マンションの四葉の自室
夜、四葉は机に向かっていた。
「……………………よし」
四葉は握っていたシャーペンを机に置く。そして満足そうに紙を眺める。
その紙はかつての進路面談では空白で書けなかったもの。そこに空白はもう無かった。
総悟side
何か四葉から時間をクレメンスと連絡が来たのでワシの自宅に来るようにした。上杉も来るらしい。折角の土日だがまぁ、三玖は私用があるので良しとしよう。もし三玖とのお出かけがあったらぶち〇していたかもしれない。勿論、上杉か武田を。
「ふぅ、デュエマ。しかし、今期はアニメが豊作じゃのう。薫る花に青ブタ、タコピー等々……………これは楽しみで授業中も寝ちまう(問題発言)」
ふっ、いつだが授業中寝る一花姉さんを呆れていた奴がこのざまである。流石だな(?)
おっ、そうこうしている間にチャイム!玄関の鍵を開ける。おっ、あいてんじゃーん(当然)
「こんにちは、火野さん!」
「邪魔するぞ」
「入って、どうぞ(迫真)………………あ、上杉」
「なんだ?」
「†悔い改めて†」
「何をだよ!?」
「どうぞ、こちらをお納めください!」
「上杉の解雇通知か?」
「冗談でもヒヤッとする事を言うのはやめろ(微震え声)…………あの時の進路のやつか」
「ファッ!?」
俺氏も慌てて紙を覗き込む。
「大学進学………………全部体育大か」
「はい。運動系の事を学べる学部に行きたいと思っています」
「……………そうか」
「ちなみに、どうして体育大に?」
俺氏の質問に四葉は真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「まぁ、お2人もご存じの通り私は運動が得意ですから。その才能を活かせて、さらに磨く事も出来ると思ったので」
「……………それは」
俺の言葉を制止するように四葉は手の平を出す。………………どうやら今日の四葉は察しがよろしいというか。取り合えず最後まで聞くか。
「……………私がスポーツの才能を本格的に開花させたのは前の学校で色んな部活に助っ人として参加したからです」
「せやね」
「……………まぁ動機としては一言で言うと承認欲求だったので、どちらかと言うと不純でしたけどね」
「「……………………」」
「運動系の事を学べる大学への進路は考えてはいましたが、そういう背景もあって決めきれなくて…………………けど、文化祭の時、上杉さんが『私のしてきた事は無価値ではない』と言ってくれました。……………………例え動機は不純だったとしても、これまでの選択……………私が前の学校で部活の助っ人をした事も。スポーツの才能を開花させた事も。決して無意味では無かったと思ったんです」
「四葉……………」
「……………フッ」
思わず笑みが零れる。彼女の成長が嬉しくて。過去の自分を肯定できるようになったのが嬉しくて。
「まだ具体的な職業とかは決まっていませんが……………他の姉妹にはないこの才能をもっと磨いて。その才能を活かして誰かを助け、必要とされる人になりたいと思っています」
…………………正直、ちょっと感動した。四葉、変わったな。見違えるようだ。本当に良かった。
「………………グスッ」
お?
「お前さ上杉さぁ…………チラチラ(?)泣いてるだろ」
「………な、泣いてねーよ!」
「嘘つけ、絶対泣いてたゾ(MUR)」
「ち、ちげーよ!目にゴミが入っただけだ!」
「は?(ブチキレ)星奈さんが掃除してくれてんのにゴミがあるわけねぇダルォ!?ぶち〇すぞ、この猪野郎が!(鬼滅)」
「悪かった!悪かったから木刀×2を構えるな!」
最近取得した(!?)獣の呼吸をお見舞いしてやろうと思ったが………………まぁ、許してやろう(上から目線)
「よし、これで四葉の志望大学も決まった事だし上杉とこれからの勉強方針を決めるか」
「ああ、そうだな。……………四葉。よく自分で考えて、結論を出したな。偉いぞ」
「えへへ…………ありがとう、風太郎君。………………あ!いや、これは………!」
好意が滲み出てると思うんですけど(名推理)
「ありがとうだってよ、風太郎君」
「お、おう。…………………四葉、その……………あれだ、呼び方はどっちでも良いからな」
「は、はい………//」
ちなみに、今後四葉はたまに下の名前で呼ぶようになったらしい。どうでも良いが二乃は特に気にしてないらしい。どうせ嫉妬して小言でも言うと思ったが………………大人になったな、二乃(cvマダオ)
二乃「出番ないのに弄られるのはマジで何なのよ!」
あくる日、五月は下田と話していた。
「あくまでドラマの話なのですが………………とある女の子が付き合っている男の子と女の子が仲良くしているのを見ると僅かにモヤモヤしたり、ふとその男の子の事を目で追ったりしているんです」
「(………いや、これ絶対自分の話だろ…………)」
「あ、あくまでドラマの話ですが!その………………文脈を読み取るという観点からその女の子の心境を下田さんに解説いただければと…………」
「………………いや、そりゃ男が好きなんだろ」
「違います(即否定)」
目にも止まらぬ速さで否定する五月。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
「聞いといて否定されるのかよ…………つーか、ドラマじゃよくある展開だろ?」
「い、いやいや!彼には既に恋人がいるんですよ!?恋人がいると知っていて好きになるなんて…………」
「そこから略奪するのがいいんじゃねーか!俗に言うNTR!これがたまらないんだな~」
「……………………」
どうやら五月は納得していない様子だった。それを見た下田は小さくため息をついて話を続ける。
「というか、ドラマを見てる余裕はお嬢ちゃんには無いんじゃないのか?(絶対ドラマの話じゃないんだろうけどな)」
「き、気分転換に……………」
「ふーん………………ま、もしどのドラマの続きを描くとしたら、私だったら猛アタックして略奪する展開にするけどな。お嬢ちゃんはどんな展開がお望みなんだ?」
「………………………」
「ま、別に答えはあえて聞かないが。くれぐれもドラマの見過ぎで勉強の方に支障は出すなよー」
「………………はい」
五月side
「(私が火野君の事を好きだなんてあり得ません!火野君には既に三玖という彼女がいるんですから!)」
それに、既に付き合っている人の事を好きになるだなんてどうかしています。間違っています!私はそんな人間ではありません!全く、下田さんも変な事を言いますね。お陰で昨日はよく眠れず、いつもより早く目が覚めてしまいました。
「(まぁ、恐らくただの気の迷いでしょう。暫くしたら忘れるに決まっています!)…………にしても、たいぶ早く目が覚めてしまいましたね。今日は朝ごはんの当番ですし、準備したらたまには気分転換に1人で歩いて登校しましょうか」
と言うわけで朝ごはんの用意をした後、書置きを残して家を後にします。いつもより早い時間に出ましたし、折角だからいつもとは違うルートで歩いて行きましょう。にしても、もうすっかり冬が近づいていて肌寒さを感じさせますね………………あ、こんなところにコンビニが。
「………折角ですし、暖かい飲み物でも買いましょうか」
「あ^~いいっすね^~(さ〇ま)」
「ええ、こういう時は暖かいものに限りま………………え!?」
聞き覚えのある声にびっくりして思わずバランスを崩しそうになりますが、手を掴まれて地面に倒れずにすみます。
「朝から何してるんですかねぇ…………」
「ひ、火野君………?」
「おう、あなたの先生の火野君ですばいですばい」
心臓の鼓動が高まっているのを感じます。顔も何故だか熱い………………な、何で。
「五月?もすもす?」
「は、はい!元気です!」
「そ、そう(困惑)」
い、いけません!こういう時は冷静に…………!
「ふーっ…………失礼しました。火野君、先程はありがとうございました」
「おう。つーか五月は何でここに?」
「ちょっと早く起きてしまったので、たまには違うルートでゆっくり登校しようかと。火野君は?」
「810先輩に追い掛け回される悪夢見てめっちゃ早く目が覚めてな。2度寝して続き見たくないからはよ家出た」
何でしょう、よく分からないですが悪寒がしますね………………。
「じゃ、ワイもコンビニへレッツゴー」
「あ、私も行きます!」
と言うわけで、火野君と一緒にコンビニを物色。火野君は緑茶だけですが、私は見ている内に、肉まんやらピザまんやらを買ってしまいました。これがコンビニの魔力………………恐ろしいものです。
総悟「欲に忠実なだけやろ」
そのまま2人で話しながらゆっくりと学校へ向かいます。
「はー、あったけ。しかし、寒すぎんやろ」
「もうすっかり冬ですね。文化祭も終わり、後は受験を残すのみです」
「はー(クソでかため息)受験とかいうクソゲーがぁ……………三玖とイチャイチできないんじゃ」
「っ………………」
………………あれ?私、今……………何を感じた?
「しかし、終わってみれば受験も思い出になるものよ。五月も含め全員志望校に絶対合格させてやるぞい」
「…………ふふっ、頼もしいです」
……………気のせい。先ほどのは気のせいに決まってます。火野君には三玖という相手がいます。もう半年近く前から付き合っているんです。嫉妬なんてする訳ないです。
「ま、五月も最近は調子よさげだしな。あのハゲを始末してから心スッキリしたもんな」
「そう、ですね」
「今でもたまに夢を見る………あのハゲが810先輩に襲われる夢を。夢の中で俺はそれを見ながら焼き肉を食う。これが愉悦」
「どんな夢ですか…………火野君は相変わらず自由人ですね。まぁ、そういう所が火野君の魅力ですが」
「コココ、これこそ総悟ちゃんよ」
――――――――この時間が続けば良いのに。姉妹の誰もいない、私と火野君と2人きりでとりとめのない話が出来るこの時間が………………え?
「ソウゴ、おはよっ!」
「どぬお!」
動揺している私の事などいざ知らず、後ろからやって来た三玖が火野君に抱き着きます。
「おー、三玖おはようさん。くーっ、何度見ても可愛いんじゃい!」
「ふふーん(ドヤ顔)」
私と話している時には見せない笑顔を見せる火野君。………………ああ。やっぱりそうなんですね。
「………………火野君、私は先生に用事があったのを思い出したので先に行ってますね。では」
「お、おう?」
「…………?」
逃げるようにその場を去る。漸く理解した。この感情は『嫉妬』。
つまりは、そう言う事なんだ。
「…………私………………火野君の事が好きなんですね…………」
そう言葉にすると全て腑に落ちた。私は無意識の内に彼に惹かれていた。いつからだろう。何が切っ掛けだったのだろう。無堂先生の件…………いや、彼の家で生活していた時?……………いや、もっと前。林間学校の時かもしれない。
……………いや、いつからと言うのはもう重要ではないのかもしれません。
私の恋は、もう既に終わっている。
自覚するのが余りにも遅くて、その間に三玖が彼と相思相愛になった。けど、正直あの2人はお似合いだと思っています。互いが互いの事を愛し合っていて、本当にお似合いです。嫉妬してしまいますが、あの幸せそうな2人の間に不協和音を奏でるような事をする選択肢は私にはありません。
「(2人の事を考えればこそ、この想いは墓場まで持っていきましょう。ええ、それが最善です!)」
……………ああ、でも。辛くて、苦しいですね。
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数日後
「これはおかしい」
「おかしいわね」
「非常事態」
「絶対におかしいです!」
五月抜きの4人は秘密裏に星奈さんの家に緊急で集まっていた。
「ここ最近の五月ちゃん、どうも元気ないよね」
「そうね、夕飯も食べる量がいきなりガクンと減ったわ。これは何かあったに違いないわ」
「今月は食事代が少し浮きそう」
「五月、どうしちゃったんだろう……………」
4人が頭を悩ませていると、星奈が手作りのクッキーを持ってきて4人の前に出す。
「総悟様も五月さんの様子が変なのは気づいているみたいですよ。昨日もお悩みの様子でドアノブを壊していました」
「昨日
「あのままですと来週中には全てのドアからドアノブが無くなりますね。そうなったら私があの家を24時間警備をしなくては」
「いや、先ずはあのドSの力に耐えれる頑丈なドアノブに変える事から始めるべきだと思いますけど………………」
二乃の至極まともなツッコミはさておき、4人はクッキーを味わいながら話を続ける。
「うーん、誰か原因に心当たりがある人いる?私は最近仕事ばかりで皆とそこまで一緒じゃなかったからさっぱり………………」
「私もね。四葉はどう?」
「うーん、私も最近まで自分の進路の事ばか考えてたからさっぱり………………三玖はどう?」
「………………」
四葉に振られた三玖は少し目を瞑って数日前の事を回想する。あの日、朝の登校時に去っていく五月の瞳の奥に何かが見えた気がしていた。その正体を三玖は少し前に漸く思い出した。総悟と相思相愛になって、恋人になってからは抱く事が無くなった感情。
「……………五月は嫉妬してたんだよ」
「嫉妬…………?」
「私もソウゴと付き合う前はそうだったから分かる。ソウゴが姉妹の誰かと話していたり勉強を教えてもらってた時とか、少し嫉妬してた。あれはそういう顔だった」
絶妙に説得力を持った言葉に一同は黙り込んでしまう。当の三玖はクッキーを食べて抹茶ソーダを飲んで一息つく。
「五月はきっとソウゴの事が好きなんだよ。…………勿論、譲る気は毛頭ないけど」
「………………そっかぁ、五月ちゃんもソウゴ君の魅力に惹かれちゃったかぁ」
一花は複雑そうな表情でそう呟く。
「けど、あの子はたぶんあのまま黙って何も伝えない気よ。私たちが聞いても『何でもない』の一点張りだもの。…………ほんと不器用なんだから」
「二乃も大概だけどね(正論)」
「でも、このままだと五月自身はずっと苦しいままだよね………」
三玖と取っ組み合いを始めようとする二乃を四葉が引き止めながら云う。四葉の言う通り、この状況が長引くほど五月の心は苦しみに蝕まれる。もはや受験どころではなくなるだろう。
「………………でもまぁ、こういう時の解決方法は1つしかないよね」
「うん。私も四葉と同じことを考えてた」
振られた者同士だからこそ分かるものがあるのだろう。2人の言葉にはそう感じさせるものがあった。三玖や二乃も言わんとすることは分かっていた。
「よーし、じゃあ早速作戦を練ろっか!」
「「「おー!」」」
「ふふっ。若いって良いですね」
創真「いや、君もまだ十分若い分類に入るけどね」
数日後
「………………はぁ」
自室で勉強に没頭する五月。だが、本調子が出ておらず普段なら解けるような問題も間違っていた。
「…………………」
五月は無言でスマホを取り出すとメッセージアプリで火野宛にメッセージを打つ。
『火野君、少しお話したいのですがお時間よろしいでしょうか』
そう送ろうとして五月の手は寸前で止まる。そして、アプリを閉じてしまう。
「………………火野君」
想い人の名前を一言そう呟いた次の瞬間だった。
バァン(大破)
「!?」
突如として扉が開かれ、何故かグラサンを付けた姉妹4人が入る。
「確保!」
「え、ちょ、えぇ!?」
一花の一声で他の3人が五月を取り押さえる。
「二乃は着替えとかのセッティング、三玖は星奈さんに連絡、四葉は江端さんに連絡!」
「はいはい。じゃ、さっさと用意するわよ」
「ちょ、皆さんこれは一体!?」
「…………星奈さんの方も大丈夫みたい」
「江端さんもロビー前にスタンバイしているって!」
圧倒的無視ッ!五月、総スカン!
「ちょ、誰か説明してくださいー!」
20分後
グラサンを付けた江端の運転する車で公園に連れてこられた五月。到着するや否や車から降ろされる。
「じゃ、そういう事だから」
「いや、だから何がですか!?」
三玖はサムズアップだけすると車のドアを閉める。そのまま車はどこかへ行ってしまう。
「ええっと………ここはどこかの公園でしょうか?取り合えずスマホで………………あ」
五月はスマホがない事に気づく。どうやら先ほどのあれこれで置いてきてしまったらしい。
「うぅ……………一体これはどういう事なんですか………………」
「五月?」
嘆く五月に声を掛ける者が1人。その声を聞いた五月は心臓が高鳴る。振り向くと、そこにいたのは火野だった。
「ひ、火野君…………」
――――――冷たい風が2人の服を揺らす。その冷たい風を以てしても五月の熱は冷めそうになかった。
to be continued…………
たぶん後数話ですね。ついに幕引きですかぁ………………完結までがんばろ。
ではまた次で