疲れたから飲み物を買おうと離れた隙に……………すまん」
確かに2人の手にはそれぞれたこ焼とただの水(¥90)があった。
「ったく……………取り敢えず、止めてくるわ」
そう言って俺は急加速して全力で走り出す。前世ではこんな速度で走るなんて不可能だったなー、なんて考えながら人混みをスピードを殆ど落とさず駆け抜け、素早くおっさんの前に回り込む。そのまま三玖の手を掴む男の手を払うと、三玖を自分の方に引き寄せる。
「な、なんなんだ君は!?」
「通りすがりの仮面ラ……………じゃなくて、俺の大切な友達だ!おっさん、よく見ろ!彼女は一花じゃない!」
「その顔は見間違える筈がない!さぁ、うちの大切な若手女優を離しなさい!」
「だが断…………る?若手女優?」
え、まさか……………撮る側じゃなくて…………
「と、撮られる側?」
俺の間の抜けた問い掛けに一花は俯いたまま無言で頷くのだった。
「ま、まさか一花ちゃんが五つ子だったとは…………ほんとに3人ともそっくりだ…………」
事情を説明された髭のおっさんは驚いたように一花、三玖、五月の顔を眺めていたがすぐに一花の手を取る。
「行こう、一花ちゃん!車で行けばまだ間に合う!」
「あ、おい!」
「止めないでくれ。人違いをしてしまってのは申し訳なかった。だが、これから一花ちゃんには大事なオーディションがあるんだ」
「なっ………………一花!花火は良いのかよ!」
「…………皆によろしくね」
上杉の問い掛けに笑顔でそう言うと髭の男と行ってしまった。
「そ、それにしても…………一花が女優だったなんて…………」
「前にあのおじさんを見たことあったけど…………あれは仕事終わりに送って貰ってたんだ…………」
五月は知らなかったらしいが、三玖は少しだけ心当たりがあった様子。
「ところで三玖、足の方は大丈夫か?」
「うん。それよりも、一花の方に行ってあげて」
「私からも…………改めて、一花の事をお願いします」
「…………おう!」
三玖と五月の後押しを受けて俺は駆け出す─────その前に。
「三玖」
「?」
「あー…………そのイメチェンした髪型に似合ってるぜ」
「!……………ふふっ、ありがとう」
三玖の嬉しそうな顔を記憶に刻んで、俺は駆け出した。
「ここにいたか。あのおっさんは?」
「ソウゴ君………………今は車を取りに行ってるとこ」
「逃げるなら今の内だぜ」
俺の言葉には何も答えず、一花姉さんはタブレットを差し出す。画面に映ってるのは台本だった。
「半年前に社長にスカウトされてこの仕事に就いたの。ちょくちょく無名の役をやらせてもらってたんだ。それでさっき、大きな映画の代役オーディションがあるって知らせを貰ったところ。いよいよ本格デビューかも」
「……………それがやりたい事か」
「そうだ!折角だし練習相手になってよ」
そう来ましたか。
「まっ、面白そうだし良いけど」
「やった!じゃあ、お願いね」
そう言うと一花姉さんのスイッチが切り替わる音がしたかと思えば、真剣味の帯びた表情を浮かべていた。………………よし、俺も真剣にやるとしよう。
「…………卒業おめでとう」
「先生、今までありがとう」
ちなみに、ベタな学園ものドラマの感動シーンのようだ。
「先生。あなたが先生で良かった。あなたの生徒で良かった」
「………………………」
「あれ?もしかしてジーンと来ちゃった?」
「…………いや、脚本の台詞がベタ過ぎんか、って思っただけ。俺の方が良い台詞考えられそう」
「そっちかい!」
「まぁ、それはさておきだ。中々うまいじゃん」
「そ、そうかな?褒められるとお姉さん照れちゃうなー」
───────ただし。
「今の演技では100点はあげれないねぇ。見え透いた作り笑いをしてるようじゃ」
「……………え?」
「笑って自分の本心を押し殺す─────俺は現実でもアニメとかでもそう言う奴を見てると少しイラッとするぜ」
「っ……………」
「少々話が逸れるが、さっきなんでお節介を焼くかって訊かれて友達だから、と俺は答えたが勿論それは本当だ。だが、特に言う必要はないと思って言わなかったが、もう1つ別の理由もある。上杉でも同じことを思うだろうが、大して勉強を教えてないのにかなり高額な給料を貰ってしまった。課金したらそれこそガチャが200連位出来る程のな。だから、貰った分の義理はきっちり果たしたいってのもある。これが俺の本心の全てだ」
「………………」
「お前も本当の所はどうなんだよ。さっきも余裕ぶってたくせに、さっきイチャイチャ&ラブラブ抱き合ってた時に震えてたじゃん」
「イチャイチャもラブラブもしてなかったと思うけどね………………」
そう苦笑しつつも、一花姉さんは漸く本心を語り始めた。
「…………この仕事を始めてやっと長女として胸を張れると思ったんだ。1人前になるまでは皆には言わないって決めてたの。だから、花火の約束があるのに最後まで自分の口からは言えなかった…………これでオーディション落ちたら、ますます皆に会わす顔がないよ……………花火、もうすぐ終わっちゃうね………」
フィナーレに突入したからか、連続で咲く花火を見て寂しそうな表情を浮かべる一花姉さん。
「やっぱ花火は見たかったか?」
「………………うん」
やっぱな。
「それにしても、私の細かな違いに気づくなんてね。お姉さんびっくりだ」
「いや…………白状すると、会って日が浅いから細かい違いなんてまだ分からん。ただまぁ……………他の4人と笑顔がなんか違った。そんだけだ」
「……………まいったな。ソウゴ君1人を騙せないようじゃ、自信がなくなるなぁ」
演技ってある意味人を騙すようなもんだからな。
「俺も別に演技の経験があるわけじゃないから大したアドバイスは言えんが……………取り敢えず笑うときは作り笑いをするんじゃなくて、楽しい事とか嬉しい事があった時に笑うみたいに、いつも通りの笑顔で笑えよな」
そう言って俺もニッと笑みを浮かべる。スマイル一丁!
「いつも通りの………笑顔で…………」
その時、車が俺達の前に停まったと思えば、窓が開いておっさんが声を掛ける。
「一花ちゃん、早く乗って!」
「は、はーい!」
「……………まっ、上杉はかなり反対するだろうが、説得する時は俺も付き合うぜ」
「!」
「はいはい、早く乗った乗った!」
こちらを振り返ろうとしていた一花姉さんを俺は車に押し込んでドアを閉める。その瞬間、車は急発進して行った。
「ふぅ……………ん?そういや何か忘れてるような……………あ!
そういや星奈さんって何処にいるんだ!?」
漸く星奈さんの存在を思い出した俺氏。我ながら遅すぎる。
「すっかり忘れてたし!星奈さんは何処にいるんだ?!」
「後ろにいますよ」
若干の不機嫌さが滲み出た声が聞こえた瞬間に振り向けば、確かに
「………わ……………忘れてたとか言っていましたが、あれは嘘」
「完全に忘れてましたね?」
「ハイ、スミマセン」
「まったく、連絡も取れませんし心配しましたよ………………まぁでも、色々と奔走していたのは先程会った三玖さん達から聞いたのでそこまでツーンとしてませんけども」
えー、ほんとにござるかぁ~?そうには全然見えないんですけど。と言うか、ツーンって言って拗ねる人始めて見ましたよ………………。
「あぁ、それと。上杉君から伝言を預かっていまして。『用が終わったら一花を連れて祭り会場の近くの公園に来い。
「!………………そう言う事か」
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「では最後の中野一花さん」
「はい、よろしくお願いします」
場所は変わってオーディション会場。一花の審査が始まった。
「卒業おめでとう」
審査員が台本を読み上げ、一花は台本通り答えていく。
「先生、今までありがとう」
──────上手く笑えてるかな。こんな時…………皆ならどうやって笑うんだろう。
四葉なら。三玖なら。五月なら。二乃なら。
そして─────────
『ちげーよ、花◯香菜』
『…………いや、脚本の台詞がベタ過ぎんか、って思っただけ。俺の方が良い台詞考えられそう』
『笑うときは作り笑いをするんじゃなくて、楽しい事とか嬉しい事があった時に笑うみたいに、いつも通りの笑顔で笑えよな』
──────
「……………先生。あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」
そうして見せた笑顔は作り笑いでもない、嘘偽りでもない、心からの笑顔だった。
to be continue……
Q.総悟とはぐれている間、星奈さんは何をしてたか?
A.
男「そこの姉ちゃん!花火よりも俺とイイことしない?」
星奈さん「……………(無言の圧力)」
男「…………お、俺と」
星奈さん「ポキッポキッ(指を鳴らす音)…………俺と、なんです?」
男「す、すみませんでしたァ!!」
こんな感じの事が何回かあった。
星奈さん「(法律がなければ次来たら半〇しにするんですけどね………)」
読んでいただきありがとうございました!