戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ〜 作:絆蛙
やっと書けた。
この展開はずっと考えてたけど、まさか書けるとは。若干ややこしいです、書いてて混乱した。多分終わったら情報まとめる。
こっから多分五話くらい過去編になります。
翌日、二課仮説本部の指令室にて惣一以外の二課のメンバーは全員集められていた。
しばらく留守にするとだけ言っていたので、そこに関しては誰も何かを言うことはない。
しかし流石の響も普段の元気や明るさは一切なかった。
心配するような仲間たちの姿にもお礼のひとつやふたつ送ることもなく、そんな発想すら今の彼女には浮かばない。
失うということがどういうことなのか、経験した響はよく知っていた。その辛さを、身をもって知っている。
知っていたからこそ、心のありどころであった陽だまりを失った響の心情は計り知れない。
もしも、かつて誓った誓いがなければ自暴自棄になっていたっておかしくはない。
それこそ、自分の命を投げ出すような。
そんな響の様子を知ってか知らずか、弦十郎は何かを手渡してきた。
無骨なデザインの四角形の物体だが、削れたり潰れたりと間違いなく壊れているもの。
しかしこれが何なのかすぐに思い至った。
二課の通信機、響も所有しているもので、正直何も考えたくもなかったが二課に所属する者たちが無意味なことをするような人たちはないことはよく知っている。
「これは・・・?」
思わず受け取ってしまったが、まずもう使い物にならないものだ。
聞かなければ何も分からない。
だからこそ響は手元の物体について尋ねた。
「スカイタワーから少し離れた地点より回収された、未来君の通信機だ」
「え・・・」
息が詰まる。
それほど衝撃のある言葉。
響がおかしくなったわけでないなら、弦十郎は確かに未来の通信機だと言った。
普通に考えれば形見、ということになるが先ほど重要なことを言っていた。
スカイタワーから
「発信記録を追跡した結果、破損されるまでの数分間、ほぼ一定の速度で移動していたことが判明した」
表示されたモニターが証拠を示すように移動してることを表す。
発見されたのがスカイタワーではない。
さらに破損するまでの間一定の速度で移動していた。
そこから考えられることは一つ。
声帯を震わせかけて、それを言おうとして、口を噤む。
もし違ったら、これが否定されてしまえばきっと自分は立ち直れないだろう、と確信がある。
不安や恐怖、そういった感情が漏れ瞳が揺れる。
そんな響の様子を察したのか、弦十郎は僅かに笑って、一歩踏み出した。
「未来君は死んじゃいない。何者かによって連れ出され、拉致されていると見るのが妥当のところだな」
「師匠、それってつまり・・・!」
「こんなところで呆けてる場合じゃないってことだろうよ!」
頭に硬く、大きい感触があった。鍛え抜かれただけある、弦十郎の手だ。
幼馴染の男の子の不器用な撫で方とは少し違うが、弦十郎は響の背を押してくれた。
希望が見えたのだ。
事実、爆風で吹き飛んでいっただけなら一定の速度で移動し続けられるわけがない。
故に弦十郎の見解は真実に近いもののはずだ。
「さて、気分転換に身体でも動かすか!」
「はい!!」
元気が戻ったようで、響は明るく返事する。
そんな響を見て、他の者達は安堵に頬を綻ばせた。
---ある家があった。
いや、もはやそれは家とは言えないものだった。
焼け落ち、家という形は取れていない。崩落はしていないのが奇跡に近いが、一般人が入ったらいつ崩れて崩壊したっておかしくはない。
未だ片付けられることはなく、既に立ち入り禁止となっている場所。
『さ〜て・・・ここに来るのも久しぶりだなァ』
そこに一人、異形の存在があった。
血のように赤いワインレッドのスーツ、いや宇宙服に近しいモノにコブラを模したバイザーと胸部の模様が特徴的な姿。
それはかつて『仮面ライダービルド』と呼ばれる仮面ライダーと激闘を繰り広げた姿のひとつ、ブラッドスタークだった。
そんな彼はドアを開けようとして、触れた瞬間に崩れ去ってしまった。
やべ、と思わず声を出してしまったが、家は崩れない。
『何か秘密があればいいが・・・間違いなくアルトの家は普通の家じゃないはず』
あれから二年以上経ってなお、崩れていないこの家はおかしいのだ。
忙しかったのもあるが、知人であって行方不明となっている家を漁る気など起きなかったものの、今は話が別だった。
彼の予想が正しければ、アークゼロに関する秘密があったっておかしくは無い。
そもそも仮面ライダーゼロワンから始まり、次々に生まれた仮面ライダーはアークゼロ、迅、亡、滅、雷だ。
同じアイテムを使うという共通点から考えても、根本にはゼロワンが関わっていると見ていいだろう。
家の中は家具らしきものが少々焦げて形を歪にしながら残っている・・・が、色々と少ない。
生活するための最小限といった感じで、興味がなかったのだろう。
とても”らしい姿“に仮面の下で笑う。
ひとまず崩れた家具を退かしたりして何か埋もれてないか探るが、そう簡単に見つかるところにあったら回収されているに違いない。
家としては普通の家の造りなのだろう。
リビングもあれば個室もあり、風呂場やトイレ等など。
そんな中で、既に崩れ落ちた場所がひとつあった。
部屋の前を塞ぐように瓦礫が重なっている。
それを見たブラッドスタークは気になり、右腕を突き出すことで伸縮ニードルを伸ばし、薙ぐ。
『ここは・・・物置か?』
明らか怪しい場所であったが、その部屋はただの物置部屋だった。
一度も入ったこともないのか、埃まみれで変身してなければ咳き込んでいただろう。
それくらいに酷い。まぁ二年も瓦礫に埋もれて放置されてたのだから当然だが。
しかし他の部屋と違って
入ってみると、中にはスタークですら分からないものがたくさん存在している。
専門知識が必要になりそうなもので、歩いているうちにバギっと何かを砕くような音が響く。
足を上げて拾い上げてみれば、
潰れてしまって正確には分からないが、本当に物置として存在しているのだろう。
だいたいは機械関連のものばかりだ。既にボロボロに分解されたものすらある。
本格的に探るとなると、どれだけの時間を要するか。
顎に手をやり、少し考える。
正直彼自身、期待してここにきた訳では無い。何かあればいい、といった程度で一番怪しいこの家に来ただけに過ぎない。
第一、アークゼロのことを考えるならそんなヘマをするような相手じゃないだろう。
ほんの一瞬で世界全体の情報機関を把握し、あらゆるネットワークをハッキングした上で人の思考すらも操って見せた存在だ。
二課や他の組織がそんな存在を追えてないのだから、アルトというただの少年の家にアークゼロに関する機密があれば、ここの家を知らなくともアークゼロ自身の行動で正体がバレたっておかしくはない。けれど、アークゼロは正体に関して全て情報を消し去って行動している。それは正体がバレたくない、という意味合いも含まれてるだろう。
なにより物置は入ってないとはいえ、この家は立花響や小日向未来も一度捜索しているのだ。
やはり置いてるとは限らない、と見るべきだ。
『仕方がない、か・・・面倒だが監視カメラや衛星を当たって見るかねェ・・・』
許可を貰えば何とかなるだろう、無理なら勝手にやればいいとスタークはその辺に捨てる・・・とは流石に知人なのもあってせず、テーブルにそっと置いて出ようとしたところで、手に思わずナニカが当たって吹っ飛んでしまった。
音から察するに重量はあるものだ。こんな機械だらけのところならもしかしたら爆弾かそれに近しい危険物があったっておかしくは無い。
壊してしまったら色々まずい。
そう思って落ちたであろう物を音の発生源から特定し、近づく。
『ん? コイツは・・・』
握り締めたら壊してしまうので、摘むように持ってみる。
物体を見てみると、それは銀色のカセットテープのようなもの。触れてみると、壊れてないらしく画面が光を灯す。
『・・・スマホか? だが・・・』
そこにある機能は電話やらメールなどなど、IDなどの見慣れないものはあるがまさしく現代におけるスマホそのものだった。
ちょっと変わった形ではあるが、新規造形のものか、それとも古い機種か。
どちらにせよ、画面にノイズが走っているため、寿命でも迎えそうになってるのだろうか。
まともに扱うことも出来ない。もし普通に使えたなら、何か情報があったのかもしれないのだが。二課に持ち帰って亡かフィーネに直してもらう手もある・・・しかし期待できるかと言われると期待出来ないし一般人であるアルトの情報を調べて欲しいなんて理由なく許可されるはずがない。
仮面ライダーゼロワンだということは話さない、それはエボルト自身が決めたことだ。
というか話したらややこしくなる上に響や未来にどんな影響があるか分からない。
二年前、あの状況下で苦しんでいたのにアルトだけはそれ以上だったと知れば、傍に彼が居ない状態で知るのは酷というもの。
人とは脆弱な生き物だ。それが成長に繋がる者もいることは知っているが、あの二人は行き過ぎた領域に居る。当時のことを知るエボルトはアルトの存在の大きさは当然把握している。
『やっぱそう簡単には行かせてくれねぇか・・・ここは監視カメラを---!?』
その瞬間。
持っていたスマホらしき画面からノイズが消え、『Start receiving data』と英語で書かれた文が表示された。
『どういうことだ? 勝手に起動しただと・・・?』
何やら読み込みが入ってしまったが、スタークは何一つ操作していない。
何があったのか、なぜ起動したのか、何に反応したのか。
それらを考えるも、全部覚えもあるはずなく、スマホらしき物から映像のようなものが立体投影され---
『これは、まさか---』
そこに映された映像に、スタークは来た甲斐があったと言わんばかりに喉を鳴らして笑った。
シャトー内部。
セレナの意識が戻ったとアズから聞いたアークゼロはエアキャリアから帰還した。
テレポートジェムならば一瞬で戻れるため、それを使用したのだ。
というか、あまり侵入しすぎると無駄に警戒することになったキャロルに吹っ飛ばされるか怒りを宥めるのが大変なため、最近は控えている。
なんならミカが侵入者と判断して積極的に
それはともかく、シンとしての姿に戻ったカレは一息つき、色んな予測を脳裏でしながら目的地まで歩いていくと、ふと足が止まった。
フードは拠点みたいなものなので被ってないため、表情がよく見える。
違和感があるような、何かあったような、そんな感覚があって周りを見渡すシンだが、当然誰も居ない。侵入者が来たというわけでもない。
無論のことながら、別にオートスコアラーたちが襲ってきたというわけでもない。
ただこう、無性に胸がザワつくような、何か自分の知らないところで予測が外れた、想定外のことが起きたような---
「・・・ゼア?」
思い当たる節はあった。
懐から取り出したのは、普段シンが使っているベルトとは全く異なる物体。
黒、蛍光イエローをメインに一番左側には赤と銀色の保安機構。中央には丸い、数字でいう0。英文字でいうOが存在するベルト。
「まさか、そんなはずは・・・だが、アークの力を上回るとすれば・・・いや・・・気にしすぎ、か。予測など所詮予測でしかない。アークの力を完全に制御出来るといっても、神じゃないオレは全知全能というわけじゃない・・・それよりも、今は目先のことだ。セレナの様子を見て、それから---」
ベルトを懐へ戻した後、シンは独りでにぶつぶつと口に出しながら思考を絶やさず、先々のことを考えていく。
もしこれが街ならば、変質者として見られていたに違いない。
それはともかく、思考を切り替えたシンはセレナたちが待つ部屋の前に着いた。
セレナはアークの一端、簡単に言えば
だが元々彼女が使っていた力であるファウストローブはシンがキャロルや錬金術協会を参考にアークの力によって聖遺物を使って創造したモノ。
その際にアークの力を行使したため
シンはそのような機能を取り付けてないため、制作段階で混じったのだろう。それか、別の理由か。
どちらにせよ、生身の人間にアークの悪意は刺激が強すぎる。下手すれば廃人、死人にすらなる。
感受性の高い人間には心が耐えきれない。
例えば人の死。例えば憎しみ。例えば絶望。例えば嫉妬。
そういった悪意、負の感情を宿すのがアークである。それを一部であり一瞬でも受けたのだから、意識が回復するのが遅くなったのはそれが理由だ。
別に今回のものは命に関わるものでは無いと理解していたため、普通に任せて別行動していたが。
「入っていいか?」
「早く来い」
一応自身を除いて異性しかいないため、ノックをしてから声を掛けると急かすような返答が返ってきた。
口調や声音から察するにキャロルだろう。
言われた通りに部屋に入る。
目に入ったのはテーブルに頬杖をついてこちらを見るキャロルと背後にオートスコアラーが四体。
それから一つ空けて横の方に椅子に座っているアズと、中央の対面にセレナ。
ぱあっという効果音がついてそうなくらい明るい顔を見せたアズがシンの場所を知らせるように中央の椅子をぽんぽんと叩く。
セレナと対面にするためだろうか。
別に場所に拘りがあるわけでもないシンはキャロルとアズの間に腰をかけた。
その際にオートスコアラーが珍しく煽ってきたり何か言ってきたりしないことから、真剣な話だというのを薄々察する。
座って目の前にはセレナ。
しかしいつもと違って、彼女の表情は何処か暗く。
それでいてシンと目を合わせないように俯きがちに目を逸らしていた。
(・・・ああ)
こうも分かりやすいと楽だと、シンは思った。
元々今回の件、セレナは自由にさせるつもりだった。
その結果がこうなったわけだが、一度目を伏せたシンは話を切り出す。
「さっき目が覚めたって聞いたよ。大丈夫か?」
「あ・・・はい・・・」
「悪かったな、アークの力に頼らず自分の手で作っていればセレナがああなることはなかった」
「い・・・いえ・・・気にしないでください・・・。あれはきっと、私にも責任がありますから・・・」
「・・・そうか」
変わらずセレナは元気が無い。
元々そんなコミュニケーションを取るのが好きなわけでも得意ってわけでもないシンはそれ以上何も言えず、場を沈黙が占める。
互いに何かを言うことはなく、隣でため息を吐く音が聞こえた。
「いつまでこうしているつもりだ?」
キャロルだった。
彼女は一向に進まない状況に焦れったくなったのか少し低い声で沈黙を破る。
ほんのちょっと不機嫌そうだ。
時間を取ってるのでそれもあるかもしれない。
が、何故か睨まれたシンは困ったような表情をした。
「まぁ・・・そうだな。セレナ、話したいことがあるんだろ? そうでも無いなら、わざわざキャロルやオートスコアラーたち、アズをここ呼ぶ必要はなかったはずだ。こうして座っている理由は何か話しがある・・・違うか?」
真面目な顔を作って、本題へ切り込む。
そう、シンはただセレナが目を覚ましたってことで戻ってきたが、戻ってきたらセレナ以外も居たのだ。
となると、話し合いの場を設けたのは理由があると予想出来る。しかも対面にはセレナ以外が居ないのだから、彼女がそうしたのだと予想出来るだろう。
「・・・やっぱり、シンさんは凄いですね。そうです、話したいことが・・・あるんです」
ようやく顔を挙げたセレナが笑みを浮かべる。
満面の笑顔ではなく、無理して作ったかのような弱々しいもの。
話題を逸らすことなく、誤魔化すことすらしなかったのはシンのことを理解しているからだろう。
カレはアークゼロの力ばかり見られがちではあるが、素の洞察力や処理能力は一般の人間よりも遥かに高い。
ずっとアークゼロの姿でいるわけではないカレが変身前をバレないようにしてるとはいえ、狙われる可能性もある。今もこうして五体満足でいるのはアークゼロの力のみではないからだ。
無言で答えるシンに、セレナは話を催促するものだと思ったのか深呼吸をひとつ挟む。
「シンさん、実は私・・・」
その続きを話すのが怖いというように、彼女の唇は震えている。
何かが変わってしまうかもしれない。話さなければ無理に聞こうとはしない。
関係性が壊れてしまうかもしれない。胸に秘めたまま知らないフリをすれば。
そんな甘い考えが浮かんでくる・・・しかし、セレナは覚悟を決めたように真っ直ぐにシンを見て口を開く。
「私、思い出したんです。先日の・・・ネフィリムを見たとき。失った記憶の全部を」
「そうか」
予想していたことだ。
特に驚きを見せないシンの姿にセレナも特に何かを思うことはない。
それよりも何処まで見抜かれているのか、そこが分からなかった。
唯一分かるのはこの続きの話を、カレは聞きたいのだろうということ。
「自分が誰なのか、6年前何をしていたのか、どう生きてどう過ごしてきたのか。私が覚えている最後の記憶もちゃんと思い出しました。でも・・・分かりません。分からないんです。2年前、目が覚めたとき、私にはシンさんしかいませんでした。貴方が私に名前をくれて、居場所をくれた。その合間が、分からないんです。何も覚えてないんです。シンさんは、知ってる・・・いえ、知ってたんですよね? なら・・・どうして私は生きているんですか? どうして・・・どうして私もシンさんも・・・2年前、
「・・・」
それは、当然の疑問だった。
6年前。
現在は2043年。つまり、6年前だと2037年。
その時のセレナの年齢は13歳であり、本来ならば18〜19歳の年齢になっている。
だが、どう見たって18〜19歳には見えないだろう。
普通、4〜6年の月日もあれば多少の変化は訪れる。
だというのに、シンもセレナも4年間は
しかしセレナが18歳以上ならばもっと大きくなっていていいはずなのに、背丈など中学生くらいだ。そもそも今の彼女は15歳なので、中学生、または高校生の年齢なのだが。
何よりここに、有り得てはならない一つの大きな矛盾が発生してしまう。
シンの存在も、仮面ライダーアークゼロという悪の権化も、生まれたのは仮面ライダーゼロワンが生まれた数ヶ月後。
その仮面ライダーゼロワンが生まれたのも、仮面ライダーアークゼロが出現したのも、
「・・・教えてください。私の記憶も・・・私のこの想いも、私にしてくれたことも、私に優しくしてくれたのも、私に居場所をくれたのも、私に思い出をくれたのも、私に力をくれたのも、私の抱くこの感情も・・・全部、全部偽りなんですか? シンさん、私は・・・信じて、いいんですか・・・?」
「・・・」
否定して欲しいというように、嘘だと言って欲しいというように、縋るような目だった。
なぜ記憶を失ったのか、それはセレナは思い出してもなお、分からない。知ってるのは最後の時と、目を覚ました時。その時目の前に居たのは、未だに何も言わず、こうして目の前に座っているシンだった。
なぜセレナに手を差し伸べるようなことをしたのか。
何も覚えていないセレナにとって、伸ばされた手は救いの手だったはずだ。
だからずっと傍に居た。大切にしてくれると分かってたから。大切にしてくれてたから。
なのに全部思い出したら、変わってしまった。
最悪の考えが、拭えない。信じたいからこそ、否定して欲しい。たった一言、それだけでセレナは今も、これからも信じられると思っているから。
「・・・待って、セレナ。アーク様は---」
「アズ」
シンが何も言わないからだろう。
二人を目で追っていたアズが代わりに話そうとして、シンに呼び止められた。
何を言いたいのか理解したようで、しょんぼりとした様子で口を噤む。
そんなアズの頭を軽く撫でると、シンはセレナに目を合わせた。
「その答えは必要か?」
「っ・・・はい・・・」
ようやく口を開いたかと思えば、発せられたのは問いだった。
思わず緊張に顔を強ばらせるが、セレナは大人しく頷く。
逃げたって、何も変わらない。今の気持ちを持ったまま過ごすのはセレナには出来なかった。
「返答はどちらでもない、だ」
「・・・え・・・?」
「誤解するな。今のお前は、オレがそうだと言って信じられるか? 違うと言ったら信じられるか?」
「そ、れは・・・」
不信感。
一度抱いてしまったそれは、中々消えることは無い。
仮にここで偽りだということや、偽りではないということを言ったって嘘か本当かなど分からないものである。
「お前が何を思い、何を考えているのか分かっている。オレの行動を不審に思うのは当然だろう。利用しているだけ、とも見えるだろうな」
俯瞰的に見てみよう。
シンはセレナに名前を与えた。その名前は記憶を思い出したセレナにとって馴染み深い名前そのものだった。
過去と同じ、名前。
そして記憶を失って目にしたのがシンの存在。それから何も知らないセレナに色々としてくれた相手。
だが思い出した今、一緒に過ごした二年間は抜きとしたら、最後に会った記憶があるのは6年前だ。それから4年後、つまるところ2年前。それがセレナが記憶を失ってシンの手を取った時期。ここで4年間の空白が出来てしまっているのはおかしい。そして2年後、今。
アークゼロが現れたのは2年前だというのは世間に浸透している。
人ですら操ってみせるアークゼロのことを考えたら、怪しさしかない。
それこそ、利用するためだけに偽りの記憶や思い出を与えた、など。
「だが、オレが何を言っても意味は無い。オレを信じたいか信じたくないかはお前次第だ。オレは否定も肯定もしない」
「じゃあ・・・私は・・・どうしたら・・・。否定してくれたら、信じていいって言ってくれたら・・・信じられるのに・・・」
シンは何も言わない。
アズは何かを言いたそうだが、さっき発言を止められたのもあって言い出せないでいる。
また俯いてしまったセレナは、肩を震わせていた。
自分でももうどうすればいいのか分からないのだろう。分からないことだらけで、信じてた相手が信じていいのか分からなくて。でも信じたくて。
ただただ、セレナは答えを見失っていた。
そんなとき。
「・・・はぁ」
聞いていただけのキャロルがため息を零すと、こめかみを抑えた。
入るつもりはなかったが、埒が明かないと思ったのだろう。
若干シンを睨む。
「セレナの記憶を奪ったのはお前だろう?」
「・・・え?」
「ああ。セレナが疑問に思ってる部分の記憶もな」
あっさり返ってきた肯定。
知らなかった事実にセレナは衝撃を受け、顔を曇らせる。
「だったらお前には真実を伝える責務があるはずだ。それ以前に、だ。なぜ突き放すような言い方をする? もっと別のやり方もあるだろうに・・・それだと何の解決にもなってないぞ」
「いや、そんなつもりはなかったのだが・・・けどキャロルの言う通りか。ありがとうな、お陰で助かった」
呆れるキャロルにそう見えてしまうのかと苦笑いをした後にキャロルにお礼をすると、彼女は鼻で笑うと顔を逸らした。
話が進まなかったのが気に食わなかったのだろうか、と思いつつシンは今日一番の暗さを見せるセレナに向き合う。
「悪かった、話は終わりじゃない。確かにオレが何かを言っても無駄だろう。はっきりいって、話を創ることなんて簡単だ。出鱈目を述べて、それが真実だと告げることが出来る。
だからオレは肯定も否定もしない。だから
心を読める力があるならまだしも、本当のことかどうかなんて判別出来ない。
それこそ行動や声音、表情から判別する方法はあるが、容易ではないだろう。
なんならぶっちゃけ『悪意』に関することなら得意なカレは騙すことなど容易だった。
だからこそ、シンはどちらも言わなかった。
「そ、それは・・・どう、いう・・・?」
顔を挙げたセレナは変わらず顔は暗いが理解出来ないといった様子だった。
何が言いたいのか分からない。誰もがカレのように、全てを理解出来るわけでもない。
「簡単な話だ。全てはお前の目で確かめろ」
「私の・・・目?」
「そうだ。だが、本当にいいのか? これは忠告だが、真実ってのは全てが良いものというわけじゃない。知らなかった方がよかった真実、忘れたままでよかった現実、失ったままの方がよかった思い出、全てがいい方向へ向かうなんて少数に過ぎない。そういった残酷な現実と向き合う必要性が生まれるかもしれない。もしかしたら立ち直れなくなるかもしれない。それでもなお、お前に真実と向き合える覚悟が今あるか?」
その問いかけは、嘘は許さないといった圧を感じさせるものだった。
カレなりの気遣いだろうか。
実際、どんなことが起きたかどうかはさておき過去を知るということだ。
思い出した記憶の中にはない出来事、シンしか知り得ないこと。なぜ4年の月日が起きても変化がなかったのか。なぜ2年前に手を差し伸べてくれたのか。
それらを今から知る、ならばその覚悟はあるのかと。
その問いに対し、セレナは---
「私は・・・知りたいです。シンさんのことを信じたい・・・今までのことが嘘じゃないって、本当だったんだって・・・偽りじゃなかったんだって・・・明かしたいんです。この気持ちも私が抱いた気持ちなんだって・・・! ですから、ですから教えてください、シンさん」
強い眼差しで、真っ直ぐにシンを見つめてそう告げた。
視線が絡み合い、互いに目を逸らさない。
それが数秒程度経っただろうか、ふと圧が消えたかと思えばシンは少し口角を上げて笑っていた。
思わず呆気に取られるセレナに、立ち上がったシンは彼女の頭を撫でる。
「合格だ」
「へぁ・・・?」
「試させてもらった。こればかりは半端な覚悟で聞くつもりならオレは教えるつもりはなかった。だが・・・そうじゃなかったみたいだからな。その覚悟が本物だと分かった今、オレに教えない理由はない。後はお前が自分自身でオレを信じるに値するか決めるといい」
そう言ってカレは立ち上がり、反対側まで歩いていくと手を差し伸べる。
どういう意図か理解したセレナは戸惑いつつもその手を取ると、立ち上がった。
「キャロル、そういうことだ。いいか?」
「オレに意見を求めるな。勝手にすればいい、別に困ることでもないしな」
「そうか、じゃあ好きにさせてもらうが、時間を取らせたな。キャロルも一緒に来るか?」
「いやいい。他人の過去を覗き見る趣味は無い。結果だけ教えろ」
「分かった」
互いに短く最低限のやりとりだけで済ませると、セレナに目を向ける。
何処か混乱しているようだ。
さっきと違って、いつも通りのシンに戻っている。
それはつまり、先程の言葉通り試させられたのだと徐々に頭が理解していく。
「あ・・・あの・・・」
「ひとまず場所を移すぞ。楽な体勢の方がいいだろうからな」
聞く耳を持たず、シンはセレナを引っ張って歩いていく。
しかし転ばないようにゆっくりだったり、しっかりと手を握っていることから怪我をさせたいわけでもどうだっていいと思ってる訳では無いのは伝わってくる。
引っ張られる形で見上げたセレナには背中しか見えないが、今もこうやって気遣ってくれるシンに対して申し訳なさと疑心感と、安心感だけが心の内を支配していた。
「アズ、来るなら来い」
「! はーい」
去る寸前で、大人しくなっていたアズに声を掛けると彼女はすっかりと元気になって、ついていく。
場所は変わって自室。
そこは自室という割には質素だった。
ベッドに椅子、タンスなど必要最低限のもので趣味のようなものもなければテレビすらない。
家具があまりに少なく、生活感が全くない。
そこはシンの部屋だ。
シン、セレナ、アズと三人が居る。
欲がないと言えばないように見える部屋。
そこでシンはベッドを指差した。
「そこに座るといい」
「は・・・はい・・・」
軽く周りを見渡したセレナは言われた通り、大人しくベッドに腰をかける。
それを見たシンは懐からあるドライバーを取り出した。
黒、蛍光イエローのベルト。銀と赤の矢印型の装飾、右側に環状の黄色パーツが付いていて、横にスロットのようなのがあるグラフィックボードみたいな物体。
「受け取れ」
強すぎず、軽く曲線を描くように投げると綺麗にセレナの両手に収まる。
落とさないように投げる力も調整されているのだろうが、手元のドライバーを見てセレナは戸惑いを覚える。
シンが使っているベルトに似ているといえば似ている。けれど、違う。
「え・・・っと・・・?」
「それを腰部に宛てがったら、寝転んで・・・そうだな、寝る時と同じようにすればいい。言っただろう、お前の目で確かめろと・・・それが必要だ」
淡々とした声音ではあるが、わざわざここまで来て嘘は付かないだろう。
何より、このような形状のベルトを渡すなんて真似をカレはこれまで一度もしたことは無い。
真実を知るには、覚悟が必要。それは今言われた言葉を信じる覚悟も必要なわけで、セレナは少し緊張しながらも言われた通りにベルトを腰に添える。
瞬間、ベルトの両サイドから格納された接続バンドが腰背部まで巻き付き、苦しくもなく緩すぎることも無くピッタリと装着された。
『ゼロワンドライバー!』
ベルトの名称らしき音声が鳴り、セレナは揺れる目でシンを一度見るとカレは頷くだけで、先程言われた通りに寝転ぶことにした。
そうして寝る時同様に目を閉じ、それを確認したシンは腰部にアークドライバーゼロを出現させる。
『アークドライバー・・・』
「アズ、先に行っている」
「ええ、行ってらっしゃい、アーク様」
椅子に座るシンは目を閉じ、静けさが訪れるシンの自室で離されていた椅子を隣に引っ張ってきたアズは座ると、動かなくなったシンの体に触れてゆっくりと倒す。
ぽふ、とシンの頭を自身の膝に横になるように乗せる---いわゆる膝枕をすると満足気に微笑みながらシンの頭を撫でていた。
気がつけば、セレナは知らない世界の中に居た。
現実の体そのものがあるというわけではない。
ただ肉体は確かに存在していて、体を構成しているだけで実体のない体、精神体とでも呼ぶべき状態なのだろう。
ただし、腰部にはゼロワンドライバーが存在している。
そしてその空間には0と1の文字列が次々と浮かび上がる
その他には何も無く、物が置いてるわけでもなかった。
何処を見ても、灰色。
そんなとき、灰色の世界に境界線が生まれる。
雨が降ってるところと降ってない場所、いやこの場合ならば太陽と陰の間、と例えるべきか。
そのように真っ黒に染まった世界に悪意の単漢字の文字が浮かび上がっている。
灰色と漆黒の世界。
「それ以上は近づくな」
ふたつに分かれ、変化が訪れた黒い世界へ行こうとしたところで、呼び止める言葉が聞こえた。
咄嗟に足を止めると、真っ暗な中からシンがゆっくりと歩いてくる。
「シンさん・・・? あの、ここは・・・」
境界線を跨ぐことなく、ギリギリのところに立つシンは感情の籠ってない目でセレナを・・・否、灰色の世界を見つめる。
初めて来た場所に何も分からないセレナは聞く。
「---この世界にはかつて、仮面ライダーゼロワンという存在が居た」
「・・・?」
「人知れず災厄と戦い、夢へ飛び立つ希望の存在。悪意に晒されながらも善意であり続け、行き過ぎることなく正義のために戦い続けた者・・・そのドライバーはその仮面ライダーが所持し、使用していた」
向けられる視線はゼロワンドライバーだった。
ドライバーの名前にもある通り、仮面ライダーゼロワンは善意のライダーだった。
他者に責められ、貶され、怖がられ、恐れられ、それでもなお悪意に染まらず人類のために戦った戦士。
「そこは、衛星ゼアの中・・・電脳空間と言えば分かりやすいか?」
「電脳、空間・・・それに衛星・・・ですか?」
「ああ、ゼアとはゼロワンの力の源である超知能だ・・・その辺はいい。それよりもお前にそのドライバーを渡したのは、ここへ来るためだ。今、
話を聞いて、得心が行く。
今の状態から察するに自室へ連れてベットで寝かせたのはセレナのことを考えるシンの優しさなのだと。
「そしてアーク様がいるところが、衛星アークの中。まぁセレナが入ったらゼロワンドライバーのお陰で脳味噌が破裂することはないけれど・・・体調は悪くなるでしょうね。魘されたり、精神的に汚染されたり。場合によっては廃人コース?」
「え・・・あ、愛乃姉さん・・・? どうして・・・!?」
今の説明から考え得るに、シンが持つアークドライバーゼロ、セレナが身につけているゼロワンドライバーがなければこの世界に来ることは無理そうなのだが、アズは普通に出現していた。
衛星ゼアの空間だが。
「私はちょっと特別なの。そんなことよりも、知りたいんでしょ? ゼロワンドライバーがあれば人工知能と同じ思考速度を得られるの。まぁ簡単な話、情報の処理が楽になるってわけ。だからアーク様はこの空間に連れてきたのね」
「・・・ああ。見ろ、というのはそのままの意味だからな。今からオレがセレナと会う直前、セレナと会ったときの記録をそのまま流す。映画を見るようなものだ」
手を翳す。
頭上にではなく、衛星ゼアの方へ。
すると少しデータの乱れが起きたが、次第に安定し衛星ゼアの空間の中に大きなスクリーンが浮かび上がる。
「ゼア、お前のデータも貰うぞ」
アークドライバーゼロの中央部が赤く輝く。
衛星アークとゼアからスクリーンの方へデータのような文字列が次々と集まり、そこへ映像がゆっくりと浮かび上がる。
「覚悟はいいか? 引き返すなら今のうちだが」
「・・・構いません。この気持ちは今も同じです。知りたい、私のこと、私の知らないことを・・・何より、シンさんのことを。私のこの想いが偽りなんかじゃないって・・・貴方と過ごした日々が嘘じゃないって・・・信じたいから」
「・・・そうか、なら見るといい」
揺らがない覚悟を持つセレナに、シンはスクリーンに目を向けるとセレナは緊迫した様子で同じく視線を移す。
画面が完成しかけている。胸に手を当て、深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
壁があるわけじゃないけれど、確かに境界として分けられているセレナとシンだが、セレナはシンの横顔を見た。
特別変わった様子はない姿、それでもさっきから思いやりが存在していて、それすら本当の姿なのか作っただけの姿なのか。
この素早く脈打つ胸の音が今緊張のせいなのか別の意味なのか、セレナには分からなかった。
それでも、この気持ちが嘘なんかじゃないと思いたくて、僅かに胸に手を当てている手が握られ、片方の手は少しシンの方へ向けられていた。
境界から半身が出ているわけでもないから無理だが、もしなければ裾を握っていただろう。
ほんの少しの不安から伸ばされた手。無意識でしかなかったが、セレナは気づかない。
「・・・」
「これが始まりだ」
唯一、アズだけが気づいていたが指摘することなく、始まりを告げるシンの言葉に意識をスクリーンに向ける。
そうして完成されたスクリーンから映像が流れ始めた---
仮面ライダーアークゼロとして覚醒した二年前。
そこから半年後の出来事だった。
最初はぶっ飛ばされたり警戒されたり襲われたりしていたが、ようやく認められたのか諦められたのかすっかりと仲間入りを果たしたシンはシャトー内部を歩いていた。
もう既にオートスコアラーたちは起動しており、度々思い出を渡している。アークの力を持つカレにとって、思い出など一分もあれば何度もその辺から
そして今はキャロルから許可を貰ったシンは聖遺物が存在している部屋に着いた。
だいたいは使い物にならないガラクタみたいなものだが、腐っても聖遺物。
乱雑に置かれているのに呆れつつも整理していく。
暴走したものはアークの力で抑え込み、問題ないのは綺麗に置いていく。
完全に起動しているものばかりで、下手をすれば命に関わるものも多いが、まあその程度でアークを殺せるなら誰も困るはずもなく。
数時間経って、少しマシになっていた。
やろうと思えば数日あれば綺麗にすることは可能だが、シンはまだ聖遺物というものがよく分かっていない。
だから学ばなければならなく、故に時間がかかる。
『ひとまずこんなものか・・・』
聖遺物に関する作業が終われば、今度は情報収集をする。
過去の事件を漁るのだ。
フィーネと呼ばれる存在と接触を果たしているカレは必要ないだろうが、情報を集めることにしていた。
そこから出てきたのは米国連邦聖遺物研究機関の存在。
秘密裏に聖遺物の研究を行っている組織だが、個人の能力に左右される「歌による起動」よりも、 合理に則った機械的な安定起動方法を研究していると。
それらを知りながら米国連邦聖遺物研究機関---F.I.Sの資料を集めたシンは自室に戻ってテーブルに資料を置く。
全てを集められた、なんてわけではないがある程度は集まっただろう。
読む前に少し休憩がてら休もうと思っていたシンは、珈琲を淹れることにした。
『・・・ん?』
そこでふと、机に見覚えのないアイテムが一つ置いてあったことに気づく。
入ってきた時は資料の束で前が見えなかったが、今は置いて遮る物がなくなり、視野が広がったからこそ気づいたのだろう。
手に収まるくらい四角い物体。見覚えのあるような気がするもの。
部屋を見渡す。
誰かが侵入したような形跡はなく、仮に侵入出来てもわざわざ机に丁寧に置かれることは無いはずだ。
イタズラにしては、もっとやりようがあるだろう。
それどころか見た感じ罠があるというわけではなく、せいぜいいつものように
『・・・プログライズキー、か?』
シルバー色のカセットテープ。
それが何なのか、シンはよく知っている。
仮面ライダーに変身する際に用いるアイテム。
しかし触れることはせず、顎に手をやって考え込む。
『オレはプログライズキーを作成していない・・・オレだけが作成出来ると思ってるわけじゃないが、どう考えても怪しすぎる。しかしこのまま放置しても変わらない・・・仕方がない、か』
そもそも今置いてあるプログライズキーは背面しか見えず、何のプログライズキーか不明瞭なのだ。
それを知るには表を確認するしかなく、警戒しながらシンはプログライズキーを手に取り、表面を見た。
『これは・・・!?』
視覚がソレを捉えたとき、シンの顔は驚愕に染まる。
クリアパーツ部分が黒で、前面がピンク色のプログライズキー。
別に色はどうだってよく、問題はデザインだった。
そこにあるのは顔。
金属製の腕時計のようなもので、時計の針が10時10分を模した角が目を引き、複眼にあたる部分には
『キング!』
『!?』
その瞬間、起動ボタンに触れていないのにプログライズキーが
さらに、シンの手から独りでに抜け出したプログライズキーは
『まさか・・・ゼアか!?』
そこでようやく、シンはプログライズキーがあった理由と起動した理由に思い当たった。
しかし考える暇はなく、シンの肉体が吸い寄せられるように一気に引っ張られる。
咄嗟に悪意を放出し、全身に纏って全力で踏ん張るが、徐々に引き寄せられていく。
『ま、まずい・・・このままだと、吸い込まれる・・・!』
いくら変身後よりかは弱いとはいえ、これでもアークの力である。
だというのに力負けしている。
なぜこうなったのか、なぜゲートに吸い込もうとしているのかは分からないが助かる術はひとつしかない。
【アークドライバー・・・】
『変身・・・!』
【アークライズ・・・】
【オール・ゼロ】
腰部に出現させたアークドライバーゼロの上部にあるアークローダーを拳で叩きつけるように押し込み、溢れた流体金属がシンの体を包み込むことで、その姿を人類の敵である仮面ライダーアークゼロに変身させる。
頭部が左右非対称でアンテナは片方のみ、左目は通信衛星のコアと同じ造形であり、上半身の装甲はひび割れて金属やパイプ類が貫通・露出していたりとボロボロで、まるでライダモデルを無理やり剥がされたかのような満身創痍の姿。
これこそ、シンの仮面ライダーとしての姿。
普段はアークゼロが持つ
すると流石にゲートの吸引力の方が弱いのか、アークゼロの足が止まった。
【アタッシュカリバー!】
『何のつもりか分からないが・・・終わりだ』
手のひらの照射成形機から生成されたアタッシュウェポン、剣型のアタッシュカリバーを生成したアークゼロは吸い込もうとするゲートを破壊すべく、アタッシュカリバーを殴りつけるように吹き飛ばす。
いくらプログライズキーの力が込められてるとはいえ、元は鏡である。
そしてアークゼロ本来のスペックが引き出された状態で殴り飛ばされたアタッシュカリバーは生半可な相手では視認不可能な速度で回転しながら飛んでいき、ゲートの中・・・ではなく、ミラーフレームを先に切り裂く。
鏡としての形を失ったためか、ゲートが消えるのと同時に鏡のガラスが割れ、吸引力は失われる。
そうして無事に解決する---
『キング!』
壊れたはずの鏡が再生し、ゲートが元に戻る。
ぐるぐると回転しながらアタッシュカリバーがアークゼロの元へ戻り、手のひらの照射成形機がアタッシュカリバーを消していく。
さらにアークゼロの姿を流体金属が覆い尽くし、溢れた少しずつ流体金属がベルトへ戻っていき---
【ロゼ・ルーオ】
【ズイラクーア】
『!・・・んしんへ』
【ーバイラドクーア】
アークゼロとしての姿を失い、シンとしての姿になると腰部に出現していたアークドライバーゼロはシンの肉体へ戻っていった。
『・・・! な、何が・・・起きた・・・ッ!?』
気がつけば、全てが元通りとなっていた。
そこでようやく、シンは思い出す。
描かれていた顔のデザイン。
その上部に書かれていた文字、それは『RIDER TIMING ZI-O』。
つまり。
『時間が・・・巻き戻った・・・!?』
原因を特定出来たが、全てが遅かった。
アークの力で踏ん張ってなお引っ張られていた。
だが今は悪意を放出する前まで時間を戻されている。
そうなると当然、一般人と変わらない力しか持たないシンの体はあっさりと持って行かれる。
『しまっ・・・!』
アークドライバーを出現させる時間もなく、さっきよりも強い吸引力を見せるゲートにシンの体は浮き、抵抗力を失ったカレはそのままゲートの中へ吸い込まれる。
誰も居なくなった部屋でゲートは元々存在しなかったように鏡に戻ると、
『---すか?』
硬い肌触りを感じ取る。
明らかに自室とは違い、外かと言われればそれも何処か違う。
風を感じることはなく、シンはただ体が揺さぶられているような気がしていた。
『・・・夫、ですか---?』
人の声が聞こえる。
知らない声だ。
死んだ、というわけではないようで、ひとまず意識を戻さなければならない。
ちょっとずつ、血が巡っていく。
『---大丈夫ですか?』
少しして頭の中が鮮明になり、意識が覚醒する。
最初に見えたのは、光だった。
眩しい白い光。
反射的に目を細めてしまうが、どこかの部屋だろうか、それとも病院か。
何はともあれ、思考が出来るほどには目が覚めたシンは真っ白な場所にいることに気づいた。
『・・・ここは』
『良かった・・・目が覚めたんですね』
返ってきた声に、声の主の方を見た。
そこに居たのは年頃の少女だった。年下だろうか。
亜麻色の肩まで届く髪を持ち、慈愛を滲ませた微笑みはとても可愛いらしく、小柄な体躯と添えられた髪飾りが美少女を形にしたような印象を完成させる少女。
初対面だと言うのに心配してくれたのか、意識が回復したシンにほっとしたような安堵の表情を見せる。
どうやらさっきから声を掛けてくれたのは、この少女らしいと状況からシンは事態を把握する。
『オレは、なぜここに・・・』
『すみません・・・私も先程倒れてるのを見掛けて・・・詳しくは分からないんです。特に怪我とか、そういうのはなさそうでしたが・・・』
それもそうだろう。
会ったことのない人間に聞いても分からないとしか返ってこない。
申し訳なさそうな顔をする少女にシンもなんとも言えなくなり、話題を変えるために目の前の少女が何者か聞くことにした。
『いや、いい・・・それよりキミは?』
『あ・・・申し遅れました。私はセレナ・カデンツァヴナ・イヴと申します。よろしくお願いしますね、えっと・・・』
セレナと名乗った少女は名前を聞いてなかったこと気づいて言葉を詰まらせる。
聞いたこっちから名乗るべきだったろうが、先に名乗られてしまったのでシンも名乗ることにした。
『シンだ。好きに呼んでくれて構わない』
『分かりました。それじゃあ改めて。よろしくお願いしますね、シンさん!』
そう言ってセレナは笑顔を浮かべる。
これがシンとセレナの、
〇衛星ゼア
二年前から機能が停止し、あるドライバーは石に、あるドライバーは変身機能を失った状態。
石化してない方のドライバーでは衛星ゼアにアクセスすることは可能だが、それはシンが無理矢理入り込む場合のみ。
もし入れても機能は何も無いので灰色の世界が広がるだけである。
〇
平成最後の仮面ライダーであり、
本来であるならばこの世界にないはずのもので、存在しないはずの仮面ライダーの力。
鏡があればゲートのようなものを開く効果があり、彼の歴史を知るものならゲートの正体は分かるだろう。
だがメインの能力は対象の時間を巻き戻す力を秘めており、今作においてはアークゼロに変身したシンの時を戻すということをしてみせた。
余談ではあるがアークワンならば破ることは可能なものの、その場合は最終手段の時間停止が発動する。
つまり、どの道シンの運命は変わらなかったのである。
何人たりとも王の歩みを止めることは不可能なのだから。
この作品
-
続きが見たい
-
いらない
-
リメイク希望
-
消す