三玖を愛する転生者の話   作:音速のノッブ

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やばー。投稿するの忘れてたし、今回1万文字越えや。なんかキリのいいところまで行こうと書いてたら、いつの間にかこんなんで草。

まぁ良いや、そう言う訳で間もなく折り返し地点。楽しんでもろて、どうぞ。


エピソードⅢ Eternal farewell at the end of the encounter part1

1年近く経つ頃には、楓と星奈の2人にとって何でも話せる場所になっていた。桐生を含んだ研究員が誰も会話をモニターをしていない時間帯を見つけ、星奈は楓の生い立ちも聞いた。

 

かつては親の製薬会社の出資先の研究所でとある研究を行う医薬品開発者であったが、生家の経営破綻に伴い経営する桐生の一族が経営するバイオ企業に買収された、実質上の政略結婚であり、婚約者であっても自分は召使いであって女ではない事。

 

彼の才能は尊敬しているが、どうしても好きにはなれない事。

 

「……………なるほど。だから、今は論文ばかり読んでると言う事ね」

 

「そうなんだよね~。今は事実上、研究は凍結状態だから実験とかは出来ないの。まぁそれでも、出来る事はあるから今はそれに熱心に取り組むだけ、って頑張ってるけどね」

 

逆境でもめげないのが彼女らしいと星奈は感心する。

 

「ふぅ、ちょっと休憩しよっかな……………………あ、そうだ!星奈ちゃんに見せたいものがあったんだよね!」

 

そう言うと楓は持参していた荷物から複数の写真を取り出すと、アクリル板を背に腰を下ろす。星奈も近くに来て座る。

 

「これは…………」

 

「昨日、私の数少ない友達が送ってくれた星空の写真。綺麗でしょ?私の生まれ故郷の日本で撮ったんだって」

 

楓の言葉に星奈は写真を食い入るように見ながら無言で頷く。相当夢中になっているようだ。

 

「……………そう言えば、楓が与えてくれたこの名前も星が切っ掛けだっけ」

 

「そうそう、この研究所から帰るときに偶々流れ星が見えてね。それでピンと来たんだよね。気に入ってくれて何よりだよ~」

 

「服のセンスとは違ってネーミングセンスは普通で安心した」

 

「前から思っててけど、星奈ちゃんて結構毒舌だね……………」

 

まぁ、星奈の言う通り服のセンスが少しずれているのは否定できないが。

 

「そう言えば、星奈ちゃんは自分の誕生日は分かる?」

 

「………………知らない。殺し屋『死神』はほぼ全ての情報が不明みたい。あと、私は劣悪なスラム街で育ったらしいから仮に私が過去の記憶があったとしても、もしかしたら自分の本名も生まれた日も知らないかもしれない」

 

「……………そっか。ねぇ、だったらさ。来週をあなたの誕生日にしない?」

 

「来週を?何故?」

 

「どうやらお気付きではなさそうだから言うけど、あと3日で私と君が知り合って1年になるんだよね」

 

「………………1年。もう1年も経っていたんだ」

 

星奈は少し感慨深そうに呟く。それに楓もうんうんと頷く。

 

「時の流れってやつは早いもんだよねぇ。……………………でさ、自分の生まれた日が分からないなら、3日後を星奈ちゃんの誕生日にしない?」

 

「……………………」

 

「あなたと出会えて私は良かったと思ってるし、私の話も聞いてくれて感謝してる。だから、あなたに誕生日を贈らせてくれない?」

 

楓の問いに星奈は少し黙っていたが、やがてフッと笑みを漏らす。

 

「………………名前に続いて、また楓から大切なもの(誕生日)を貰えた。ありがとう」

 

「!………………良かった。なら、誕生日プレゼントも買わないとね!何が良いかな~?」

 

「………プレゼントを買うのはあなたの自由だけど……………………恐らく私に渡す事は無理だと思う」

 

「確かにそうかも。けどさ、もしかしたらいつか……………アクリル板越しじゃなくて、あなたに直接触れられる日が来るかも知れないでしょ?そうなった時に、あなたに渡す為に用意しておきたいんだ」

 

楓の言葉に星奈は少し驚いている様子だったが、すぐに薄い笑みを浮かべる。

 

「………そうね。いつかそんな日が来ると良いね」

 

「でしょ?だから、誕生日プレゼント期待しておいてね!」

 

「分かった。……………ただ、あなたが今も着ているようなダサい服はいらないから(辛辣)」

 

「えっ、ダメなの!?前よりもセンスが良くなったし、今なら気に入ってもらえると思って色々と候補を考えてたのに!」

 

センスが良くなったと思っているのは楓だけである。悲しいかな、この研究所にいる全ての人間は楓のファッションセンスが良くなったとは微塵も思っていない。

 

「えー、やっぱダメなのー?こういう服とか絶対気に入ると思うのにー」

 

「誕生日プレゼントがそういうダサい服だったら1週間は話聞かないし、いつか私の手で破り捨てる(マジトーン)」

 

誕生日プレゼントを再検討する羽目になる楓であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後

 

「うーん、あれから色々考えたんだけど……………………何を上げたら1番喜ぶんだろうなぁ……………………」

 

お店の多い街通りをブラブラ歩き回る楓。昨日も色々とお店を回ったみたのだが、何かピンと来る物はなかった。

 

「どうしよう、マジでプレゼントにあのダサい服しか思いつかない……………………いや、別にダサくないと思うけどね、私は!」

 

いいえ、マジでダサいです

 

悩める楓だったが、ふととあるお店の前で立ち止まる。そのお店はネックレスのお店だった。何となく楓はお店に入ってみる。

 

「ネックレスねぇ…………私はこいうのあんまり興味ないからどれが良いとかよくわからな……………………あ」

 

楓はとある商品の前で立ち止まる。それは星をモチーフにしたネックレスだった。

 

「わぁ、綺麗………………こういうのに疎い私でも思わず見惚れちゃうほど綺麗……………………これなら、星奈ちゃんも気に入ってくれるでしょ!よし、これにしよ!値段は……………………え」

 

値段は日本円で30万円だった。

 

「…………うぅむ、これ買ったら中々の出費…………ま、いっか。一応そんな多くはないけど貯金はあるし、明日から食費を減らせば致命傷寸前で済むかな?明日から朝はもやしにしよう。まぁ、これで星奈ちゃんが喜んでくれると思えば安い物……………………すみませーん、これくださーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日同時刻

 

桐生は隠し部屋でジョーカーに報告をしていた。

 

「以上が被検体から得られたデータです。如何でしょうか?」

 

『……………………』

 

ジョーカーからは何も返ってこない。返って来るのは沈黙のみ。桐生がそのまま黙っていると、3分程経ってようやく声が掛かる。

 

『………………これではっきりしたな』

 

「はっきりしたと、言いますと?」

 

桐生の問い掛けに、ジョーカーはこう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この研究が時間の無駄だったと言う事だ』

 

そう断言すると、ジョーカーは続ける。

 

『人間を神に対抗しうる兵器へと転用できれば、あらゆる世界に存在している人間を強大かつ膨大な戦力として利用できる。そう考えて人間を対神兵器への転用させる実験を行わせたが……………………完成形でこの程度では到底足りん。この程度では、奴と渡り合う為には同じ個体が最低でも4000億人はいる。奴を殺す為ならもっと必要になるだろう。だが、第1位に気付かれずに4000億人以上を調達するのは不可能だ。奴は確実に察知するだろう。加えて、お前達にこちらの技術を提供したのにも関わらず、対神兵器への転用に1年以上も掛かる始末。これでは遅すぎる」

 

「ですが、まだ」

 

『桐生』

 

桐生の言葉を遮るようにジョーカーが低い声で言う。

 

『我らからすれば低能なお前の意見など求めていない。ただ、言われた通りの事をしていれば良いのだ。そうすれば、お前の欲しがる人智を超えた知識を与えてやる』

 

「…………申し訳ありません。私ごときが出しゃばるような真似を」

 

『桐生。被検体を準備が出来しだい始末しろ。研究データも全て抹消せよ。それが済み次第、貴様が望むものを与えてやる』

 

「……………了解いたしました」

 

そう言うと一方的に通信が打ち切られる。通信が終わった瞬間、桐生は近くにあった椅子を蹴り飛ばす。

 

「クソッたれ!!神サマだか何だか知らないが、この俺を低能と馬鹿にしやがって!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!」

 

桐生は部屋のものに八つ当たりしながら叫ぶ。4分近く叫んだあと、漸く冷静さを取り戻したのか肩で息をしながら呟く。

 

「……………………まぁ良い。あのモルモットを始末して臨むものさえ手に入れば、もう奴の言いなりになどならなくて済む……………………そうすれば、俺は全人類の頂点に立つ事になるからなァ……………!!」

 

そう狂気的な笑みを浮かべなら桐生は部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「ふんふんふふーん♪」

 

楓は上機嫌な様子で研究所に入って来る。

 

「いやぁ、しかし何とも高い買い物をしてしまったもんだね。ま、別に後悔はしてないけどね~。いやぁ、喜んでくれると良い「いやー、しっかし急に打ち切りとか残念だよなー」…………ん?」

 

研究員同士が話している会話が聞こえた楓は物陰に隠れて話を盗み聞きする。

 

「つーか、何で急に打ち切りになったんだろうな?」

 

「さぁな。どうせ上の事情だろう。あのモルモットが危険すぎるからとかじゃないの?」

 

「(えっ?打ち切りって……………星奈ちゃんの事だよね?どういう事?そう言えば、いつもよりも研究所全体が騒がしいというか………………何かに混乱しているような……………?)」

 

思わず飛び出して聞こうとする楓だが、次の瞬間衝撃的な言葉を耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けどさー、殺処分するくらいなら俺があれ貰いたいんだよなぁー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……………………え?いま、なんて…………殺、処分……………………?)」

 

楓が呆然とする中、男らは会話を続ける。

 

「何だよ、情でも湧いたのか?」

 

「いや別に?俺ってああいう幼女系がタイプだからさ。俺の発散用の道具として使いたいなー、ってだけだよ」

 

「やめとけやめとけ。お前みたいなロリコンは瞬殺されるのがオチだよ。何せ相手は女の恰好したバケモンなんだからさ」

 

「まぁでも、あと2、3時間後に執行だろ?出来たらチラッと顔だけ見てきて、今日のおかずにさせてもらうわ、ハハハハハッ!」

 

男らが歩き去って行く音を楓は物陰から呆然とした様子で聞いていたが、手に持っていた包装された箱に入っている誕生日プレゼントを床に落とした音でハッと正気に戻り、そのまま走り出す。

 

「早く行かなきゃ……………星奈ちゃんの所に……………………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

全てを聞いた星奈は何も言わない。楓もいま彼女が何を考えているのか分からなかった。

 

「私に出来る事なら何でもするよ。だから、望みを捨てずに助かる道を探して行こ?ね?」

 

そう声を掛ける楓だが、当の星奈はどこか達観しているような表情だった。

 

「……………いつか、こうなる気はしていた」

 

「え……………?」

 

「私は夥しい人間を葬った殺し屋。生きていていい訳がない。だから、この結末を迎えるのはむしろ当然の義務」

 

「…………………!」

 

星奈はもう自身だ辿る結末を受け入れてしまっているように楓には見えた。だから、星奈は彼女に笑みを見せる。

 

「……………今までありがとう、楓。辛い事もあったけれど、あなたと過ごせた時間はとても心地よかった」

 

「っ…………………そんな簡単に諦めないでよ!きっと、まだ何とか出来るよ!」

 

自分がいかに無責任な事を言っているかは楓も自覚していた。ただ、それでも言わないという選択肢を取る事は出来なかった。

 

「……………ありがとう。けど、こればっかりはしょうがないよ。………………それに、私みたいな化け物(・・・)はこの世界に存在しない方がたぶん色々と都合が良いと思う」

 

「っ………………!」

 

星奈が自分のことをそんなふうに(化け物)言うのが楓はとても悲しかった。

 

「……………………そうだ。誕生日プレゼントって結局どうだった?」

 

「……………うん、用意してあるよ」

 

「そっか……………ありがとう。じゃあ、見せて貰っても良い?私の最初で最後の誕生日プレゼントを……………………最期の思い出を私にくれる?」

 

「……………………」

 

楓は無言で懐から誕生日プレゼントが入った箱を取り出す。震える手で包装を取ると、中身を見せようと箱に手を掛ける。

 

「(………………………星奈ちゃんは運命を受け入れている……………………なら、私がわがままを言って困らせる訳にはいかないよね……………私に出来るのは彼女の意志を尊重する事だけ……………………)」

 

楓はそう言い聞かせながら、震える手で箱を開けて行く。そして、楓の視界に星のネックレスが映ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『被験体AGW-111。それが私の名前』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………相変わらずシャツがダサい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたは私の事をモルモットじゃなくて人として見てくれて、接してくれた。それが私にとってはずっと嬉しい事だった。それが漸く分かった。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………私はこの先、実験がうまく行っている限りはどんどん人ならざる存在になっていくと思う。それでも…………………それでも、あなたは私を人として見てくれる?接してくれる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ありがとう、楓』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………名前に続いて、また楓から大切なもの(誕生日)を貰えた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓の頭の中にこれまでの思い出が一瞬で過ぎった。

 

「……………………いやだ」

 

「……………………え?」

 

やはりこのまま終わりを迎えるのは楓には無理だった。大粒の涙が床に落ちるのも気にも留めず、楓は星奈に向かった叫ぶ。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ!!星奈ちゃんとこんな所でお別れ何て嫌だよぉ!!」

 

「楓………………」

 

星奈はここまで感情的になる楓を始めて見た。それ故か、言葉を失ってしまう。

 

「これが最初で最後の誕生日プレゼントなんて嫌だ!!来年も、再来年も、ずっとあなたの誕生日を祝ってあげたい!!」

 

「……………………」

 

「前に私の夢の話をした時に私が羨ましい、自分にはそんな夢を持つ事は無理って言ってたけど、私はそんな事はないと思う!生きていれば絶対、何かやりたい事や夢が見つかるかもしれないし、そう言うの夢ややりたい事を探すのって人生の醍醐味ですっごく楽しんだよ!それに、私が羨ましいって事は本当は夢を見つけたいんじゃないの!?」

 

「……………………!」

 

「あと………殺し屋だから生きていい訳がないとか、星奈ちゃんは存在しない方が良いって、周りの人達は皆そう言うかもしれないけど!だったら、そんな声を掻き消すぐらいの声で私が言う!!星奈ちゃんは生きてて良いんだって!!」

 

「……………………!!」

 

大声で一気に自分の想いを伝えた楓は肩で息をする。そして、アクリル板越しに自分を見つめる星奈に向かって手を伸ばす。

 

「ハァ、ハァ………………だから、さ………………私と一緒にここから逃げよ?そして……………………一緒に生きよ……………?」

 

「……………………」

 

星奈は何も言わない。俯いていて楓からも今彼女がどんな顔なのか分からない。楓にとってはとても長く感じたが、実際はほんの1分後の話だった。

 

「………………あなたは本当にずるい人だね」

 

「…………………」

 

「何も言わなければ、私はあのまま死を受け入れられたのに……………………なのに」

 

星奈は自分の腹部に手を突き刺すと、埋め込まれていた自爆装置と抑制装置を取り出して床に放り投げる。傷口は一瞬で塞がった。

 

「……………あなたが前に写真で見せくれた星空をこの目で見たい」

 

自分と楓を遮るアクリル板に掌で触れる。アクリル板にひびが入る。

 

「私もあなたのように夢を持ってみたい。探してみたい」

 

アクリル板のひびがどんどん広がって行く。

 

「……………あなたがくれた誕生日をこれからも祝って貰いたい」

 

楓は後ろに数歩下がる。次の瞬間、アクリル板が粉々になって砕け散った。

 

「全部、あなたのせい。私がこう思うようになったのも、全部あなたのせい。だから……………………責任取って、私と一緒に生きて」

 

「………………うん、喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究室内に警報が響き渡る。

 

「警報!?………………………なっ!?し、主任!被検体が脱走しました!!自爆装置も外されて、独房の床に穴があいて」

 

「何故誰もモルモットの監視をしていなかった!!モルモットの監視の1つすら出来んのか、この役立たずどもが!!」

 

報告した研究員を蹴り飛ばしながら桐生は叫ぶ。桐生の指示で研究資料やデータなどの研究の証拠を抹消する作業を全員で行っていた為、桐生を含め誰も星奈と楓の会話やモニターを誰も見ていなかったのである。まさに失態である。

 

「武装警備員に連絡!!奴を絶対に逃がすな!!さっさと見つけて殺せ!!そうしなければ、ここにいる全員が殺されると思え!!俺も奴の始末に向かう、お前達は証拠の抹消を進めていろ!!」

 

「わ、分かりました!」

 

桐生は憤怒の表情を浮かべならが研究所内を走る。

 

「(あと一歩で目当てのものが手に入ると言うのに、モルモットの分際でこの俺に手間を掛けさせやがって……………!!上等だ、モルモット!!お前は俺の手で確実に殺してやる…………………!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、確か案内図だとこの辺が……………………あった」

 

楓の目の前にある部屋にか関係者以外立ち入り禁止と言う表記がされている部屋があった。パスワード式で厳重な警戒態勢。だが

 

「じゃあ、星奈ちゃん。お願いしても良い?」

 

「分かった」

 

星奈が軽く蹴りを入れると、ドアは大きく凹んで吹き飛ぶ。彼女の前ではどんな警備も意味をなさない。

 

「ふっ、ちょろいね」

 

「あなたは特に何もしていないけどね」

 

「まぁ、それはそうだけどね」

 

話しながら2人は部屋に入る。その部屋は配電盤が設置されている部屋だった。楓は暗闇だと逃走確率が上がると考え、研究所の電源を落とそうとここを星奈と共に訪れたのだ。

 

「よーし、じゃあ電源を落として行こー!……………………あ、そう言えば落とし方とか分からないや。オワタ」

 

「……………………はぁ。下がっていて」

 

ため息を付きながら星奈はそう言うと、拳に白いオーラを纏うと配電盤に向けて拳を振るう。次の瞬間、配電盤は火花を散らして機能を停止し研究所全域が暗闇に包まれる。

 

「これでよし。恐らく監視カメラも停止しているだろうから、今のうちに逃げよう」

 

楓の言葉に星奈は頷くと、2人はダッシュで部屋を跡にする。

 

「それで、どうやって逃げるの?」

 

「そうだね……………走って逃げるのだと星奈ちゃんはともかく、私は何処かで力尽きるからね。なので、ここは車と言う便利な交通手段を使って逃げるとしよう。研究所を出て近くの街に入れば、違和感なく溶け込めるしね」

 

「それで、その車とやらはどこにあるの?」

 

「地下の駐車場!」

 

2人はエレベーターではなく階段を使って地下へと降りて行く。途中で誰ともすれ違わなかったのは幸運だろう。急いだお陰か、1分も経たずに誰もいない地下の駐車場に到着した。

 

「あの青いのが私の車!あれに乗るよ!」

 

少し先にある小さな車を指さすと、2人は車を目指して走る。長年閉じ込められていた研究所から自由になるまでもう間もなくだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、そうはさせない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、2人の背後から飛んで来たミサイルが楓の車を直撃。楓の車は大きく爆発し、炎に包まれる。

 

「なっ……………………!?」

 

楓が後ろを振り返ると、そこにはドローン兵器を引き連れている桐生がいた。間もなく、地下にジープが何台も入って来て2人を囲む。そして、降りて来た武装警備員が2人を囲む。

 

「正門ではなく別のルートから逃亡を図ると思っていたが、俺の予想通りだったな。そして、お前()が裏切っているであろう事もな。さぁ、モルモット大人しく投降しろ。そして、俺の為に死んでくれ」

 

桐生は目の前にいる星奈に武器をチラつかせながらそう勧告する。だが、星奈の答えはもう決まっていた。

 

「悪いけど、それは無理。私は生きていたいから」

 

「生きていたい、ねぇ………………何もかも俺達に作られた人形のくせに、まるで人間みたいな事を言うようになったな」

 

「………………作られた存在?」

 

楓がそう問い返すと、桐生は邪悪な笑みを浮かべなら肯定する。

 

「教えてやるよ。こいつが『死神』と呼ばれる殺し屋であり、記憶喪失であると言うのは全部()だ。こいつは元々、殺し屋でもないし記憶を失ってもない。俺達が実験を進めるのに都合が良いからと、そう言う設定(・・)しただけだ。お前は元々この実験の為だけに作られたバイオロイド。お前は人間じゃねぇ、人の姿をしただけのまがい物の化け物(・・・)なんだよ!」

 

「………星奈ちゃんが、殺し屋でも記憶喪失でもない…………………?」

 

衝撃の事実に楓も驚きを隠せなかった。当の星奈もショックを受けているのか、何も発しない。

 

「これで分かっただろう?お前の性格も、記憶も何もかも、俺達によって与えられたもの。お前自身は何も持っていない、空っぽの器なんだよ!そんなお前が生きていたいとは笑わせてくれる。どんなにあがこうが、お前は俺達人間のようには生きられない。生きる価値すらない。どんなに人間の真似事をしようと、お前は化け物(・・・)でしかないんだよ!」

 

「……………………」

 

「お前の唯一の価値は、お前が死ねば俺の欲しいものが手に入ると言うだけだ。だったら、ここで大人しく死ね」

 

冷淡な声で桐生はそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………星が見たい」

 

真実を語っている間、沈黙していた星奈はそう呟いた。

 

「夢を持ってみたい。探してみたい」

 

「あ?」

 

「楓に誕生日を祝って貰いたい」

 

何を言っているのかと言いたげな桐生に対して、星奈は彼の目を見ながら口を開く。

 

「確かに、あなたの言う通り私は今まで空っぽの器だったのかも。けど、今は違う。楓と出会って、生きたい言う望みや、夢を持ちたい。誕生日を祝って貰いたいと言う欲求を抱くようになった。私自身がそう望んだもの。私の中に存在している確固たる想い。これは誰かによって与えられたものじゃない!」

 

「………人間もどきが生意気な……………………!」

 

「それに、私は別に人間じゃなくても良い。世界中が私を化け物としてしか見なかったり、生きる価値がないと言っても…………………私を人として見てくれて、生きていて良いって言ってくれる人がいるから」

 

そう言って星奈は笑みを楓の方を向いて浮かべる。楓は驚いていた様子だったが、すぐに笑みを浮かべて頷く。

 

「だから、お前なんかの為に私は死んでやらない。これが私の答え」

 

「………………はぁ」

 

桐生は心底めんどくさそうにため息をついた。

 

「………………今までのモルモットは記憶や感情がないと何故か神聖力を制御できずに死んでいった。だから、お前には記憶や感情を与えたが……………………その結果、こんなにもうざったい野郎になるとはな………………ところで、俺は今の会話でお前の弱点が分かった」

 

「…………弱点?」

 

星奈が訝しげな表情を浮かべる中、桐生は冷徹な笑みを浮かべながら言う。

 

「お前の弱点、それはな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつがお前の精神的な支えである事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、銃声が鳴り響く。星奈は咄嗟に攻撃を受けたのかと身構えるが、自身は何ともなかった。

 

「……………………ぁ」

 

楓の小さな声がした。数秒遅れてドサッと倒れる音がする。星奈が楓の方を見ると、彼女は地面に倒れていた。その服には銃で撃たれた穴が開いていた。

 

「……………………楓?」

 

「……………………」

 

「……………………かえで?」

 

「……………………」

 

楓からは何も返ってこない。体を揺らしても、何も反応しない。

 

「あ…………そんな…………あぁ……………………あぁぁぁ…………………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………………!!」

 

「お前はまだ幼いが故に、こいつに依存する事で精神を安定させてきた、なら、その支えを取っちまえば、絶望がお前を支配し、生きる気力すら奪う。そうなれば」

 

膝をつく星奈にゆっくり近づくと、桐生は無抵抗の彼女の後頭部に銃を押し付ける。

 

「お前を殺すなど容易いものさ。じゃあな、モルモット」

 

次の瞬間、銃声が駐車場ないに鳴り響いた──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────筈だった。

 

「ウガァァァァァァぁァァァ!?腕が、俺の腕がァァァァァァァァァァ!?」

 

桐生が銃を持っていた右手が腕ごと切断されていた。その痛みに悶える桐生を気にもしない様子で星奈はゆっくりと立ち上がると、赤黒いオーラを纏っていく。

 

「A――urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrッ――――――――!!」

 

「グォッ!?」

 

声にならない、女の子らしからぬ咆哮とともに赤黒く染まった神聖力が放出され、その余波で桐生や武装警備員が吹き飛ばされる。

 

研究所を貫いて神聖力が空へと放たれる。何も知らない者からすれば光の柱がそびえ立つ神秘的な現象に見えるであろう。まさか小さな少女の肉体から放たれる憎しみの光だとは誰も思うまい。

 

「……………………」

 

彼女は止まらない。理性を失い、目に映るものを全て破壊する獣と化した。

 

「殺せ、奴を殺せェェェェェ!!」

 

桐生の合図で武装警備員から攻撃が開始されると、同時に赤黒いオーラを纏う彼女も静かに動き出すのだった―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神界

 

「………………!」

 

椅子に座って小説を読んでいた第1位が何かを感じて立ち上がる。それと同時にカノンが部屋に転がり込んでくる。

 

「たたたた大変です!とある世界で神聖力の行使を感知しました!その世界に神界人は誰もいない筈なのに、しかもとんでもない出力のものです!」

 

「あぁ、僕もほんの僅かだがそれを感じた。カノン、リリィを招集して一緒に調べて何でも良いから分かり次第報告しろ」

 

「分かりました!第1位様はどうなさるつもりですか?」

 

「直接この目で見てくる」

 

そう言うと第1位は一瞬でカノンの目の前から姿を消した。

 

to be continued……………




《用語解説》

神聖力…………用語は既に神様の過去編で出てきてたし、軽く解説してたけど改めて。要は魔力、MPと同じ。神聖術や数字持ちの特権である固有能力は全て神聖力を用いて発動させる。

星奈ちゃんが暴走するだけでなく、第1位も動き出す事態に。あーあ、バレないようにしてたのに遂に第1位が動き出しちゃって………………これ、第1位を何とかできたとしても(たぶん無理)桐生は褒美貰えないやろ。だって、星奈ちゃんが暴走したのこいつのせいだし。『やらかしたで賞』があったら桐生がノミネートだよ、おめでとう。

まぁ、そんな訳で楓と星奈ちゃんの2人の物語の行く末をお楽しみに。
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