戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ〜   作:絆蛙

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お久しぶりです。
いやアンケ次第でガチ失踪有り得たんですけど待ってる人多くてびっくりしました。ぶっちゃけどんだけ待ってくれてる人いるのかって感想やらアンケとかでしか分かんないんですよね ふつーに100未満かと。
でもほんと、参考にできるのがないから過去編苦戦しまくる…ネフィリム起動するのいつだよ。あれどっかで書かれてたかなぁ…XDのストーリーとかもうほぼ覚えてねぇよ…。
それはそうと気がつけばアウトサイも終わってましたが、結局アークの力はアークが制御してるから問題ないんですかね、あとゼロスリーだけで決着つけて欲しかった
いつの間にか1000%がなんの負荷もなく使えてるんでうちのオリ主と矛盾が発生しかけてますが、そういうオリジナル設定ということで。
とにかくも何とか捻り出して書けたのでどうぞ。



第十七話 処遇

 

 

 

 

 

 

 

 

---先日のトランプを使った勝負において拘束してる意味がほぼないことが判明したりはしたのだが、セレナはそれでもシンの世話をするために足を運んでいた。

といっても、セレナがシンの元へ来ることがいつも出来るわけではない。

大半の時間を過ごすようにはなっているが、彼女にも事情というものはある。

これに関してはセレナが勝手にやってることで、別にシンはお願いしたわけではないのだが、今日は彼女が来ない日だった。

 

「・・・」

「・・・」

 

代わりと、言うべきなのか。

今この部屋には変わらず拘束されているシンと、そんなカレの傍で本を黙読している調が居た。

別に暇なわけではない。これでもカレは通信衛星アークと呼ばれる人工知能に搭載された知識を引き出す能力を持っている。

ネットワークを介せば、いくらだって本を読んだり情報を盗んだりと暇潰しは出来るだろう。

ただまあ、未だに現状把握出来てないから下手に力を行使することはせず、予測能力くらいしか使用してないのだが。

あとはたまに、分からない部分があったら聞いてくる調に分かりやすく意味を教えたり読み方を教えるくらいか。

なので基本一人の時はぼうっとしているのが日常だったりする。

 

「・・・ふぅ」

 

黙読していた調が本を閉じる。

読み終えたのだろうか、少し疲れた様子。

まぁ文字を読んでいれば疲れるものだ。残念ながらシンには癒す術はない。

 

「ありがとう」

「何がだ?」

「分からないところ、教えてくれて」

「ああ・・・別になんてことはない」

 

元々話すのが得意というわけでもない調と別に話すのが苦手では無いが最も効率の良い最低限しか話さないことが多いシンでは会話が長く続くはずもなく、沈黙が場を占める。

 

「・・・ひとつ、聞いていい?」

 

そんな沈黙を打ち破ったのは、調だった。

 

「別にいいが、答えられるとは限らないぞ」

「うん、それでいい」

「そうか、なら答えられるものなら答えよう」

 

そのことに珍しく感じつつも、答えられない可能性を示すと許可を貰ったため、シンも質問を許可した。

 

「じゃあ・・・どうして貴方は『シン』と名乗っているの?」

「・・・どうして、とは?」

 

調の口から出てきたのは、予想に反したものだった。

内心で少し驚くが、表情は無表情。

質問の意図が読めず、聞き返すシンに調は僅かに考え込む。

 

「・・・私には、貴方のその名前が本当の名前だとは思えない。だけど一番の理由は私も本当の名前を知らないから」

「なるほど・・・まぁ隠すことでもないから言うが、その通りだ。オレの本来の名前は『シン』ではない」

「だったら・・・」

「残念ながら、本来の名前は知らない。オレは自分の出自、ルーツを知らないからな。ただこの名前が違うという・・・確信だけは不思議とある。そもそもオレが自ら付けた名前だからな、偶然本来の名前と同じだったなんて確率的にも低すぎる」

 

嘘でもあり、本当でもある記憶喪失者なのがシンだ。

記憶喪失が故に本当の名前を知らない。自分が生まれた理由の意味も分からない。

それでも、カレには目的だけが存在している。

 

「その名前にした理由は・・・?」

「理由・・・か。理由と言っても、名前の通りだ。シンという名を日本語に直せば、どういう意味か調なら分かるだろう」

「罪・・・」

 

そう、それがシンの名前の意味。

罪。

罪とは何か、法律的、道徳的、宗教的な規範に反する行為。それに対して背負うべき責任、科せられる制裁、刑罰。

ある行為から生ずる他人に対する負い目や責任。

神に背く行為。

禁忌を破ったこと。

人間がしてはならないこと。

罪の定義など数多くある。

 

「何か、やったの?」

 

ここに来る前のシンを調は知らない。それにカレ自身も記憶喪失だから知らないだろうと思っている。

でも、そう言うということは忘れた記憶の中でも引っかかるものがあるのだろう、と。

 

「・・・やったのかも、しれないな」

「・・・?」

 

調の問いに、シンは何処かを見ながらぽつりと語る。

 

「オレという存在はこの世界において存在するという行為そのものが許されない存在だ。罪を忘れないようにするにはどれが一番いいのか、罪を背負うこと。罪を背負うなら何度も耳にするものにすればいい。許しを乞うつもりはないし許されるとは思っていない。だから背負い続ける。オレがやったことが罪などではなく、オレの存在が罪なのだと・・・故に、オレの名前はシンだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

何処までも暗く、昏く、黒く、真っ暗で、真っ黒。

神秘性があるわけでも光があるわけでもない。

赤い目は情熱に燃えているような目ではない。その目の奥にあるのはただひたすらに、色がなかった。他の色とは混ざることの無い黒。漆黒。暗黒。深淵。

何をどう生きてきたら、そんな目を出来るのだろうと調は思った。

何を思って過ごしてきたら、そんな考えが出てくるのだろうと考えた。

だけど、分からなかった。

調は他人の純粋な幸せな雰囲気、傷付いた心に敏感になっていた。

この施設には文句なしに幸せな気持ちで居る人間、もしくは傷付いて幸せを感じられなくなった人間がいる

前者は調の親友である暁切歌。

自分と同じで決して楽ではない人生を送って来たにも関わらず、その心には傷があるはずなのに、それでも幸せな気持ちで日々を生きている彼女を心から尊敬しているし、切歌のような人間はそう居ないと思っている。

後者はこの施設の子供達の大半。

身寄りのない子供、孤児院の子供をかき集めたこの施設の子供達は、心のどこかに傷を負っているものがほとんどだ。それを乗り越えるだなんて、出来ているこの方が少数。もしかしたら数えられる程度かもしれない。

ならば、シンはどうだろうか。

正体不明、どこから来たのかもどうしてここに居るのかも、何もかもが不明。

調は最初、セレナから聞いた時は自身が嫌う傷もなく綺麗事を述べるような偽善者のような人間だと思っていた。

優しく、思いやりのある人だと、自分のことよりも他人のことを考えてくれるような人だと言っていたから。

しかし会ってみれば、どうだ。

確かに自分たちを見る目は優しかった。正確にはその奥底にある本質と呼べるもの。

言動に対して、表情はないんじゃないかというくらい無表情で、実際には表情はあったのだが、今もカレは無表情を貫いている。

今思えば、不思議だと感じたのも信用出来たのも、『コレ』が理由だったかもしれない。

同じだったのだ。同じく傷があり---いや、調が見たことがないくらい傷だらけで。

それなのにも、まるで苦しむことを求めてるように、自分自身だけを責めるように、ただひたすら自己を殺しているのだと。

カレはきっと、自分の存在が許せないのだろう。

自らの存在を罪だと言うカレはなぜそう思うようになったのか、知りたいという欲求が生まれる。

 

「・・・シンさん」

「ん?」

 

初めて、名前を呼んだ。

今まで『貴方』や『カレ』といった名称を使わない呼び方をしていたが、不思議と1度呼んでしまえばストンと落ち着く。歯車が噛み合ったような、そんな感覚。

それは信用ではなく、信頼の証。

シンという一人の男の子を受け入れた証拠。

 

「シンさん・・・うん、この方がいい」

 

もしカレが綺麗事を述べるだけの人間なら、偽善者のような人間だったなら調は決して信頼出来なかっただろう。

彼女の偽善を嫌う気持ちの源泉には、届かない憧れと歪んだ羨みがある。

自分が一番辛い時に助けてくれなかったヒーローに八つ当りするモブのような、そんな理不尽で人間的な八つ当たりに近い感情。

自分たちのことは助けてくれなかったのに、なぜ。

痛みも知らない人間が何を分かる。

何を知った風に手を差し伸べる。

どうしてもっと早くに、助けてくれなかった。

なんでこうなる前に来てくれなかったのだと。

でも何より許せないのは自分自身だということも、幼いながらに自覚していた。

絶望を知った。

大人は汚く、自らの手を汚さない。平気で暴力を強要し、それでいて口から吐くのは世界のため、科学の発展のためだのと綺麗事ばかり。

親友を、友達を、自分と同じように傷付ける大人達に抗えない、情けない自分自身が許せなかった。

その屈辱に、悔しさに、何度涙を流したか分からない。力のない掌を精一杯の力で握りしめたか分からない。

ここに来たばかりの頃は助けてくれる誰かを願い焦がれた。

今はもう、そんな御伽噺のような夢物語なんて信じてもないし諦めている。

調は他の子達よりも勤勉だ。

容姿と相まって表情の変化があまりない自分を人形のようだと大人たちが言っていたのを知っている。子供の一人が人形だから痛いのも辛いのも平気だと言っていたのも知っている。

現状の自分達の希望の無さと未来の閉塞を、誰よりも明確に認識している。知っているからこそ誰よりも強く絶望を知り、されど折れずに今日まで生きている。

その理由は簡単で、彼女を支えているのは大切な人達への強い想いだ。

それが絶望に立ち向かう強い意志をくれる。

彼女は大切な人のためならば、何が相手でも戦えるだろう。

そう、大切な人達がいる。居場所をくれた人、優しくしてくれた人、厳しくはあるけれど、それでも愛情を注いでくれる人。自分の支えになってくれる人。

だから今日もこれからも、調は絶望に屈することはない。抗い続けていられる。

 

だけど---カレには、何も無かった。

ナスターシャが監禁するように拘束した理由は、カレを守るためだろう。こんな場所で他の大人に捕まってしまえば、実験の道具にされるのは間違いない。

セレナや調たちのように、集められた訳ではなく何処からか入ってきた侵入者。研究者たちからすれば、いい実験材料でしかないから。

味方がいる自分。味方が居ないカレ。支えてくれる人がいる自分。誰もおらず、孤独に生きるカレ。

自分自身の存在すら否定し、罪とすら言ってのけ、それでも生きているカレ。

矛盾。

否定するなら自殺すればいい。でも生きなければならない。その相反する感情は機械的な部分の多いカレを最も人間だとたらしめている部分。

人形と人間の大きな違い。

その生きる理由までは見当も付かないが、調は思ったのだ。

カレもまた自分たちと同じく傷を持ってる者で、自分たちとは違って何も無くて、自分たちとは違って絶望そのものと言ってもいいほどに何一つ未来がないカレを、自分がされたように支えになってあげたいと。

同じ傷を持つからこそ、出来ることだと。あまり表情が豊かでは無い自分と同じカレを。人形のようだと言われる自分。機械のようなカレ。似たようで似ていなくて、似ている。

だから受け入れた。

だからもっと知りたい。

その考えも、気持ちも、思ってることも。

何より、不思議な人なのだ。

調から見たら、不思議で、分からなくて、何処か安心出来る。暖かい。

まるでカレが、何かを変えてくれるようなそんな予感を感じさせるナニカがある。

それはかつて待ち焦がれた、願った存在のような。何処からともなく現れたカレは、まさに物語に出てくるような存在のようで。

忘れていたはずの期待がまだ心中で燻っていたことを、その時ようやく彼女は自覚する。

 

(白馬に乗った王子様が助けてくれる・・・そんなふうに憧れる歳でもないのに)

 

心中でため息を吐いた調は、シンのことを見上げる。

カレと出会わなければ自覚することも、蘇ることも無かっただろう。

似た境遇のカレの力になってあげたいとは思うが、これはこれで話は別だ。

どう責任を取ってくれるんだと言わんばかりに見つめれば、シンは首を傾げた。

 

「調も調で・・・よく分からないな。予測は出来るが、考えが読めない。少なくとも悪意ある考えでは無いのは確かのようだ。となると・・・なるほど、オレの理解の範疇を超えるモノか。心とは不思議なものだ・・・ただキミは思っていたよりも、優しいようだな。穏やかで物静かで・・・名前の通り、月という印象を抱かせる」

「人形のようだと、初めて会った時は思ったが・・・調は違うな。日本人形のような美しさは確かにあるが、ちゃんと誰かに優しくできる人間だ」

 

そう言ったカレは、その目も声も優しくて。表情も似ている調だからこそ気づけたくらい微々たる変化しかないが、柔らかかった。

大人たちとは異なる、真逆の、どこかむず痒くなるような満たされるような感覚を与えてくる。

 

「シンさんは・・・確かに罪な人かも」

「何が言いたいのか分からないが、罪を意味しているからな」

「そういう意味じゃないけど・・・シンさんにも分からないことがあるんだ」

「?」

 

調はシンを何でも知っているような、知らないことの方がないような人間だと思っていた。

分からないことは教えてくれるし、読み方も意味も教えてくれる。それはどんな言語であろうとそうだ。例えば英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ラテン語---。

どんな難しいものでも知っているカレは調にとって尊敬に値する存在だ。

けれど何でも知っているカレでも分からないことがあると、新しい一面を知れたことへ表には出さないが喜びを感じる。

 

「どういうことだ・・・?」

「・・・なんでもないから、気にしないで」

「そうか」

 

再び沈黙が場を占めるが、不思議とさっきと違って居心地の悪さは感じない。

シンのことを見れば、いつの間にか何の感情も宿してない目と表情に戻っていて、何を考えているのか分からない。

だからだろうか。

 

「・・・もし」

 

今のカレなら、どう返してくれるのだろうと調は普段絶対に口にしないことを、思わないようにしてきたことを口にする。

 

「もし本当に助けて欲しい時があったら・・・助けてくれる?」

 

それは、期待。

することはないと思っていたもの。

二度と口にすることはないと思っていたもの。

現実を知ったから、理解しているから。

だけど、もしかしたら。今なら、カレならば、こんなことを言ったら実行してくれるのではという浅はかな期待。

 

「・・・さぁ」

「・・・そう」

 

でもその期待は、そう簡単に叶えてくれるものでもないようで、シンの返答に調は目を落とす。

傷付くほどの思いはなかった。そんな期待も思いも、心もとっくに廃れている。

だけどこんな現実を変えてくれる誰かなんて、辛い出来事を塗り替えてくれる誰かなんて、これから先に訪れる機会もチャンスもないって確信があったから。

だから聞いた。

それがこれで、改めて現実を知っただけだ。

 

「・・・だがまぁ」

 

下を見る調とは対極に、シンは上を見た。

天井に覆われていようとも、上と下では全く違う意味がある。

下には何も無い。見えるのは地面だけ。けれど上には空が広がり、宇宙が広がり、銀河が広がっている。

そこには誰も知らない、シンですら分からない未来(みらい)がある。

 

「いつかの未来(みらい)、手が届くならば本当に困ったときキミたちの助けになることをここに誓おう。それが命に関わるようなことだったとしても、オレは必ずキミたちを守ると・・・それで、いいか?」

「いつかの未来(みらい)・・・」

 

それが数日後か、数年後か、はたまた数十年後か。

明確な時間も日も年も決めていない。

それでも、カレは必ず守るだろう。その言葉を。

 

「不満か? それは数億通りの予測が出来るオレだからこそ可能な、調たちには未来(みらい)があるという証明でもあるのだが」

「ううん・・・それを聞けただけで、十分。じゃあ、約束だよ」

「ああ、肝に銘じよう」

 

ここで終わることはない、と暗に仄めかしている。

つまり、調も含めてまだまだ明日があるということだ。

 

「これで・・・シンさんにも未来(みらい)が出来たね」

「・・・そうか、そういうことになるのか。これはしてやられたな」

 

調は聴き逃していていなかった。

その中に、自分という存在を含んでなかったことを。

自身の存在を罪だと言うカレの根はよっぽど深いらしい。

それでも約束を取り付けたからか、調はほんのちょっとだけ、笑顔を浮かべた。

そんな調を見て、シンは笑う---ことはなく、やっぱり無表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

今日もいつもの時間になってもセレナは来てなく、来れる日ではないようだった。

だからって何かあるわけではないのだが、走っているような足音が聞こえてくる。

セレナも調も何か大事があったならまだしも、特に何もないこんな日に走ってくることは無いだろう。

つまり---

 

「邪魔するデース!」

「邪魔をするなら回れ右してくれ」

「そうする・・・じゃなくてデスね!?」

 

唯一知り合いの中で該当するのはただ一人。

切歌だった。

今日は代わりに彼女が来たということだろう。

 

「オレと居るより調と居た方がいいとも思うが」

「どうして調が出て来るデス?」

「仲良いだろう」

「ふふーん、それはアタシと調は親友だからデス!でもずーっと一緒にいるわけじゃあないデスよ?」

「そうなのか」

「デスデス」

「で、何しに来た?」

「何か冷たいデス・・・」

「心配するな、いつも通りだ」

「それはそれでどうかと思いますケド・・・」

 

実際にシンは相手が切歌だから冷たくしてるわけでもなく、カレにとってこれが平常運転だ。

シンは差別というものはしない。例えそれが施設の子だろうと、普通の人間だろうと。

理由としては、まず何も思わないからだ。

 

「それよりもシンさんが暇だと思って来たのデスよ」

「嘘つくな、お前が暇なだけだろう」

「うぐ、そ、そそそそんなことないデスよ?」

「嘘をつくならもっとマシなポーカーフェイスを身につけるといい」

「シンさんみたいにデスか?」

「ああ・・・まあ・・・あながち間違っては無い。オレの場合は感情を押し殺してるだけで、感情そのものは存在している。感情は邪魔となるからな。特に感情移入なんて以ての外だろう」

「うーんそー・・・デスかね?」

「オレはそう思うが」

 

ここに来る前の出来事を思い出す。

感情というものを制御下に置く前、助けた相手にバケモノ扱いされた記憶。無論相手の記憶は消した。

自身を罠に嵌めて実験材料にしようとしてきた相手。こちらはアークゼロに変身して実験場を破壊した。

その他にも色々と痛み目にあいかけたが、結局はアークゼロの実力で捩じ伏せた。

感情を押し殺してからというものの、それ以外にも時折感じていた痛みが無くなったような気もして、初めからこうすべきだったという結論に至った。

簡単に言えば、効率がよくなったのだ。

 

「でもでもあたしたちは感情があるからこうやって笑い合えているわけデスし! 笑顔でいるから明るくなれて、楽しくなれて、わくわくしたり時に怒ったり悲しんだり、それはきっと機械じゃなくて人が人だからこそ抱ける素敵なものじゃないかなって! だってこうやって笑うことが出来るのは人だけデスから!」

 

カレが導き出した結論とは真逆の意味をことを口にして、切歌は笑顔を作る。

太陽のような、周囲を明るく照らすような笑顔。

機械であるならば笑うことが出来ない。心を宿し、感情が生まれたロボットは果たして機械と言えるだろうか。無機質で表情もなく、ただ与えられた役目だけを無心にこなすのが機械だ。

だがシンは感情があり、笑うことも悲しむことも、怒ることだって出来るはずなのだ。

 

「シンさんにもきっと、素敵な出会いがあるはずデス! あたしが調やセレナ、マリアやマムと出会えたように・・・その時に感情がないだなんて、寂しいじゃないデスか。一緒に笑い合ったり楽しんだり、悲しんだり出来ないのは凄く辛くて凄く痛くて凄く寂しいはずデスよ?」

 

切歌はシンよりも生きていない少女だ。

しかしながら、様々な経験をして、それぞれ別の辛い現実を経験した色んな子たちが集まるのがこの場所。

記憶喪失で何も知らないシンよりも当然彼女も普通に比べて”悪い“と称される環境で育ってきた。

ある意味では、切歌はシンより生きている。いや、この研究所にいるもの達全員がそうだろう。

所詮シンは目覚めた二年しか記憶がないのだから。

切歌の言葉を聞いてシンは目を伏せると、息を吐く。

 

「寂しい、か・・・考えたことがなかったな。オレは自分が生きている理由も存在も、何も分からない。ただ目的だけがあった。その目的のために出来ることを全てやるためだけに生きていたが・・・」

 

脳裏に浮かぶのは、自身を慕い、自身の運命を変えに来たと言ってくれた少女。

一方的に知られて、目的も分からなくて、だけど彼女を見捨てるだとか切り捨てるだという考えは一度も浮かんだことがなく、ずっと共に過ごしてきた不思議な関係性。何故か傍に置いて、何故か守ってしまう少女。

彼女のお陰で今も生きてられるといえるが、思い浮かべると何度も悲しそうに、寂しそうにしていたのは覚えていた。

 

「共感・・・。なるほど・・・切歌の言葉を否定することは、オレには出来ないな。善の感情など全く分からないが教えられてしまったようだ」

「ん、と・・・えーと、つまり・・・どういうことデス?」

 

生き生きとしていて子供っぽく、お気楽とも言える彼女だからこそ協調性が高い。

個人で何でもかんでもやってのけるシンには誰かを必要とすることはなく、誰かに頼ることも誰かに支えてもらう必要なんてない。

しかし切歌は真逆だった。

彼女は彼女一人で出来ることの方が少ないだろう。

まだまだ小さいとはいえ、勉学に関しては調やセレナに劣るし物理的な力の差ならシンだけではなく大人にも勝てない。だから切歌は誰かと共に何かをやる。

だがシンもまた子供だというのに、カレは一人でなんでもできる。勉学は中学生どころか大人に勝るだろう。力量だってそうだが未来予知にも近い数億通りの予測能力はこの世界の誰にも持っていない特異すぎる力。記憶喪失でありながら状況を冷静に考え、把握し、どう動くかを見極め、今このように拘束された部屋で過ごすようになっている。

仮に同じことができるかと言われれば、まず間違いなく無理だと万人は答えるはずだ。

これとは反対でシンは可能としてみせ、何でもできる。

真逆が故に、切歌の言葉はシンの心にも響いていた。

 

「いや・・・そうだな、切歌。お前はいつも明るく振る舞っているが、オレと違い辛いこともたくさんあるだろう」

 

ここの施設では様々な実験が行われている。

シンの元へ来る三人はいつも辛い顔をしたりはしていないが、シンは予想くらいは出来ていた。

ここが米国政府のもので、聖遺物を取り扱うという点からおおよそのことを。

アークの力を使ってないためどういったことをされているかは分からないが、それでも辛くて苦しくて、痛いものだろうと分かる。

なぜならアークの力は悪意そのもの。その力を人間が扱うには大きすぎるもので、その力を行使するシンは”力“という強大なものが生む負荷をよく知っていた。

聖遺物とは古の時代の異端技術。現代の技術では作成不可能であり、その力はシンですら知らないほどの未知数のものを秘めている。

ここが実験場ならばそれの適応か、はたまた聖遺物に関する何かなのでは、と。

 

「キミの笑顔は確かに素敵なものだ。明るい性格はここでは支えになった者もいるだろう」

 

誰もが暗い顔を浮かべて、辛い思いをして、未来を感じさせない中でも切歌は明るく振る舞って、笑顔を浮かべ続けた。

痛いこともあったし辛いと感じることがあっても、悪口や陰口が聞こえたって切歌はそんな自分をやめなかった。

誰かが明るく居なければ誰かが笑顔を浮かべなければ、そこに残るのは暗く真っ暗な場所だけ。

 

「だが傷つかないわけではない。人間は軟弱な生き物だ。死ぬ時は死ぬ。心だって直視したくない現実を前にすれば崩壊する。何も背負ってなくたって感受性が高いならば相応の痛みを背負う。オレには理解できないものではあるが、人にはそういった辛い時に話したくなる時もあるそうだ。キミにだってそういうときはあるはずだろう。

だからこそ、その時はオレにでも話すといい。解決してやるとはいえないが、聞いてやることくらいはできるからな。そうすれば少しくらいはマシになる・・・はずだ」

 

そう言ってシンは、呆気にとられている切歌の頭にぽすんと手を置いた。

その際にバギっと明らかに拘束具が壊れたような音が鳴っていたが、些細な問題だ。

しかし切歌から全く反応がないことに疑問を感じていると、少しして彼女は口を開く。

 

「シンさんって・・・」

 

シンもまたちょっと上の年上の子供に過ぎない。

切歌も調もセレナも、大人たちがどういった存在なのかよく知っている。

自分たちが唯一信頼を寄せている大人がマム---ナスターシャで厳しくありながらも愛情深く接してくれていることも分かってはいるが、目の前にいるカレはどこか違っていた。

切歌のボキャブラリーから例えるならば、そう。

 

「なんだかお兄さんが出来たみたいデス」

 

まるで兄みたいではないか、と。

妹に対して相談に乗ってくれて、甘えさせてくれて、優しく接してくれるような、そのような存在。

他の大人たちと違って、確かにある不器用な優しさ。しかしカレの目には兵器でも道具でもなく、ちゃんと人間を、暁切歌という一人の存在を捉えてくれて認めてくれている。

 

「・・・兄?」

「はいデス! なんというか・・・やさしくてあったかくて、安心できる相手・・・みたいなものデスかね?」

「オレに聞かれてもな。けど残念ながらオレには妹はいない・・・と思う。特に所持品の中に家族のものっぽいのもなかったしな」

 

シンとしての意識が芽生えた頃から誰かが居たわけじゃない。

やけにボロボロだった自分がある少女と出会って、こうして傷も治って目的のために生きていたらここへたどり着いたというだけ。

家族らしい存在など一度たりとも見たことはなかった。

 

「あ、じゃあじゃあ、これからは私が妹ってことで! お兄さんにたくさん甘えるデース!」

「待てなぜそうなる。オレと切歌に血縁関係はない---いや聞け」

「えへへ〜もう決めたことデスから取り消すの禁止デスよ!」

「オレは何も言ってないんだがな・・・まぁいい。どうにでもしろ」

 

言葉通りに甘えるように抱きついてきた切歌に対して、強制的に決められたシンは別に問題があるわけでもないので素直に諦め、普通に壊してしまったせいで動かせるようになった右手で切歌の頭を撫でていた。

だが、だからといって特別な感情が芽生えたわけでもなく冷めたような、どうでもいいと思っているかのような感情のない表情だ。

実際にそう思っているのだろう。

切歌がシンをどう思もうが勝手な話で、それが不利に動くものでなければいいことだ。

切歌の精神がそれで少しでも安定するならば、些細なことにすぎない。

自分がなんのためにここにいるのか、何をすればいいのか、それらは未だに分からないままではあるが、こうしてセレナや調、切歌と出会ったのはきっと何らかの意味があるのだろう、とそんな確信だけを持ちながら今も心地良さそうにしている切歌の彼女が寝るまで見守り、撫でていた。

---こんな悪意に満ちた存在に近づき、関わり、身を委ね、なぜこうも信頼して安心出来るのか、”分からない“とそう思いながら。

ちなみに壊した鎖は修復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのように日々を過ごして、 数日後のことだった。

まだ一ヶ月とちょっとで二ヶ月も経っていないが、今日はセレナがいるようでほぼ一方的ではあるものの談笑していると扉が開く。

最近は何も言わずに来ることが多いが調や切歌が来るとは聞いておらず、そもそも気配からして違う。

普段とは違う変化というべきもの。

視線の先にいるのは青い髪の壮年の女性。厳格そうな雰囲気、背筋がピンと張ったしっかりとした姿勢、氷のような鉄面皮。

 

「ま、マム・・・!?」

「ナスターシャか。となると・・・オレの処遇でも決まったか?」

 

以前見た時と変わらないナスターシャが居た。

今まで一切顔を出すことすらなかった点から、考えられるのはその一点のみ。

今更様子見に来るはずもなく、なんなら監視カメラで様子は見ていただろう。

それはそうとして、シンは彼女を久しぶりに見たような気がした。

 

「ええ、時間はかかってしまいましたが」

「そこはどうだっていい。で、オレを殺すか? それともオレで実験するか? 追放するか?」

 

ぱっぱと済ませようとしているのか本題へ早速入れさせようとしたシンを見て、セレナは慌ててナスターシャを説得しようと試みる。

 

「分かっていますセレナ。ですがひとつ、カレは一度片手だけですが自らの手で外しています」

「え・・・? い、いつ・・・」

「ああつい最近だな。劣化してたんじゃないか、簡単に壊れた。それにどうせ、あれは無意味だってことはもう分かってるんだろう?」

「・・・そうですね。貴方はやろうと思えば自ら外し、自由の身になることは出来た。なのにしなかった・・・それは何故ですか?」

 

調や切歌を含んで四人でやったトランプの時に一端を見せていたが、当然ながら見られていたのだろう。

それは”知っている“ため驚きはなく、ナスターシャの問いかけにシンはちょっと考える。

彼女の目は嘘は許さないと言っている。

が、シンも正直自分という存在がなぜここに来たのかは知らないのだ。

下手に動く訳にはいなかった、という理由では追及が来るだけ。

ならばもうひとつの理由を述べるしかない。

 

「やる必要がなかったからだ。オレが暴れて抵抗してもメリットはないだろ。それでセレナや調、切歌に危険が迫るかもしれない。何より、誰よりもオレの近くに居たのは彼女(セレナ)だ。オレが抜け出し、施設から逃げ切ったとしたら怪しまれるのは誰だ? 無論、抜け出す算段がついたならその時に監視カメラなんて破壊する。そうなれば証明出来る者はいない。調も切歌もオレを庇うかもしれない。二人はまだしもセレナのことだ、セレナは間違いなくオレを庇うだろう」

 

一ヶ月以上も関わっていれば人柄というものは見えてくる。

セレナは心優しい人物で、自分自身が生きている世界---悪意に満ちる場には似つかわしくない人物であることを。

 

「つまり・・・彼女たちのために敢えて何もしなかった、と?」

「そうだ。恩を仇で返すつもりはない。悪人ならばまだしも、彼女たちは純粋で善人。ならばオレに出来るのは負担を少しでも減らすことだけ。その結果例え殺しにくるようなことになったとしてもな」

 

もしセレナや調、切歌ではなくシンの力を利用しようとするためだけに近づいてきた悪人ならば、カレはもうここにはおらず、この場所も消滅していただろう。

過去だろうと未来だろうと別世界だろうと、容赦なくアークゼロへと変身して蹂躙していたに違いない。

しかし結果は真逆。

興味や好奇心はあれど、悪意と分類される感情を持って近づいてきたわけではなかった。

 

「まぁだが、約束を破ったのは此方の方だ。抵抗しないと言ったが、視点を変えれば脱出しようとしたようなもの。怪しまれたっておかしくはない。煮るなり焼くなり好きにするといい」

「っ・・・シンさんどうして・・・どうしてそんなふうに他人事のように言えるんですか!?」

「・・・ん?」

 

弁解をすることもなく受け入れるような様子だったからか、セレナはシンの前に立つと大声を挙げていた。

両手は強く握られていて、怒っているような辛そうな表情。

 

「私は嫌です・・・シンさんのこともっと知りたい。もっと話してもっと一緒に過ごしたい。もう会えなくなるなんて寂しいじゃないですか・・・なのに、なのにシンさんは・・・シンさんにとって私は、私たちとの時間はそんな簡単に捨てられるようなものだったんですか・・・?」

 

目尻に涙を貯めて、今にも泣いてしまいそうな姿。

対してシンは動揺---することもなく、やはり何の感情も宿していない。

 

「私にとってもう、シンさんと過ごす時間は大切なものなんです。日常のひとつになっているんです。貴方がどこから来て、何者かなんて関係ない。私にとってのシンさんは優しくて安心出来てあたたかくて、心地がよくて・・・私の居場所なんです! だから、だからそう簡単に受け入れようだなんて・・・しない、で・・・くだ、さい・・・」

「・・・セレナ」

 

徐々に声が小さくなったかと思えば、セレナは両目から涙を零していた。

一度決壊したものはすぐには収まらず、声をつまらせて咽び泣いている。

ほんの少し、シンの感情が動く。

驚きというもの。

シンには理解できない感情だ。

悪意しか知らないカレは善の感情は特に分からない。何より他人のために泣ける目の前の彼女のことは到底理解出来ないのだ。

 

「セレナ」

「・・・!」

 

何も無い記憶。

泣いている彼女を見て蘇るなんてことないが、シンは気がつくと両手に力を込めていた。

すると禍々しい赤黒のオーラが腕を覆い尽くし、鎖が侵食され破壊される。

ナスターシャは映像越しでなく肉眼で見るのは初めてだったが、予想していたよりも凄まじい力に驚いていた。

拘束具が外れた、というよりは圧縮されたように破壊されている。

 

「セレナ、オレの悪い癖だ。言葉が足りなかった」

「ど、どういう・・・」

「オレは別に死ぬつもりも死ぬために言ったわけじゃない。オレを殺せる者などこの中には居ないし、オレの予測では全て問題なかった。悪かったな」

 

もとより多くの者が殺しにきてもなおシンは返り討ちに出来るほどの力を秘めている。そんなカレが簡単に殺されるようなものなら、世界にアークゼロという存在が認知されることも人類の敵として君臨出来るはずもない。

強いから勝てない。強いから殺せない。殺せないから腫れ物扱いされている。

無論それを分かっていてもなお、付け上がったものが挑んでくるが、全て返り討ちにしている。

それほどの力があるから、シンは好きにするといいと言ったのだろう。

それが他の人に分かるかなんて言われれば分からないとしか返ってこないが、今は傍にいない共に過ごしてきた少女がカレの誰よりも理解者だったというのもあるかもしれない。

そのため自身が悪かったことに気づいたシンはセレナの頭を撫でると、ナスターシャの方を見た。

 

「御託を述べる必要はもうない。話してもらおうか、既に決まっている結論を」

「・・・そうですね。先延ばしにしても意味がないことです。では」

 

無機質な目と事務的な感情の乗せない目が互いに映る。

違うようで同じ。

互いに感情を隠し、押し殺している者同士。

僅かに緊張感のある空気が出来上がるが、シンもナスターシャも緊張のひとつもしていない。

ならばなぜか。

この後の言葉ひとつで、両者の運命が決まるからだろう。

 

「まず自由にすることは出来ません」

「そんな・・・どうして・・・ですか、マム」

「話は終わってませんよ」

「で?」

 

ショックを受けるセレナとは裏腹に続きがあることは予想していたシンは促すと、ナスターシャも驚くことなく続きを告げる。

 

「ですが制限付きで自由を認めることになりました」

「制限?」

「難しいものではありません。拘束は意味がないこと。貴方が来てしばらく経ちましたが害がなかったこと。それらを観点して基本的には一人でなく誰かと行動を共にすること・・・それが条件です」

「なるほど、そう来たか・・・だが人を付けたって意味がないはずだ」

 

別にそんなつもりがあったわけではないが、シンはさっき力の一端を見せた。

人を一人監視するためにつけたって何の意味もなさない。結局は今と変わらないのだ。

それはわかっているはず。

 

「ですからその役目をセレナ、貴女に与えます」

「・・・え?」

「しかしセレナだけでは無理な時もありますから貴方と親しくなった調も切歌も付けます。少なくとも彼女たちならば邪険に扱わないでしょう。ここに来る前貴方の心配をしていましたから」

「・・・・・・そうか」

「えっと、あの、マム・・・? それって・・・」

 

何の感情も乗せてない声音で黙ったシンだが、セレナは戸惑っていた。

言葉が呑み込めてない、といった感じか。

 

「セレナ、貴女たちが居る限りカレの自由が約束されるということですよ」

「ほ、本当ですか!?」

「はい」

「やった・・・やったっ。これからもシンさんと一緒に居られるんですね・・・!あっ、月読さんや暁さんにも知らせてきます!」

「セレナ、そんなに急いでは怪我を---遅かったようですね・・・」

「急に元気になったな」

 

気落ちしていたさっきに比べて、明るく嬉しそうな顔で話を聞かず走っていったセレナを見てナスターシャは顔を抑え、シンは理解出来ないといったように見ていた。

 

「それより本当によかったのか。あの三人にオレを監視させたってオレが三人に危害を加えないとでも?」

「今までの行動から今更するメリットはないでしょう。拘束が意味の無い貴方ならば、もっと早くにやれば有利に進められていた」

 

どこか脅すような物言いに、ナスターシャは冷静に返す。

そう、意味がなかったのだから今危害を加える行動を取っても意味が無い。それならば二人っきりの時や四人居た時などに動くべきで、シンは一度もそのような行動をすることはなかった。

理由としては十分すぎる。

 

「しかし一番の理由は別にあります」

「別?」

「貴方が来てからというもの、セレナは変わりました。それも悪い方ではなく良い方へ。セレナだけではありません。調も切歌も貴方と関わった者が全員少しながらでも変化があったのです。それに以前よりも、笑顔が増えたようですしね。それが理由では、何か不服ですか?」

「・・・そうか。なら、なんだっていい。それはきっと・・・いいことなのだろうからな」

 

さっきのセレナのように泣かれるよりは、笑顔である方がいいとシンは心から思う。

敵対してる相手ならばまだしも、ここが未だにどこか分からない以上は好意的に思われた方がいいからだ。何よりマイナスな感情を浮かばせていると行動の制限も多くなる。

だからこそ、その方が利用出来る、と思いながらシンはようやく拘束を解かれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---それから少ししてシンは情報を手に入れた。

案内に関してはセレナが挙手してくれたようで問題なくなったが、情報は多い方がいい。

数人どころか数百はいるであろう子供達から話を聞き、何年か何月かどう行った実験かなどなど。

それから分かったことは、聖遺物に関する実験だということ。おおよそ予想通りのことだったが、予想外だったことが一つ。

この世界は間違いなく同じ世界であった。過去に起きた事件が全て同じだったのもあって、そう断言した方がいいだろう。別世界ならその時に考えればいい。

それだけで済むならばまだしも、問題は年だった。

この世界は今、2037年。

シンが居たのは2041年。

つまり過去の時間だったということ。

だからまだこの世界には、『仮面ライダー』が存在してなかったのだ。アークゼロも、仮面ライダーゼロワンですら。

 

(”ジオウ“の力で飛ばされたと考えたら選択肢は三択だったが、過去だったか。アークの力を使わなくて正解だったようだ。同じ世界、過去であるならオレの力が現代にどんな影響を与えるか分からない。オレの行動が歴史を変える可能性もある・・・か)

 

歴史の修正力。

正しい歴史に戻そうとする運命力。

これに関しては分からないことだらけで、シンですら抗えるか分からないものだ。試したことがないから当然ではあるが。

もし『力』が物理的に破壊出来るならば壊せるが、存在しないものまではアークの力では壊せない。

それでもここが過去か未来か分かっただけでも大きく、シンの行動は決まった。

過去であるならば---

 

「シンさん、何か分からないことでもありました?」

「いや、なんでもない。調や切歌と合流するんだったか」

「はい、やっとこうして歩いて会えるようになりましたから」

「そうだな」

 

時折声を掛けられるため、相手をしつつ歩いていると大人しそうな雰囲気を持つ少女と活発的な雰囲気を纏う少女が見えた。

調と切歌。

そして、もう一人。

他の子供たちよりも大きく、恐らくこの施設の中で年長者の一人なのだろう。

大人びた雰囲気が醸し出でている桜色の少女が調と切歌と居た。その少女の整った顔立ちは、大人になれば誰よりも美人になると十人中十人に思わせるだろう。

外見年齢を推測するならば、シンと同じか。ただここがシンにとっては四年前の世界なので、実際には年上だろう。なんならセレナも本来なら年上になる。

彼女曰く、自身の年齢は13歳と言っていたのだから。

だが遠目とはいえ、桜色の少女は調や切歌に対してよそよそしいものではなく、優しく思いやりがあって二人も信頼を置いているように見える---家族のようなものだと印象を抱かせる。

一体誰なのか、と思いつつもシンは桜色の少女を見て少しの違和感を抱いた。

 

(見たことがあるような・・・)

 

誰かに似ている。

一体誰だったかと考えると、セレナが駆け足で向かっていく。

その際に橙色の髪が靡き、シンは思い当たった。

髪色や髪型こそ違うが、桜色の少女はセレナに似ている、と。

雰囲気ではなく、パーツ的な意味で。

 

「マリア姉さん!」

 

そしてそれは、当たっていたようである。

呼び方から察するに、セレナの姉なのだろう。

そう言われたら似ていることにも合点がいく。

 

「セレナ。それと・・・貴方がシンね」

「ああ」

「私はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。セレナの姉よ」

 

名を名乗りながらもマリアに敵意に近いものをぶつけられ、表情こそ無表情だが内心で戸惑いを覚える。

顔合わせするのは今日が初めてだというのに、冷たい目線で雄弁に語られればシンも戸惑う。

しかも敵意こそあれど、敵意に嫌悪や拒絶、害を加えようとするような悪意が含まれていないのだ。

この世界が過去だと分かった今、アークゼロが存在していないのだから敵意をぶつけられる謂れは無い。

今は人類の敵ではなくただの記憶喪失の中学生なのだから。

だからこそ、何故なのか理解が不能。ひとまず手を差し伸べてみることにした。

 

「・・・よろしく」

「えぇ」

 

が、手は取ってくれなかったようだ。

しかし返事はしている。無視すればいいのに。

やはり、理解が出来なかった。

いや彼女だけではない。

セレナも調も切歌も、ナスターシャですらシンにとって誰も理解出来る者はいない。

まぁナスターシャは大人が相手というのもあって比較的理解出来る方なのだが、少なくとも四人は分からないことの方が多い。

ここに来る前に関わってきた者たちは訳ありで、裏の世界の住人とも言うべき者たち。シンにとってある意味居場所である者たちがいるところだ。

打算的な考えも多く、利用され利用し合う分かりやすい関係だったのもあるかもしれない。

 

(ゼアの意思か、それとも力に宿った王の残留思念か。オレに何をさせたいのやら)

 

自分をここへ呼んだ存在。

アークを超える人工知能と最高最善にして最低最悪でもある時の王者の力。

過去に飛ばすだけならば、ゼアだけでも十分だ。

データさえあればそこに意識を飛ばすだけでいい。なら何故肉体があるのか。

時の王者とも言わしめるほどの力を持つライダーの力を使ってまで、意識だけでなく肉体ごと飛ばしたのか。

もしかしたら、時を超えて王が干渉してきたのかもしれないとすら今の状況を見たら思えて仕方がなかった。

 

「シンさん?」

「なんでもない。彼女は、キミの姉は優しいようだな」

「はい、マリア姉さんはとても優しいですよ。だからシンさんもきっと大丈夫です!今はちょっと、シンさんを警戒してると思いますけど」

「・・・優しすぎる、がな」

「?」

 

今も視界の端には小さい子供の面倒を見ている姿があって、姉妹揃って場に合っていない。

マリアはこの施設の中でも最年長が故の責任感もあるのだろうが、小さな子供たちからすれば彼女こそ母親そのものだ。

シンは恐怖や力で他者を支配しているが、マリアは優しさだけで信頼を得てまとめあげている。

これはまた、対極だ。

それを教えるためにわざわざ過去に送った訳でもないはず。何を成せばいいのか、何のためにここにいるのか未だ分からず---

 

「大切にするといい。繋がった縁は大事なもので血の繋がりはもっと大事らしい」

 

今は状況が悪くならないよう、親しくしようとしながら生きていこうと判断した。

 

「もちろんです・・・でも」

 

自分に無いものを見るように見つめるシンにセレナは手を取る。

表情は見えない。

ただ掴んだセレナは両手で挟むように握ると、顔を挙げて口を開く。

 

「繋がりがなくとも私とシンさんもこうやって繋がってます。だから私は・・・その、シンさんとの繋がりも・・・大切に・・・」

「・・・」

「そ、それが言いたかっただけですから!」

「・・・?」

 

少しずつ顔が紅潮していったセレナはハッとして、去っていく。

どういう意味なのか不思議に思って考えようとしたところで。

 

「・・・」

「・・・なんなんだ」

 

何故かマリアに睨まれていることに気づき、ただ混乱した。

これではまるで、監視されているようだ。

正直監視するならば悪意をぶつけくれた方が分かりやすくて助かったのだが、そういうわけじゃないから余計に分からない。

分からないことばかりで---

 

「なまえはー?」「あそぼー!」「といれ・・・」「あったかーい」

「なんなんだ」

「へんななまえー」「なんなんだー?」「おかしー」

「・・・はぁ」

 

何故こうも、周りに子供が集まってきたのか。

とにかく分からないことばかりだった。

目的はどうあれ、放置すると面倒なことになることが予測能力がなくともわかったので、仕方がなく相手することにする。

---なぜだかこちらを見る切歌と調から優しい目を向けられている気がした。

 

「引っ張るな。あとシンだ。これから世話になる。とりあえずトイレ行きたいやつはまとめてこい。連れて行ってやる」

「「「はーい!」」」

「・・・」

 

何が楽しいのか、トイレを連れていくだけで挙手されて集まられる。

物珍しさか、アークの存在を知らないからか。

変わらず冷めた目で見ていると、手が空いたマリアがこちらに来る。

 

「場所は分かる?」

「知らない。が、見当はつく。こんな小さな子供が多い施設だ。遠い場所に設置するのは合理性に欠ける。大人は合理性を重視するからな・・・オレの予想なら向こう側か」

「・・・驚いた。正解よ。見た感じ大丈夫そうだからこの子たちは頼めるかしら」

「ああ。分かった」

 

はやくーとフードを引っ張られたり手を引っ張られたり、今のシンは一切敵と思えるような雰囲気が纏ってないのが味方だと判断したのか、純粋に遊び相手が増えたと思っているのか。どちらにせよ無視することは出来なさそうだと何人かをまとめあげつつセレナを呼ぼうとして---居ないことに気づいたので、近くに居た監視役として切歌と調を呼び寄せた。

そしたら子供がまた増えてしまったが、慣れない引率に悪戦苦闘した。

 

 

 





これが人類の敵として君臨するアークの姿か???と書いてて思った。
まぁもう、シンくんがなんだかんだF.I.Sの面々を気にかけてる理由は出てきたでしょう。
あとシンくん自身のこともちょっとは出せたのかな。調や切歌がシンくんに向けてる感情も。


最後に投稿に関しては続けるつもりではありますが次はいつになるかわかんないです、頑張りますがどう展開すべきかがね…終わりは考えてるのに。
それとプリンセッション・オーケストラはシンフォギア見てる人は絶対見て欲しい。作者はお陰で書きたい意欲はめちゃくちゃあります。
内容が浮かばないけど!!

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