無敵の超能力者が異世界から来るそうですよ?   作:フォルテピアノ

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~前回のあらすじ~
姫抱っこ


インΨドの虎・後編

「え?耀さんが明日着る服の・・・『値段』、ですか?」

 

ガルドとのゲームが行われる前日。ゲームに挑む四人に頑張ってもらおうと準備をしている黒ウサギの元に、そんな質問が投げかけられた。

 

「必要ならばすぐに確かめますが……それにしても一体何故?」

 

そう尋ねると、彼は簡潔にガルド戦の準備の為だと言う。何故彼のギフトと服の値段が関係あるのかと黒ウサギは聞きたかったが、本人は至って真面目な顔なので彼女は黙ってその依頼を引き受ける事にしたのである。

 

 

*****

 

「楠雄!!」

 

珍しく焦った春日部さんの声が僕の前方から聞こえてくる。それも無理はないだろう

 

 

ガルドが春日部さんに向けて振り下ろした爪を、僕の右腕が受け止めていたのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

……やれやれ、ギリギリだったが間に合った。アポート(・・・・)成功だ

 

 

遡ること昨日の深夜。僕は黒ウサギに春日部さんの服の値段について聞いていた。決して変な趣味とかではない。テレポート&アポートの準備である。

 

テレポート&アポートは前々回で解説した通り、等価交換で成立する。物々だったら単純であるが、これが人同士だと少し面倒な事になる。

 

基本的に人間は無価値だ。

これは卑屈的な意見ではなく、本当に人間は等価交換において0円ということである。

それでも簡単にテレポート&アポートが発動出来る訳でない。と言うのも、その人間が身につけている物はきっちり対象の値段に入るからである。

 

つまり、一万の服を着ている人間は一万(±10円)の服を着た人間としか交換出来ないのだ。

 

テレポート&アポートは使用するタイミングが限られているものの、位置交換は上手く使えば何かに役立つはずだ。

久遠さんの服は少々高そうだったので、ギフトで戦える春日部さんを優先させて貰ったのだが……功を奏したようだ。

 

 

準備さえしていれば、基本的に僕の身体に銃剣の類は効かない。今も突然だったとはいえガルドの爪を右腕で受け止められている。

 

だが、忘れてはいけない。

奴は"契約(ギアス)"によってギフトを無効化出来るのだ。そして当然、僕の超能力はガルドの前にほぼ無力である。

 

――――っ!!

 

身体を守っている超能力が破られ、右腕が引き裂かれる。

反射的に後ろへ下がったものの、腕からは決して少なくない量の血が流れていた。

 

血は後で止められるから問題ない。今は……

 

僕は左手に握った白銀の十字剣を確認し、それを後ろへ下がったタイミングでガルドに一閃した。

 

流石に白銀の十字剣までは春日部さんと共に交換出来なかったものの、僕らが指定武具を手に入れたことに変わりない。後はこの一閃で仕留められれば…

 

「GEYAAAAAaaaaaaa!!!!!!!!!」

 

ちっ!!やっぱり避けられたか!

前足を傷つける事は出来たがそれでも決定打にはならない。

しかし、十字剣の一撃を受けたガルドは痛みからか一瞬だけ怯んだ。この隙を見逃さず、僕は部屋の窓に向かって走りだす。

 

 

(逃げるぞ春日部さん!一回体制を立て直す!!)

 

春日部さんも理解したのか窓に向かって走りだし、そして僕らは同時に窓から飛び降りた。

 

二階ではあったものの、春日部さんは猫の様に鮮やかに着地し、僕も超能力の空中浮遊で難なく着地する。

 

虎の絶叫を尻目に僕らは久遠さん達と合流する為に走り続けた。

 

 

*****

 

ガルドは屋敷から出てくる事はなかった。何故頑なに出てこないのかは気になったが、今はありがたい。

 

千里眼で久遠さんの位置を確認し、合流の為に歩みを進める。

血と痛覚は超能力で既に止めてあるから問題ない。ちゃんと治癒させるには時間がいるが、そんな悠長にしている暇はないのだ。

 

「……ごめんなさい。私が油断してたから」

 

いや、春日部さんのせいではないぞ。

そもそもガルドの動きが読めなかった僕に責任がある。唯一害のある武具を奪われまいと集中的に狙うのは予想出来たことなのに

 

 

生物は誰だって思考する。それは幻獣でも変わらない

それなのに虎の怪物と化したガルドは何も考えていなかった(・・・・・・・・・・)

…思考出来ないほど理性を無くしてると考えるのが普通だろう。

 

ただでさえ強化されているのに思考すら読むことが出来ない。あの虎に本能的な恐怖を抱いたのは確かである

 

 

やがて茂みを抜けた場所で、僕らは久遠さんやジンと合流する事に成功した。

 

「二人とも!大丈夫だったの!?」

 

久遠さんとジンが僕らに気づいて駆け寄って来た。

 

「私は大丈夫。だけど……」

 

春日部さんが僕の右腕に目を向ける。二人もそれに気づいたのか、真っ赤に染まった制服を見て息を飲んだ。

 

「く、楠雄君!その傷は大丈夫なの!?」

 

大丈夫だ、問題ない。応急処置は済んでいるからな

 

「確かに血は止まっていますが、傷が塞がっている訳ではありません。傷口から菌が入ったら危険です」

 

ジンが心配そうに言うが、それも問題ない。僕は生まれつき病気にかかったことは無いからな。

……正直、これ程の傷を負うのも生まれて始めてだが

 

 

しかしあれだな。

僕があのガルドに不覚を取って傷を負ったと考えると……

 

 

 

 

……不覚(・・)

 

 

僕があのガルドごときに?

 

右腕を負傷して?

 

 

 

「取り敢えず楠雄さんの手当てをしてから考えましょう。指定武具は手にいれましたし、後は倒す方法を考えれば……楠雄さん?」

 

 

テレパシーが効かなかったら、僕はあんな外道にも負けると言うのか?

仲間全員を危険に晒すというのか?

 

 

ふざけるな(・・・・・)

 

 

 

僕は徐に立ち上がると屋敷の方へ歩きだした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!その怪我で何処に行く気ですか!?」

 

何処ってガルドの屋敷だが?

あの虎を完膚無きまでに叩きのめさないと僕の気が済まないからな

 

「待ちなさい!一回体制を立て直さないと駄目でしょう!それにその傷だって…」

 

問題ない。直接的に超能力は使えないものの、他のモノには使える筈だ。

先程は動揺していたが落ち着いた今なら、ガルドなぞ三秒だ。三秒で倒せる。だから止めるな久遠さん

 

 

「…ああもう!!頭にくるのはわかるけど、一回頭を打ちつけてでも落ち着きなさい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!!!」

 

 

その瞬間、僕は勢い良く頭から地面に叩きつけられた。

 

 

「………あ」

 

 

……効くんだな。僕にも"威光"って

 

**

 

「ご、ごめんなさい!貴方があまりにも無茶な事をしそうになったから……」

 

いや、構わない。僕も正直頭に血が上っていた。流石に地面に頭を打ちつける形で頭を冷やすことになるとは思わなかったが…

 

「怪我は……無さそうですね。寧ろクレーターが出来てますし…」

 

石頭だからな。問題ない

 

だが久遠さんが止めてくれたお陰で大分冷静になれた。今はあのガル堂(ガルド+燃堂)をどうするか考えないと

 

 

「それなら良い考えがあるわ。聞いてくれる?」

 

本当か?久遠さん

 

僕らは円形になって座り、久遠さんの作戦を聞いた。

 

 

 

…なるほど。確かにこの方法ならガルドを仕留められる。

 

「私もちゃんと考えているのよ?ギフトがガルドに使えないからと言って甘く見ないで」

 

流石は御令嬢といった所か。ガルドが怪物化したと言うのに余裕が感じ取れる

 

「それでは所定の位置について。春日部さんは木の上から屋敷の監視をお願い。ガルドが此方に向かってきたら教えて。場合によっては支援もお願い」

「……任せて」

「楠雄君は屋敷に向かって。……ガルドに飛び込むのは禁止よ?」

 

わかっている。そんな真似はもうしない。

僕は僕の仕事を終わらせたら此処にすぐ戻ってくるからな

 

「そう、安心したわ。最後にジン君は周りの警戒をよろしくね」

「……僕だけ仕事が無い気がするのですが」

 

気にするな少年。また今度頑張れ

 

 

「それでは、作戦開始!!」

 

 

*****

 

<Side:三人称>

 

ガルド=ガスパーは、屋敷の二階で蹲っていた。

先程の戦いで左足を斬りつけられ、流血が一向に止まらないのだ。

 

(銀の剣で切られたからか…)

 

金髪の吸血鬼に噛まれてから、ガルドは変貌し人の言葉がわからなくなっていた。

獣人だった頃の記憶も朧気だ。ただ種としての恐怖から十字剣を守り、本能のみで侵入者を襲った。

 

侵入者は消えたものの、足の傷は鈍痛となって頭に響き、ガルドにある程度の理性を呼び戻していた。

 

(虎として生きていた頃は何にも怯える必要がなかった。それが何時からか、色んなものに怯える様になってしまった)

 

箱庭には彼より強い者など星の数ほど存在していた。人になり権力を手にいれた頃からはもっと恐れるものが増えた。

 

(その権力もコミュニティも何もなくなった………あるのはもう、この屋敷だけだ)

 

彼は屋敷から出られない(・・・・・)のではない。出ない(・・・)のだ。

 

僅かに残った理性が、この屋敷を守る事に向けられ、もはやゲームの事など片隅にも残っていない。この格好を付ける為の執務室だけが、彼の最後の誇りだった。

 

(ここは俺のテリトリーだ。縄張りだ。俺の誇りを侵す奴など容赦しない)

 

 

(そんなに誇りが大事か)

 

 

(!)

 

突然聞こえた第三者の"声"にガルドは反応する。

しかし本来、人の言葉を理解出来なくなったガルドにとって、声など聞こえないし理解出来ない筈だった。

 

つまりそれはガルドの頭の中に(・・・・)語りかけているのである

 

(当たり前だ!俺にはもう、誇りしか残っていない!!)

(その割にお前の誇りはボロボロだが、どうなんだ?)

 

感情の見えない"声"に、ガルドは改めて周囲を見遣った。

 

窓から見たかつての栄光の町は今や木々の蔓延る森と化し、扉の先から見る屋敷も根が侵食し無残にも崩れかけている。

理性を少しだけ取り戻したガルドは、この風景に一抹の虚しさを感じていた。

 

(この森は……過去にお前が住んでいた森を真似たんだろう。本当は誇りなんて捨てて、過去に戻りたかったんじゃないのか?)

(黙れ!!!!)

 

虎は恐ろしい咆哮をあげる。

……けれど、少しずつ気付き始めていた。

 

(お前のした事は許されないし、倒される事も自業自得だ。……だが、最期ぐらいは元に戻す手助けをしてやる(・・・・・・・・・・・・))

 

ズガン!!

 

その刹那、階下に衝撃が走った。

突然の事に戸惑う暇もなく、ガルドはただ本能に従い執務室を飛び出した。過去の"誇り"を後にして

 

 

(これは……!?)

 

一階に降りたガルドはその惨状に唖然となった。

 

木が燃え、家具が燃え、屋敷が燃える

 

かつてガルドだった虎が執着していた"誇り"が燃えて行く。

 

火を恐れる獣の習性が虎をその場に釘付けにさせた。

…そして、恐怖に支配されながら彼は見つけた。火の中心に立つ一人の人間を

 

(お前が人と獣の間で揺れているのなら、僕がそのキッカケを与えてやる。だから)

 

人間が右手を上げると火が一斉に燃え盛った。最後の戸惑いを燃やし尽くすように

 

 

 

(来いよ、プライドなんか捨ててかかって来い)

 

 

 

その言葉を最後に人間は蜃気楼のように消えた。

そして、"ガルド"としての理性が残ったのも、それが最期だった。

 

「GEEEEYAAAAAaaaaaaaa!!!!」

 

虎は屋敷を飛び出した。

人としての理性は焼き払われ、森を駆ける本能が蘇る。そして吸血鬼として生まれた食人の本能がただ足を動かさせた。

まるで導くように左右に分かれた木々を走り抜け、虎は標的の元に辿りつく。

 

目の前に人間がいる。先程の人間と違う事だけ辛うじて分かった。だが、それまでだ。人間の言葉までは理解出来ない

 

この時、虎に少しでも理性が残っていたら気づいていただろう。

侵入者を阻むように伸びていた木々が、まるで導くように(・・・・・)左右に分かれて一本道になっていた事を。

 

「〜〜〜〜」

 

また人間が何かを言う。

一本道の先にいる人間を噛み砕く事など簡単だ。だが、人間が持つ十字剣と瓦礫についた炎がそれを阻む。

 

 

暫しの静寂

 

 

人間が炎を投げ捨て、十字剣を正眼に構える。それが合図だった

 

「――――GEEEEEYAAAAAAaaaaaa!!!!」

 

虎は一本道を駆け抜ける

 

この時、知性があったなら気づけただろう。道を限定されるという事は、必然的に動きが限定されるということに。

 

人間が正面から飛び込んでくる。細い身体だ。虎にとってこんなものを噛み砕く事ぐらい造作もない。

 

 

 

「今よ、拘束なさい(・・・・・)!」

 

 

 

 

一喝。道を作っていた木々が一斉に虎へ枝を伸ばした。如何に虎が契約で守られていたとしても、両脇から圧迫されれば必然的に動きが鈍る。

 

「GEEEEEYAAAAAAaaaaaaaa!!!!」

 

拘束してくる枝を振り払おうと虎は吠える。

 

だが、人間が持つ破魔の剣が虎に振り下ろされる方が早かった。

 

 

剣が、額を貫く

 

 

「G e Y a………」

 

 

十字剣の眩い光、そして歯切れの悪い悲鳴。それが虎の最期

 

 

 

 

 

虎の最期の抵抗で吹き飛ばされた人間は、数回咳き込んだ後に立ち上がると虎だったモノを静かに見つめて、呟いた。

 

 

「今さら言ってはアレだけど……貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」

 

 

*****

 

<Side:斉木>

 

ゲーム終了を告げるように木々が一斉に霧散する。最後は久遠さんがしっかり決めてくれたようだ。

 

「皆さん!大丈夫ですか!!」

 

倒壊した廃屋の間を黒ウサギが駆け寄ってくる。彼女は僕の右腕の怪我を見ると、急いで治療すると言って無理やり引っ張って行った。やれやれ……

 

 

 

このゲームは僕らの勝利で終わった。

ガルドは倒され、"フォレス・ガロ"の解放令が出されたのだ。

 

十六夜たちとジンはガルドに奪われていたコミュニティの名と旗印を返していった。ついでに「"ジン=ラッセルのノーネーム"が"魔王打倒"のコミュニティ」であることを大々的に宣伝して。

…十六夜の言っていた「計画」はこの事だったんだな。これまた面倒臭い事を……

 

ここで名を大々的に売っておけば自然と魔王討伐の機会が増えてくる。至極単純だがかなり険しい道である事に変わりない。それでもきっと、あの男はニヤニヤ笑いながら楽しむのだろう。本当に勘弁して欲しい

 

 

……その間に、僕が何をしていたかだって?

 

傷自体は一日で治る程度のものだったが、手当てをしていた黒ウサギに「今日一日は安静にして下さい!!」と釘を刺されたので寝室で素直に寝ていた。…過保護すぎやしないか?僕は右腕を負傷しただけなのに

 

 

……にしても、まさかガルドがあんな事を考えていたなんて

 

 

あの時、僕が屋敷へ向かったのはガルドを外へ引っ張り出す為だ。

とにかく、あの狭い部屋で戦うには分が悪い。久遠さんが"威光"を利用出来る野外にガルドを連れ出す必要があった。その為に僕は屋敷を燃やして奴を追い出そうと忍び込んだのだが…

 

 

…本当に、変な"誇り"はロクな事にならないな

 

あいつも、最期に昔の自分に戻れて良かったんじゃないか?どの道倒される運命だったのならその方が良いと僕は思う

 

 

窓の外から働く子ども達の声が聞こえる。間も無く僕も安静令が解除されるだろう。

それまでは、もう少し眠るとするか……寝不足だし

 

 

そう決めると僕は静かに目を閉じた。

 

 

 




これにて一章終了となります。結構話数がかかってしまいました・・・

テレポ&アポートが斉木自身に使えるかについてはJスターズのゲームで技として普通に使用していたので大丈夫だと判断しました。

斉木無双はもうちょっと先になりそうです
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