最後の祭りが四葉の場合
「良かった、まだ始まったばかりみたい。この劇に四葉さんが出るらしいんだけど」
「まだ来ていないようじゃのう」
らいはと上杉父、そして村正と星奈は体育館に劇を見に来ていた。
「風太郎が言うにはえらい大根らしいじゃねーか」
「はは…………ちょっと心配だね」
そして、四葉が現れる。
「ここまでよ勇者一行!あんた達をここで死なすのは惜しい!私の配下につきなさい!」
それは想像以上にハイクオリティな演技だった。
「見事の一言に尽きますね」
「すごい…………四葉さん、カッコいい…………!」
「ま、役者の長女と同じ血が流れてるしのう」
舞台は大好評で幕を閉じたのだった。
「お前、ほんとにどこにでもいるな……………」
「う、上杉さん!」
四葉がからあげ屋の呼び込みのお手伝いをしていると、そこに上杉が現れた。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、俺は休憩中だからブラブラ回っていたらお前を見かけただけだ。らいはがさっき言ってたぞ、お前の演技が凄かったと」
「えへへ、らいはちゃんに褒められるとは嬉しいです!それにあの劇、明日からは本来の脚本に戻すみたいなので、もっと展開が面白くなりますよ!今日も夜、寝る前に練習する予定です!」
「………………。四葉、お前無理してないか?学級委員長でもないのに、何でそこまでして手伝うんだ?」
「そんなの……………決まってます!私もこの文化祭を大成功させたいからです!」
一瞬、四葉の心の中で何かがざわついた気がしたが、本人は気のせいだろうと無意識に目を逸らした。
「…………ま、お前の誰かの役に立ちたいという気持ちを否定するつもりはない。だが、無理だけはするなよ」
「あはは…………火野さんにも同じことを言われました。大丈夫です、無理のない範囲でやりますから!……………あ、では私は次のお手伝いがあるので失礼します!」
そして、四葉は走り去っていった。走って、学校に入り…………………静かに壁に寄っかかる。胸に手を置くと、鼓動が激しく鳴っていた。
「(何で……………どうして、上杉さんと話しているだけで…………………っ、余計なことを考えちゃダメ!………もっと手伝いをして、気を紛らわそう)」
何かから逃げるように四葉は再び走り出すのだった。
2日目
「(上杉さん……………それに、隣の女の人は一体…………………?)」
四葉は見た。上杉の隣にいる黒髪の女を。総悟と三玖と一緒に仲良く射的しているのを。
「(………え)」
四葉は無意識のうちに拳を強く握っていた事に気づく。そして、胸の内に黒い感情が渦巻いていた事に。彼女は分からない、それが嫉妬だと言う事に。いや、分からないフリをしたと言うべきか。だって、その感情を認めてしまえば好きだと認める事になるからだ。
「火野さんから聞きましたけど、皆さんが風太郎の生徒とか。……………じゃあ、これでハッキリしたね。私とあなた達、どちらがより親密なのか」
だが、人間とは感情に支配される生き物。四葉もその感情からは逃れられなかった。
「わ、私の方が上杉さんのこと……」
「ありがとうございます!」
その言葉は五月に搔き消され、届かない。1名を除いて。
「っ……………………!」
逃げるように駆け出す。その後姿を見つめる1人の視線に気づかないまま。
「お仕事ください!」
「何かお困りごとですか?」
ひたすらに仕事を請け負っていく四葉。余計なことを考えないように。
働いて。
働いて。
働いて。
働いて…………………。
「あ、いた。風太郎のお友達ですよね?」
「あれっ」
目を覚ますと、知らない天井があった。
「ここは……………?」
「病院だ」
声の主は総悟だった。その側には村正と星奈もいる。
「お前がぶっ倒れてたのを俺が発見してここに連れて来た(村正の力を借りたお陰で救急車呼ぶよりも早くついたのは秘密だが…………………)。他の姉妹にはとっくのとうに連絡済みだ、二乃と上杉だけ何故か電話に出なかったがな」
後で知る事になるが、上杉とニ乃の2人は丁度移動中だったので気付かなかった。
「……………そう、だったんですね。すみません、ご迷惑をお掛けして…………………早く戻らないと…………………」
「演劇部か?」
「はい、早くしないと」
「もう終わったよ」
四葉はすぐにその言葉が理解できなかった。
「終わったって………………どういう…………………」
「今はもう夜です。…………2日目は終わってます」
星奈の言葉に四葉は絶句する。
「……………申し訳ない、2人は席を外して貰っても良いですか?」
「「………………」」
2人は何も言わず退席。部屋の中には四葉と総悟の2人きりになる。
「取り敢えず……ベットに戻れよ、四葉」
「火野さん、私は「聞こえなかったか?ベッドに戻れよ」っ……………」
四葉は大人しく戻る選択肢しかなかった。
「なぁ、四葉。お前って、何でそんなに誰かを助けようとする?」
「何でって………人助けに理由なんか」
「確かに。人助けに理由なんていらないよな………………けど、お前は違うだろ」
「え…………………」
「お前にはあるよな?人助けする理由」
総悟は椅子から立ち上がると、ゆっくり四葉に近づく。
「俺はお前を運んでる最中考えてた。お前が人助けする理由。そして、1つの仮説に辿り着いた。確信もした」
「…………違います………」
「お前の人助けは誰かの役に立ちたいからじゃない」
「………私は……誰かの役に立ちたいから……」
「違うな。間違っているぞ。四葉、お前が人助けするのは
嫌われたくないから。そうだろ?」
四葉side
火野さんはあの後、すぐ出て行った。『ま、あとはどうするかは自分で決めるんだな。俺はマルオさんをストーカーしてくるわ』なんて言っていた。
……………火野さんが言った事は正しい。全くもってその通りだ。目を逸らしていた事に火野さんが強制的に、漸く向き合わさせられた。
「私は………………皆のために生きるって決めた……………けど違った」
そう誓った後、上杉さんと高校で再会した。私は上杉さんに嫌われる事が怖くなった。私が上杉さんとの約束を守れず、落ちぶれた事を知られて嫌われるのが怖くて。そして、嫌われる事への怖れはいつの間にか上杉さんに対してだけではなく、姉妹や他の皆にも広がった。それが私の行動原理の1つとなっていた。
「…………私は……………嫌われない為に行動していた………」
いつの間にか目的が入れ替わっていた。二乃が自分の事も考えなさい、と言われた時に何か引っかかった訳が漸く分かった。何て自己中なのだろう。身勝手なのだろう。…………………そんな自分が嫌になる。
どうしたいか、どうするべきなのか分からず私は病院内を理由もなく歩いていた。何だかじっとしていられなかったからだ。
「起きたか」
何故か上杉さんがいた。
「………上杉さん………どうしてここに…………………」
「二乃がパンケーキ作りしてるから邪魔するのも悪いと思ってな。お前の父親も暫く戻ってこないらしいしな…………お前の事は火野から聞いた」
「…………上杉さん。私、馬鹿でした」
「…………………」
上杉さんは黙って何も言わない。
「あの日から皆の為に生きると決めたのにっ…………………いつの間にか嫌われない為に…………………自分の保身に走っていました…………………」
「…………………」
「そんな私の身勝手の為に……………無価値な自己満足の為に……………………多くの人に迷惑を掛けて……私のせいで……………………なんて言えば………………」
「………………」
上杉さんは何も言わずに、携帯を取り出して操作すると私に見せてくる。
「これは……………?」
「今日の舞台の映像だ」
「…………ええっ!?」
なんで…………………一体誰が…………………?
『そこまでよ勇者一行!』
この人は……………陸上部の部長さん?
「お前の代役を買って出てくれた。中々にはまり役だな」
「で、でも衣装は」
「この2人を覚えてるか?」
「……被服部のお2人………………もしかしえ縫い合わせてくださったんですか?…………私のせいで…………………」
「この2人だけじゃねぇ」
上杉さんは何枚も写真を見せてくれた。そこに写っていたのは見覚えのある人ばかり。
「こいつらはお前の世話になった奴らばかりだ。お前のせいで、じゃない。お前の為に集まったんだ」
「っ……………!」
「お前がさっき言っていた事を、俺は完全に理解できた訳じゃない。だから、今は上手いことを言える訳でもない。…………………けどな、これだけははっきりと言える。どんな目的があったにしても、お前が人助けしてきた事実は変わらない。身勝手だろうと、自己満足だろうと…………ちゃんと意味はある。この写真がその証明だ。お前のしてきた事が無価値だなんて俺が言わせねぇ」
涙が止まらなかった。無意味でないと、無価値でないと。上杉さんがそう言ってくれただけで私は救われた。何て単純なのだろう。けど……………それが私なんだ。
「お前が受け持っていた明日分の仕事は俺に任せろ。持ちつ持たれつ、って言葉がある。お前は持ちつ側だったが、別に持たれたって良いんだ。……俺もお前に世話になった1人だ。託してくれ」
「…………………。上杉さん、この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありません…………最終日、私の分の仕事をどうかお願いします」
「ああ、任せろ」
3日目
あの後、部屋に戻ると暫くしてお見舞いに来た二乃に怒られて、その後に一花も来た後にゆっくり休息をとるとだいぶ体は回復していた。許可を貰って学校に行き、皆にお礼回りを終えた。
そして、階段のところで上杉さんが休んでいるのを見つけた。ふと、昨日竹林さんと色々と話した時の事を思い出す。私が過去に会っていた事を見抜いた辺り、流石は上杉さんの先生だった。
『自分は無意味で必要ない人間だと、同じことを言っていた人を知っています。その人は前を向いて歩いています。あなたも、過去から踏み出せますように』
「………………風太郎君」
「…………零奈か」
「ずっと約束を覚えてくれてありがとう。けど、私は守れなかった。……………ごめんなさい」
「…………そんな事気にすんな」
「………風太郎君は気にしてないの?」
「まぁ、昔の事よりも今の方が大切だろ。昔はダメだったのかもしれない。けど、今のお前は一生懸命勉強してる。なら、それで良いだろ、零奈………」
「………いや……………もう四葉で良いか?」
「………………うん」
正直、肯定するか迷わなかったかと言えば噓になる。でも、私は選んだ。もう自分自身から逃げるのは嫌だから。
「……………四葉、お前には謝らないといけない。お前はあの時、自分の正体を隠して俺を立ち直らせてくれた。お前は困っている誰かの為に全力で手助けする、馬鹿が付くほどのお人よしだってのに。どうしてもっと早く気づいてやれなかったんだか……………」
違う。お人好しなんかじゃない。私の行為は皆から嫌われたくなくて…………違う、最初は上杉さんから嫌われたくなかったから。
でも、それが本当の理由じゃない。
「…………………誰かの為じゃない」
「?」
「風太郎君に………好きになって欲しかったから……………」
「…………………なっ!?」
今まで振り向かなかった上杉さんが漸く私の方を向く。
『嫌われたくない』……………裏を返せば『好かれたい』。私は、風太郎君の事が好きだ。ずっと、ずっと前から好きだった。だから、私は過去の出会いを無かった事にした上でも、私の事を好きになって欲しかった。その為に人助けと言う行為をしていた……………どうやら私は、自分が思っていた以上に風太郎君のことが好きすぎたみたいだ。自分勝手、偽善者。そんな言葉が浮かんだ。
でも、それ以上に別の言葉が。想いが大きくなって、もう抑えられなくなった。
「風太郎君」
「好きだよ、ずっと前から」
to be continued………………
はい。四葉編でした。
嫌われる覚悟で正直に言うと、私は原作の四葉周りの展開は正直好きじゃなかったです。
不満点は長くなるので言いませんが、不満点を全てスッキリさせて、ワイが満足する展開は何かと聞かれたら今回の話のです。
上杉が気付けたのは『愛』です。特に理屈はありません。と言うか、愛に理屈なんていらないでしょ(名言)
さて、次は五月編ですね。全国5千万人のハゲのアンチの皆さん、お待たせしました。ハゲをクッキングするバジリスクタイムのお時間が間もなくです。前後編構成で、本番は後編です。
お楽しみに。