総悟side
俺は上空にいた。正確に言えば、京都へ向かうヘリコプターの中にいた。
『ほう、今の技術は凄まじいな。まさか空を自由に書けるからくりまで開発しておるとは』
「…………………」
俺にテレパシーで話しかけてくる村正だが、その問いに答える気分ではなかった。その理由は簡単だ。
俺の手に持つ刀をパイロットに
『なんじゃ、まだうじうじしておったのか』
「(……………あのな、村正と違って俺はこういうのは慣れてないんだわ。別に後悔はしてないけど、やってる事は犯罪なんだからそりゃモヤモヤすんの)」
俺が思いついた最高最悪の作戦はこうだ。一言で言うと、『発進しようとしているヘリコプターをジャックして京都駅上空まで連れて行って貰う』と言う感じだ。恐らくあいつは俺が上空から奇襲するとは考えてもいないだろう。監視されている事も考えたが、そもそも監視しているなら俺が村正と手を組んだ時点で俺を襲いに来ていたり、三玖を脅しの材料に使っていた筈だ。それが無いと言う事は、恐らくあいつはこの状況を知らない筈だ。
……………もしくは、全て知った上であえて見逃しているのか。星奈さんに勝つ力があるから。何をしようとも勝てるから。
『ふん、どちらでも良いではないか。知っていようが、知っていまいが』
「(と、言いますと?)」
『奴がこちらの動きを把握していようがしていまいが、奇襲が成功しようがしまいが、最終的に地に足をつけて立っているのが貴様であれば良い。最終的にこちらが勝っていれば良いのだからな』
……………確かに村正の言う通りかもしれない。もうここまで来たら色々と考えても無駄だろう。ならば、作戦通りに動くのみだ。…………………そうだ、1つ大事なことを言い忘れていた。
「(……………村正。もし、万事全部解決したらお前は俺を殺しに掛かるだろうが、殺るならせめて三玖の見てない所で殺ってくれ。ま、無抵抗で殺されるとは言ってないが)」
『ふん…………………ま、考えておいてやろう』
京都に着くまで、間もなくだ。
「いやー、すごい騒ぎになってるね~」
総司は辺りを見回しながら呑気な様子で呟く。京都駅周辺から強制的に人を全て追い出す結界を張り、交通インフラを麻痺させる等とんでもない被害を出していて国家レベルの大騒ぎに発展しているのだが、気にすることは決してない。そもそも、名前も顔も知らないやつが死のうと彼にとってはどうでも良い事だ。
「こんな光景、2度と見れないだろうから君も見ておくかい?」
「…………………」
後ろを振り向きながらそう問いかける総司。だが、
「……………おっと、話し掛けるならこっちか。強いて言えば、だけど」
総司は懐から青い三角の結晶体を取り出す。この小さな結晶体に三玖の記憶や人格、その全てが詰まっていると言っても良い。
「兄さんが来たら、そうだなぁ…………………空っぽになった君の肉体を見せた後に、この結晶に彼女に人格とかが全て詰まっている事を説明してからぁ…………………目の前で粉々に砕いてあげよう!どんな表情を見せてくれるのか、楽しみだねぇ?」
三角の結晶を懐にしまいながら、そう独り言を呟く総司。彼は気付かない。その独り言を聞いている者がいる事を。三玖の手がピクリと動いたことも。
「うわ、めっちゃニュースになってるね。自衛隊の出動の可否も含めて閣議が開かれててるんだ。ま、これだけの騒ぎになれば当然か。ま、この結界はあいつ以外は何もかもは入れない仕組みだから、無意味なんだけどね~」
「そうですか。しかし、あなたは
「へー、例外なんてあったんだー。…………………は?」
後ろを振り向くと、総司の視界には迫りくる拳があった。それを後ろに大きくジャンプして避けると、総司は目の前の人物を見て驚愕する。
「…………どういう、ことだ?」
目の前にいる人物────────三玖を見て総司は困惑や動揺を隠せない。彼女の意識や記憶は全てあの三角の結晶体で眠っている。動ける筈がないのだ。
「それともう1つ。大切なものは懐のポケットにいれない事をお勧めします」
「は?…………………まさか!?」
総司は懐のポケットを探るが、先程まであった三角の結晶体はどこにも無い。当の結晶体は三玖(?)の手の上にあった。
「さっきの攻撃はフェイクで、目的はその結晶体を奪う事って訳かぁ……………………けど、今ので確信したよ。まだあの女の意識や記憶は戻ってない、つまりあんたは三玖ではない。その女の身体に入り込んで動かしてる何者かって訳だ。そうだろう?」
「えぇ、その通りです」
特に誤魔化すことなく、三玖の身体に入り込んでいる何者かは認めた。
「誰だか知らないけどさー、良いの?そんな事して」
「…………………」
「さっきから戦う気満々なのが伝わって来るけど、僕に勝てると思ってる訳?どこまで知ってるのか知らないけど、僕は特殊な能力を持っていて、今の人類の中では最強に分類されるからね。何者で何が目的か知らないけど、もう勝敗は目に見えてる。戦っても無駄なのは明白だと思うけどね?」
一方的にそう告げる総司。だが、目の前の三玖(?)はそんな彼を嘲るかのように薄い笑みを浮かべる。それを見た総司は苛立ちが湧き上がってくるのを感じる。
「…………何笑ってるわけ?」
「これは失礼。随分と面白い事を言うものですから。自分が強いと言う割には、先程は私に攻撃されていると勘違いして大きく後ろに逃げていましたので」
思わぬ煽りに総司は青筋を浮かべる。だが、三玖(?)は煽りを止めない。
「あなたとは会って間もないですが、1つ分かった事があります。あなたは自身を最強だと言っていますが…………………
私からすれば、そこにいるのは力を持って調子に乗っている
「…………………コロス!」
その言葉は。侮辱は総司にその決断を即決させるのに十分だった。総悟の事など今の彼の頭の中には無かった。あるのは、自分を侮辱したあの女を殺す事だけだ。総司は拳に神聖力を纏うと、接近してその拳を三玖(?)に振るう。
「(この程度の挑発に乗りますか。私としては好都合ですが、そのプライドの高さと短絡的思考は欠点ですね)」
そう考える三玖(?)の瞳が紫色に発光した次の瞬間、紫色の防壁が総司の拳を止めた。
「っ!?障壁!?」
「私にこの力を授けてくれた彼は言っていました。自分の子供を守りたいと思うからこそ、
「……………第1位か。死人が余計な事をしてくれたもんだ、ね!」
総司はさらに出力を上げて攻撃を続行するが、その障壁が破られる事は無い。三玖(?)は涼しい顔を浮かべている。そんな何も変わらない光景が5分程続いていた。総司は内心苛立っていたが、それを表には出さず口を開ける。
「へぇ、ここまでやるとはね…………………けどさぁ、僕の予想だけど長くは持たないんじゃないの?」
「…………………」
「図星みたいだね」
実際その通りで、三玖(?)が行使する力は長くは続かない。最長10分しか持たない。……………最も、総司はそれ以上にもっと大切な事に気付くべきだったが。
「安心してよ、あんたが力尽きたら三玖は殺しておいてやるからさぁ!そんでもって後悔しな、この僕に喧嘩を売った事にね!」
それを聞いた三玖(?)は呆れ気味に息を吐く。総司はそれを見て怪訝な表情を浮かべる。
「………………今ので確信しました。やはり、あなたは力があるだけのただの小物です」
「………………あ?」
「私は彼の事をよく知っていますよ。故に、断言できます。あなたは、あなたが嫌いな総悟君の足元にも及ばない」
「ッ……………まぁ、良いさ。勝手に言ってなよ。最後に勝つのはこの僕だ。あいつもそろそろ来るだろうし、それを証明してあげるよ」
挑発にキレそうになりながらも、総司は獰猛な笑みを浮かべる。遂に制限時間が迫っているのか、障壁にヒビが入る。
「じゃあね、三玖の母親!まぁ見とけよ、自分の娘が死ぬざまをあの世でさぁ!!」
ヒビが入った箇所に、総司は拳の神聖力を一点に集中させて叩きつける。ヒビがどんどん広がっていくが、彼女に焦りの表情は無い。何故なら、時間稼ぎと言う目的は既に達成したからだ。
「(私は娘達を守る『盾』。『矛』の役割を担うのは私ではない。あなたは最後まで気づきませんでしたね。何故私があのタイミングで出て来たのか。私の目的は何だったのかを)」
心の中でそう呟きながら、先程取り返した三玖の意識や記憶の結晶体を額に当てる。三角の結晶体は三玖の頭の中に吸い込まれるように消えて行く。
「…………………では、後は任せましたよ」
傍にあった椅子に腰掛け、意識が途切れる直前に
「待たせたな(ス○ーク)」
不敵な笑みを浮かべる総悟によって、顔面に向けて振り下ろされる木刀だった。
「……んっ………………んんっ………ここは……」
長く眠っていたような気がした。三玖は目を覚ますと、自分がベンチに腰掛けていた事に気づく。何故、自分はここに?そもそもここは一体…………そんな彼女の脳裏に総司が過る。
「っ!!そうだ、私は……………」
全て、思い出した。自分が何をされたのか。大切なものを奪おうとしたことを。総悟の秘密を。もっとも、後者はまだ断定は出来ないが。
「三玖」
自分の名を呼ぶ声に心が震えた。声のした方を振り向くと、そこには自分が愛する男がいた。腰には木刀を差していて、さらに背中には刀が納められた鞘を装備していた。
「ソウゴ!」
「フアッ!?」
思わず三玖は立ち上がると、総悟に思いっきり抱きつく。
「良かった…………本当に良かった……………!もう会えないかと…………!」
「アーイキソ(昇天)」
『こんな状況でも惚けられるようでむしろ安心したわ。……………悪いが、まだ終わってないぞ』
村正の声が響くと、総悟は一瞬で切り替えて三玖を守るかのように前に出る。
「三玖、この声の主とか色々と聞きたいこともあるだろうが、とりま今は下がっていてくれ」
「う、うん」
有無を言わさない口調で言う総悟に三玖は素直に従い、総悟の後ろに下がる。次の瞬間、床を突き破って舞い上がる瓦礫を突き抜けて拳が総悟に迫る。それを総悟は木刀でしっかりと受け止める。
「やぁ、久しぶりだね兄さん」
「…………ああ。久しいな総司」
それが、かつての兄弟達のこの世界では初となる会話だった。
to be continued……