蝶屋敷の縁側にて。
縁壱「あれから二日。何度も話を交え、様々な情報を整理したが未だに信じ難い状況だ。私が遥か先の時代である『たいしょう』へ来た事実のみならず、まだ鬼舞辻が人々に危害を加えているとは……」しょんぼり…
炭治郎「で、でも縁壱さんのおかげで鬼殺隊は存続しているんですよ!ほら、今の鬼殺隊では呼吸が基本となっていて、昔より鬼と戦えているはずなんですから!」
縁壱「そうであっても、私は一度鬼殺隊を壊滅の危機へ瀕させている。それ以前に、私が油断して鬼舞辻を仕留められなかったのが一番の過ちだろう」
炭治郎「縁壱さん……(何のことを言っているんだろ?)」
縁壱「そして想いを継いでくれる者が居てくれたとは言え、まさか竈門家に迷惑を重ねるどころか、君の妹は鬼にされ、挙句の果てには鬼狩りまでさせる事態へ陥った……。やはり私は何も成せない人間だ」
炭治郎「そんなこと無いですよ!禰豆子を鬼にしたのは鬼舞辻ですし、縁壱さんの話で俺のヒノカミ神楽が日の呼吸だって判明しました!そして過去はどうにもならなくても、これから良くしていけますって!」
縁壱「………ふっ、さすが竈門家の子孫。その輝かしい気丈さは、私の暖かな時を思い出させてくれる。ただ似た性格だと言えども、すやこの方に寄ったようだ」ニコッ
ドタドタドタッ!
バゴォン!
ドタドタドタッ!
伊之助「おい、お前ぇ!!めっちゃくちゃ強ぇよな!ぽん治郎は見えて無かったようだが、俺はお前の動きが見えていたぜぇ!多分な!だから勝負だ!勝負しろ!」
炭治郎「伊之助、お前また戸を壊しただろ。いい加減にしないと今度はアオイさんにだけじゃなく、しのぶさんにだって怒られて大変だぞ。何より今は煉獄さんが療養していて…」
煉獄「うむ!心配は無用だぞ竈門少年!俺とて、そう呑気に休む性分では無いのでな!」
炭治郎「煉獄さん!?いつのまに…!?って、さすがに駄目ですよ!煉獄さんでも病室から抜け出したら!アオイさんに怒られますよ!」
煉獄「うむ!俺は大丈夫だ!任務で全身に風穴を開けられた時も、一月足らずで走り回っていたくらいだ!」
炭治郎「柱って回復力も凄いのか…。じゃなくて、安静にしてくれないと俺も心配なんですって!」
煉獄「そう気にかけるな!……その御仁、始まりの呼吸を使う者に助けられたからな。俺が五体満足なのも、まだ刀を握れるのも、生き永らえているのも、全ては彼のおかげだ」
縁壱「私は、ただ一体の鬼を斬っただけだ。あの場に居た大勢の者を救ったのは間違い無くこの時代の炎柱であり、持ち堪えたのは君の技によるもの。少なくとも君は、私には成せなかった事を成せる人間だ」
煉獄「よく分からないが、褒め言葉はいくらでも受け取っておこう!だが、俺の感謝の気持ちも素直に受け取って欲しい!助けてくれた身のため、大変厚かましい頼みかもしれないが!」
伊之助「(なんか俺、啖呵切ったのに存在を無視されてねぇか……?)」
縁壱「……そうだな。炎柱の子孫を助けられただけ、私がこの時代に来た意味はあったと思う事にしよう。そして竈門炭治郎が言ったように、これからを良くする手段を探したい。私のできることなど高が知れていようと、改めて最善を尽くしたい」
炭治郎「(誰よりも凄いのに、とても謙虚な人だなぁ……。正直、伊之助も少しは見習って欲しいなぁ)」
縁壱「ということで、今から君たちに私が見えている世界を伝授しよう。どうやら私は他の人と見え方が違うらしく、これは鬼と戦うのに役立つ技術だ」
炭治郎「え?えっと…、呼吸や剣術とは違うのですか?」
縁壱「まったく異なるものだ。……あぁ、あと握力も重点的に鍛え直そう。私の知る力自慢な者で、死ぬほど気合いを込めれば瞬間的に日輪刀の本領を発揮できると言っていたからな。戦いにおいて、鬼に有効な一振りというのは重要だ」
こうして縁壱の指導が始まるが、彼からの訓練を受けられたのは蝶屋敷に居た者だけで、この時カナヲ達は任務で遠征していた。
そのため縁壱の類稀なる指導力により『透きとおる世界』を会得できたのは煉獄と、父から見とり稽古を受けた経験がある炭治郎の二人のみ。
また赫刀化の習得は煉獄でも維持できないほど困難を極めるもので、最終的には禰豆子の鬼血術を利用する事でしか赫刀は発現不可能という事になる。
それでも全員の基礎能力は短期間で飛躍的に向上し、『透きとおる世界』を会得してない善逸と伊之助ですら単身で上弦の鬼に渡り合えるレベルへ引き上げられたのだった。
縁壱「あと彼らに必要なのは、更なる実戦経験か。だが、そこまで悠長に付き合える猶予は恐らく無い。私が元の時代へ戻る可能性を考慮し、今すぐにでも鬼舞辻を滅さなければならない。そのためには、あの鬼……珠世の協力があれば、助かるが………」