「……………そうですか。上杉君は安静にしているのですね」
「……………………」
色々とあってあのキッズらの親と仲良くなって連絡先を交換して滑ってコテージに帰ってきた後、上杉の部屋で荷物をまとめていた四葉から俺達がいなかった15分間の話をしてくれた。
「………私のせいだ………」
「「!」」
「具合が悪いのに気付かないで上杉さんを振り回して……林間学校を台無しにしちゃった……………こんなに楽しみにしてたのに…………」
四葉が見せてくれたのは付箋でびっしりの上杉の林間学校のしおり。これだけであいつがどれだけ楽しみにしていたのかが一目瞭然で分かった。
「四葉だけのせいじゃないだろ。上杉の側にいたのに体調不良に気付いてやれなかった俺にも責任がある」
「そ、そんな!火野さんのせいじゃありません!上杉さんに林間学校を楽しんで貰おうとして…………私が余計なことをしたから…………」
目に涙を浮かべて今にも消えてしまいそうな声で呟く四葉を見ていると胸が締め付けられる気がした。どうしたものかと考えていると、五月が四葉の持っているしおりを取るとページを捲る。
「結局のところ、上杉君がこの林間学校をどう感じてたのかは聞かないと分からないでしょう…………ですが」
「「!」」
五月はページの間に挟んでいたメモ帳を見せてくる。そこに書いてあったのは『らいはへの土産話』と称した林間学校の感想だった。そこには楽しくなかった等のネガティブな事など何処にもなく、むしろ楽しかったと書いてあるものしかなかった。
「『四葉と火野とやった肝試し。火野が愉悦とか言ってる意味が分かった気がする。楽しかった』…………ハハハッ、あいつもドSの要素があるな」
「『四葉が教えてくれたスキー。だが、四葉が止まり方を教えそびれてて色々と大変だったが楽しかった』………そう言えば上杉さんに教えてませんでした」
ええ、ついでに俺にもな。そーいや、五月を探す時にしおりに何か書いてたのを見たが、あれは四葉が読んだスキーの事についてだったのか。
「これ、本当なのかな………?上杉さん、楽しかったのかな……………?」
「楽しかったに決まってるだろ。こんなに『楽しかった』って連発してるんだし。四葉は余計なこと、って言ってたけどよ────ここに書いてある通り、あいつにとっては良い思い出になっていた。無駄じゃなかったって訳だな。ま、それでも不安なら今度本人でも訊いてみな」
「…………じゃあ、今訊いてきます!」
気がはえーな、おい。
「いや、上杉の部屋には先生がいるんじゃなかったか?さっき四葉が言ってたような」
「こっそり行けば大丈夫ですよ!……………あ、危うく伝え忘れるところでした。火野さんに一花から伝言があります!」
一花姉さんから俺への伝言?
「『
「…………………ああ、
「はい!」
一花は独りでキャンプファイヤーに盛り上がっている生徒らを見つめていた。すると、後ろから『抹茶ソーダ(ホット)』が差し出される。
「風邪は水分補給が大事」
「そ、ソーダなのにホットなんだ………まぁ、ありがとね三玖……………あと、ごめんね」
「?」
「ソウゴ君とのダンス、断るべきだった。伝説のこと、三玖の思いにもっと早く気付いてあげられれば良かったのに………(そしてこの気持ちにも…………)」
三玖は暫く黙っていたが、やがて無言で一花を抱きしめる。一花が困惑していると三玖は自分の心中を語り始める。
「ずっと思ってた。私だけ特別なのはだめ。『平等』じゃないといけないって」
「そんなこと…………」
「でも、ソウゴに言われて『平等』はやめた」
──────『公平』にでも行きましょうぜ?
三玖はそう言ってくれた男の顔を思い出して微笑を浮かべながら一花に『宣戦布告』する。
「私はソウゴが好き。だから好き勝手にする。でも、一花達もお好きにどうぞ。……………これで『公平』だね」
「!」
「けど、私は負けるつもりはないから」
一花はその言葉を聞くと自然と笑みが浮かんだ。妹の力強い成長を喜ぶかのように。意図してなかったとしても、自分の想いさえも肯定してくれた事を嬉しく思うように。一花はホットな抹茶ソーダを開けて1口飲む。
「…………絶妙に不味い………けど、効力は抜群だね。ありがと」
「どういたしまして」
「……………お、きたきた」
「!」
「待たせたな(ス〇ーク風)」
やって来たのは誰であろう、
「もー、遅いよソウゴ君。てっきり来ないのかと思ってたよ。でも、これで約束通り
「………………え!?」
「ファッ!?」
「ほら、だってダンスの約束は私の格好をした
そう言うと一花はスッと立ち上がる。
「それじゃあ、私はフータロー君の様子を見てくるから後はお2人でごゆっくり~」
「ちょ、お姉さん!?」
総悟の声をスルーして、一花はコテージに戻って行った──────
「(…………上手くやりなよ、三玖)」
──────心の中で妹に一言エールを呟いて。
彼女が本格的に動き出すのは、まだまだ先のようだ。
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取り敢えず、前田氏に見つかると面倒なので三玖を連れてキャンプファイヤー場から少し離れた人目のつかない所へ移動。
「(てかさ………一花姉さんに俺が三玖の事を好きなのバレてね?くっつけさせられたよね、これ…………)」
さっきの口調的に絶対そうだろ、完全に。三玖LOVEな空気を一花姉さんの前で出した覚えはないのだが──────まぁ、良いや。一花姉さんと踊る筈が三玖と踊る状況にcv花〇香菜によって作られちまったが、ありがとよ姉さん。姉さんが作り出したこの状況を無駄にはしないし、このご恩は一生忘れないぜ。
「ふーっ…………………み、三玖さん?」
「…………うん」
「………俺と…………踊ってくれない………か?」
「……………!」
「え、えっと………そ、その……………や、約束してたし!?元はと言えば三玖と約束してたし!?俺は一度交わした約束を守る男だし!?あと、ダンスとかやった事ないから踊ってみたいし!?ででで、でも、伝説とか気になってたりするとか、俺と踊るのが嫌なら別に断っても良いからね!?全然落ち込んだりしないからね!?だって俺、結構長生きしてるし!?結構精神的なメンタル強いし!?あ、あとは、えっと、その………」
「お、落ち着いてソウゴ…………」
「──────はっ!?俺は何を言ってたんだ…………?」
好きな子をダンスに誘うとか、前世含めてもやった事がないから緊張し過ぎて、自分でも何を言っていたのか思い出せん……………一花姉さんの時はふつーに『踊らね?』って言えてたのに。一花姉さんが『like』で、三玖が『love』だからなのかなぁ…………?
「取り敢えず、深呼吸して」
「アッハイ……………スーゥ………ハァー……」
深呼吸を5セット繰り返すと、スーパー緊張モードから完全にいつも通りの感じに戻った。
「……………よーし、オケオケ。あー……………それで、アンサーを聞かせて貰っても?」
「う、うん…………
…………よ、喜んで」
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「モキュモキュ…………楽しそうですね~、お2人とも」
コテージの屋根の上から、映画館で余ったポップコーンの残りをおつまみにして総悟と三玖が踊るのをGOD様は見ていた。
「まぁ、これで三玖ちゃんと結ばれる……………なーんて展開も王道的で良い。けど、僕の見立てでは
神様は残っていたポップコーンを一気に自分の口に流し込んで飲み込むと、ポップコーンの入っていた容器を消滅させて立ち上がる。それと同時にフィナーレのカウントダウンの声が聞こえてくる。
「結びの伝説なんて関係ない。恋なんてものは伝説が決めるんじゃなくて、自分の手で切り開かれるものだからね。前世からの推しの三玖と結ばれるのか、それとも心変わりがあって
ニヤリと不敵な笑みを残して神様はその場から消えて行った。
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《ダンス終了後》
「あー、楽しかった!何かアレだな。最初の方は『女子と手を繋いでダンスしちゃってるー///』的な感じの事を考えてたけど、慣れりゃ大した事はないな、うん」
「うん。私も同じことを思ってた。楽しかったし、また機会があったらやりたい」
「そっか」
意外と乗り気ですな。あれ、と言うか……………………結びの伝説によるとこれで結ばれる確定…………………?
「…………いや、そりゃないか」
「え?」
「いーや、何でもないよ」
ロマンではあるけど、やっぱり改めて考えてみると三玖や上杉も言っていたように非現実的だし、恋ってのは自分の手で切り開いていくもの。三玖と付き合えるかどうかは、今後の俺の行動次第か。伝説を非現実的と言っていた三玖は今回踊ったところで俺に恋心的なのは抱かないだろうし、猛アタックあるのみだな!
「……………月が綺麗だね」
「え?あ、うん。そうだね」
……………残念、知らなかったかぁ。
to be continue…………
別に一花は総悟が三玖の事を好きなのを知らないのに、総悟が盛大に勘違いしてます。正確には一花は三玖が総悟の事を好きなことしか知らないんですけどねぇ。まぁ、言い方的にそう思っても仕方あるまい。許してやってくれ。
さぁ、漸く三玖が総悟の事が好きなのを自覚。改めて、互いに互いの事が好きな状態になりましたね。ここからくっつくのにどんくらい時間が掛かるのやら。あらかじめ言っておきますけど、そんなにすぐにはくっつかんですよ。すんませんね。
そして一花姉さん含めた他の4人達との恋の発展はあるのでしょうかねぇ……………?
今回もこんな駄文を読んでいただき、ありがとうございました!
明後日、五月の幕間物語を投稿です。幕間は54321の順で行く予定ですのでお楽しみに。