戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ〜   作:絆蛙

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書き上がったので久しぶりに投稿です。
新曲よかったです。そういやこの話サンプルないからオリジナルにするしかないよなって思った。過去話シンフォギアってあんまないんですよね

本編のあらすじとしては、エボルト、なにか見つける。
セレナ、記憶を取り戻したけど所々記憶が抜け落ちていて、なおかつシンもセレナも4年間身体の成長が止まっていた。それは何故か?
その説明のためにゼアとアークの記録を映し出し、見せていく。
そして流れる映像は二年前の出来事。F.I.Sのことを調べるために自室に戻ると何故か存在しないはずの『RIDER TIMING ZI-O Progrize Key』が置かれており、勝手に起動されたキーが鏡の中に入り込むとシンを吸い込もうとした。
シンはアークゼロに変身して鏡を壊すと、次の瞬間には時間が変身前まで巻き戻り、吸い込まれると気がつけば知らない場所で意識を失っていた。







第十六話 知らない場所で

 

 

 

 

 

灰色か白色か、どちらかといえば真っ白というべきか。

普通の病院とは思うには歪すぎて、何処かの実験場と言われた方が納得がいく。

本来の正体を知るものからすれば、真っ白な世界に似つわくない白髪の男の子が亜麻色の肩まで届く髪の女の子と一緒に歩いていた。

 

「なるほど、だいたい把握した」

「え?」

「どうした?」

「今ので・・・シンさんは分かったんですか?」

 

説明されたのは少女、セレナがシンを見つけた経緯だ。

何も知らないシンは聞くしかなく、聞いてみれば部屋に戻ろうとした時に物音が聞こえて、向かったら倒れていたというだけ。

はっきりいって情報はないに等しい。

なのに把握したといったのだから、目を丸くしてしまうセレナは悪くないはずだ。

 

「いや、何も分からないってことが分かった」

「へ・・・っふ、ふふ」

「・・・笑うところか?」

「す、すみません。真顔でそんなことを言うとは思わなくて・・・ 」

 

虚をつかれるとはこのことか。

明らかに分かったような様子だった割に、実は分かってなかったなど会ったばかりのセレナには予想出来るはずもない。

 

「逆に、シンさんは覚えてないんですか?」

「ここに来る前か」

「はい、そうしたら何かわかるかも・・・」

 

シンは一度足を止めると、悩むように目を閉じた。

思い出そうとしているのだろうか、とセレナも足を止めて見つめる。

 

(ここが何処なのか、なんの空間なのか。少なくとも死んだ訳では無いだろう。こうもあっさり殺されたら笑い草だ。ならば過去か未来(みらい)か、別世界か空間移動か。どちらにせよ、何も覚えてない方が動きやすいか)

 

胸の内でこれからのことを考えた結果、数秒経った頃には首を横に振っていた。

 

「いや()()()()()()()()()()ようだ」

「それって・・・」

 

どういうことなのか理解したセレナがバツが悪そうな顔をする。

いわゆる記憶喪失。

ちなみに間違ってはいなかったりするので、余計にタチが悪い。

シンは実際に記憶喪失である。

覚えているのはアークと呼ばれる力があること、自ら人類の敵になる必要があったということくらいだ。

名前も偽名。自分という存在も分からない。

ただやるべきことがあって、やらなくちゃいけないことがあるから行動している。

 

「・・・悪い、キミが気にするようなことじゃない。オレは別にキミを困らせたいわけじゃないんだ」

「・・・はい」

 

若干空気が重たくなってしまった。

初対面でしかないセレナと半年間も一緒にいるアズとは接し方が違う。

もしアズ相手なら撫でれば機嫌が何故かよくなるが、流石にセレナには出来ない。

こういう時、どうするべきなのだろうかと考えてしまう。

アークの知識には他者を利用するに適した方法ならあるが、そのために何かをしたい訳では無い。

シンは人類の敵として存在してはいるが、危害を加えたいわけじゃないのだ。敵ならまだしも、見ず知らずの少女に優しくも出来ないなら怒られてしまう。

 

「その・・・なんだ、オレは不便を感じてるわけじゃないから・・・何て言えばいいか、記憶が無くなって死ぬわけじゃないだろ。本当に気にしなくていい」

「シンさん・・・」

 

気を重くする必要はないと存外に言いたいのだろう。

まだ出会ってばかりで互いに知らないことだらけだ。

けれど、何処か不器用ながら他者を気遣う姿。

 

「・・・優しいんですね、シンさんって」

「は・・・オレが・・・か?」

 

そんな姿を見ていたからか、自然とそう口にしていた。

愕然とした表情で聞くシンにセレナは思わず口を抑えながらも、取り消すようなものでは無いので不思議そうにしながら頷く。

 

「はい、まだ出会って数分でしかないですけど・・・シンさんからは思いやりを感じられるんです。親しい仲じゃないのに他人のちょっとした変化に気づけて、元気づけようとする人が優しくないはずありませんから」

「・・・オレが優しい、か」

 

笑顔で告げたセレナに対し、シンは目を伏せる。

優しい、とはなんだろうかと。

シンは自身がやったことは自覚している。街を一つ滅ぼしたし利用出来るものは利用している。

目的のためなら手段を選ばない、それは優しいと言えるのだろうか?と。

 

「・・・いや、オレではなくキミが優しいからだろう。オレはキミが思うような存在じゃない」

「そうですか?」

「そうだ、二度とそう思わない方がいい。もしかしたらオレがすぐにだってキミを襲うかもしれないだろ」

「じゃあ・・・今はそういうことにしておきますね!」

「・・・いや、まあ・・・いいか」

 

言いたいことはそういったわけではないのだが、シンは唖然とした顔で諦めた。

結局互いに何も知らないのだ、本性を知れば変わるだろう。

 

「それより何処に行くつもりだ?」

「あ・・・そうですね、正直シンさんのことは私が勝手に決められることじゃないので・・・マムのところに連れて行こうかなと。あ、大丈夫です、私もシンさんが悪い人じゃないことは伝えますし・・・厳しい人ですけど優しくもありますから!」

「別に悪いヤツとは思われることはどうでもいいんだが・・・どう考えたって素性の怪しいオレは拘束されるんじゃないか」

 

ちょっとした言葉から権限を持つ者だと予想出来るが、怪しい自覚はあるらしい。

セレナは苦笑いをしながら、ちょっと悩むと思いついたように顔を挙げる。

 

「でしたら、もしものときは私が匿う・・・とはどうでしょう?」

「それだとバレた時にキミが責められる。何よりオレがキミを殺さないという保証はないだろ・・・そう言ってくれるだけで十分だ、交渉が必要なら何とかしよう」

「二度目です」

「・・・ん?」

 

中々アバウトな提案をされたので断ったが、突然セレナは不機嫌そうに頬を膨らませた。

小柄な体躯の彼女がぷくーと頬を膨らせる姿は庇護欲を駆られる小動物のようで非常に可愛らしい。

シンは知人に似たような子供体型の金髪美少女やら男装が似合っている大人の女性や元男のギャルっぽい一人称の女性や小柄の眼鏡っ娘、完全な存在である男の裸など濃いメンバー達のおかげで耐性があるので邪な感情を抱くことは一切ないが。

 

「私に何かをするつもりないのに、傷つけさせる行動をするような言葉を吐く・・・」

「利用してるだけ、とは思わないのか?」

「そんな人はさっきみたいな発言はしませんよ?」

「・・・なるほど、だが実際に襲おうとしたらどうするつもりだ?」

「そうですね・・・少なくとも抵抗しても何も出来ないと思います。体格差や力の差も考えたら、私に出来ることはありませんから」

「だろうな。オレの予測にもキミがオレに勝てる確率は1%もない」

 

男と女という時点で力の差はあるし、シンは何もしてない人間よりも筋肉はついている。

多少は鍛えられてる男とそういったわけでもなく小柄な体型のセレナでは圧倒的な力の差があるだろう。

何よりセレナは知らないだろうが、やろうと思えば悪意のオーラで拘束すれば何も出来なくなる。

 

「でもシンさんはやるつもりもない。仮にしても何も分からないこの状況では意味が無い。だって、まずここが何処なのか分かってないから。だからそもそも考える必要がないかなと私は思いますよ? それに、襲うつもりがないっていうのはこうやって接してるとよく分かります!」

「・・・そうか、警戒くらいはして欲しいが」

「うーん・・・ちょっと難しいんですけどシンさんは警戒する必要がないというか・・・なんだか安心出来るんですよね。自分でも分からないんですけど、傍に居た方が安全な気がして」

「そうか、まぁそこは・・・あながち間違ってないのかもな。実際オレに勝てるやつはほぼ居ないだろうし」

「す、すごい自信ですね・・・」

「他の奴らとは予測能力が違うんだ。例えばキミは・・・そうだな、五秒後に転ぶだろう」

「?」

 

突然何を言い出すかと思えば、先のことを言っていた。

言葉の意味が理解出来ず、ただただ自信家なのかなとセレナは思いつつも、気にせずに歩いていると五秒経った頃に、足が躓く。

 

「ッ!?」

「おっと」

 

分かっていたように腕が差し込まれ、セレナが転ぶ前に受け止められる。

お陰で倒れることはなかったが、セレナは驚きのあまり呆然としていた。

ただの適当に言ったわけじゃなく、本当になったのだ。

別にわざと転ぼうとしたり悪戯にシンが足を引っ掛けたなんてこともない。

純粋に足を滑らせて、躓いた。

 

「大丈夫か?」

「あ・・・は、はい。ありがとうございます」

 

元の体勢へ戻され、シンは手を離していた。

しかしセレナは目を見開いたままシンを見つめていた。

 

「どうした?」

「まさか本当になるなんて・・・凄いです、凄いですシンさん! まるで未来を見てるかのような・・・」

「そうだな、厳密に言うと未来視や未来予知とは異なるが、あながちその解釈で間違えてはいない。オレは数億通りの予測が可能だ」

「す、数億ですか?」

「これから起こりうる事象・・・例えばわかりやすいのだと天気とかだな」

「そんなことが・・・やっぱり凄いです!」

 

恐れからくるものではなく、純粋な瞳。

()()()()()()()を向けられ、シンは少し顔を背ける。

怖がられることは多くあったが、賞賛されることなど全くない。

まぁ能力を発揮する際がシンとしての姿ではないというのが原因だと思われるが。

 

「シンさん?」

「・・・キミは透き通るように純粋だな。利用されていないか心配になるくらいだ」

「あ・・・えっと・・・大丈夫ですよ。利用はされてないですし私も他の人たちも、やろうと思って生きてますし」

 

普通であるならば、出てこないような言葉。

思わずシンは目を細める。

 

(この物言い・・・ここはやっぱり何かあるのか。場所も明らかに異質だ。アークを狙ってきた錬金術師の工房を襲撃したこともあったが、少し空気感が似ている。十中八九実験場。この世界が別世界でないなら、考えられる可能性は・・・まさか、な)

 

流石にデータも何も無い今、予測能力は大した力を見せない。

第一、未来予測は万能なわけじゃなく、脳に負荷がかかる。

シンだからこそ変身せずとも数億通りも可能だが、普通ならば死に直行だ。

 

「シンさん、着きました」

「・・・ああ」

 

そうこうしてるうちに目的の場所に着いたらしい。

セレナは緊張した面持ちをしており、深呼吸をしていた。

それほど緊張する相手なのか、と圧倒的な力を持つが故に緊張という文字が存在していないシンは思った。

 

「マム、今いいですか?」

「セレナですか・・・構いませんよ」

 

声が聞こえる。

男性ではなく女性の声だった。

許可を貰ったからかセレナは一度シンを見て頷くと、扉を潜って中に入る。

今の動作が何を意味するのか察したシンは同じく中へ入ると、何らかの作業をしている青い髪の壮年の女性が居た。

厳格そうな雰囲気、背筋がピンと張ったしっかりとした姿勢、氷のような鉄面皮。

セレナに向けられた視線は確かに愛情が籠ったものだが、次に眼光だけで人も殺せるんじゃないかという流し目だ。

警戒の二文字。

 

「・・・その男が何者かどうかは今は聞きません。一応、話を聞きましょうか」

「は、はい」

 

女性の口調は非常に丁寧だが、弱気な子供では泣き出してしまうのではと思わせるように威圧感のある声色。

むしろ丁寧であることが逆に声に乗る力を倍増しているようにすら思えるもので、セレナは背を真っ直ぐに正している。

それから説明されたのは嘘偽りない真実。

さっきシンに話した通りのことだった。

 

「廊下で一人、倒れていた・・・ですか。貴方は・・・」

「シンだ」

「こちらも名乗るべきですね。ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤです。以後お見知り置きを」

 

自己紹介を交わしても警戒の色は取れない。

簡単に警戒が解かれるはずもなく、予想していた通りだ。

なるほど、ある意味頼りになる大人だとシンは思った。

 

「なぜここに?」

「分からない、記憶がないんだ。自分が何者なのか、何をしていたのか、何をやるべきなのか、どこにいたのか、どこで生まれたのか、自分という存在の意味すら何も覚えていない」

「嘘ではなさそうですね。記憶喪失ですか・・・」

 

シンは本当のことを話した。

何も知らない素人ならまだしも、見ただけで場数を踏んできたと理解したからだ。

簡単にバレる嘘はこの状況では自分を苦しめるだけになる。

まあ嘘は混じってるのだが、大半が本当のことである。真実八割、嘘二割というやつだ。

 

「ここがどこだか分かっていますか?」

「いや、オレの考えでいいならおおよそ見当はつく」

「それは?」

「恐らく実験場。ここに居る彼女やそれに似た子供たちが集められ、何らかの実験をしている。推測するに誘拐とかではなく身寄りのない子供でも集めたか?」

「・・・セレナ、何か話しましたか?」

「い、いえ・・・」

 

当たっている。

セレナは何も教えていない。つまりシンは短な情報から全てを導き出したということ。

ただ何の実験かまでは分かっていないようだが、驚かせるには十分だ。

 

「ここは米国政府直下の研究施設です」

「米国・・・?」

「ええ、そうです。言いたいことが分かるでしょうか?」

「・・・本来なら、オレが来れるはずがない。廊下で倒れてるなんてもっての他だ。つまりオレは研究施設に無断で侵入した。しかも身一つで、誰にも察知されることなく。

だがそれ以前にここを突き止めるどころが、居ること自体がまずおかしい。その上身元も素性も分からず、記憶喪失。なるほど、これは・・・十分過ぎるほどに怪しい」

 

米国政府がそんな簡単に侵入を許すほどの間抜けしかいないならまだしも、そんなことはない。

それならば既に他国に潜入され、内側から侵入が進んでいたっておかしくは無いだろう。

無論、アークの力を使えば仮面ライダーやシンフォギア装者のいない国など取るに足らないが。

 

「ならばどうするつもりだ? オレを拘束するか? ここで射殺するか? それとも実験に使うか拷問や尋問でもするか?」

「!? ま、待ってください! マム、シンさんは怪しいかもしれませんが、悪い人じゃなくて! さっきだって私を守って・・・!」

「セレナ、こうなった以上は貴女には関係ありません、黙っていてください。私たちと彼の問題。経緯はどうあれ、今カレがここに居るということは簡単に解決するほど単純なものではないのです」

 

話の雲行きが怪しくなりそうだったからかセレナは庇うように訴えかけるが、ナスターシャは答えず黙るように厳しく告げる。

実際、国際問題になりかねない出来事だ。米国政府の息がかかった場所が素性も分からない謎の男に侵入され、気づかないままだったなんてどれほど騒ぎになるか。

 

「・・・キミは出ているといい。ここからはオレが話すべきことだ。連れてきてくれたことには感謝している。だがオレを庇ったってキミにメリットはない」

「で、ですけど・・・シンさんは・・・」

「もし無事に話を終えれたら、案内してくれるか? キミのこともここのこともオレは何も知らない。だからオレに教えてくれ」

「・・・分かり、ました。約束、ですからね」

「ああ、約束だ」

 

食い下がっても意味が無いと分かってるからか、セレナは渋々と引き下がるとシンはそんなセレナの頭をがしがしと少し荒っぽく撫でた。

下手な撫で方だ。それでも配慮しているということが分かるもので。

小さな約束だけを交わして、セレナは部屋から出ていく。

それを見届けると、本題に入るようにシンはナスターシャと向き合う。

 

「さて、これで話がしやすいだろう。ここが何の実験場かも分からない。いきなり信用しろとは言わないが、調べれば分かる程度なら教えてくれるか?」

「・・・ふむ、分かりました」

「いや、オレが言っておいて何なんだが・・・いいのか?」

 

目の前の人物がどういった立場の人間なのか予想付けたシンは情報を得るには彼女に聞くのが一番と思い聞いたわけだが、ナスターシャは僅かに考えてから承諾していた。

シンは警戒されていると分かっているため、僅かに困惑する。

 

「彼女、セレナがあのように必死に意見をするのは初めてでした。貴方を信用したわけではありませんが、最小限の情報を伝える意味はあると思いましたから」

「あの子の顔を立てる・・・ということか」

「ええ、それに・・・情報を対価にセレナを人質にすることも出来たでしょう。だというのに人質を取らず退出を促した。少なくとも『今は』敵でないと判断したまでです」

「・・・」

 

ナスターシャのことは最もだ。

仮に武器がないとしてもあったとしても、シンはイレギュラーな存在。

この状況下ではセレナを人質にすれば有利に立ち回ることは出来ただろう。

何か特別な何かがあるのでは、隠し持っているのでは、手段があるのでは、何も知らない相手からしたら下手に動けなくなる。

無論それはナスターシャたちを知らないシンも同様だが、人質という要素が行動を妨げる。

まぁ、元からするつもりがなかったため、結果的には要注意人物認定されなかったということだろう。

 

「まず、ここの施設ですが---」

 

そこから語られたのは、調べたらすぐに分かりそうなことばかりだった。

ここが米国連邦聖遺物研究機関(Federal Institutes of Sacrist)、通称F.I.S.だということ。

秘密裏に『聖遺物』に関する研究をしていること。

ここにいるのは各方面から選抜された数十人の研究者と数十人の信頼のおける職員、そして数百人の子供を抱え込むという大施設だということ。

 

(F.I.S・・・オレが調べようとしていた組織だ。偶然か?

確かに情報もオレですら知っているものばかり、ただ数百の子供を抱え込む? なぜ、必要は? 研究者だけではダメな理由はなんだ? 聖遺物に関してはまだ分からないことばかりだ、オレには知識が足りなさすぎる・・・)

 

これが機械ならば無類の強さを発揮出来たが、聖遺物はまだシンにとっては専門外もいいところ。

だいたい暴走した聖遺物くらいなら物理的に止めることは出来るが、その他に分かる事の方が少ない。

どんな聖遺物があるのかすら知らないのだ。

 

「以上が開示できる情報です」

「・・・そうか、信じよう。調べたらすぐに出るような情報で嘘をつく必要なんてないだろうしな。そっちから話したのはそのためだろう?」

「やはり頭は回る方のようですね。特に驚く姿も見られなかったことから・・・予想していたのでは?」

「だいたいはな。ただオレは()()()()か何かだと思っていた・・・という違いはある」

「・・・そうですか。では次の話ですが」

 

聖遺物に関する実験、F.I.S、このことから推測するにこの世界は別世界というわけではない。

並行世界か、同じ世界か、そのどちらかに絞られた。

問題は過去か未来かだが、調べていくうちにわかるだろう。人体実験と言った際のナスターシャの反応も気にはなるが、今は、ナスターシャのいう次の話だった。

 

「オレの処遇、だな?」

「そうです。野放し・・・には流石に出来ませんので」

「好きにするといい。オレが抵抗すればあの子の顔に泥を塗ることになる。()()()()()殺せばいい。尋問したければすればいい。拷問したければそうすればいい。監禁したければそうするといい。オレは抵抗しないと約束しよう」

「なぜ、そのようなことを? わざわざ自らそう誘導する必要はないでしょう。温情に縋るならばまだ分かりますが、先程の説明から察するにセレナとは出会ってせいぜい数分でしょう?」

「恩を仇で返すほど、オレは人の心は捨てていない。オレが危険人物ならばここに連れてきたというだけで彼女の立場を悪くしてしまう。それにお前たちからすればオレの存在はただただ未知の存在だ。それ以前に自由に行動出来るはずもない。

オレからしてもよく分からないところで、何があるか分からない場所。

ならばここは従う他ないだろう。オレには信用を勝ち取るための手札が自分自身の身体しかないからな」

 

瞳は一切揺れず、その覚悟が本物だということをナスターシャは悟る。

仕事柄多くの人物を見てきたナスターシャの目は本物だ。もしこれが嘘ならば、それは天賦の才能だろう。

カレは言われた通り拷問や尋問に応じるだろう。薬物を投与したり弄ろうとしても抵抗しないかもしれない。

しかしシンは怪しくとも、まだ何もしていないのだ。

もしここで子供たちの誰かを殺していたりセレナを傷物にでもしていたなら話は違っただろうが、ただ連れられて来ただけ。

それにナスターシャからすれば、シンもまた子供なのだ。守るべき子供。

外見から年齢を考えるなら、まだ中学生か高校生か。

一体どんな育て方をされればこれ程の若さでこのような覚悟を持てるかは分からない。

間違いなくロクでもない方法だろうが、情報が少ない今は殺すことなど以ての外。

 

「では、こうしましょう。貴方が何者で何のためにここにいるのか分かりませんが、安全と言いきれないのも事実。ですから用意した部屋で拘束させいただき、その上で何も無く信頼に値すると判断出来るようになれば解放する・・・と」

「つまり無期限の監禁ってことだな」

「ええ、怪しい動きを少しでもすれば他国の諜報員と判断し、始末します。ですが何事もなく、此方が安全だと確信すれば貴方を受け入れると約束しましょう」

「へぇ・・・何もせず解放された途端にこの施設を壊すかもしれないぞ? もしかしたらオレが聖遺物を持っていて、施設の人間を殺すかもしれない」

「その時は私の見る目がなかっただけです。そうならないことを願います」

「・・・甘いな。だが、今は有難い」

 

シンの言葉通り、何もしないだけでいいなら解放された途端に暴れるかもしれない。

しかしこれは無期限でもある。

どういう監禁状態かに寄るが、精神が擦り減れば本音というものは人間である限り表に出る。

まぁぶっちゃけた話、そんなことをするならわざわざ拘束される必要すらないのだが。

 

「では・・・構いませんか?」

「ああ」

 

聞いておいてだが、仮に条件を呑まなくても拘束する気だったのだろう。

ナスターシャが手を挙げると、何処からともなく研究員と思われる人物が二人現れ、シンの手に手錠を嵌める。

無論、暴れることも無く受け入れると、そのまま連れられていく。

その前にシンは足を止めると、少しの警戒が生まれた。

 

「最後にいいか?」

「・・・なんでしょう?」

「あの子に言っておいてくれ、行く先も分からなかったオレを連れてきてくれて感謝する、と。それだけだ」

 

別に抵抗するために止まったわけじゃなく言葉を伝えるとシンは自ら足を進めて扉を潜り、案内に従って歩いていく。

カレは一度も、何かをしようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンが連れられたのは、牢獄のような部屋だった。

天井には四方を囲むように監視カメラが存在し、鎖が繋がった手錠を入れ替えるように付けられ、ついでに足錠も嵌められる。

そして役目を終えたというように二人が出ていくと、何らかのパスワードを入力され、牢の扉は閉じる。

シンは冷めた目で見ていたが、暇なので寝転んだ。

 

(やろうと思えば壊せるしパスワードも分かったが、それをしては信頼が勝ち取れず意味が無い。何はともあれ、どうやったら元の世界に戻れるのか。まだ何も出来てないまま終わる訳にはいかない・・・それにフィーネの動きも分からなくなるだろう。アズも心配だが・・・一体オレに何をやらせたいんだ、ゼア)

 

この程度の手錠や鎖は変身する必要すらないしパスワードに関しては入力していた音、指の位置、秒数で完全把握したシンは脱出は容易だったが、するつもりはなく目を閉じる。

 

(・・・寝るか)

 

変に行動して怪しまれても困るため、大人しく眠気に従うようにしたシンは横になったまま、ちょっとした寝づらさを感じながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、寝る前と同じ場所だった。

残念ながら時計などもないため、今が朝なのか昼なのか、夜なのか夜中なのか。時間帯が不明だった。

手足は自由に動かせず、せいぜいカチャカチャと金属が擦り合う音を鳴らすだけ。

といっても破壊出来る時点で動けないわけではないのだが、思わずシンはため息を吐いた。

 

(やはり精神だけを引っ張られたのではなく、肉体ごとか・・・つまり今のオレはこの世界にとって『此処に居る』存在として扱われてると見るべきだな)

 

同じ世界か似た世界か。

何もかも分からない状況で下手に動くことは出来ない。

目が覚めて起きたら元の場所に戻っていた、ということがないことから唯一分かったのは現実だということ。

シンの行動全てで『これから』が変わるだろう。

それを理解した今、シンは全身の力を抜いた。

 

(アークの力は・・・おそらく使える。まだベルトは出してないから出現するか分からないが・・・こんな監視カメラのある場所でやることではない。結局のところは情報が足りなさすぎる。下手に動かず、ひたすら待つとしよう)

 

情報を得ようにも何も無いため、そう決断したシンは時折体を動かしつつ時間が過ぎるのだけを待ち続け、眠気がやってきたら睡眠を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

---三日目。

特に変化はなし。

 

---四日目。

飢餓感を押し殺した。

 

---五日目。

特に変化はなし。

 

---六日目。

予測能力の発動。

未来は変わらず特に変化はなし。

 

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七日目。

一週間が経ち、体が鈍らないように動くだけで他は何もしていなかった。

栄養を摂る、残念ながらアークにそのような力は備わっていない。

死ねばどうなるのか、少なくとも生命に危機が迫っても何かがある訳では無いらしい。

一応水は供給されていたのだが、自らの肉体を使って実験していたので水分を摂っていないのだ。

人が生きられるギリギリまで追い込んでいたが、何もない。

はっきりいって、そんなことが出来るのは異常である。

そもそも人間は食事しなくともある程度生きることは出来るが、水分は3〜5日が限界とされている。丈夫な者でも一週間何もせず居れば持つかどうかと言った感じか。

 

(なら・・・次は・・・どう、する・・・か)

 

体を傷つけるのは論外なため、やる訳にはいかない。

監視カメラがあるのだから奇行にしか見えないだろう。

精神に異常が見られて解放される可能性もあるが、望む形では無い。

拘束されてる以上出来ることは限られる。

もしもの時は結局力の行使になるな、と実は思っているより肉体の限界が迎えかけているシンは朧気になりつつある視界の中で目を伏せた。

ほんの少し、休もうと。

そうして---

 

 

 

 

 

 

 

 

機械的な音が響いた。

次に耳に入ってきた音は扉が開くような音で、誰かが入ってきた証だ。

始末しに来たのか、といつでも変身出来るように頭の片隅に入れながら目を開けると、顔をゆっくりと挙げた。

正常とは言いづらく、チカチカと点滅する視界の中で誰かが駆け寄ってくる。

その人物が誰なのか顔はよく見えず、ただ視線の先で見覚えのある髪が見えた。

 

「シンさん・・・!」

 

続いて入ってきたのは声。

これもまた聞き覚えがあるようで、何処か焦燥感を感じさせる声音。

まるで支えるように触れられた手は小さく、柔らかく、冷たくなってきている肌には程よい温もりを与えてくれる。

 

「キ、ミは・・・」

「! よかった・・・待っててください。今飲み物汲んで来ますから」

 

そう言って彼女は立ち上がって急ぐように走っていく。

その姿を点滅する世界の中で見つめながら、シンは演算能力を駆使する。

この予測は、()()()()()()()()()()()ものだ。

アークの力は万能ではないが、この世の事象であるならば予測が可能なほどの精度を誇る。

予測出来ないことがあるとすれば、同じ力でありながら善と悪をラーニングして見せたゼアのみ。

試してないから分からないが、それこそ神様という架空の存在にすら予測は通じるだろう。

 

「飲めますか・・・?」

 

予測にない出来事に戸惑いながらシンは赤い目を向ける。

視野はボヤけ、表情が見えない。

ただ目の前の人物が何者なのか、誰なのか、ここに来て会話を交わした知り合いが二人しかいないシンはとっくに分かっている。

 

「無理なら、その・・・と、とにかく飲んでください!」

 

何を言おうとしていたかまではシンには分からなかったが、彼女はシンの口元にガラスコップと思わしきものを宛てがうと、ゆっくりと傾ける。

重量に従って流れる水がゆっくりと、ゆっくりと口内へ流れていき、脱水症状が起きていた体に少しずつ水が行き渡る---

 

「ゴホッゴホッ!?」

「ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか・・・?」

 

なんてことはなく、流石のシンも噎せた。

一応真水ではなく砂糖と塩を含んだ経口補水液にした物らしい。

小さな手で背中を擦る彼女にシンは首を横に振る。

 

「気に、しなくて・・・いい」

「はい・・・あの、まだ飲めそうですか?」

「・・・」

 

シンが無言で頷くと、彼女はさっきよりも慎重に流し込む。

今度は噎せることはなく、普段ならすぐ飲める飲み物も少しの時間を要してようやくコップ一杯分を飲むことが出来た。

だいたい500MLは飲むべきだが、そこは無理くり体を弄って負荷をかけるという危険なことをして活性化させると、視界がクリアになっていく。

思わず一息を吐いた。

 

「それで・・・なんでキミが?」

 

本題へ入る。

カレははっきりいって、一週間程度で解放されるとは思っていない。

もしも本当に死ぬ寸前になったら、秘策を使うつもりではあったしここが何処か分からない以上は死ぬことも出来ない。

元から死ぬつもりはないが。

 

「それは・・・心配だったんです」

「・・・オレがか?」

「はい。別れたあと時間を置いてから色んな場所を探したんです。でもシンさんの姿が何処にも見当たらなくて・・・だからマムに直接聞きにいきました。そうしたら監禁されてるって聞いて居ても立っても居られず何度も面会だけでもってお願いしても認められなくて・・・」

「・・・」

 

ボソボソと経緯を語っていく彼女にほんのちょっぴり内心で驚くシンだったが、表には出さない。

 

「毎日毎日何度もお願いして、それで今日ようやく叶ったんです。遅れてごめんなさい、シンさん」

「キミが謝るようなことじゃない。それよりも知り合って数分でしかないオレのことなど気にかけなくてもよかっただろうに・・・その方が気楽だろ」

 

吐き捨てるような言い方をするシンの姿に、彼女はあからさまに不満そうな顔をした。

 

「そういうシンさんだって、そうじゃないですか。聞きました、私のことを配慮した結果こうなったって・・・私とどう違うんですか?」

「む・・・」

 

情報がなく、下手に動けないからこそ信頼を勝ち取って情報を集めるために監禁されることを受け入れたが、彼女のことを考えてこうなったのもある。

こればかりは何も言い返せなくなってしまう。

 

「それに私はシンさんと知り合いました。知らないなら知らないからこそ知りたいんです。これから少しずつ、ひとつひとつ知っていきたいなって」

「・・・そうか。それは・・・好きにすればいい」

「なら、そうさせてもらいますねっ」

 

そう言って笑顔を向けてきた彼女の姿にシンは無言で目を逸らした。

裏の世界とでも言うべき世界で生きてきたシンにとって、彼女の態度は慣れないものだった。

 

「・・・ナスターシャ、だったか。よくキミがここに来ることを許可したな。何度も・・・と言っていたが、そう簡単に許可出すような人間には見えなかった」

「あ〜・・・それは、えっと・・・マムも水分すら摂らないのは予想外だったらしくて、このままでは衰弱死するのではと思ったらしく・・・特別に許されたんです。ただすみませんけど、拘束具は絶対に解かないように言われてて・・・」

「それは別にいいが・・・そうか、確かにまぁ、まだ敵かどうか何もかも分からない存在を見殺しには出来ないか」

 

そもそも水がないならまだしも、水があるならば飲もうとするだろう。

例え死ぬ人間だったしても、苦しんで死にたい者などほぼ居ない。

にも関わらずシンは自身の肉体で実験をしてたのだからまだ殺すつもりがない側からすると焦る。

仮にスパイなら尋問すれば情報を吐き出せる可能性があるというメリットもあるのだから。

一番はまぁ、シンが子供だからというのが大きいかもしれないが。

 

「ですから、今日から私がお世話しますね!」

「・・・は?」

「何とか説得して役目を貰えたんです。だってシンさん食べれませんし、飲み物だって飲むの一苦労ですよね? 私自身もシンさんと話せますから、より互いのことを知れて、良いと思うんです」

 

一理はあった。

本当に記憶喪失で、何の力も持たないならばシンはこの時点で何も出来ない。

それに自身で動いて情報を探るよりも彼女から情報を得た方が怪しまれることもない、と納得したシンは任せることにした。

 

「まぁ・・・好きにすればいい。オレはどうせ何もしないからな」

「はいっ」

 

何が良かったのか、嬉しそうに笑顔を浮かべる彼女---セレナの姿にシンはやはり、理解が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---それからというもの、セレナは毎日来るようになっていった。

何も食べていなかったシンにわざわざお粥を作ってきたり、水を飲ませたり、会話をしたり、特別面白いことがあるわけでもないのに何故か笑う。

楽しそうに、嬉しそうに。

手段として笑うことはあれど、そういった感情はシンには分からなかった。

身近によく自身のことで笑ってくれる相手は居る。

けれどセレナのそれは、またその人物とは違うものだ。

目覚めて半年、記憶もないカレにとっては逆に言えば半年しか生きてない存在なのだから人間をまだ理解出来ていないのも仕方がないのかもしれないが、多くの悪意に晒され続けてきた身としては理解出来なかった。

そして今日もまた、彼女はやってきた。

 

「シンさん、おはようございます」

「・・・朝か。となると今は・・・8時くらいだな」

「はい、ちょうどそのくらいです」

 

外の時間も時計もなく、ここに来たのが何時なのかも知らなかったシンだが、既に完全に時間を把握出来ていた。

最初に当てた時に驚いていた彼女も、今は慣れた様子で返答する。

すっかりと視野も回復し、力も十分入るようになっているシンは彼女の顔を見つめた。

赤い目が対極である水色の目を映し出す。

 

「あ、あの・・・?」

「なんでもない、気にするな」

「そう言われても・・・気になります。私何かおかしいですか・・・?」

「・・・」

 

何故か不安そうにする姿に悩むように天井を見上げると、監視カメラが視野に入る。

考えるために無意識に上を見ただけだが、いつも通り動いていた。

ほんの一秒くらい考えたところで、ゆっくりと彼女を見た。

 

「そういうわけじゃないが・・・悪いことではない。なんと言葉にすればいいか分からないが・・・この場合の表現としては、普段よりも違って見えただけだ」

「! どんなふうにですかっ?」

 

急接近してきたセレナにシンは身を反らすと、手が動いてたなら後頭部を掻いてたであろう様子で言いづらそうな顔をしながら口を開く。

 

「魅力的になっている・・・というべきか。いつもと少し、違う気がした」

「そ、そうですか・・・っ」

 

彼女は頬を紅潮させる。

どうやら悪い印象を与えることはなかったらしい。

何処か妖精を思わせる服ではなく、白い服に肌色のロングスカート。無駄な装飾や絵はなく、フリルと小さくリボンがあるだけ。

黒くて黒くて、何も無く、深淵の闇のように真っ黒なシンとはこれもまた真逆。

 

「・・・」

「・・・」

 

不思議と居心地の悪さを感じたシンは何も言えず、セレナは照れていて話しかけづらそうだった。

視線を横にズラす。

何も無い部屋。特にこれといって話題になるようなものはなく、記憶喪失で通っているために下手なことは言えない。

ひとまず得意のポーカーフェイスで誤魔化そうとした。

 

「誰かと、会う約束でもしてたのか」

「え?」

「わざわざ見せに来たとなると、そう予想したのだが・・・」

「・・・違います」

「・・・?」

 

打って変わって、不機嫌になった。

そっぽ向いて、可愛らしくぷくーと頬を少し膨らませている。

似たようなことが過去にもあったが、やっぱりどういうことか分からず首を傾げるシンの姿を片目を開けて見たセレナは、そそくさと傍に寄って隣に座る。

 

「? どうした?」

「シンさん、こういう時って他の女の人のことを考えてはダメです」

「・・・!」

 

驚愕、といった表情をシンはここに来てはや一ヶ月。

意識が芽生えて半年。

初めてポーカーフェイスが崩れた瞬間だった。

 

「なぜ、分かった・・・?」

「女の子ってそういったことには敏感なんですよ?」

「・・・そう、なのか」

「そうなんです。それを踏まえて、どうですか?」

「・・・」

 

頭に入れつつ、シンは改めて彼女を観察する。

絵に描いたような美少女、というのを体現したのが彼女だ。

シン自身もお世辞ではなく本心から整った顔立ちをしていると評価出来る。

最初に見た時は妖精のイメージが浮かび上がったが、心優しい慈愛の笑みを浮かべる普通の美少女といったところか。

 

「・・・ああ、凄く似合っている。可愛い、と思う・・・ぞ?」

「ん・・・っ、ご、合格です」

 

何を言わされてるのだろうか、と心の底からシンは思ったが満足そうにしている彼女に居心地が悪くないよりかはいいかと思うことにした。

そもそも自分の評価などどうでもいいだろうと冷淡な考えを浮かべていたのだが、気づける者は居ない。

 

「物好きだな」

「シンさん?」

「オレと居ても楽しくはないだろう。もっと時間を有意義に使った方がキミのためになると思うが。毎日オレのところに足を運ぶ必要なんてない。特にここは、何も無いからな」

「・・・そうですよね。いつまでシンさんがこんなところに閉じ込めらているのか・・・でも、違うんですよ」

「・・・?」

 

シンはいつだって、自分の中に他人を踏み込ませようとしなかった。

強制はせずとも、離れるように誘導する。

もう一ヶ月も経っているのだ。足を運んだ回数がどれだけ多いのか、三週間という時間が物語っている。

彼女は鈍感ではなかった。

それほど居れば、カレがなんでそうしようとしているのか薄々理解している。

隣を見れば、シンは理解出来ないといった表情を浮かべていた。

それを見ながら、彼女は自身の胸の前で手の平を重ねる。

 

「私は私がやりたくてやってるんです。こうやってシンさんと話す日々は私にとってもう日常で、不思議と楽しいんです。息苦しいわけでもなくて和やかな気持ちになれるというか・・・うん、やっぱり私はシンさんと一緒に居たいんだと思います」

「理解出来ない。お前も、アイツもそうだ。オレはきっと、お前たちが思ってるような存在じゃない。他者を脅かし、恐れさせ、苦しませる。オレはいつだって『敵』にしかなれない。オレといれば辛い思いをするだけだ」

 

何の感情も乗っていない、無機質な赤い目が何処かを見る。

それがきっと、カレが背負うものなのだと彼女は本能的に理解した。

 

「ふふ・・・思ってた通り、優しいな」

「・・・は?」

「さっきも言いましたけど、これは私のワガママなんです。それに私はシンさんのことを怖いだなんて一度も思ったことありませんから。こうやって傍にいることが証拠になりませんか?」

 

シンの目に映る彼女の姿は微塵とも怯えや恐怖などといった感情が見られない。

幸福や好意、喜びなどといった善に分類される感情はまだしも、憎しみや恐怖、恨みなど悪意に分類される感情に関しては誰よりも分かっていた。

だからこそ、本当に思ってないということも分かる。

 

「あと、私覚えてますからね。シンさんが放っておけば何も飲まず食わずで居たこと・・・ですから、私は好き勝手にシンさんに会いに来てるんです。それとも、シンさんは嫌ですか・・・?」

「・・・」

 

こういった時は、悲しそうな顔を浮かべる。

喜怒哀楽、怒りの部分はまだ明確に見たことはないが、人とは不思議な存在だとシンは思わざるを得ない。

興味、という感情が浮かび上がる。彼女がこれからどう生き、どう過ごし、どう成長していくのか。

 

「・・・オレにキミの人生を決定づける権利などない。こんな面白味も欠ける場所でも構わないなら、キミのしたいようにすればいい。だが、後悔しても責任は取らないぞ。もしかしたら、キミを襲うかもしれないしな」

「また、そんなこと言って・・・でも言質は取りましたからね? 私はこの出会いがいつか後悔するような予感はしません。むしろその逆で、この出会いこそが『奇跡』なんだろうなと、信じてます。なので---」

 

鎖に繋がれ、身動きの取れないシンの手を取る---のは恥ずかしく出来なかったようで、内向的な部分を思わせるように袖を小さく握るセレナは揺らぎのない目でシンを真っ直ぐ見る。

 

「・・・これからもよろしくお願いしますね!」

 

年相応な少女のような明るい笑顔を浮かべる姿に、シンは---

 

「好きにすればいい」

 

ここに来て、何度も口にした言葉で返すしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宣言通り、セレナは通うことをやめなかった。

好んでシンの世話をして話して、変化が訪れたのは宣言から三日目のことだった。

 

「シンさん、手や足は大丈夫ですか?」

「問題ない」

「じっとしててくださいね」

 

錠の形に傷ついた手足に薬を塗っていく。

彼女が来るようになってからずっと行ってきたもの。

やろうと思えばこの際に暴れ、逃れることも出来るだろうにシンは大人しくしている。

痛々しそうな手足だ。

ずっと拘束されてるのだから無事な方が有り得ないのだが。

 

「私の前でくらい、無くしてあげられたらいいんですけど・・・」

「オレの記憶があるないにせよ、素性の知れぬ男を相手にそれは出来ないだろう」

「でも、シンさんは悪い人でもないです。今だって、私一人くらいならどうだってすること出来ると思いますし・・・それにもうここに来て一ヶ月です。そろそろいいんじゃないかなって私は・・・」

「キミが気にするようなことじゃない。それに今ここでどう言ったって何かが変わるわけじゃないだろ」

「・・・そうですけど。シンさんのことを知っていけばいくほどそう思うんですっ」

「・・・そうか」

 

拗ねたようにそっぽ向く彼女に対し、シンは変わらず感情を乗せていなかった。

しかしその目は彼女を見ていて、シンは脳裏で予測能力を発動させる。

 

「まぁ・・・なんだ。キミと過ごした日々のお陰で悪い結果にはならないんじゃないか」

「そう、でしょうか・・・」

「ああ」

「シンさんがそう言うのでしたら・・・信じます」

「そうか」

 

それっきり会話が途切れたせいか無言になってしまう。

重苦しいわけでも気まずいわけでもなく、ただ静かな空間の中で作業音だけが響いていく。

それは作業が終わるまで続いた。

 

「終わったか」

「はい・・・じゃあ、その・・・」

「構わない」

 

複雑そうな顔をしていることから、さっき言ってた通り本当は解いたままにしてもいいと思っているのかもしれない。監視カメラがあるため約束を破って来れなくなる方が嫌だったセレナは渋々と錠を掛けた。

再び動かせなくなった四肢だが、シンは特になんとも思っていないような様子だった。

 

「カメラさえなければ・・・」

 

ボソッと誰にも聞かせるつもりのない小さな声で呟かれた声をシンは見事聞き取っていたが、今の一言で新たな一面を知ったような気がした。

 

「あっ、そういえば・・・今日は私の友達が来るんでした。もうそろそろかなと思いますけど・・・」

「・・・」

「あ・・・もしかして嫌、でした?」

「いや、そういうわけじゃない」

「よかった」

(一応警戒対象として扱われていると思うのだが・・・それはいいのだろうか)

 

最もなことを思いながらも、監視カメラを見たら壊れているというわけではなく正常だ。

誰かが来るような気配もないため、見逃されているのだろう。

 

「まあ・・・キミの友人ならば問題ないだろうってことか」

「・・・むう」

「どうした?」

 

頬を膨らませ、不機嫌そうな顔で見つめてくる彼女にシンは不思議に思う。

あれから一ヶ月、時間換算しても相当共に居ることになるが今回のようなパターンは初めてだった。

 

「ずっと思ってたのですけど・・・」

「・・・?」

「どうして私のこと、名前で呼んでくれないんですか?」

「・・・ん? そうか?」

「そうです。初めて会った時から、今に至るまでずーっとシンさんは私のことを二人称でしか呼んでくれません・・・マムのことはちゃんと呼んでたのに・・・」

 

不機嫌そうな顔から、悲しそうなものに変わる。

言われて思い返す。

ここに来てからの一ヶ月間、確かにシンはセレナのことを名前で呼んだことはない。

大半が『キミ』と呼んでいる。

 

「私のこともセレナって呼んでくれませんか?」

「呼び方なんて分かれば良くないか?」

「そうかもしれません・・・けど! 私はシンさんには名前で呼ばれたいです! シンさんだからこそ、セレナって呼ばれたいなって・・・! こんなにたくさん一緒にお話して、一緒に過ごしてきて、シンさんのこと知って・・・なのに壁があるようで・・・その、寂しくて・・・」

 

最初の勢いはどこへいったのか、徐々に声が小さくなって、最後は消え入るかのように音量が下がっていた。

対するシンは普段通りの目を向けている。

光があるようなものではなく、何処か機械的なもの。

 

「・・・」

「・・・あっ・・・あの、だめ、ですか・・・?」

「・・・」

 

返事がないことに不安を抱いたのだろう。

悄げたように見る見る元気を失って俯いたセレナは、嫌われたのではと上目になりながら揺れる目が赤い目を見ていた。

 

「・・・」

「・・・あ、う・・・ご、ごめん、なさ・・・」

 

表情が変わらないのが逆に怖く、今までの全部がたったの呼び方を変えて欲しいという要求だけで消えることを恐れ、セレナは言葉を撤回するように謝ろうとして。

 

「---セレナ」

「・・・あ」

 

遮るように、淡白に呟かれた言葉に固まってしまう。

静かでありながらも、優しさを感じさせる声音。

聞き間違いでもなければ、幻聴でもなく。

確かにそれは、セレナの名前だった。

 

「・・・も、もう一度」

「何を、」

「もう一度、呼んでください・・・」

 

嘘じゃないと、本当に呼んでくれたのだと確認するように俯きがちにぎゅっと裾を握るセレナは、普段とは違う年相応な子供のような姿だった。

理解出来ない感情でしかないが、別に仲違いしたいわけでもないシンは素直に従うことにした。

 

「セレナ」

「・・・っ」

 

ぴくと肩が跳ねる。

同時に幻聴でも聞き間違いでもなくて、事実だと理解すると不思議と心が温かくなる。

 

「・・・えへへ」

 

無意識に口元が緩んで、はにかむように笑みが浮かんでしまう。

そんなセレナにシンは不思議そうにするだけだ。

 

「そんなに緩ませて・・・嬉しいものか?」

 

記憶が無いが故に、『真名』を持たないシンはセレナの反応が理解出来ていない。

しかしセレナ自身も気づいてなかったのか、指摘されて口元に触れると、恥ずかしそうに両手の指で口角を戻したが、すぐに思い出して緩んでしまう。

 

「ぅ、その、嬉しいものは嬉しいです。一歩前進したんじゃなくて、数歩踏み入れたような気がして・・・シンさんのスペースに入れたような気がして、凄く・・・凄く嬉しいです」

「そうか・・・まあ不快じゃないなら、いい」

 

心底、嬉しそうにしている。恥ずかしさもあるようだが、さっきと違って一切の曇りがない。

それを見て理解したわけではないだろう。

だが悪い空気になるよりかは、今の方が動きやすくていいとシンは打算的な考えで納得する。

損得ならば、得の方がいいのだ。

そんなふうにしていると、ふと人の気配を感じ取る。

ここ一ヶ月間で近づいてきた気配はセレナ以外にない。

予測能力によれば、自身の境遇についてはまだなはずと思いながら僅かに警戒する。

 

「お邪魔するデス! ・・・本当にお邪魔だったデス?」

 

既に開いていた部屋にひょっこと顔を出してきたのはセレナと年齢が近そうな少女。

短く切り揃えられている、さらりとしたブロンドの髪を持ち、綺麗な金髪と可愛らしい小柄な東洋人の容姿を併せ持っている。

名も知らぬ少女は牢と監視カメラ、男を拘束する鎖以外何も無いからこそ、なんだか部屋がやけに似つわしくない空気が漂ってることに気づいた。

 

「ち、違うよ! そ、それより来てくれたんだね」

「もちろんデス!」

「・・・彼女()()は?」

「・・・!」

 

セレナの友人というのは先程の言葉から察せられるが、誰なのかは知らない。

シンは金髪の少女だけでなく、もうひとつの気配の方に目を向ける。

気づかれていたと思わなかったのか、もう一人も出てきた。

少し病的に見えるくらいに身体はかなり細く小さい少女。

綺麗な肌は白く透き通り、肌と重なると映える鴉の濡羽色の髪が神秘的な印象を抱かせる。

その瞳の色はシンに近く、けれど血のように赤いカレとは別で淡いピンク色は彼女自身を美しく魅せる。

それは宛ら日本人形の美しさに通じるものを持っていた。

その他に例えるならば、静かな美しさの代名詞である月のような少女だろう。

 

「二人で来てくれたんだ。えっと、紹介しますね。こちらが暁切歌さん」

「どうもどうもッ! セレナの友達の暁切歌デス!」

 

はつらつとした笑顔、明るい声、全身で太陽を思わせる陽気を発しているような少女だ。

底抜けなくらいに明るく、周りを元気にさせるようなムードメーカーな存在。

分かりやすく言うならば、学校に一人はいる空気を明るく変えれる人間というべきか。

 

「それでこちらが月読調さん」

「・・・よろしく」

 

表情豊かな切歌やセレナとは違い、セレナが内気気味ならばこの少女はそれ以上に静かで、切歌とは対照的だった。

だが切歌とは異なり、静謐だからこそ年齢相応の可愛らしさが付随しているように見える。

 

「そうか。オレのことはシンと呼んでくれていい」

「じゃあシンさん、デスね! よろしくデース!」

「・・・ああ」

「セレナ、普段からこんな感じなんデスか?」

「そうだね、シンさんはいつもこんな感じだよ」

 

耳打ちして小声で話す切歌。

元気がないといえばないようにも見える。

まぁ拘束されてそんな元気に明るく過ごせるはずもないのだが、さっきのことといい今といいただ冷静なのか元々こういう性格なのかのどちらかだろう。

カレの場合は感情に流されにくく、冷静---クールな性格というべきか。

 

「元気がないってわけではないってないデスよね?」

「うーん、そうだとは思うけど・・・」

 

あいにく、セレナも三週間ほどの付き合いでしかない。

ただテンションが低いというか、明るい性格では無いのは確かだ。

長い時間の中で記憶を探っても、唯一瀕死になっていた時くらいしか今より暗い状態にはなっていない。

 

「んー・・・あっ! えいッ!」

「・・・ふぁにをふる(何をする)?」

 

思い切り会話は聞こえていたが、切歌は思いついたようにシンに近づくと、何も出来ないカレの頬を小さな両手で挟み込んだ。

何の嫌がらせなのか、それくらいしか思っていない。

 

「元気注入デスッ! どうデスか?」

「・・・まぁ」

 

何か変化が起きた訳では無いが、否定すれば面倒そうだと判断したシンは肯定する。

すると解放された。

 

「よかった〜元気ってとっても不思議なんデスよ。あったかくて優しくて、暗い気持ちなんてバーって吹っ飛んで・・・分け与えることも出来ちゃう、不思議だと思いませんか?」

「そうだな、もしそうなら・・・オレには理解出来ないものだろうな」

「アタシが分け与えますから、大丈夫デス! たいたにっくに乗った気持ちでいるデース!」

「それは沈むだけだ。やめておけ」

「あれぇ!? じゃ、じゃあ・・・サルマナデス!」

 

表情が変わることはないが、ほんのちょっとは切歌とシンの距離は近づいたように見える。

切歌が挙げた言葉を否定し、シンが正しい言葉や適切な表現を伝える。

ちなみにサルマナというのではなく、サルタナ号のことを言いたいのだろうとシンは間違いを正した。

どちらにせよ、事件にもなった笑いにすることすら出来ない事故なので結局不安しかないのだが。

そもそもどこでそんな知識を身につけたのか。

 

「・・・じー」

「で・・・さっきからなぜオレを見ている?」

 

切歌と話してる時からずっと感じていた視線。

会話中のためスルーしていたが、自分自身が見ていて楽しいものがあるわけではないと知っているシンは調に目を向けて問うた。

 

「・・・気に触ったなら、ごめんなさい。ただ不思議な人だと思って」

「いやオレを見ても面白くないぞと思っただけだ。それより・・・オレが不思議?」

「うん、セレナから聞いてた通り。でも全然、怖くない」

「あ、確かにそうデスね。セレナってば前から---「わぁああああ!!」ングゥ!?」

 

切歌が何かを言うよりも早く、セレナが口を両手で塞ぐと素早くシンから離れた。

そこから何のことを言おうとしたのかシンは理解出来ないが、悪口だろうとなんだろうとどうでもいいため、直ぐに気にしないことにした。

 

「切ちゃん・・・」

「セレナ、あんな素早く動けるんだな」

「確かに、速かった」

 

あっという間に視界から消えていた。

セレナがいる方を見ると、腰に手を当てて説教のようなものをしている。

だが、全然怒っているようには見えず、ぷんぷんと怒っているといった感じで可愛らしい姿があるだけだ。

 

「それにしてもキミ・・・調、でいいか」

「うん」

「調はオレを怖くないと言ったが、些か早計じゃないのか」

「というと?」

「会って数分程度---それも異性に対してもっと警戒すべきだろう。オレが身動き取れないとはいえ、暴れるかもしれないだろう。もしかしたらセレナが誰かを連れてくるのを待っていた、とかな」

 

シンの見た目は子供ではあるが、調や切歌、セレナにとっては年上と言える。

それどころかセレナはまだしも、調や切歌はまだまだ小さいだろう。

 

「それは・・・有り得るかもしれない。でも、貴方はそうじゃない。違う?」

「根拠は何処にある?」

「現に暴れてないこと。暴れるつもりなら、言う必要がないこと。でも一番の理由は・・・貴方が私たちを見る目は、優しいから」

「・・・は?」

「・・・ここには優しい人はいるよ。でも優しいだけじゃない。私たちを人と思ってないような目を向ける人もいる。利用価値のある兵器・・・って言えばいいのかな」

「兵器・・・ッ?」

 

僅かに頭に痛みが走り、顔を顰める。

反射的に頭を抑えようとしたが、じゃりじゃりと音を鳴らすだけで腕は動かない。

まるでない記憶を刺激されたような、脳に何らかの影響があったような痛み。

 

「・・・どうしたの? 大丈夫?」

 

出会って少ししか経っていない調にも何かがあったということくらいは分かるようで、心配そうな表情を浮かべていた。

しかし痛くなったのは一瞬であってすぐに引き、すぐに無表情へと戻る。

 

「・・・問題ない。オレは別に、そんな目を向けているつもりはないが」

「でも、私はそう思った。セレナの言葉もあるけど、私は貴方が悪い人じゃない・・・そう思う」

「・・・それがお前が抱く、オレの印象か」

「うん。貴方は信用出来る。優しくて、暖かいような。だから不思議」

「なるほど・・・だがまぁ、何もするつもりがないのは事実だ。そこは否定出来ない。もし不快に思わせたなら謝罪しよう」

「ううん、心配してくれてありがとう」

「・・・」

 

そう言って、調は僅かに微笑む。

切歌と比べて彼女は大人しそうな外見に相応しくあまり表情が豊かとは言えないが、だからこそ、その笑みはより彼女の愛らしさを感じさせた。

 

「・・・全く、騒がしくなりそうだ」

 

今まで二人だけだったが、気がつけば四人になった。

”これから“をほんの少し予測したシンは、ただこれからの日々が変わっていく予感を確かに感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、切歌と調はセレナと共に来ることになった。

一度だけじゃなく、二度も三度も、毎日来るようになった。

別にシンとしては拒否する理由もなければ、ここに来る前と違って流れに身を任せるようにしているため彼女たちが自分自身の意志で来るのなら、何も言うつもりはない。

当然動けないのだが、切歌と話したり本を読む調が読めない部分を意訳したり意味を教えたり、セレナに変わらず世話されたり。

そんなふうに過ごして、今日もまたやってきたらしい。

 

「おはようございますデース!」

「おはようございます」

「・・・おはよ」

 

一ヶ月と半分、といったところか。

調や切歌が来るようになってからは二週間。

時間把握も慣れ、なんなら手錠や足枷にすら慣れてしまった。

 

「ああ」

 

三人の挨拶に対して、簡易に返事する。

そこに関しては誰も何も言わずに、部屋に入ってきて近づいてくる。

しかし、セレナだけは少し不満そうだ。

理由は分からない、だからシンは若干首を傾げる。

 

実を言うと、シンはここへ来てから、まだ一度も笑ったことは無い。

表情を変えたことだって、数えられる程度。

基本的に無表情でしかなく、別にカレは感情がないわけではなく無表情を作り続けているだけなのだが、どちらにせよ心から笑う、ということをしたことは無かった。

セレナはそこが不満だった。

自身も分からないが、ここ最近笑って欲しいと思うようになった。いや、それも違うだろう。

 

(なんだろう・・・)

 

自分のことなのにセレナはソレが何なのか不思議でしかない。

こんな何も無い空間で笑うなんてことは難しいだろう。

ただ少しでも楽になれたら、そう思ってずっと通っていた。

しかしここ最近、それとは異なる考えがあるような気がしてきたのだ。

笑って欲しいと思うのは本心。その奥、そう思うようになった根本的な部分は一体何なのか。

 

「・・・セレナ」

「は、はい!?」

「・・・ずっと見られても何も出ないんだが」

「あ・・・す、すみません」

 

気がつけばセレナはずっとシンを見つめてしまっていた。

指摘されて気づいたセレナは顔を赤めて頭を下げる。

 

(私ったら、何を・・・分からないものは今は仕方がないよね、うん)

「ふっふっふっ・・・」

 

ひとまず自分自身を納得させたセレナは、ふと聞こえてきた自慢げな笑い声に反応して顔を上げる。

全員が声の主に視線を向けた。

 

「切ちゃん、何かあったの?」

「よくぞ聞いてくれたデス! 実は今日、ある物を持ってきたのデス! 何か分かりますか?」

「そうなの? ・・・見た感じ、何か持ってる感じはしないけど・・・」

「ということは持ち運び出来る物、ってことになるね」

 

調とセレナは切歌を観察するように見るが、ポケットが大きくなってたり異質感があるような部分は見当たらない。

シンは察したが、自信満々な切歌のために黙る選択をした。

 

「じゃーん!」

「・・・トランプ?」

「だろうな」

「シンさんは気づいていたんですか?」

 

ポケットから取り出したのは特別なデザインがあるわけでもない、普通のシンプルに数字と記号のみのトランプ。

目を丸くする調、予想通りで特に何も表情の変わらないシン、明らかに気づいていたカレに疑問をぶつけるセレナと分かれた。

 

「自由に買い物が出来る街ならまだしも、こんな場所で目立つことなく持ち運べるものなんて、世間一般的に普及しているカードくらいだろう。ボードゲームもそんなマイナーなものがあるとは思えない。それに切歌の性格から考えて、誰か一人が省かれるような物が来るとは思えないしな」

「そこまで褒められると照れるデス」

「いや褒めてないが」

 

てへへ、と照れたように後頭部を搔く切歌に対して、無常にも否定するシンだったが、この部屋から一度も出ていないにも関わらず予想して見せたシンに、調とセレナは純粋に感心した。

しかし、ここでひとつ二人は気づいた。

トランプとは色んなゲームが出来る。ポーカー、ブラックジャック、スピード、真剣衰弱、ババ抜き、大富豪、七並べにダウト---それこそトランプ一つで結構な時間を潰せるものだが、問題はそこではない。

ならば、それは何か?

それは。

 

「シンさん出来ないんじゃ・・・」

「手が、使えない」

「・・・あ」

 

そう、ここに一人。

両手足の使用ができない人が居た。

二人の指摘に今気づいたと言わんばかりに固まった切歌は、徐々に頭が理解していく。

 

「で、デデデース!? こ、困ったデスよ、これならみんなで遊べて楽しめるかと思って・・・でもでも大事な部分を忘れていたなんてとんだ失態・・・そんなつもりはなくなかったのにあたし---」

 

今更慌てても仕方がないものなのだが、普段からは考えられないくらい落ち込んだようにますますと元気を失っていく切歌に対してシンはただただため息を吐いた。

 

「あう・・・ごめんなさいデス・・・」

「いい。それよりゲームは任せる。そのために持ってきたんだろ」

「え? でも・・・」

「心配はいらない。セレナも調もいいか?」

「私は構いませんけど・・・」

「私も、大丈夫」

「じゃ、じゃあ早速!」

 

すぐに明るさを取り戻した切歌はトランプを配っていく。

その合間にセレナはシンの傍に寄ると、顔を近づけて内緒話するように小声で話す。

 

「シンさん、暁さんのこと気遣ってくれたんですよね。ありがとうございます」

「オレのことで落ち込まれても困るだけだ」

「ふふ・・・そういうことにしておきますね?」

「・・・」

 

素直じゃない姿にセレナは小さく笑うと、シンは黙り込んでしまった。

それはそうとして、一番気になることを聞くことにした。

 

「でも、どうやってやるんですか?」

「時期に分かる」

 

返ってきたのは答えではなく、先延ばしにするものだった。

疑問符を浮かべつつも、カレがそういうのであれば分かるのだろうとセレナは大人しく身を引く。

 

「配り終えたデスよー」

「何するの?」

「うーん・・・ここは王道のババ抜き・・・デス!」

「じゃあ同じ札を捨てるところからだけど・・・」

 

まだ札に誰も触れておらず、それぞれの目の前に重なっている。

三人の視線がシンに集中しており、触れてないのはカレが本当にやれるかどうか分からないからだろう。

察しが悪い訳では無いシンは理解し、拘束された手を少し動かす。

すると金属が動く音と共に、それはもう酷く禍々しい赤黒いエネルギーがカードを持ち上げ、オーラに纏われた札はシンの視線の前で浮いた。

 

「浮いた!?」

「ぽ、ポルターなんたらデスか!?」

「まぁあながち間違ってはいないが、これは念動力。いわゆる超能力だ」

「そんなことが出来たんだ・・・にしても」

 

赤黒い膜に覆われたカードは何も無い空間に浮き続けている。

ただ少し、絵面が---

 

「禍々しいデスね!」

 

言い淀んだことをはっきりと言った切歌に、セレナと調は苦笑した。

もっとこう、神秘的なものをイメージしたのかもしれない。

 

「カードは無事だから、問題なさそう・・・?」

「えっと・・・うん、問題ないみたいだよ」

 

見た目に反して特別何かあるわけでもないらしく、触れたセレナがそれを知らせる。

が、調と切歌は別の意味で驚いており、セレナは不思議そうにしていた。

 

「二人とも、どうしたの?」

「えっと・・・」

「セレナが一切躊躇しなかったから、驚いてたデス・・・」

 

害がありそうなオーラを発しているのに、セレナは止める暇すら与えずに触れたのだ。

こればかりは誰でも驚いてしまうかもしれない。

セレナとしては自覚がなく、言われて気づいた。

 

「へっ? ・・・と、ほら、シンさんのことだから大丈夫かなって。実際何も無かったし・・・」

「むむ、実際のところは大丈夫なのデスか?」

「オレが制御してるから問題ない。それに潰すイメージをしても影響があるのはカードだけだ。オレが明確な殺意を持って人に纏わせない限り何か不都合が起きることもない」

 

触れる分には問題ない。逆に言えば危ないモノではあるということなのだろう。

どれほどの力が込められるのかは定かでは無いが、もしかしたら。

 

「・・・それ使えば簡単に拘束を解けるんじゃ」

「あ・・・」

「確かに・・・そうデスね」

「・・・・・・」

 

調が思いついたように言ったことへ、セレナも切歌もそれもそうだと思ったらしい。

返答を待つように見ると、シンは沈黙を貫いた。

沈黙は肯定を意味するとはこのことだろう。

 

「さて、除外するか」

 

そして取った行動は話を逸らす事だった。

否定する気がないということは、つまりそういうことである。今まで拘束されてようとも何も思わなかった理由かいつでも脱出出来るから、ということだ。

ジト目で見つめてくる調を華麗にスルーしながらシンは目を通して次々と同じ札を除外していく。

手を使うよりも速く、なおかつ間違った札を捨てたというのもなく正確だ。

そんなカレの姿に答える気は無いと察したようで、全員がカードを仕分けた。

 

セレナ:13枚

シン:14枚JOKER、IN

切歌:13枚

調:13枚

 

と分かれ、誰かが間違って捨ててなければ必ず勝敗が決するようになっている。

ちなみに取る順番はセレナ→シン→切歌→調といった感じだ。

 

「じゃあ、まずは私からですね」

 

セレナがシンの前で浮くカードに手を伸ばし、一枚取る。

一切の抵抗感を感じさせず簡単に取れ、セレナの手に渡るとオーラ弾けるように---ではなく、すぅっと緩やかに消える。

そんな感じになるのだと驚きながらセレナは同じ札だったらしく、二枚捨てる。

 

セレナ:12枚

シン:13枚JOKER、IN

切歌:13枚

調:13枚

 

浮いている札の空いた枠を埋めるように左右のカードの距離が縮まり、空白を無くすと、シンは切歌を見た。

 

「それで」

「どれデスか!?」

「取れるから気にするな」

 

そう言ったシンは自身が選んだ札一枚のみを対象にオーラを纏わせると、素早くカードが抜き取られ、シンの目の前で停止すると同じようにカードが浮いていた。

まだ最初なのもあり、簡単に揃うのもあって同じ札を見つけると捨て札に捨てる。

 

「おお、こんな感じに・・・」

「すごい」

「大したもんじゃないけどな。似たような力を使うような存在なんて世界には居るだろう」

「うーん私たちはここから出たことがありませんから。あまり想像出来ないですね・・・」

「・・・そうか」

 

ほんの少し空気が暗くなってしまい、再開するように切歌が調が持つ札を一枚取ると、空気に相応しくない明るく、嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「やった、揃ったデス! ふふーん、あたしが一位抜けする可能性も見えてきたデスよ」

「まだ序盤だから、分からないよ」

「そうだね、私とシンさんも同じ枚数だし」

 

一瞬で空気が元に戻り、シンは改めて切歌の空気を変える力がどんなものか実感する。

もし彼女がいなければ、このメンバーでは微妙に気まずい空気のままだったかもしれない。

 

「次は私」

 

調がセレナの札から一枚取ると、揃ったようで捨て札に捨てていた。

調も調で、切歌の言葉にすぐ乗っかっていた。

切歌のことを一番知っているのは彼女なのだろう。だからこそ、すぐに変えることが出来た。

 

「一巡したね。枚数はシンさん以外全員同じ、また引かせてもらいます」

「ああ」

 

シン以外が12枚、カレのみ13枚だがババ抜きの本番はまだ先と言えるだろう。

なので---

 

 

 

 

 

 

 

 

セレナ:3枚

シン:4枚

切歌:3枚

調:3枚

 

あれから九巡。

順調も順調で特に滞りなく進んだ。

もう少しすれば、一人ずつ抜けていくだろう。もしかしたら連鎖的に抜ける可能性もあるが、ババ抜きの本番というのはここからだ。

 

「それじゃあ---」

 

セレナが浮いている札を一枚取る。

手元に入れ、カードの絵柄を見た瞬間僅かに彼女は止まった。

シンは終始無表情なので特に分からないが、セレナは揃わなかったことを知らせるように首を横に振った。

ババ抜きとは心理戦。

それが一番発揮されるのがJOKERが行き渡ったとき。

そして今シンの元にJOKERは消え、セレナの手に渡った。

つまり、ここからである。

 

「・・・」

 

特に話すことも無く、シンは無言で念力を発動。

カードを一枚取っては揃い札を捨てる。

 

「次はあたしデース!」

 

切歌が調の札を取る。

揃ったらしく、分かりやすく喜んでいた。

既に終わった人をいつまでも見ても仕方ないため、調はセレナを見つめた。

手を出すことなく少しの間見つめると、口を開いた。

 

「セレナ、持ってる?」

「うーんどうだろうね。持ってないかもしれないし、持ってるかもしれないよ?」

「・・・」

 

動揺は見られない。

それどころか何か違和感があるようなこともないため、これ以上情報を得られるのは不可能だと判断した調は意を決してセレナの一番右側の札を取る。

 

「・・・!」

 

札を見て、自身が取ったものがJOKERだと気づく。

セレナを見ても、彼女は表情を変えることはない。

調は内心で悔しがりながらも、現実を受け入れる。

 

セレナ:3枚

シン:3枚

切歌:2枚

調:3枚+JOKER

 

「引いても大丈夫ですか?」

「ああ」

 

一応の確認をしたセレナは左側を取ろうとして、迷うように真ん中を選んだ。

揃って二枚。

となると、次のターン。

やはり無言で念力を発動させたシンは一切迷いなく真ん中を回収すると、揃わないのでそのまんま。

 

「次はあたしの番!」

「ん」

 

必要はないのだが、宣言した切歌に調はカードを近づける。

JOKERを少しズラし、取りやすくするという小技を使っていた。

これはズラしたのがJOKERだと判断する人やブラフだと判断する人、裏の裏を搔いて敢えて取る人に分かれるだろう。

なら切歌は---

 

「えい!」

 

ちょっと上にズレたカードを取っていた。

 

「あぁー!」

 

そしてガーンと分かりやすく落ち込み、その時点でセレナとシンも誰にJOKERが行き渡ったのか察する。

それはそうとして調はセレナから取り、 三枚。ようやく一巡。

セレナはまたシンから取り、揃わず二枚。シンは三枚。切歌も三枚。調が揃わず三枚。

もう一巡。

 

 

セレナ:2枚

シン:1枚

切歌:JOKER

調:1枚

 

「えっと・・・これって・・・」

「・・・」

 

一枚しかない。

そして取る出番なのはセレナである。

浮いた残り一枚を取ると、カードがなくなった。

当然浮かせる物もなくなったので、赤黒い膜は消えている。

つまり。

 

「一位抜け・・・となると」

「あたしが調から取るデス?」

「そうなるね」

「じゃあ調から・・・あっ」

 

ちなみにさっきセレナが取った時に揃ったので、残り1枚だ。

そして調からカードを抜いたということは、調は2位で強制的にアガり。

 

「ぶい」

「・・・よかったな」

 

最下位にならずに、むしろ二位という好成績にピースサインを向ける調にシンは特に喜ぶことなく好ましい結果を得られたであろう彼女に言葉を贈った。

 

「うん、一位は取れなかったけど」

「この結果は元から決まっていた」

「どういうこと・・・?」

 

まるで運ではなく、必然的だとでも言うような発言に調は訝しむと、シンはまだ勝負が終わっていない二人の方へ目を向ける。

今は答える気がないと理解したようで調もそっちを見ることにした。

そして今、最後の戦いが始まろうとしていた。

JOKERしか持っていない切歌は一枚取ったことで二枚となり、今度はセレナが切歌から取ることになる。

 

セレナ:一枚

切歌:一枚+JOKER。

 

二択。たったの二択だが、それは意外とバカにならないものだ。

JOKERじゃなければセレナの勝ち、JOKERならば続行。

不思議と緊張が場を支配する。

50%の確率で外す状況。逆に言えば、50%で勝てる状況。

あとはもう、運任せにするか駆け引きするのかどちらか。

 

「私も負けたくないから・・・勝ちにいくよ」

「受けて立つデス!」

 

真正面で向かい合い、セレナはどちらが当たりか真剣な顔で集中していた。

左か右か。自身の利き手を選ぶべきか、それとも勘でいくべきか。

カードを凝視するセレナと緊張している切歌。

しかしいくら見ても分からないものは分からない。

カマをかけたりカードに触れたら相手の反応で分かるかもしれないが---ふとセレナは視界の端でアガったシンと調が話してるのが見えた。

互いに表情が変わりにくいからかあまり表情に変化は見られないが、見てる側からしたら楽しそうにも見える。

 

「・・・こっち、かな」

 

ほんのちょっと、ちょっぴりだけ羨ましく思いつつも二人が居る方向---右側の札を取った。

独特なピエロの絵柄---ではなく、♥A。

つまり。

 

「そ、そんな・・・負けた、デス・・・」

「勝っちゃった・・・」

 

呆気ない決着。

セレナ自身もなんだか勝利を喜べず、微妙な表情を浮かべている。

というか途中から勝敗よりも別のことを考えてた気がする、と思った。

 

「ねぇ、さっきのはどういうこと? この結果も決まってたの?」

「ああ、正確にはこうなると予想していた、という方が正しいか。だがオレが勝つことに関しては決まっていた」

「えっと、何の話ですか?」

 

見事一位抜けどころか最下位になったという結果に肩を落とす切歌の背中を擦りながらセレナは二人の会話に入る。

 

「ババ抜きの結果?」

「勝敗だ」

「・・・えー」

 

口数が少なすぎて結果も勝敗も似たようなものだが、何を言いたいのかセレナには分からない。

 

「・・・切歌が最下位になる結果、オレが勝つという結果。その二つが分かりきっていたということだ」

「ほぁっ!? ど、どういうことデス!?」

 

大仰に驚いて背を反らす切歌と切歌ほど驚くことはなかったが、セレナは目を見開いて驚く。

 

「やる前から・・・ですか?」

「いや、流石にそれは無理だ」

「でもどうして・・・あっ、もしかして・・・」

「セレナ、何か知ってるの?」

 

何か思い当たった様子のセレナに調が疑問を投げかけると、セレナは思い出しながら答えかもしれない回答をする。

 

「えっとね・・・シンさんって()()()()()()()が出来るんだって。だからそれじゃないかと思ったんだ」

「数億通りの・・・」

「予測・・・?」

 

調と切歌の頭には疑問符だけが浮かぶ。

数億、数億とはどれくらいだろうか。

そもそも予測とは何なのだろうか、と。

 

「簡単に言えば、未来予知みたいなもの・・・らしいよ」

「未来予知! それ反則じゃないデスか!? やる前から分かってたってことじゃあ・・・」

「そんなわけないだろ。トランプの枚数から考えて何通りあると思うんだ。JOKERを抜いて52枚のトランプを計算すると・・・だいたい約8×10の67乗通りくらいか。単位で言えば『不可思議』」

「不可思議・・・?」

「無量大数という単位の一つ下の単位だ。第一、切歌が持っていたのは新品のトランプ。新品のトランプは最初から並び方は決まっている。そこからシャッフルした札の位置を記憶し、配られた札を記憶すればあとは何が揃って何が揃わなかったのか見ればだいたい誰に何のカードが行き渡ったのか自ずと分かる。オレは確実に揃う札を取った結果、切歌に関してはここまで分かりやすいやつが勝てる確率の方が低すぎる」

 

いくらシンが数億通りの予測を可能としても配られる前の枚数から結果を予測するのは不可能だ。

しかし配られ、捨てられた後なら一気に減る。札が減れば数億通りの予測で可能な範囲に行くため、予測能力を持つシンはあまりに有利すぎた。

しかし予測よりもやばいのは記憶能力だろう。

誰に何のカードが行き渡ったのか完全に記憶してる時点で、おかしいのだ。

 

「なんというか・・・」

「うん、凄すぎて良く分からない」

「な、なら次は見ちゃダメデス! あとよく分からないモノも禁止! そして次こそはあたしが!」

「・・・まぁいいが。セレナ、目隠しか何かあるか」

「うーん流石にそれはないですね・・・そうだ、私が塞ぎます!」

「多少首が痛むかもしれないが、後ろ向けば---」

「やります」

「・・・」

 

有無を言わさないセレナの態度に、何を言っても無駄そうだと判断したシンは諦めると、自分でも目を閉じる。

すると両目の位置をピタ、と手で覆われる。

 

「見えてませんよね?」

「何も見えない」

「暁さん、大丈夫みたいです」

「ラジャー!」

 

カードがシャッフルされる音だけが聴こえ、終わったかと思えばまたシャッフル。

そのことから考えられるに、切歌だけでなく調にもさせたと考えるのが妥当か、と目の見えない状態でもシンは状況を把握する。

ちなみに正解である。

それから少しして。

 

「シンさん、もういいですよ」

 

目を覆う感触が消え、言われた通りに目を開ける。

目の前には配られたカード。それぞれの手に渡っているので、既に配り終えた後だろう。

さっきと同じように浮かせ、高速で分ける。

 

「リベンジマッチデース!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

シン:一位

セレナ:二位

調:三位

切歌:四位

 

「も、もう1戦・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

シン:一位

セレナ:二位

切歌:三位

調:四位

 

「まだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

シン:一位

調:二位

セレナ:三位

切歌:四位

 

 

 

「あたしばっか最下位デス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

シン:一位

調:二位

セレナ:三位

切歌:四位

 

「どう考えてもおかしいデース・・・」

「つよい・・・」

「不動って感じですね・・・本当に何もしてないんですか?」

「素だ。そもそも癖で初見時に使用しただけで本来使う必要はないからな」

「だ、だったら、タイマンを申し込むデス!」

「いいが。二人はいいのか?」

 

全員ではなく一対一なら勝機があると見たのだろう。

セレナも調も興味があるのか特に異論はなく、切歌とシンでやることとなった。

引く側はシン。

つまり一枚で、切歌はJOKERと揃うカード一枚。

 

「こっち」

「なぁ!?」

 

一瞬で終わった。

 

「あ、あたしから引かせてくださいデス・・・」

「好きにするといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

五勝負のうち、五勝五敗。

無論、シンが前者だった。

 

「か、勝てない・・・とは。とほほ・・・」

「ん」

「どうした?」

 

合計六回の勝負だが、全て負けた切歌は両手を地面に着いていた。

それを見た調がシンの裾を引っ張る。

 

「私がやる。切ちゃんの仇は、私が討つ」

「し、調ぇ・・・!」

「オレはいいが・・・」

 

むん、とやけに気合いが入った様子。

彼女の闘志にでも火を点けたのだろうかと思いながら、特に断る理由も無いので受けて立つことにした。

条件は同じで、自信があるのか二枚持っていた。

つまり引いて見せろということだろう。

 

「私が勝てたら、言うこと聞いてくれる?」

「急だな」

「無理強いはしないよ・・・」

「今のオレでも出来ることなら、約束しよう。一応、何か聞いても?」

「読めない本があるから、読んで欲しい」

「・・・それくらいなら普通にするんだけど、まぁいい。分かった、それくらいなら呑もう。だが、手加減はしないぞ」

「それでいい」

 

妙に機嫌が僅かに良くなったのを見て、不思議に思いながらシンは調の目を真っ直ぐに見る。

特に瞳は動かず、揺らぐことは無い。

次に表情。

わかり易かった切歌とは違って、変化は見られない。

 

(なるほど、自信があったわけだ)

 

視線、表情、動作。

心理戦において情報が武器だ。

何処かでも揺らぎが生まれれば簡単に瓦解する。

少なくとも今3つ挙げたものは短な時間で見ることが出来るもの。

言葉にも情報はあるが、恐らく答えるつもりは無いだろう。

 

「甘いな」

「・・・!?」

 

然しそれらの情報すら必要とせず、間違えることがなく正解を取って見せた。

自信があったからこそ、調は驚愕を隠しきれなかった。

どこにバレるような箇所があったのか、何処か表に出ていたのか。それとも純粋に豪運を持っているのか。

ただ、調には運だとは思えなかった。

 

「なんで・・・」

「確かに隠し切れていただろう。はっきり言って、あの状態で答えを見つけ出すのは出来ない。だが、出来ないのは言動、視線、表情からだ。相手の思考を読み、推測することはできる。心を読む、それが一番の勝利への道だからな」

 

心理戦において重要視される部分は多々ある。

心理状態の把握、予測、表情の変化、リズムの変化、相手の思考や意図。性格から癖まで得られる情報から次にどう来るのか、この人ならどうするのか、そういった情報で組み立てることが出来る。

シンは今回、自分目線ではなく相手の目線になって考えて動き、答えを導き出した。

無論、今回に関しては100%の勝利ではなく実際には五分五分で外す可能性もあったのだが、ババ抜きのルール上外したとして次にJOKERを取らせたら続行になる。

故にそのパターンを想定して動いていたため、やはり勝利は揺るがなかったかもしれない。

 

「そんな方法を使うなんて・・・想定外だった」

「それが心理戦だ」

「ん・・・私の負け」

「やけに潔いな。オレはもう一回と言ってくるかと思ったが」

「負けは負けだから、悔しいけど今回は諦める」

 

調自身言った通り悔しそうな顔をしているが、”でも“と一度言葉を区切ると、悔しそうな顔ではなく戦意あるものに変わる。

 

「次は負けないから」

「そうか」

 

負けを認めてはいるが、それは今日のみということだ。

どちらにせよ、勝負は終わったと見ていいだろう。

 

「まだデスよ!!」

 

恐らくこの場の誰もがそう思っただろうに、それを否定する声が響く。

無論のこと、切歌である。

 

「どういうことだ?」

「よくぞ聞いてくれたデス! あたしたちにはまだ---セレナがいるデェス!」

「えっ!?」

 

油断していたら、指名されたセレナは切歌によってシンの目の前に連れられる。

それを見て調は少し口角をあげると、思いついたように便乗した。

 

「そう、セレナがいるから私は託した」

「なるほど、そうきたか」

「え? え?」

 

早期に納得したシンとは違って、セレナはまだ戸惑っている。

本人は別に参加するつもりはなかった、というのもあるだろう。

 

「まぁ、誰であろうと結果は変わらない」

 

本当に現実になりそうなことを言ってのけたシンに、ほんの少しだけセレナを連れて離れた切歌たちは内緒話をするように声を潜める。

 

「ほら、セレナも悔しくないデスか?」

「私たちの分も、お願い」

「え、えぇ・・・そ、そう言われても私はシンさんに勝てるような未来が見えないというか・・・」

「どうデスかね?」

「え?」

 

未来予知に近いとも言える力を持つ相手がシンであり、使用しないという制限をつけてもなお切歌と調を下してみせた。

素のスペックだけでも、それを使えるような施設---それこそカジノにでもいけば圧勝して金を稼ぎ放題だろう。

今のところ敗北率0%である。

 

「少なくとも、私たちよりセレナはあの人のことを知ってる。だから一番可能性があるのはセレナ」

「うんうん」

「だからって・・・ぅうん」

「もうセレナしかいないのデス!」

「どうしても、ダメ?」

「う・・・そ、そういうわけじゃ・・・分かりました、でも勝てるかなんて分からないからね」

「それで、大丈夫」

 

期待するような目を向けられて、引き下がれるものも引き下がれなくなってしまった。

それに事実とはいえ、シンのことを一番知っていると言われてセレナはなんだか嬉しいという感情が浮かんだのもあったのだが、それは彼女自身しか知らない。

 

「話は終わったか?」

「あ・・・はい。じゃあ、その・・・私とも一戦、お願い出来ますか?」

「ああ」

 

作戦会議でもしたいのかと聞かないようにしていたシンが問うと、勝負を申し込んできた。

当然の如く、拒否る理由がない。

どっちにするか任せる気だったが、今回はセレナが二枚持っている。

つまり調と同じということ。

 

「オレが引いていいのか? はっきり言って、セレナが引いた方が勝率はあるが」

「大丈夫です。勝てる気はあんまりしませんけど・・・それでもやるからには全力でやるつもりですから」

「そうか」

 

これは二分の一を引くかどうかの勝負。

駆け引きを抜いてしまえば、それはもうただの運である。

それでもシンが引くよりはセレナがやる方が勝てる可能性は高い。

ただまぁ、相手がそれを選んだのなら尊重する。

札を混ぜて分からないようにするセレナは、終わると手札を突き出す。

二枚のカード、どちらかがJOKER。JOKERを引けば続行、ただある意味、外したことがないシンが外すという意味だからセレナの勝利ともいえる。逆にJOKERを引かなければシンの勝ちだ。

真剣な空気の中、シンが一つの札にオーラを纏わせた。

シンから見て、右。セレナから見て左。

表情、脈絡、鼓動、視線、動作。

どれも変化は見られず、至って正常。

焦ることも、喜ぶような様子も見られない。

正解か不正解か。もうひとつの方に纏わせる。

微々たる変化はあるが、JOKERかと言われれば言い切れない。

僅かに悩みながら、シンは一枚を抜き取った。

 

「あ・・・」

「・・・ん?」

 

手元にやってきたのは、JOKERのカード。

つまり、シンは初めて間違いを引いてしまった。

 

「間違えた?」

「おぉー! やっぱりあたしの目に狂いはなかったデスね! これならきっと---」

 

動揺することなく、シャッフルしたシンはカードを静止させる。

間違えたからといって、数億通りの予測をして間違えたわけではないため狼狽するには至らない。

ただ一部、思考の中になぜ間違えたのかという疑問は残っているのだが。

 

「じゃ、じゃあ・・・うーん」

 

にらめっこするように左右のカードを見ながら、セレナは左のカードを選ぶ。

オーラが消え失せ、セレナの手に渡った札は。

 

「返ってきちゃった」

 

JOKERだった。

となると、続行。

シンは見ないように目を閉じ、セレナが入れ替え終えるのを待つと、今度は何もせずに見つめる。

 

「・・・ふむ、こっちだな」

「あっ」

 

5秒ほど経った後、オーラを纏わせて抜き取ったカードは、♠キングのカード。

揃ったことを示すように反転させ、ゆっくりとカードを降ろした。

 

「うう、やっぱりシンさんは強いですね・・・」

「でもでも、セレナだって負けてなかったデス!」

「うん、一度はJOKERを引かせた。凄いと思う」

「そう、かな」

 

あまり実感が湧かない、というよりは自信がなさそうに返事するセレナに対し、シンは僅かに考えてから口を開く。

 

「まぁ・・・なんだ。はっきり言って予想外だった。運とでも思ってるのかもしれないが、例えそうだとしてもそれは実力だ。予測能力を発動してないとはいえ、この勝負はお前の勝ちだろう」

「シンさん・・・」

 

数億通りの予測能力があれば負けることは無いが、それでもシンのスペックは普通の人間を大きく凌駕する。

そんなシンに勝つとはいかなくとも、一泡吹かせただけでと十分すぎる戦果だ。

ある意味では、セレナの勝ちと見ていい。それはシン自身も認めた通りで、セレナは思いがけない言葉に少し照れる。

 

「・・・ハッ! もしかしたら今なら勝てるかも・・・今すぐやるデス!!」

「・・・」

 

そしてさっきの勝負を見たからか、切歌が雪辱を果たすべくリベンジマッチを開催し---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでデスかぁあああああ!?」

 

三敗した。

それはもう見事な負けっぷりであり、やる度に一発で負けている。

 

「もう一回! もう一回だけ!」

 

それでも折れることなく、何処か楽しげに挑んでくる切歌を見ているうちに---

 

「・・・ふっ」

 

シンがここに来て初めて笑った。

 

「あ・・・今笑いましたネ?」

「笑ってない」

「いーや! 絶対笑ったデスよ! そうデスよね、調!」

「うん、笑ってた」

「笑ってない」

「そっちの方が、いいよ? もう一度見てみたい」

「・・・笑ってない」

「むむ、頑固デスね・・・セレナからも何か---」

「セレナ?」

「・・・え? あ、うん・・・えっと、はい笑ってた、と思います」

 

二対一から、三対一に。

シンは別に感情がないというわけではない。あくまで押し殺してるだけに過ぎず、流石に気のせいだと思わせるのは不可能だろう。

 

「・・・はあ。仕方ない、か」

 

諦めたようにため息を吐くと、ちょびっとだけ口角をあげていた。

なんだかんだ、カレ自身も甘いらしい。

 

「これで満足か?」

「いえーい!あたしたちの勝ちデース!」

「ぶい」

「おいちょっと待て、いつからそんな勝負になった?」

「いまさっきデス」

「コイツ・・・」

 

変わらず一人だけ拘束されているという違和感しかない絵面ではあるが、表情を隠すことなく頬を引き攣らせるシンに、笑う切歌と大人しくはあるがなんだかんだ乗っかかっている調は楽しそうで---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・あれ?)

 

二人のおかげでシンは初めて笑ってくれた。

やっと見れた表情に、笑ってくれたと言うのに、望んでいたはずの場面だと言うのに。

セレナは素直に喜ぶことが出来ず、胸の部分からチクっ、としたような痛みが走って思わず胸に手を当てるが、よく分からずに首を傾げた。

 

「・・・セレナ?」

「今からこれやるデスよー?」

「早くやろう」

「あ・・・うん。ごめんね、すぐに行くから!」

 

いつの間にか新しくゲームすることになったらしく、気がつけば引いていた痛みにひとまず忘れることにして、セレナは三人の輪の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

余談だが、結局シンが全勝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ちなみにシンくんは別に拘束されてようとも脱出余裕だしエボルトも居ないので半減アークゼロでもこの頃のF.I.Sくらい余裕です。だから衰弱死しかけても余裕だったわけですね、何気に一番死にかけた部分ではあるけど、元の場所に帰れるかの実験でもあったので。
それと現代ならまだしも、どこか分かってなく慎重に動いてるため、セレナとかに対しても優しいです。まぁ元々子供に優しくしてますけど。
何より調や切歌に対してもまだ小学生くらいの女の子としか見てないので、彼女たちからも好感高い…ですけどよくよく考えたら事案だな。
ナスターシャから見たら中学生の子供が米国政府の管理下の場所に無断侵入し、異常な覚悟やポーカーフェイスを持って大人に交渉出来るやべぇやつだけど。

でもやっぱり半減スペックのアークゼロなので予測能力は問題ないけど強さは下がってますからね、仮にF.I.Sとの戦闘になったとして『アレ』を起動されると面倒なのでちょっと時間かかりそう

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