魔法少女リリカルなのはStrikers~二つの翼を持つもの~ 作:ジェナス
六課が本格稼動を始めてからしばらくしたった日の朝、ウェザーブリーフィングを終えた政人は新人達の早朝訓練を隊舎の屋上から眺めていた。
「あちゃー、やっぱり限界超えてるよなアレ」
『むしろアレを今まで問題なく使っていたランスターさんの器用さを褒めるべきですね』
新人それぞれに割り当てられているサーチャーからの映像でハンドガン型のデバイスに弾詰まりが起きた様子をモニター越しに見た政人と烈風はそれぞれの評価をもらしていた。
「そうなるとそろそろアイツ等のお披露目かな?」
『そうでしょうね。彼等にはがんばっていただかないと』
「って、ダブルブーストかよ。ホント、ここの新人達は未来が有望すぎるよ」
『だからこそ、マスターも彼等の作成に一肌脱いだのでしょう?』
「まぁな。訓練も終わった事だしそろそろ俺も下に下りるとしますか」
政人と烈風が話し合いをしている間に早朝訓練の纏めである《シュートイベーション》は終了したようだった。その様子を見て政人は彼等のお披露目に立ち会うためにデバイスルームへと向かった。
「よ、朝早くからご苦労さん」
「あ、政人さんおはようございます。朝早くというより、最後にベッドで寝たのって何時だっけ? っていう状態ですよ」
「やはり政人さんもこの子達の事が気になりますか?」
政人がデバイスルームへと入るとすでにシャーリーとリィンの2人が新人達へと支給する予定のデバイスの最終チェックリストを進めていた。
「まぁな、基礎フレームとか魔力循環系のテストは俺がやったんだ。気になるさ」
メンテナンスポッドに浮かんでいる4つのデバイスを見つめながら言う政人にリィンは政人のところまで浮かび、深々と頭を下げた。
「本当に政人さんには感謝してます。政人さんが協力してくれたおかげでこの子達は十全にマスター達と共に戦う事ができます」
「いや、マッハキャリバー達はともかくケリュケイオンみたいな補助魔法を重点に置いたデバイスのテストは俺も経験が少なかったからな、俺もいい勉強になったよ」
そんな彼女に手を貸して自身の肩に座らせた政人はシャーリーが進めているチェックリストの結果をスクロールさせた。
「ふぅ、終わった! これで徹夜地獄から開放される!」
チェックリストの確認が終了したシャーリーが体を伸ばすのとデバイスルームの扉が再び開くのはほぼ同時だった。
「ちょうど終わったって所かな? シャーリー?」
「あ、なのはさん。本当に今丁度終わったところです」
「お疲れ様。引き続き説明とかしてほしいけどちょっときつそうだね」
「い、いえ」
シャーリーの目元に化粧では隠しきれないほどの隈を見たなのははこの後の説明をしてもらうか迷っていた。
「いーや、最低でも午前中は休め。説明は俺とリィンでするし八神にも俺から話しておくから心配するな。これ、上官命令」
「政人さんの言うとおりですよ。シャーリー、今日はゆっくりお休みするですよ」
「すみません。でも、何かあったら呼んでくださいね」
命令系統が若干違うとはいえ一尉相当の扱いとなっている政人から命令として言われればシャーリーに抗う術はなく彼女は少し気だるそうにデバイスルームから出て行った。
「えっと、シャーリーさん大丈夫かな?」
「まぁ、ゆっくり休めば何とかなるだろ。さて、説明を始めるか。リィン」
「はい」
政人がリィンに合図を送ると彼女はメンテナンスポッドに入れられていた4つのデバイスをそれぞれの持ち主の前に浮遊させた。
「これが」
「私達の新デバイスですか?」
まじまじとデバイスを見つめるスバルとティアナにリィンが明るい声で答えた。
「そうなのですよ。設計主任はシャーリーが行い、私やなのはさんにフェイトさん、さらにはレイジングハートさんとバルディッシュ、そして政人さんも協力してくれたですよ」
「え? マサ兄も?」
「ああ、詳しく区分けすると。主な設計はシャーリーが、バリアジャケットの設定はなのは達が、ソフト面がリィン、俺が担当したのは極初期のメインフレームの強度試験やら稼動試験だけだから担当した割合は他の人と比べると明らかに少ないけどな」
「あはは、私がフレームのテストしなくても良かった理由はそれだったのか」
政人の説明になのはは苦笑いを浮かべた。そんな彼女を見て政人も苦笑いを浮かべるが説明を続けた。
「ストラーダとケリュケイオンはコレが完成形だ。今まで使っていたのは2人のデータ収集やデバイスに慣れてもらうために最低限の能力以外はオミットしたプロトタイプだったからな。あ、AIに関しては今までと同じだから安心しろ」
「あ、あれで最低限」
「ほ、ホントに?」
「そうだ。お前達が使う事になるこの4機は六課の前線、メカニックはもちろんアーリアセキュリティー社のメカニックが総力を挙げて作り上げた完全ワンオフのお前達の専用機だ」
「ですから、この子達はまだ生まれたばかりですが、たくさんの人の思いや願いが込められてるですよ」
「ただの道具としてではなく、戦場を生き抜く一生涯の相棒として大切に、そして性能の限界まで思いっきり全開で一緒に戦ってやれ」
「うん、政人君の言うとおり子の子達もそれを望んでいるだろうからね」
開発経緯の概略を説明するとリィンがそれぞれのデバイスのスペックをモニターに表示させた。
「この子達にはいくつかの段階に分けて出力リミッターが掛けてあるですよ。だから今の段階ではそこまでびっくりするような出力は出ないはずです」
「だが、スバルのデバイスに関してはいままでのローラーより1.5倍以上の出力がある魔力モーターを採用した事によって最初は混乱するかもしれないから慎重に使えよ。いつもどおり最初から全力で行くと一歩間違えれば壁に激突もありえるからな、お前の場合」
「は、はい」
政人の注意にスバルは少し落ち込むがリィンと政人による機能説明は続いた。
「まぁ、出力リミッターに関しては主に隊長陣や俺、そしてメカニックスタッフが次の段階も使いこなせると判断した場合解除していく事になる」
「丁度、一緒に強くなっていく感じですね」
「出力リミッターって確かなのはさん達にもかかっていますよね」
ティアナはリミッターと言う言葉に反応した。
「まぁ、私達の場合はデバイスだけじゃなく本人にもなんだけどね」
「「「「えええ!?」」」」
驚いている4人に対して今度は政人が続けた。
「能力限定って言ってな、この部隊の隊長陣は全員かけられているらしい。部隊毎に保有できる魔力ランク数ってのは制限があるだろ?」
「「「?」」」
政人の言葉にスバル、エリオ、キャロの3人の頭の上に?マークが浮かんでいた。
「どっかのお偉いさん曰く、《一つの部隊に集中して高ランク魔道士が配属されるのは危険だ》という特殊部隊を真っ向から否定する意見から生まれた足枷だな。つか、スバル、この保有ランク制限については訓練校でもやったはずだぞ」
「あ、あはは、そうでした」
「ま、そんな中でも高ランク魔道士を多く配属させたいときに設けるのがリミッターだな」
「うん、リミッターをかけてランクを落として制限内に収める。いわば裏技の1つだね」
「たしか、八神が4ランク、他の隊長陣は2ランクが2.5ランクだったか?」
「え? 確か八神部隊長ってSSランクだから」
「Aランクまで落としているんですか!?」
「そうなんです。はやてちゃんも苦労してるです」
「え、えっとなのはさんは?」
「私はもともとS+だから今は2.5ランクダウンのAAだね。もうそろそろ皆の相手を1人でするのはきついかな?」
「隊長さん達ははやてちゃんの、はやてちゃんは直接の上司のカリムさんか、部隊の監査役のクロノ提督の許可がないと、リミッター解除が出来ないですし、許可は滅多なことでは出せないそうです」
一緒に現場に出て戦う隊長陣達が全力で戦えない事を知り、心配を表情に出す新人達を見て正人は大きく手を叩いた。
「そこで俺が出てくるって訳だ」
「? どういうことですか?」
「俺達アーリアセキュリティー社の実戦部隊の隊員は管理局と合同作戦を行っても管理局員としてはみなされない。つまり、俺に対してはランク保有制限は働かないって事だ」
「高槻さんにはリミッターが付いていないと言う事ですか?」
「そういうことだ。だから、必要以上に心配する必要は無い。というか、まだまだお前達は半人前にすらなってないんだから隊長陣の心配よりも先に自分達が現場に出ても生きて帰ってくる事だけを考えろ」
「「「「はい!」」」」
政人の喝に元気良く返事をする4人を見て政人は満足そうに頷いた。
「この子達は今までの訓練のデータをフィードバックしてあるので、そのまま実戦に出ても違和感が無いと思うのですが」
「さっきも言ったとおり、いきなり戦場に出て違和感があったので自滅しましたなんて事にはなって欲しくないからな、午後の訓練で慣らしを行ってから微調整に入る。まぁ、午後からは俺も特殊武装のテストも兼ねた訓練があるから立ち会えないけどな」
「遠隔調整も出来ますので、そんなに時間も掛からないですよ」
「便利になったよね~最近は」
「便利です! それと、スバルのデバイスはリボルバーナックルとのシンクロも出来ていますから、収納と瞬間装着もできるですよ」
「ありがとうございます!」
その後、デバイスの説明が終わり、政人達が退出しようとした瞬間、六課の敷地内に甲高いベルの音が鳴り響いた。
『スターズ、ライトニング、ヴォルメテウス、スクランブル!』
ベルと共に館内放送が掛かると同時に政人は烈風を起動しバリアジャケットとして登録してあるパイロットスーツとGスーツを装着すると転移魔法を発動させた。
「政人君?」
『何をやっている! スクランブルだぞ! 情報はヘリへ向かいながら確認しろ!』
すでに転移を終え、ノスフェラトが格納されている格納庫から政人が通信をつなげるとなのは達も急いでヘリポートへと走っていった。
転移後、なのは達に出撃を急がせた政人はノスフェラトに掛けられた搭乗用の梯子を飛ぶように駆け上がった。また着席する際に風防を左手で掴むのと同時に右手をモニターの奥へと突っ込み
「スロットルレバー、クローズ、チェック。燃料コントロールスイッチ、チェック」
飛び乗った直後、スロットルレバーが一番後ろまで下げられているのを確認すると、整備士が政人のGスーツと座席のベルトを接続している間に、座席の直ぐ左横に並べられている各種スイッチがオフに、さらにランディングギアとアレスティングフックさらにはパーキングブレーキが正位置にあることをモニターとそれらを操作するレバーを見て確認する。その後も酸素系統のチェックを行い、それとほぼ同時にJFSから
「2番エンジン始動開始」
政人が宣言と同時にハンドサインで右エンジンの始動を合図すると機付長が同じくハンドサインで了解の合図を送る。それを見た政人はブレーキを踏み込みスロットルレバーに付いているフィンガーリフトレバーを少しずつ上げていく。すると、JFSのギアと右エンジンのギア同士が繋がり、右エンジンのタービンが回転を始める。
「18% スロット、アイドル」
政人は計器パネルに表示されているエンジンの回転数が18%に達すると右エンジンに割り当てられているスロットルをアイドル位置へと進ませた。そして燃焼室へと燃料が送られ、点火装置が作動しエンジンが始動し始める。
「
右エンジンの出力が安定すると再びスロットルをアイドルの位置へと戻し、同じ手順で左エンジンの始動を開始した。そして、両エンジンが始動する頃にはINSも完全に立ち上がり、INSにミッドチルダでの経緯度を打ち込む。その間にも、整備員がウェポンベイ内に搭載されている各種兵装の安全ピンを抜き、合図を送る。合図を受けた政人はスロットルについているウェポンベイクローズのボタンを押し、ウェポンベイを閉じた。
「エレベーター、アップ」
INSに位置情報を入力すると最低限の整備員とノスフェラトを乗せたエレベーターが地上へ向けて上昇を開始した。通常の訓練でならプリタクシーチェックを済ませてから地上へと機体のみが送られるが、スクランブルでは離陸までの時間を1分、1秒でも節約するため上昇と同時に行われる。
「Control. Volmeteus01 Check in . Data link clear. 」(司令室、こちらヴォルメテウス01、準備完了、データリンク正常)
全てのチェックを終え、地上ハンガーまで来ると車輪止めを外す合図を送り、政人は無線機の周波数を六課の司令室へと合わせた。
『Volmeteus01,taxi to runway 36』(ヴォルメテウス01、滑走路36へ地上滑走せよ)
「Roger, taxi to runway 36」(了解、滑走路36へ地上滑走を開始する)
司令室から指示が入ると政人はレバーを上げてパーキングブレーキを解除し、つま先に込めていた力を抜きブレーキを解除して滑走路へと機体を進ませ始めた。
『Volmeteus01 order vector 250,climb angel 30,contact channel 2,read back』(ヴォルメテウス01、方位250、高度30,000フィートへ上昇後、チェンネル2へ交信せよ)
「Volmeteus01 order vector 250,climb angel 30,contact channel 2」(了解、方位250、高度30,000フィートへ上昇後、チェンネル2へ交信する)
『Volmeteus01, read back is correct.Volmeteus01,wind calm, runway 36,clear for takeoff』(ヴォルメテウス01、その通りだ。滑走路36からの離陸を許可する)
「Roger, cleared for takeoff」(了解、離陸を開始する)
誘導路から滑走路へと入り機体の軸と滑走路の軸を合わせた政人はブレーキを踏んだまま2つのスロットルをミリタリーパワーの位置まで押し込んだ。
「Brake release now」
そしてエンジン出力が安定するとブレーキを開放し、スロットルをAB位置へと押し込んだ。政人は座席にGによって押し付けられながらも離陸速度へと達すると操縦桿を引き機首を持ち上げた。そして機体が浮かび上がるとランディングギアを収納し更に迎角を大きく取り目標高度へと上昇していった。
「Volmeteus01, Airbone」
目標高度へと上昇した政人は離陸指示を行う司令室の周波数から六課全体が作戦行動中に使う周波数へと無線機のチャンネルをあわせた。
『ヴォルメテウス01、聞こえるか?』
「ああ、状況は?」
ヘルメットに搭載されているスピーカーから聞こえてきたのは部隊長であるはやての声だった。
『私達が追っていたレリックと思われる反応が見つかったんや、場所はエイリム山岳丘陵地帯、対象は山岳リニアレールで移動中や』
「ってことは、ガジェットにコントロールを奪われたか」
『その通りや。それに大型のガジェットや航空型のガジェットも出てくるかもしれへん。ヴォルメテウス01は現場に急行後、列車の監視を行ってくれるか?』
「了解。兵装は?」
『使用自由や』
「分かりやすくていい指示だ。ヴォルメテウス01より司令室。コレより無線通信を暗号化処理、ならびにトランスポンダーをカットする」
『了解や。Good ruck(幸運を)』
「Thanks, Lieutenant Colonel」(ありがとうございます。部隊長)
通信を終えるとステルス性を確保するため飛行位置を司令室へと送っていたトランスポンダーを切ったために司令室とのやり取りは暗号処理をされた秘匿通信と衛星通信によるデータリンクのみとなった。
「烈風、レイジングハートに個人間秘匿通信をつなげてくれ」
『了解しました。つなぎます』
政人が現場空域に到着する僅かな時間に烈風に指示を出すと、烈風は指示通りレイジングハートと通常の無線に比べさらに暗号処理された回線を使い通信をつなげた。
『こちらスターズ01、どうしました?』
「いや、新人達の様子はどうだ?」
『皆、緊張しているけど問題はなさそうだよ。1人を覗いてね』
「キャロか」
『うん、多分まだ自分が持っている力を怖がっているんだと思う』
「やっぱりそうか。しっかりと背中を押してやれよ。教導官」
『言われなくても。そっちこそちゃんと制空権握ってよね』
「任せておけ。通信終了」{これで地上部隊の憂いはなくなったな}
通信を終了し、政人は現場空域へと急いだ。
Lieutenant Colonelは英語で陸軍中佐を意味します。
はやては二等陸佐なのでLieutenant Colonelを使用させていただきました。