戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ〜 作:絆蛙
海上に浮かぶ二課仮設本部内、司令室の中では今までにないほどの困惑で満ちていた。
「フィーネ・・・だと?」
いつもの弦十郎なら叫んでそうなものだが、今回ばかりは反応が芳しくない。
当然だ、彼らの組織には『本来のフィーネ』が生きている。しかし向こう側もフィーネと名乗っている。
それはフィーネという存在が二人居ることの証明に他ならない。
「えっと・・・つまりは異端技術を使うことから組織の名になぞらえたわけではなく・・・」
「蘇ったフィーネそのものが、組織を統括している・・・という筋書きでしょうか」
友里と藤尭が状況を整理する。
纏めるとなると、そうなるのだろう。フィーネが二課にいる以上は、名を偽る彼女たちの信憑性は0に等しい。
だが今は考察するよりも、弦十郎は目の前の状況を打開するように意識を切り替える。
「雷、滅・・・。何故・・・?」
そして食い入るように映像を見る亡の言葉はただ虚しく響いた。
◆◆◆
場所は変わり、槍の上に佇むマリアを何処からか見ている存在が居た。
「悲しいものだな・・・」
「行くの?」
誰と言わずとも分かると思うが、安定で黒いパーカーを着てフードを被りながら顔を隠しているシンとアズである。
アズはしみじみと言うシンに対して聞くが、ベルトが既に存在していることから、どう行動するのかは分かる。
「
「そっか。気をつけてね、アークさま」
ただ無機質に、無表情に。
目的を達成する機械のように言葉を発するシンにただ気をつけるように言うだけで止めることはしないアズ。
そのことにシンはただ頷くと、一歩足を踏み出し---
『ジリリリリーン!』
けたたましいベルの音に足を止め、シンは心の底からのため息を吐いた。
一体何処から現れたのか、
『ジリリリー・・・ジリリリーン! ジリリリーン! ジリリリーン!』
「ねぇ、アークさま」
『ジリリリーン! ジリリリー--』
「・・・分かってる。アイツ絶対面倒ごと持ってきやがったな・・・。絶対ぶん殴る」
『ジリリ! ジリ! ジリリ! ジリリン! ジリリリ、リリリリリン!!』
しつこく永遠と鳴り続ける電話にアズもため息をつくと出て、というように視線を向けていた。
何度も鳴り続けられて、しかも途中から歌のように鳴り出した電話に流石にイラついたシンは嫌そうな表情で電話を取り、耳に当てた。
『何の用だ。後で殴る』
『おや。酷いじゃないか、出てくれないなんて。それに、随分物騒だね』
シンの耳から聞こえてくるのは、男性の声。
普通の人間なら日常的には使わない倒置法を使うことからおおよそ予想は出来るが、アダム・ヴァイスハウプトだ。
彼は早速聞こえてきた物騒な発言にやれやれと言いたげな声音で話していた。
『オレは忙しいと言ったはずだが? お前とは長い付き合いだから予想は容易いがサンジェルマンはどうした? というかお前がやれ・・・といってもやらないんだろうな。オレはキャロルの件で精一杯だとあれほど---』
『奪われたのだよ』
『・・・は?』
出来るなら断りたいという思いを一切隠さないことから
『待て、何を奪われた? お前のことだからどうせ管理もしてなかったんだろうが・・・まさか』
『予想通りさ、キミのね』
『・・・・・・今すぐぶっ壊してもいいか?』
『やめて欲しいと言っておこう』
珍しく焦るような、ガチの低いトーンで告げるシンに、電話からは冷静に返ってくるアダムの声。
しかし割とシンは本気であったりしたのだが、素直に諦めた。
『・・・はぁ。まあお前を完全破壊しようものなら全てを出し切って何とか相打ちに持っていくことしか出来ん。それで、予想通りってことは』
『十分だと思うがね・・・まったく。他の錬金術師が卒倒してしまうよ、僕と同等の強さを持つなんて。ああ、
『おい』
こいつ反省してないな、と心の中で付け足しつつ、頭を抑える。
---なんでコイツは世界を壊す気なんだ?
そう思わざるを得ないシンだった。
『それでサンジェルマンたちは・・・苦戦中か?』
『そのようだね』
『そのようだね、じゃねぇっての。世界を壊す気か? なんで
『人類を陰ながら見守り、支えるために作った錬金術師協会だ、無論ね』
『耳かっぽじってさっきまでの言動を見直せ』
『痛いものだね、正論というのは』
何故かドヤ顔をする姿まで幻視したシンはただ怒りのままに言い放つが、半分ほどは呆れ返っていた。
まるで
『行けるかな、今は』
『・・・ちょっと待て。予測するから』
『お願いしよう』
「アズ・・・近いんだが」
「聞こえないから」
電話から耳を離すと、シンは意識していなかったからか、いつの間にか密着するほど近いアズに驚きつつ苦笑して目を閉じる。
ニコニコと笑顔でいる時点で絶対それだけじゃないだろうな、とシンは思いながらもベルトの力を脳内に送り、約0.01秒で
本来、『未来予知』ならともかく、0.01秒で数億通りの予測をしようものなら、人間の頭では記憶貯蔵庫がパンクを起こしても不思議ではない。しかしシンはそれをあっさりとやってのけ、再び電話を耳に当てた。
『問題ない。どうやらこっちはオレが居なくとも影響はないらしい。場所は?』
『英国』
『やっぱりお前喧嘩売ってるのか? 日本からイギリスってどれだけ離れてると思ってるんだ・・・。飛行機でも13時間くらいは必要になる。帰りはジェムを使えば一瞬だが、いくらアークの力でも行くのに数時間くらいはかかるぞ・・・』
『心配ない。こちらに来てくれるかな』
『・・・殴るついでに行く』
『・・・反対じゃないかい?』
『生身だから安心しろ』
『はは、遠慮したいね、出来れば。待ってるよ、それじゃあ』
シンはいきなり日本からイギリスへと行ってくれ、という報告に若干殺意が湧いたが、電話が途切れると耳を離す。
勝手に電話がなくなったことに一切気にしないままため息を零した。
「変更?」
「イギリス行きだ。あれをなんのために使うつもりかは知らないが、世界を破壊する可能性も秘めた力だし、流石に阻止しないと下手すると地球が滅びる」
全く関係のないところで世界の危機が起こりかけているが、そもそも今の装者たちを優に超える実力を持つサンジェルマンたちが苦戦するほどの相手。
捜索が難しかったり、実力のどちらかまでは分からないが、どちらにせよ危ういのは確かで、予測でこの場は切り抜けられると知ったシンは結局向かうしかないのである。
世界を守るために。
「だったら仕方がないけど、アークさまは下僕でもなんでもないのに言い様に使って・・・。アダムなんてセンスもないし服は脱ぐし実力しかないくせにアークさまを使うなんて・・・あぁ、考えるだけでイライラしてくるかも。第一そんなことをするくらいなら私がアークさまを独り占め---」
「アズ?」
「なぁに?」
突然ぶつぶつと言い出したアズの姿を見てシンが呼びかけると、さっきの様子が嘘のように可愛らしく首を傾げながら笑顔を向ける。
凄まじい切り替えの早さについて関心しながら、シンはベルトを起動させた。
「行くぞ」
「はーい」
一瞬で姿をアークゼロへと変えた彼は、アズを所謂お姫様抱っこと言われる抱え方をすると、地面を砕きながら一気に跳躍した。
さっきと打って変わって、アズは嬉しそうだった。
◆◆◆
実は二課すら察知出来ていない世界の危機に立ち向かう仮面ライダーがいることを知らず、此方は此方でまた混乱の渦に巻きこまれていた。
「え・・・と、だって了子さんは今・・・」
「リィンカーネーション・・・・・・。遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システムです。貴女達も直接聞いたことはあるでしょう?」
「馬鹿な・・・それなら、あの時、あのステージで歌っていたマリアは・・・!?」
「さて、それは自分も知りたい所ですね」
お互いの認識のズレに気づくことは残念ながらなく、唯一察した人物は教えることは無い。
理由は至極簡単---その方が面白いからである。実際、隠すように後ろを向く
(ネフィリムを死守できたのは僥倖・・・。だけどこの場面・・・次の一手を決めあぐねるわね・・・)
マリアが今の戦況を考えて思考する中、海の中から奏が飛び出し、水面を文字通り滑りながら一気に跳躍。
槍を構えると、そのまま一直線に突撃した。
その攻撃をマリアは首を動かすことで冷静に避ける。
「甘くみるなよ!」
奏の持つ槍から竜巻が起こると、それを一気にぶつける。
マリアはマントでそれを防いた。
「甘くなど見ていない!」
その勢いで攻撃してくる奏を一気に潜水艦の場所まで吹き飛ばす。
吹っ飛ばされた奏は潜水艦に体を打ち付けるが、すぐに着地する。
それを見たマリアはネフィリムが入ったケージを上に投げ、なんとケージが無くなったように消えた。
マリアも船体に上がり、その手に槍を携えた。
「だからこうして私は全力で戦っているッ!」
「ハアッ!」
「ハッ、俺を指名ってか?」
未だギアの出力低下が残っている中、翼が雷に斬り掛かる。
その攻撃を雷は正面から受け止め、仮面越しでも笑っているのが分かるほどの声音で話しかけるが、翼はもう一度剣を振るう。
しかし雷は肉体を後ろに曲げることで避け、同時にその体勢から蹴りを繰り出す。
翼はすぐさま剣を戻すが、弾き飛ばされてしまう。
「この実力・・・! ギアの出力だけではない・・・!? ならばッ!」
弾き飛ばされた翼はすかさず着地と共に逆立ちとなり、一気に回転して足のブレードで斬りかかる。
『逆羅刹』
「おらよッ!」
その攻撃に対して、かつて戦ったドードーマギアが所有していたヴァルクサーベルを取り出した雷がたったの一振することで防ぐどころか、翼を吹き飛ばした。
「何ッ!?」
「だったらあたしが---ぐっ!?」
さっき放った大技による負荷は残っていたのか、放とうとしたクロスボウを降ろしてしまうクリス。
そこに弓矢が飛んでくるが、迅が防ぎ切った。
「滅! どうして・・・どうしてこんなことをするんだ!? なんでそっちに・・・!」
「譲れないものがある。それだけだ、迅」
ただ目的のために行い、そのために行動する。
それは双方共同じであり、譲れないものだ。だからこそ滅は迅に対して武器を向けていた。
「この胸に宿った 信念の火は 誰も消す事は出来やしない 永劫のブレイズ---」
マリアの歌が潜水艦の艦上に響き渡り、奏は突っ込む。
撃槍と撃槍が錯綜し、激しく打ち合う。
「やっぱりアタシと同じってわけね・・・!」
奏が持つ撃槍と拮抗するマリアの黒い撃槍。
それはすなわち、以前言っていた通りマリアの持つガングニールもまた
「なっ!?」
槍を打ち合い、鍔迫り合いに持っていくと、奏が突然槍を手から離した。それを見て、マリアが驚く。
力を込めていたマリアは当然すぐに体勢を戻すことなど出来るはずもなく、肉体が前のめりになる。そこを奏は蹴りを繰り出そうとして、マントの動きを見て即座に槍を掴んで横にする。
瞬間、マリアのマントが奏を弾き飛ばすが、ガードに成功したお陰で軽く離されただけだ。
ギアの出力低下を少しは受けている奏と、バトルポテンシャルが向上しているマリア。
「ちっ・・・!」
それに気づいた奏は舌打ちと共に、自分が来た判断は間違ってなかったということも理解した。
お世辞にも響はノイズ相手ならともかく、対人戦は無理だろう。翼とクリスに至ってはギアの出力低下があり、エボルは例外として、迅に至ってはまだ仮面ライダーの性能を理解しきれてないのか未熟ともいえる。
だからこそ、自分で良かったと思っていた。
しかし自身が戦っている場所は二課の仮設本部であり、潜水艦を傷つけられる度に生まれる焦り。
このままでは潜行に支障が出るかもしれない---その点では焦りがあった。
唯一の救いは、Linkerが必要なく、制限時間が必要としない点だろう。
『奏! マリアを振り落とせ!』
「わかった!」
すると弦十郎の声が聞こえ、奏は槍を握る手に力を込める。
おそらく潜水艦が傷つけられたことによって、損傷が出てしまっているのだろう。
そして奏が動く。一気に甲板を蹴り、凄まじい速度でマリアに突撃する。
その姿は弾丸---そう言えよう。
しかしマリアはそれを受け流すように逸らす。そのまま攻撃しようとしたところで、奏が逸らされることを想定していたように地面を蹴って空中で回転。ボレーキックのようにマリアへ足蹴りを行い、マリアは寸前にマントで防ぐことに成功した。
奏はマントを蹴り飛ばして地面に着地し、蹴り飛ばされたマリアは衝撃に少し後退してしまう。
怯んだ隙に向かおうとし---
「ぐっ!?」
足に力を込めた際に、突如として痛みが走った。
それは、ケージを回収しようとした際に受けた一撃。どうやら今になって響いたらしく、奏の動きが止まった。
「もらったッ!」
「こん・・・のッ!」
いつの間にか接近したマリアが、槍を持って振り翳し、一気に振り下ろしてきた。
奏は避けることが不可能と見ると、槍による一撃を肉体を逸らして受ける箇所を最小限にしながらカウンター気味に槍を斜め上に振り上げた。
「ぐあっ!?」
「ぐふ・・・!?」
奏は吹き飛ばされ、地面に肉体を打ち付けてしまった。
その姿をクリスと響は見ていた。
「やっぱり最初に受けたのが効いてる!」
「だったら白騎士のお出ましだ!」
確信を持つように呟く響にクリスはマリアに向かってクロスボウを構え、そして---
飛んできた円盤鋸に反応した響がウェルを押すことで避けさせるのと同時に自身も避け、気づいたクリスもソロモンの杖を手にしながら避ける。
次々と飛んでくる円盤鋸を見極めながら回避する響と敵を探そうとするクリスに対し---
「なんとイガリマァァァア!!!」
クリスに向かって鎌を振り下ろす切歌。
「---警告メロディー 死神呼ぶ 絶望の夢Death13」
「おっと、そいつはやめともらおうかァ!」
攻撃が当たる寸前、鎌を受け止めるのはエボル。
ふとクリスが横を見ると、滅が起き上がる姿が見えた。迅は今は翼の援護に向かってなんとか戦えているようだが、エボルは滅を吹き飛ばしてきたのだろう。
切歌がエボルを攻撃している間に、調は響に向かって脚部のホイールを使い、さながらスケート選手の如くアスファルトを駆け抜ける。
そして再び円盤鋸『α式 百輪廻』を響に向かって放つ。
「はっ、たっ、たぁっ!!」
放たれた百輪廻を、響はその拳でもって叩き落す。
そしてすかさず調は輪型の鋸を展開し、巨大な車輪として、響に突進した。
『非常Σ式 禁月輪』
「う、うわぁぁあああ!?」
あまりにも殺意マシマシな攻撃に流石の響も驚きを隠せず回避する。
その一方で切歌の攻撃を防ぎながら、エボルは滅の攻撃も防がなければならないという難しいことをあっさりとしていた。
クリスもクリスで援護しようとしているのだが、飛んでくる矢に関しては流石にエボルも追いつかないらしく、避けるので精一杯だった。
「クリス!」
「余所見は危ないぜ、迅ッ!」
「うわあ!?」
「させん・・・!」
戦いに集中できず、クリスの方へ向かおうとする迅に対してブーメランのように剣を飛ばす雷。
その剣を翼が大剣で弾くが、どちらが援護しにきたのか分からない状況だ。
そして滅がクリスを吹き飛ばしたが、追撃をしようとしたところでエボルがアスファルトを砕いて浮いたコンクリートを蹴り飛ばすことで妨害。
「クリス!」
「クリスちゃん! 大丈夫!?」
「悪ィが守るのは慣れてなくってなァ・・・」
クリスに駆け寄る迅と響だが、二人を相手にクリスを守りながら戦っていたエボルはちょっとした凡ミスしたらしい。
そして何故迅が駆け寄れたかというと、滅と雷はウェルのところに向かって合流したようだ。
そんな中、気がつくと回収されていたソロモンの杖を手に握る調はローラーで滑りながら桟橋の近くに行くと止まるが、通り過ぎ様にウェルが呟く。
「時間ピッタリの帰還です。お陰で助かりました。むしろこちらが遊び足りないくらいです」
「・・・助けたのは貴方のためじゃない」
「いやぁ・・・これは手厳しい」
返ってきた調の言葉にやれやれと言うふうに両手を広げてそう返すウェルだった。
そんな会話がなされていた中、クリスは迅と響に肩を借りて起き上がられせてもらっていた。
「クソッ、適合係数の低下でまともに体が動きやしねぇ・・・」
「だが徐々には回復してきている・・・」
嘆くように言うクリスに対し、確信を持つように返答する翼。
「それにしたって、一体何処から・・・」
「滅と雷はともかく、他二人は何処から来たんだ・・・?」
「ま、普通に考えれば俺たちの知らぬ異端技術でも使用したんだろう」
そして見渡す限り、隠れるところが一切ない場所。
そのため、何処から現れたのか予想すら出来ない響の呟きに迅が同調し、エボルは奇しくも二課内で語られたことと同じことを言っていた。
「くっ・・・」
一方で、マリアは足を抑える奏に対して客観的に見れば有利に立っている状況だが、横腹を抑えながら歯を噛み締めていた。
(こちらの一撃に合わせて反撃してくるなんて。技量は私よりも圧倒的に上ということか・・・!)
ギアの出力低下が他の装者よりも少ないとはいえど、弱体化しているのは確実な奏だが、マリアの考えている通り、奏の方が技術が上回っていた。
当然だろう、奏は何年も前から既に
そして同時に、奏も翼と同じく、低下した適合係数が徐々に回復してきているのを実感していた。
(行けるか?)
このまま行けば、間違いなく完全回復することは出来るだろう。だがある程度回復した今なら撤退くらいさせることは可能かもしれないと奏は甲板に置いてある槍に手を置く。
「はぁ・・・はぁ・・・(ギアが重い・・・)」
出力が回復している一方で、マリアは息切れをしていた。
先程とは違い、マリアの肉体に負荷でもかかっているのだろう。マリアは油断すればすぐにでもなくなってしまいそうなギアを維持していると、通信が聞こえてきた。
『適合係数が低下しています。ネフィリムは回収しています。戻りなさい』
「くっ! 時限式ではここまでなのッ!?」
「時限式、だと・・・!?」
聞こえてきたマリアの言葉に、奏が驚く。
何故ならそれは、アークゼロによって適合係数を上げられる前まで奏も使っていたLinkerを使うことで無理矢理適合係数を引き上げてシンフォギアを纏う存在。
後天性適合者に他ならないのだから。
「うわっ!?」
そんな思考をしていると、突如風が吹き荒れる。
思わず顔を庇う奏だが、その隙にマリアは飛び上がり、見えない何かに捕まっていた。
疑問を抱く前に奏が見上げれば、プロペラ式の垂直離着陸機がいつの間にか現れていた。
奏は驚いている合間に飛行機が装者と仮面ライダーがいる場所に向かっていくのが見えた。
一方で、翼とクリスは敵と対峙する。
「お前ら、一体何が目的だ!?」
「・・・正義では守れないものを、守るために」
「え・・・」
クリスが怒鳴り気味で問いかけるが、返ってきた調の言葉に響は戸惑う。
「正義では守れないもの、ねェ・・・」
「それは一体、どういう---ッ!?」
何かを思い出すように呟くエボルと意味を問いかけようとする翼だったが、どこからとも無く風が吹き荒れるとウェルを抱えた装者、そして仮面ライダーがロープを掴み取り、そのまま飛行機に回収され、太陽がある方向へ飛んでいく。
「逃がすかよ!」
すぐさまクリスがその飛行機を撃ち落とすべくギアを狙撃銃スナイパーライフルに変え、ヘッドギアを狙撃用のスコープへと変形させ、対象を狙う。
『RED HOT BLAZE』
「ソロモンの杖を返しやがれ・・・!!」
執念で狙いを定めようとするクリス。
しかし---
ロックオンした瞬間、その姿が虚空に消え去った。
「なんだと・・・」
「・・・消えた?」
目の前で消えた敵の飛行機。
一体どういう原理か理解出来ずにクリスと迅が呟くが、ふとエボルが口を開く。
「超常のステルス性能・・・だろうな。直接見ている俺たちから姿を眩ませて、レーダーすらにも映らない・・・これが、敵の持つ異端技術ってわけだ。まったく、これだから科学の行き着く先は破滅って言ったんだ。なぁ、戦兎ォ」
それほどの技術を有するには、『科学』という力が必要。逆をいえば、異端技術を所有出来るほど人類は成長してしまったのだ。あの兵器が仮に人類に害を成すものだったなら、終わっていただろう。
だからこそ、エボルは小さな声でそう呟いた。
例えると古代の機械、古代の技術、未来の技術、未知の機械、それを全て使うには、結局行き着く先は『科学』なのである。
人類が成長するに必要なのも科学、人類が何かを開発するのに必要なのも、科学。
人類にとっては科学というのは切っても切れない縁であり、同時にそれは悲劇や破滅、様々なものを生み出すものだ。
それは残念なことに間違ってなどなく、科学が発展して良いことはあっても犠牲の上に成り立ったもの。例えば銃が作られることがなければ? 戦争は少しくらいはマシになったかもしれない。例えば戦車が作られることがなければ? 戦争がより長期化することはなかっただろう。逆に船が作られることがなければ? 人類は交流することも難しくなり、輸入や輸出、遥か昔に遡るのであれば、香辛料や鉄だって入手出来なかっただろう。飛行機がなければ? 今頃我々人類は外国に行くことなんて出来なかっただろう。
戦争が起こる度に、人類は科学で何かを開発してきた。科学が発展する度に、人類は戦争を起こしてきた。
どちらにせよ、開発しなくても遠くない
それを彼も知っており、だからこそエボルは思った。
(今のお前がこの世界を見たら、どう思うんだろうな。まァ・・・お前はもう揺らがねぇか・・・)
仮面の下で予想出来る姿に自然と笑みを浮かべたエボルは去っていた飛行機があった場所を眺めていた。
◆◆◆
その飛行機のコクピットにて、ナスターシャは目の前にある聖遺物を見つめていた。
「『
突然、激しく咳き込むナスターシャ。そうして抑えた手を広げてみれば、そこには、口から吐いた血が握られていた。
「急がねば・・・儚く脆いものは、他にもあるのだから・・・!」
ナスターシャは、その何かの野望に満ちた目で、移り行く景色を睨みつけた。
「くっ・・・。あのエボルというのは何者だ・・・? 俺の攻撃が通じなかった」
滅は思い返すように胸を抑えながら目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、迅と戦っている時に乱入してきたエボルの姿。
どれだけ攻撃しようとも、変えようとも、遠距離から放とうとも、策を生じようとも、全て防ぎ、潰してきた相手。
ラーニングしようとはしていたが、ほんの少し出来た程度であり、あの場で誰よりも強く、誰よりも戦ってきた者だと滅は理解していた。
「迅の野郎もかなり強くなってたな。あの装者よりかはまだ技術は磨けていないが・・・」
「・・・あれもアークが渡したのだろうな」
滅と雷は互いに戦ってきた。
そうして今日まである程度の強さを身につけ、戦いに挑んだのだが、他はともかくエボルには二人で行っても勝てないことは察していた。
同時に、迅が持っていたベルトとキーは自分たちと同じもの---つまりはアークゼロが渡したものだと。
二人の記憶にもよく残っており、同時にあれこそがまさしく『人類の敵』だということも既に理解していた。
それは滅たちが保護されて暫くたち、マリアたちがシンフォギアに適合した日からそんな遠くない時---
『・・・俺たちに出来ることは何も無い、か』
『シンフォギアというものは纏えないからな。だが・・・それでもアイツらだけに戦わせるのは違うだろ。滅亡迅雷netは世界の悪意を見張り続ける組織だ。それを成すには・・・』
『ああ、力がいる。どうにかして聖遺物でも使用出来れば---』
ナスターシャに『計画』については話されていたものの、何も出来ない滅と雷は一般的なものしか出来なかった。
刀の技術を磨いたり、戦闘の技術を磨いたり---せめてギアを纏う前の彼女たちを守るために。
それでも、相手が同じ力を持つとなると生身の自分たちでは勝てないとずっと知っていて、それがただ悔しかったのだろう。
そして、力を求めた。完全聖遺物ならば、人間でも扱える。一般人でも扱える。ノイズと戦うことだって出来る。
しかし何も無ければ戦えない。力がなければ戦えない。彼女たちを守れない。自分たちを拾ってくれたナスターシャに恩を返すことも出来ない。
せめて一緒に背負い、傍に居続けることだけ。それを二人は望んでなどなく、共に有るために望み---
『その必要はない』
その瞬間、今まで訓練してきた甲斐もあり、滅と雷はすぐさま武器を構えた。
しかし滅と雷が立っている地面を
片方しか光っていない赤い瞳のみが見え、そのものは黒いオーラとも呼べるものを纏いながら、光がある場所に止まった。
『何者だ!?』
『なんだ・・・この威圧感は・・・ッ!』
黒一色のボディに片方しかないアンテナ、左目が剥がされたかのようなマスクに左半身には胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど痛々しい外見になっている姿。
それは『死』。今まで感じることもあった『死』よりも何よりも感じる『死』だ。
訓練してきた、力を身につけた、生きてきた、それを全て否定するような、全てを呑み込んでしまいかねないほどの殺意と敵意、あらゆる『悪意』が内包されたような姿を見て、滅と雷はただ理解した。理解されられた。理解するしかなかった。
---殺される。勝てない。戦うことすら認められない。
そう、理解されられたのだ。
戦意を削り、喪失させるまでの威圧感。恐怖を心の奥底から感じさせ、息をすることですら辞めてしまいたくなるほどの重圧感。
それは強者。圧倒的な強者。後に知ることになる、
対峙して理解する。これこそが、まさしく悪意の権化なのだと。
ゲームで例えるならば、まるでレベル1の勇者がカンストの魔王へ挑むほどの無謀さ。
それほどの差を感じて、しかしそれでもこの存在はこれ以上行かせる訳には行かないと滅と雷は恐怖を押し殺して睨みつけ、武器を構える。
今や訓練で体力の消耗しているだろう彼女たちは彼ら二人にとって『守るべき存在』。
その存在のため、滅と雷は恐怖を押し殺したのだ。
そして、ふとした瞬間に消えた。死を覚悟していたのに消えたことに困惑する滅と雷だった。
何故なら不意に威圧感や恐怖感、あらゆるものが消え、普段通りの空気感に戻ったのだから。
『ッ!? さっきのは気のせい、か・・・?』
『・・・楽になった、な』
『気のせいではない』
滅の錯覚ではないか、と言うように呟いた言葉を否定するのはアークゼロ。
しかし、さっきと打って変わって殺意も殺気も悪意もあらゆる重い雰囲気ですら消え去っていた。
『・・・どうやってここに入ってきた?』
『普通に。あんなセキリュティ如きオレに破れないとでも? いや、お前たちは知らないのか・・・まあ、人類の敵と呼ばれてる存在だ。詳しくは調べたら出るんじゃないか? 我ながらやりすぎたと今では思ってるからな』
返ってきた言葉は、規格外の言葉。
一応この施設はそんな誰かがポンポンと入ってこれるところはないのだが、滅と雷は分かっていた。
この存在は
あれだけの殺意を発することが出来る時点で分かっているものだが。
『じゃあ、何しに来たんだ? ここは何かの用がが入ってくる場所じゃねぇ』
『力が欲しいんじゃないのか?』
雷の言葉に、アークゼロは問いかける。
何処からどう見ても、というか見た目からしても悪魔の囁きにしか聞こえないものだが、滅は疑問で返す。
『・・・どういうことだ?』
『察しが悪いな。言葉通りだ。それにしたってお前は・・・なんか矛盾と対話から拒絶し逃避した結果、最悪な展開にして悪意を伝染させてそうな感じだな・・・。滅・・・だったか』
『煽られてるじゃねぇか』
『・・・・・・』
さっきの恐怖が嘘のように浮かび上がってくる感情に滅は刀を持つ力を少し入れるが、頭は冷静で斬り掛かることはしなかった。
冷静な部分が勝てないと理解させているからだ。むしろ一撃で殺されると。
『まぁ、どうだっていい。オレからのプレゼントだ、お前たちは
『プレゼント? 合格? 何を言ってやがる?』
『そこも気にするな、ほら。いらないのか?』
雷のその疑問には答えることなく、差し出してくるのは、ベルトと四角いナニカだ。
それを見て、滅と雷は顔を見合わせて再び視線をアークゼロに向ける。
『・・・心配しなくとも何も無い。ただの力の器であり、どう扱うかはお前たち次第だ。どう使うかまでは勝手にすればいいし安心安全設計にしてある。オレから言えることはただひとつ、手にした時にお前たちは
『・・・嘘は言っていないようだ』
滅は見極めるようにアークゼロを見るが、嘘をついているような雰囲気も声音でもない。
『本当ってことか・・・いいぜ、乗ってやる』
『おい、雷・・・』
『心配すんな。こいつはお前も言ってた通り、嘘をついちゃいねぇよ。第一、それならこんな回りくどいことしなくても別の目的があるなら俺たちを殺すか無理矢理させればいい話だろ』
そういった雷はアークゼロに近づくと、迷うことなくベルトと四角いナニカを手にした。
四角いナニカはスカーレット色をしており、絵柄はドードーだった。
『ゼツメライズキーを選んだか。いや、何らかの運命操作か・・・? どっちでもいいか。それで、お前はどうする?』
『・・・分かった。素直に信じよう。本当に力が手に入るならば、ないに越したことはない』
そう言った滅もアークゼロからベルトと四角いナニカを手にする。
四角いナニカはパープル色で、絵柄はサソリだった。
そして手から何も無くなったアークゼロは手を降ろして、滅と雷はただ仮面越しにも関わらず、笑った---ような気がした。
『使い方はベルトを付ければ分かる。怖いなら今すぐ変身するといい。オレを殺せる
半信半疑になりつつ言われた通り、滅と雷はベルトを腰に巻き付ける。
『フォースライザー』
するとベルトの名前らしきものが機械音声で読み上げられ、二人の脳裏に使い方が一気に浮かんだ。
『なるほど・・・確かに言った通りだ』
『ああ、試運転と行くか』
使い方が浮かんだ雷と滅は信じることにし、雷は
滅の方はパープル色のサソリが
そこで横向きから表側にし、親指で
『ドードー!』
『ポイズン・・・』
雷が右下に向けていた腕を頭より斜め上に上げ、同時にドードーゼツメライズキーの向きを変える。
そして自身の名の通り雷、つまりは『稲妻』描くように動かすとフォースライザーにドードーゼツメライズキーを差し込む。
滅の方は無駄のない最低限の動きなのか、スティングスコーピオンプログライズキーを直線的に動かすことでフォースライザーに差し込んだ。
その瞬間、ベルトから発せられるのは警告音のようなもの。
『『変身』』
二人が同時にフォースライザーの右手側のレバーを引くと、プログライズキーが強引に開かれることで展開される。
『フォースライズ!』
『スティングスコーピオン!』
露出した接続ポートに強制接続されると、雷は右手を横に向けながら手のひらを開き、ロストモデルは出ずに雷のようなエフェクトを纏いながらアーマーが装着される。
滅の方は滅亡迅雷フォースライザーから出現した色のない灰色のサソリの
『Break Down・・・』
そうして現れたのは、胴体や脛等の攻撃を受けやすい部位のみに集中させるという割り切った配置により最低限の防御力を確保しつつ機動性と追従性を極限まで高めた白銀と漆黒のアーマーであり、ドードー鳥を模した頭部を持つ赤色の仮面ライダー---仮面ライダー雷とバイオレットをメインに、同じく白銀と漆黒の装甲が最低限にアーマーとして装着されていて、左腕に蠍の毒針を思わせる武装がついている紫の仮面ライダー--仮面ライダー滅だった。
『これでお前たちは力を手にした・・・後は好きにするといい』
そう言って背中を向けるアークゼロはただ歩みを進め、姿を消した。
その後ろでは、自身の肉体を確かめるように手を開いて握ったりなどする姿があったのだった---
「思い出すだけで恐怖が帰ってくるな・・・」
「まったくだ」
死を覚悟したレベルの出来事を思い出し、色々と疑問はあるが力を授けてくれたことには雷と滅は感謝していた。
無論、何故渡してきたのか、人類の敵と呼ばれていたアークゼロがあの場に居たのか分からない部分は多いのだが。
二人がそんなことを話していたその一方では、切歌に殴り飛ばされるウェルの姿があった。
その場には滅と雷もいるが、傍観し、マリアと調も居た。
「下手打ちやがって。連中にアジトを抑えられたら、計画実行までどこに身を潜めれば良いんデスか!?」
「おやめなさい。こんな事をしたって、何も変わらないのだから」
「胸糞悪いです」
そんな切歌をマリアが咎め、切歌は従うようにウェルにそう言って胸倉を掴み上げていた手を離す。
「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですか?」
まるで悪気の無いウェルの態度に切歌はまた怒り出すが、雷は手で制する。
放っとけ、というように。
そしてそんな間に、その部屋のモニターにナスターシャが映る。
『虎の子を守れたのが
「今は大人しくしてても、いつまたお腹を空かせて暴れ出すか分からない」
そう言って、調は光の格子に閉じ込められているネフィリムを見る。
実際にネフィリムは暴れることも無く、ただじっとしていた。
「持ち出した餌こそなくなれど、全ての策を失ったわけではありません」
そう言ったウェルは切歌たちが首にかけるシンフォギアのペンダントを見て、笑みを浮かべた。
◆◆◆
戦いを終えた装者たちや迅に対して珈琲を作ろうか迷った惣一だったが、残念ながら遠慮されたことにため息を零し、さっき聞いた情報をまとめることにした。
防衛省の斯波田事務次官から聞いた話に寄ると、F.I.S---『
米国における聖遺物研究所であり、謎の武装組織『フィーネ』が逸脱した組織。
フィーネの構成員は、大方がそこの研究員であり、その統率を離れ暴走したということらしい。
そしてソロモンの杖輸送任務で行方不明となり、再び現れたウェル博士もまた、F.I.Sの研究者の一員だったのだと判明した。
さらに噂程度ではあるが、日本政府の情報開示以前より存在している、と。
だからこそ、テロ組織の名に似つかわしくないこれまでの行動も存外周到に仕組まれているのかもしれない。組織にフィーネの名を冠せる道理もあるかもしれない---ということまでしか二課は知ることは出来なかった。
こちらにフィーネがいるため、記憶さえあれば全て解明できるのだが、思い出せないとなるとどうしようもなく、結局新たな情報が分からなければこれ以上の情報が出てくることはないのだろう。
「やれやれ・・・これならスタークにでもなっておくべきだったか。まぁいい。それよりも今は---」
潜伏していたならもっと情報が分かったことに少し後悔しつつ、もとよりそのために動いてる訳では無い惣一は思考を変え、響に向かっていく。
「響ちゃん、ちょっといいか?」
「あ、はい」
響に時間があるか聞いた惣一は響を外に連れ出した---
「で? 何を迷ってるんだ?」
外では作れないため、仕方がなく缶コーヒーを投げ渡し、惣一がいきなり本題へ入る。
響は慌てて投げられた缶コーヒーを受け取り、驚く。
「な、なんのこと?」
「はぁ・・・お前は昔からわかりやすいんだよ。誤魔化せると思ってるのか? 多分、未来ちゃんも気づくぞ」
「・・・やっぱり惣一おじさんには敵わないなぁ」
あはは、と口では明るく言って笑いながら手すりを掴んで景色を眺める響の姿を惣一は手すりに背中を預けながら、見つめる。
惣一から見れる響の表情は、明るくなかった。
そして、ポツポツと胸の内を語り始めた。
「実は・・・偽善って言われたんです」
「・・・」
「誰かを失う悲しみも、胸が痛くなることも知っているのに・・・困っているみんなを助けたいって、嘘偽りない私が戦う理由を偽善って言われたんです」
「・・・そうか」
それは、響の本音。
誰にも言えなかった胸の内で抱えてきた思いを惣一とは親しい仲なのもあるが、響は語った。
それを聞いて、惣一は懐かしいものを思い出すように口角を上げていた。
「私の想いって・・・偽善なのかな、惣一おじさん」
「だろうな」
そして響の言葉に、惣一は容赦なく肯定した。
響が思わず惣一を見るが、至って真剣な表情をしており、惣一は眼鏡を拭きながら続く言葉を述べていく。
「今のままじゃ、そんな想いはただの偽善だ。うわべだけの善行と言われたって不思議じゃない。そうだな、ちょっとした昔話をするか」
「・・・昔話?」
突拍子もない昔話の話と聞き、きょとんと首を傾げながら響が聞くと、惣一はああ、と頷いた。
「これは俺も聞いた話なんだがな---」
最初にそれだけ述べると、惣一は語っていく。
あまり詳しくないとはいえ、響ですら一度も、いいや
「むかしむかし、あるところに小さなバッタがいたんだよ。そのバッタは同胞を守るため、善行を行っていた。しかしそのバッタに向かって飛んでくる声は同胞からの罵声。時に命をかけ、時に守り、時にボロボロになってもなお、感謝されることは一度もなかった。それでもバッタは折れることはなかったんだ。自分がやるべきだと、例え誰に感謝されることがなくとも、それでもやると。まるで善意の塊のようなバッタは何度批判されようが、何度悪口を言われようが、何度殺意をぶつけられるようが、何度敵意を向けられようが、どれだけボロボロになろうが、バッタはそれでも己の全てを賭け、ついには同胞に追放されてしまい、姿を消したんだ。しかしバッタは最後に残せたものがあった。それは自身が善行を行い、悪意を引き受けたお陰で自然と
惣一が語った昔話。
それは救済される話でも、大団円な話でもない。
結局のところは、バッタが同胞のために善意による行動で助け続けたのに、裏切られ、追放されてしまった悲劇の昔話だ。
「それは・・・どうなったの?」
「さぁな。そこまでは聞いちゃいない。でも、そのバッタは最後までどうだった? バッタは自分のために行動したか? 見返りを求めたか? 中途半端で終わったか?」
そう言われて、響は聞いた話を思い返す。
バッタは最初、同胞を守るために善行を行っていた。それは最初から最後まで、一切ブレることがなかったのだ。
「ううん、最後までずっと誰かのために行動してた」
「それで良いんだよ」
「えっ?」
響の言葉にその通りだ、とフッと笑った惣一は言う。
その意味が分からなかった響は首を傾げるが、そうなることは分かってたのか惣一は紡ぐ。
「人間ってのはどいつも偽善の塊だ。結局のところ、そうじゃないだろ? 例え誰に言われても、否定されようとも、お前が信念を曲げない限りそれは偽物なんかじゃない。お前が止まらない限り、やめない限り偽善になりはしないってことさ。偽りではない本物の想いだ。じゃあ、お前の想いはなんだ? 何のために戦う? お前の手は何のためにある? それとも、偽りの想いで偽りの理由で今日まで戦い続けてきたか?」
そういう風にお前はどうなんだ、と問いかける惣一に対し、響は迷うことなく、力の籠った瞳で答える。
「・・・違う。違う! この想いは、誰かのじゃない! 偽りなんかじゃない! 私だけの想いだ! 私が守りたいから、私がやりたいからしてる! 本当の、嘘のない本気の想い! もう誰かを失うのが嫌だから、同じ思いをして欲しくないから、誰かを守りたいんだ! 私の手は繋ぎ合うため---最速で最短で一直線に胸の想いを伝えるためッ!」
「それでいい。見返りを求めたら、それは正義とは言わねぇぞ---俺の知る、
覚悟を決めたような、譲れないという表情をする響の姿を見て、惣一はいつもの人の良さそうな笑みを浮かべながらそれだけ言い、手を振りながら『チャオ〜』と言いつつ去っていく。
その姿を見た響は、ふと気づいた。
「あ・・・惣一おじさん。ありがとうございましたッ!」
去っていく惣一の姿に響は頭を下げた。
響が迷っていることを察して、わざわざ言ってくれたのだろう。
答えを教えるのではなく、自ら出させた。
そして響が出した答え。彼女自身がそれを捨てない限りは、偽物じゃない、うわべだけの想いではないということは相手にも伝わるだろう。
「まァ・・・まだ続きがあるんだがな。一人、追放されたバッタは一体何処へ消え、何をしているのか---。少なくとも、アルトは最期まで貫き通したぞ、響ちゃん」
最後に話したことを思い出した惣一はまだ響が居るであろう場所を見つめると、今度こそ去っていった。
◆◆◆
シャトーに帰還したアズはシンを見送ると、セレナを探しに行く。
その手にはパンフレットがあり、秋桜祭と書かれている。それを持ちながら探しているようだ。
「んー・・・」
どこにいるか聞いてないため、どうやって探そうかと歩くアズはふと騒がしくなってきたのに気づく。
このまま歩いていると騒ぎの元に辿り着くだろうと思っていると、騒がしい声が近づいてきた。
「待てやああああああぁぁ!」
「あははー♪」
「・・・・・・」
追っているらしいガリィと、楽しそうにしてるミカを見た瞬間、アズは引き返した。
見なかったことにしたのである。正直止めれる相手なんてキャロルかシンしかいないので、正解なのだが。
「あら・・・? アズさん。シンさんはどちらへ?」
反対からファラとレイアもやってきたようで、アズを見て話しかけてくる。
アズは今も氷を飛ばしたりロットを飛ばすあの二人よりは話せる分マシなので素直に受け答えした。
「アークさまはサンジェルマンたちのところに救護しにいったわ。私はセレナを探してるんだけど、知らない?」
「ふむ・・・いや、ワタシたちはまだ見てないな。何処かにはいるはずだ」
「そう・・・じゃあ、私は探してくるから。あ、これアークさまからの贈り物。ツヴァイウイング?のCDらしいわ」
「これは・・・あとでお礼を言わなくてはなりませんね・・・」
思い出したように取り出したアズはそれをファラに渡すと、実はハマりつつあるファラは受け取り、そう呟いた。
渡すものは渡したとアズはそのまま---未だに暴れるガリィとミカに話しかけることなくセレナを探しに行く。
アズはせいぜい後でキャロルに怒られるだろうなーくらいとしか思ってないが、わざわざ止める必要もないのである。
そしてアズはまたシャトー内を歩く。
しかし闇雲に探しても埒が明かないため、とりあえず作業部屋へ向かおうと角を曲がり---
「きゃっ」
「わぷ!? ご、ごめんなさいごめんなさい・・・!」
誰かとぶつかってしまう。
ぶつかったと気づいたひと目では間違えてしまいそうなキャロル似の人物はただひたすら申し訳なさそうに頭を下げて謝る。
アズはそんな彼女に苦笑すると、頭を撫でた。
「へっ・・・?」
「大丈夫よ、エルフナイン。それよりセレナ知らない?」
「あ、アズさん・・・。えっと、すみません。まだお会いしてなくて・・・あの、シンさんは居ないのでしょうか・・・?」
撫でられたエルフナインはきょとんとするが、すぐに聞かれたのだと理解すると答え、きょろきょろと周囲に視線を巡り合わせるとおずおずといない人物について聞く。
「・・・アークさまはちょっと忙しくて。何か用事があるなら言っておくけど?」
「い、いえ大丈夫です! ちょっと相談があっただけですし、ボクなんかに時間は取らせるのは・・・」
「そういうのはいいから、帰ってきたら言っておくわ」
「あぅ・・・。あ、ありがとうございます・・・」
見た目から分かる通りキャロルとは真反対な内向的で気弱な性格のエルフナインを見てため息を吐くと、アズは落ちたであろう物を拾って渡す。
「じゃあ、またね」
「あ・・・はいっ!」
元気よく言うエルフナインの声を背に受けながら、別れを告げたアズは作業部屋へと向かう途中に思う。
---アークさま。改めて思うけど、モテすぎでは?
「・・・はぁ」
孤独なまま生きるより人望が出来たのは嬉しいものの、乙女心としては複雑なアズはため息を吐きながらセレナがいるであろう作業部屋へと辿り着き、ノックする。
「セレナー?」
「わぁ!? は、はーい!」
「・・・えぇ・・・」
ノックした瞬間、爆発のような音が終わると声が聞こえたアズは入りたい気持ちが消え去ったが、仕方がなく待つことにする。
そして少し片付けるような音が聞こえると、セレナが扉を開けた。
「お、お待たせしました。愛乃姉さん・・・!」
「うん、ボサボサだし顔とか汚れてる時点で急いでたのだけは分かるわ」
何をしてたかは分からないが、アズはとりあえず要件を言う前にハンカチでセレナの顔を拭いたり髪の毛をそっと整えたりする。
その間、セレナは申し訳なさそうにされるがままだった。
「はい、終わり。後で風呂入るのよ」
「は、はい・・・すみません。ありがとうございます。ええと、どうぞお入りください」
わざわざ身だしなみを整えてくれたアズにお礼と謝罪をして素直に頷いたセレナは作業部屋に招き入れる。
アズは部屋に入り、急いでたのもあって少し雑くなっている部品などを踏まないように入ると見渡す。
シンがよく利用しているだけあってよく分からない機械があるが、アズもある程度しか分からなかった。
「セレナはここで何をしてたの?」
「あ、えっとですね。私って師匠に錬金術・・・知識だけですけど学ばせて貰ってるじゃないですか? ですからその知識を利用して何かシンさんにプレゼントでも作りたいなーと。ちなみにさっきの爆発はシンさんが作った機械に火薬が入っちゃって起こったやつです」
「あぁー・・・なるほど」
どうやらいつもお世話になっているのもあってお礼として作っているらしく、アズは合点がいったというように頷き、主に自分が入って何か踏んだら爆発するような危険なものを作っていないことについても安堵の息を吐くのだった。
「そういえばシンさんはどこへ・・・?」
「・・・・・・えい」
「ふぇ!?」
ふと気づいたようにセレナがアズへと聞くが、アズはまたかと言うような目をすると八つ当たりするようにセレナの頬を摘んでむにむにと動かす。
「ひょ・・・あ、愛乃姉ひゃん・・・!?」
「みんなしてアークさまアークさま・・・。アークさまの周りに集まってくるのは嬉しいけどこのままじゃアークさまを取られちゃうわ。セレナもそれでいいの? 仲がいいのは良い事だけどアークさまだって忙しいのに。特にあのアダムなんてアークさまをいいように使って・・・! あぁ、私もついていくべきだったかも。そうしたら一回ぐらい嫌がらせは出来たかもしれないのに。ほんっとムカつく・・・ッ! というかなんであの男はあそこまで管理出来ないの? これでアークさまが向かうのは果たして何回目なのよ。二人とも互いを友人とは言ってるけどアークさまは優しいから文句言わないだけでとても大変忙しいことをみんな理解するべきだと思うの。セレナもそう思うでしょ? まったく、私なんてもっとアークさまとしたいことたくさんあるし傍に居たいのにセレナだって---」
長々と途中から文句よりも魅力的なところやドキドキさせられるところなど、恋バナのようなエピソードを語り始めたアズにセレナは知らない話を聞けたことには喜びがあったが、流石にここまで暴走されてしまうとどうするべきか分からず、ただただ困惑していた。
「あ、あのぉ・・・」
「---というところがとても良いと思うの。うん、自然と守るようにしてくれるところも・・・どうしたの?」
「・・・愛乃姉さん落ち着いてください。途中からシンさんのことしか語ってませんから。気持ちは分かりますけど、シンさんは嫌がって行ってるわけじゃありませんよね、たぶん」
「・・・あぁ、最近こういうことが多くてつい。ごめんなさいね」
鬱憤を晴らしたかったのかな、とセレナは苦笑すると、気にしてないと言うように首を振る。
普段はしっかりしているものの、アズは時々暴走というか黒いオーラのようなものを出し始めるのである。実際には出てないのだが、背後にそのようなものが見えるのだ。
「うん、目的を忘れていたわ。はい、これ」
「相変わらず愛乃姉さんって切り替え早いですよね・・・。いいですけど、これは・・・秋桜祭?」
「そ、本当はアークさまがセレナを誘って行くと言ってたんだけど無理そうだから楽しんでこいって言ってたわ。私も行くつもりだけど、セレナはどうする?」
パンフレットを渡されたセレナは目を通す。
名前からはわかりにくいが、どうやらただの学園祭であり、一般開放もしているようだ。
「出来れば行きたいですけど・・・いいのでしょうか?」
「いいんじゃない? アークさまが言ってるし問題ないでしょ。それにアークさまはセレナの自由を奪ってるわけじゃないし好きにすればいいと言ってたでしょ?」
信頼度が限界突破してるんじゃないかというくらい問題ないという謎の理論を言うが、実際予測とは言ってる割に全く外れないことから裏の住民たちにはアークゼロは未来予知が出来ると言われてたりチートと言われてたりする。
実際には本当にただの予測なのだが。
セレナはアズの言葉に納得しつつ、実際に拘束されてるわけでもなんでもないので、素直に行くことにした。
「それじゃ、当日は一緒に行きましょうか」
「はい、少し楽しみですね」
「えぇ、そうね」
まだ行くわけでもないのに、ワクワクとした空気感を出すセレナに微笑んだアズはその場に残って、セレナの作成を手伝うことにした。
◆◆◆
話題の中心というより、頼られてるのがはっきりと分かるのくらい話に出ていたシンは今---
「ようやく来たワケダ」
「もう、かなり待たされたわよ?」
「いや、プレラーティ、カリオストロ、流石にそれはオレに無茶ぶりし過ぎだろ・・・。日本からイギリスは流石にオレでも辿り着けないんだが? 文句ならお前らの所長に言え。少なくともオレは一発は殴った」
「すまないな。わざわざ来させてしまって」
文句を言われていた。
ぬいぐるみを抱えた眼鏡をかけた小柄な少女で『ワケダ』という独特な口調をつけるのはプレラーティ。やけに露出度の高い格好をしているのがカリオストロ。
唯一悪いと言ったのは男装をしている麗人、サンジェルマンだけである。
しかしながら所長を殴ったという発言に誰も文句を言うことはなく、むしろよくやったといった表情をしているのは何故だろうか。
その理由はまあ、彼女たちも苦労ばかり掛けさせられてるからだろう。実力がある分、殴ることすら難しいのである。
「まぁいい。それより---手遅れになる前に行くか」
『アークライズ・・・』
『オール・ゼロ・・・』
ベルトの上部を押すと、瞬時に黒い泥沼から人型のようなものが何体か生まれると崩れ、シンの肉体が悪意の文字に包まれるとその姿をアークゼロへと変える。
そして赤く輝く結晶体を三つ、それぞれ三人へ渡した。
「相変わらず禍々しい姿なワケダ・・・」
「その割には
「ラピス・フィロソフィカスまで取ってきてくれたのか・・・感謝する。私たちも行くとしよう」
「気にするな。・・・それにしても、個性的な連中ばかりだな、本当に」
もはや何を言われてもツッコム気は無いのか、ラピス・フィロソフィカスを纏う三人を見届けながら周囲の気配を探り、目的を探す。
周囲に誰もいないと分かると、アークゼロは三人の言葉から場所を探しながら、殴られた時の所長の反応など様々な質問や雑談に受け答えしながら元凶を倒すために動くのだった---
〇エボルト
(面白いから)言わないでおこう
(でも迷ったまま戦闘に入られるとアルトとの約束守れないから)エボルト相談室を開き、解決。
実際に昔話なんてなく、ただの
〇響
迷いが吹っ切れ、偽善と言われても、もう迷わないだろう。
彼女が、その想いを持ちづける限り。
〇奏
対峙して、マリアが持つガングニールが本物だと気づいたが、同じ後天性だと知って複雑な状態。
〇滅、雷
アークゼロの殺意に耐えたことで彼に『合格』として力を貰ったが、一応言うと常人が受けたら死ぬ。
『守りたい存在』が居なければ人格崩壊が起きてもおかしくなかったという。
〇アズちゃん
アークさまがひとりじゃなくなったのは嬉しいけど、乙女心として複雑。
が、アダムはアークさまをすぐ使うので嫌い。
〇セレナ
知識のみなため、当初はキャロルを先生と呼ぼうか悩んでいたなどという余談。
記憶について悩みはあるが姉のような存在と行けることに楽しみ。
〇アークさま
闍ヲ蜉エ莠コ
螳溘?繧ォ繝ェ繧ェ繧ケ繝医Ο縺ョ險?縺??縺ッ逧?r蠕励※縺?k
〇錬金術師協会
すみません、XD読み直したら結社じゃないやんけ、と変えました。
〇アダム
一発殴られたアダム。
そら(管理ガバいしさらっとやばいの盗まれたので)仕方がないね。
〇苦労人錬金術三人
またか・・・と思いながら探し中。
一度見つけたが、ラピスなかったので逃げられてしまった。
番外編(時系列にあったキャロルやオートスコアラー、他のキャラと主人公の日常)
-
いる
-
いらない
-
二期行こう
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アークワンはよ
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うるせぇ、尊くさせろ。暗殺するぞ
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もっとイチャつけ
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息抜きは大事だからね仕方がないね
-
で、IF編まだ?