三玖が一花に電話を掛ける2時間前、風邪で寝込んでいる一花に五月は付き添っていた。
「あーあ、最終日に体調崩すなんてついてないなぁ…………」
「不注意が招いた事故です。日中は大人しくして反省していてください」
「はぁい…………五月ちゃんは私に付き合ってないでスキーしてきなよ。私も体調が回復したら行くからさ」
「ですが…………」
「…………ソウゴ君と顔合わせづらい?」
「………………………」
核心を付かれた五月は黙ってしまう。そんな五月を見ながら一花は話を続ける。
「まぁ、あんな事があったら無理もないか。それに五月ちゃん、あの旅館からずっとソウゴ君を警戒してたよね」
「………あれは一花でしたか…………まだ出会って3ヶ月しか経っていないのに、こんな事になるとは思いもしませんでした…………」
「ソウゴ君が悪い人に見える?」
「そう言う訳では…………」
「ソウゴ君が変わってる人に見える?」
「…………それは見えます」
やっぱそうだよねー、と一花は心の中で苦笑しながら呟く。
「男女の仲となれば別問題です。私は火野君の事を知らな過ぎる……………………………………………あ、それと上杉君の事も」
「(………あれ、もしかしてフータロー君の事忘れてた…………?)」
一花にフータロー忘れ去られてた疑惑を掛けられている事を当人はいざ知らず、五月は
「男の人はもっと見極めて選ばないといけません─────」
「……………。確かにそうかもね。でも大丈夫だよ、五月ちゃん。あの2人は………お父さんとは違うよ」
一花は2人の背中を思い浮かべながらそう断言するのだった。
「ミニ版だが、見ろよ上杉。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねぇか。完成度高けーな、オイ」
「すぐに壊せ!」
え、なんで?
「何を不思議そうな顔してんだ!どうみてもアレだろうが!」
「アレじゃない。ネオアームストロングサイクロンジェット………って、ああ!」
上杉によってネオア(以下略)は破壊された。棒(意味深)と玉(意味深)は雪へと還ってしまったのだ。
「あーあ…………そんなにヤバいものに見えるか?言っておくが、宮城県の仙台市の小学生が作ったNSA砲が夕方のゴールデンタイムの時間に放送されていたとある番組の提供バックで紹介されてんだぞ?」
「嘘付け!こんな規制や苦情殺到間違いなしの大砲が提供バックで紹介されてたまるか!」
いやいや、とある世界線にこんな大砲をゴールデンタイムで流したアニメがあったんだよなぁ。遠くを見ながらそんな事をしみじみと思っていると、かまくらからスマホを持った三玖が出てくる。
「電話終わった?」
「違う。スピーカー、っと………」
『…………ソウゴ君、フータロー君、聞こえる?』
この声は一花姉さんか。
「おう。今どこにいるの?」
『私も滑ってたんだよねー。そしたら少し咳が酷くなっちゃって』
「病人は寝てろっての…………」
『三玖にも言われたから、もう今から戻る所だよ。………三玖とソウゴ君が一緒にいるなら、ちょっと安心………かな』
「え、何て?」
『何でもないよ。………じゃあ、3人にお願い。1人でいる五月ちゃんを見つけてあげて。ほんとは寂しい筈だから』
「りょーかい。心当たりがある」
「あれれー、おかしいぞー?」
「食堂に五月がいないとはな…………」
「2人とも失礼………」
うーむ。自信あったんだけどなぁ。渾身の予想が外れて少しガックリしつつも外に戻る。
「そういや、五月の姿を1度も見てねぇな。三玖と上杉は?」
「私も見てない」
「…………俺もだ………もしかしたら上級者コースに…………ッ…………」
突然上杉がクラっとして壁に手をつく。
「フータロー、大丈夫?汗凄いけど………」
「………って、お前!凄い熱じゃねぇか!!おでこめっちゃ熱いぞ!?」
「…………どうやら、らいはから貰ってたか………」
…………思い返せば、寝たいとか言って体調不良のサインを出してたな…………クソッ、気付いてやれれば良かったのに、不覚……………!
「すぐに戻って休んだ方が良いよ。五月は私達が」
「3人とも見っけ!」
背後から三玖に四葉が抱きつき、三玖は顔面から雪にダイブ。そういや、すっかり忘れてたな。
「これで後は五月だけです!」
四葉も五月を見付けてないのか………。
「おーい、こっちこっち!」
「まったく、私も人捜ししてるってのに………」
四葉に呼ばれて来たのは二乃と一花姉さん。これで五月以外は全員揃ったって訳だ。
「つーか、一花姉さんは何故コテージに戻ってないんですかねぇ………」
「ごめんごめん、四葉に捕まっちゃって」
「ったく……………一花姉さんとフータローはさっさとコテージに戻って休め。上杉、歩けるか?」
「………ちょっと待ってくれ……………四葉。五月には逃げ切られたのか?」
「いえ、見かけすらもしませんでした」
「……………事態は………思ったよりも深刻かもな…………」
「…………遭難か?」
「ああ…………その可能性がある」
上杉の言葉に三玖ら4人も険しい表情を浮かべる。広いゲレンデとは言え、確かにこれだけ動き回って姿すら見ないのは何かあったとしてもおかしくない。俺は懐からゲレンデのマップを取り出して広げる。
「五月は他のを選択したとかないの?」
「一花、五月はスキーに行くって言ってたんだよね?」
「え………うん。もしかしたら上級者コースにいるんじゃないかな?」
「そこは私が行ったけどいなかったわ」
ふむ。と、なると───────
「……………ここはどうだ?」
「え、ここって…………先生が整備されてなくて危険だから進入禁止って………」
「三玖の言う通り。真面目な五月に限ってその話を聞いてないと言うのは無いとは思いたいが─────ここまで見かけてないと、ここで滑った結果、事故って動けなくなってる可能性もあり得るな」
「!………コテージにいないか見てくる」
「私は先生に言ってくるよ!」
俺も上杉を連れてコテージに行くか、と決めた矢先に一花姉さんがマスクに覆われた口を開く。
「ちょっと待って。もう少し捜してみようよ」
「なんでよ。場合によってはレスキューも必要になるのよ」
「えっと………五月ちゃんもあんまり大事にしたくないんじゃないかな、って」
「大事って…………五月の命が掛かってるのよ!」
「っ…………ごめんね」
マジで五月はどこに行ったんだ………………さっきはああは言ったものの、真面目な五月が話を聞いていないとは考えづらいし、やっぱ何処かで俺は見掛けてたとかあるんじゃねーのか?
……………今日の出来事を振り返ってみるか。四葉、上杉と一緒にスキー場に来て、遅れて来た三玖と気まずい空気になって、さらに遅れて来た一花姉さんの提案で鬼ごっこをする事になって、逃げてる最中に一花姉さんから昨日の件について訊かれて、止まり方が分からなくて────待てよ?そう言えばあの時、一花姉さんは俺の名前を─────
『ひ、火野君─────⁉』
─────あの時はどうやって止まるかしか頭に無くて何とも思っていなかったが、どうやら答えはもうとっくに出ていたようだ。…………やれやれ、名探偵のコ〇ン君なら大分前に気付いてたのかね?
「もういいわ、私が先生を呼んでくる」
二乃が歩き出そうとするのを、俺は肩を掴んで止める。
「ちょっとあんた!まさかあんたも一花みたいな事を言うわけ!?」
「まさか。体は子供、頭脳は大人の小学生名探偵に遅れて、五月の居場所が分かっただけさ!」
「「「「「!?」」」」」
「後は全部俺に任せろ。皆は上杉を運んでやってくれ。さっさと五月を見付けて来るわ」
「………………信じて良いのよね?」
「とある名探偵の座右の銘を借りて言えば、『僕が良ければ全て良し』ってね」
「………………なら、さっさと行ってきなさい。こいつは私達で運んでおくわ」
「よろしくな。…………ああ、そうだ。名探偵の助手として一花姉さん。ちょっと一緒に来て手伝ってくれ」
「!」
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「高いのー」
「確かにかなりの高さだけど…………もしかして、ここから見つけるの?」
「そゆこと」
一花と総悟の2人はリフトに乗っていた。
「にしても、腹減ったな…………夏ならスキー場の雪にシロップをかけてかき氷で食うのにな。五月も食いそうな希ガス」
「…………。いや、流石にそれはないと思うけど………」
一花がそうツッコミを入れて前を向くと、前に乗ってるリフトのペアが肩を寄せあってイチャイチャしているのが目に入った。
「…………や、やっぱり止めな「あ、いたわ」………ど、どこ?」
総悟は下の方を指差す。
「ほれ、今真下を通過してるのだよ。絶対そうだろ」
「そ、そうかなぁ………」
「ほら、よーく見てみ」
「うーん………あれは違うような」
「ああ、違うね。どう見てもおっさんだし」
「…………え?」
総悟は一花の頭に手を置くと、髪の毛─────いや、カツラを取る。
「かくれんぼは俺の勝ちだな、五月」
「………………!!」
一花──────いや、五月は何も言わない。しかし、驚いていた。隣にいる男に変装が見抜かれるとは考えてもいなかったからだ。
「五月は眼鏡がないと遠くとかよく見えないだろ?」
「…………………」
「にしても、大事になっちゃったな。後で二乃辺りから怒られるだろうが、それは我慢してクレメンス」
「………………怒って、ないんですか」
「別にそうでもない。俺は懐の深い男ですからな」
「……………1つ、聞かせてください…………いつから気付いていたんですか…………?」
「最初から………………なーんて言えたら名探偵っぽくてカッコ良かったんだけどね。気付いたのはつい先程。だが切っ掛けは時を遡ること、俺が止まり方を分からず暴走する少し前─────俺を『火野君』と呼んだ事だ」
「!!」
「あの時はどうやって止まるかで頭がいっぱいだったから気付かなかったけどな。一花姉さんは『ソウゴ君』って俺を呼ぶ。あと一歩、つめが甘かったな。上杉が俺と同じ立場でも見抜かれてただろうね。いくら他人に関心が薄いあいつでも、それくらいは皆の事を絶対に知ってる」
「っ……………すみま、せんでした……………私、どうしても確かめたくて……………」
「………………………」
「………ひ、火野君?」
総悟の雰囲気が変わった事に気付き、五月は声を掛ける
「…………確かめる……………ああ、そう言うことね……俺って信用されてなかったのね…………」
「ち、違います!そう言う訳では!」
ネガティブな雰囲気が流れ出した総悟に五月は慌てて言うが、総悟のネガティブ化は止まらない。
「そうだよね、俺ってうるさいドS陰キャだもんね…………それに、昨日の肝試しだって五月を泣かせてるもんね…………女の子を泣かせるような奴を信用できないなのは当たり前だよね…………あはは…………」
「(火野君のネガティブ化が止まりません………!)そ、そんな事無いです!火野君の事は信頼してますよ!だって、その………………り、料理が美味しいですし!」
「…………そっか……………俺は料理の腕だけしか信頼されてなかったのね…………衝撃の新事実……………」
「誰か助けて下さいー!ネガティブ化が止まりませんー!」
リフトの終点に総悟と五月は到着した。
「おー、まだ人がたくさん滑ってるな。この中に強い奴が滑ってると思うとオラ ワクワクすっぞ!」
「あれ………全然ネガティブと言うか落ち込んでない…………?」
「当たり前だろ。この総悟君が落ち込むのはよっぽどの事態か、アニメとかの趣味が関連しないと無理だな。え?じゃあさっきのは何、だって?……………つい、からかいたくなってな。要は『からかい上手の火野さん』ってね♪…この滑ってる人混みの中にcv.梶〇貴の西片いねーかな(笑)」
「『からかい上手の火野さん』ってね♪………じゃ、ありません!もう!」
「フハハ!人に散々心配を掛けたんだ!ささやかな仕返しだ!」
五月は頬を膨らませてからかわれた事に対して不満そうな表情を浮かべ、総悟はささやかな仕返しが出来た事に満足そう。そんな2人に話し掛けてくる影が。
「あ!さっき雪で倒れてた人だー!」
「ほんとだ~!」
「何してるのー?」
「げっ、あん時のキッズ達…………」
「知り合いですか?」
「うん…………まぁ色々と訳あり…………」
散々面倒な目に遭わされたキッズとの再会に、総悟はまたもや嫌な予感に襲われる。そして、すぐにその予感は的中した。
「あ!さっきのお姉さんと違う女の人を連れてるー!」
「あ、ほんとだー!」
「てことは……………お兄さん、浮気だー!」
「違うわ!!!」
「いけないんだー!浮気をする男は最低って、お母さん言ってたー!」
「うん、まぁそれは確かにお母さんの言う通りなんだけども!でも、別に浮気じゃないから!!そもそも付き合ってないからね!?」
「そ、そうです!私は彼と付き合っていません!!」
「……………あ!付き合ってないって事は、結婚してるんだー!」
「「!?」」
逆転の発想とでも言えば良いのだろうか。取り敢えず、予想外の発言に2人は反応できず絶句。
「じゃあ、あのさっきの女の人も結婚相手なのかなー?」
「結婚相手が2人いるんだー!」
「僕知ってるー!お兄さんみたいなのをハーレムとか女たらしクソ野郎って言うんだって、お父さんが言ってたー!」
「おのれお父さんッ!余計なことを教えやがって!子供にはまだ早いでしょうが!」
「どんな教育をしてるんですか!」
総悟と五月で息ピッタリのダブルツッコミを入れる。
「息ピッタリだからやっぱり結婚してるんだー!」
「ハーレムだー!」
「女たらしクソ野郎だー!」
「やろぉぉおぶっくらっしゃぁぁぁ!!(野郎オブクラッシャー!!)」
「雪だるまを持ち上げてこっちに来たー!」
「潰されるぞー!」
「逃げろー!」
「ひ、火野君!?落ち着いて下さいー!!」
その後、遊んでくれた(?)と言うことで3人の親と何だかんだで仲良くなって連絡先を交換してから2人はスキーで滑ってコテージに帰ったとさ。おしまい。
to be continue………
次回で林間学校編は完結です。長かったような希ガス。
五月の幕間の物語も絶賛執筆中です。お楽しみに。
次もぜってえ見てくれよな。