無敵の超能力者が異世界から来るそうですよ? 作:フォルテピアノ
今章の超能力標語 モデル:斉木楠雄さん(16)
~前回のあらすじ~
ガル堂
Ψ適なスルースキルとは
ガルドとのギフトゲームから丸一日が経過した。
あれだけ裂けていた僕の右腕もすっかり元通りだ。大怪我とは言えないものの、かなり酷かった傷を簡単に治してしまったあたり、この箱庭も漫画的空間なのかもしれない。いや、奇跡だらけの此処では当たり前なのか?
―――"ノーネーム"本拠、談話室
館の三階にあるそこで現在、僕と十六夜、そして黒ウサギがソファに座って話し合っていた。久遠さんと春日部さんは女性同士で仲良く歓談しているようだ。
それじゃあ僕らも仲良く歓談してるのかと言えばそんな事はない。
それに、僕らが話しているのは決して良い内容ではないのだ。
「ゲームが延期?」
「はい……申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」
昼間、とあるゲームの申請をしに行っていた黒ウサギが泣きそうな顔で帰ってきたのだ。その理由を十六夜が尋ねた所、返ってきたのがこの回答である。
とあるゲームとは"サウザンドアイズ"が主催しているギフトゲームで、"ノーネーム"の昔の同士が賭けられたものだったらしい。仲間を救う事も視野に入れている"ノーネーム"にとって、これは看過出来ないゲームだった。
そのゲームが突然の中止
黒ウサギが不幸のズンドゴ…もとい、ドン底に落ちた様な顔をしても仕方あるまい。
十六夜はと言えば肩透かしを食らったようにソファへ寝転んでいた。
「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」
「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」
……結局、世の中金という事か
十六夜の表情も目に見えて不快に変わる。
「チッ。所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。"サウザンドアイズ"は巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドはねえのかよ」
どうやらこの男にも理不尽に対する怒りというものがあるらしい。てっきり冷静に意見を言うものと思っていたから、少し意外だった。
「仕方ないですよ。"サウザンドアイズ"は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は"サウザンドアイズ"の傘下コミュニティの幹部、"ペルセウス"。双女神の看板に傷が付く事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」
つまり白夜叉のような誇り高い存在はそうそう無い、ということか。……いや待て、あのエロオヤジは誇り高いのか?
兎にも角にも、今回のゲームは運が無かったと諦める他ないだろう。この世界のルールはギフトゲームなのだ。ゲームで奪われた仲間はゲームでしか取り戻せない以上、どうしようもない。
「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」
「そうですね……一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」
「へえ?よくわからんが見応えはありそうだな」
「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くに居るのならせめて一度お話ししたかったのですけど……」
やや興奮気味に同士の事を語る黒ウサギは、遠く別れた姉を思う様な幼さを感じさせた。
にしても美人…女性か。
そういえば此処に来てから女性と会う事の方が多い気がする。しかも揃いも揃って強い女性(ロリ)ばかりだったからな。男は
「おや、何やら嬉しい事を言ってくれるじゃないか」
僕が変な思考の渦に沈みかけていたその時、窓の外から第三者の声が響いた。
僕らの視線が窓に集中すると、そこにはにこやかに笑う金髪の少女が浮いていたのだ。跳び上がって驚いた黒ウサギが急いで窓に駆け寄る。
「レ、レティシア様!?」
「様はよせ。今の私は他人に所有されてる身分。"箱庭の貴族"ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」
黒ウサギが錠を開けると、レティシアと呼ばれた金髪の少女が苦笑しながら談話室に入ってきた。
……色々とツッコミたいことがあるが、一先ずは置いておこう。
にしても、黒ウサギの先輩と言う割には幼いな。それともなんだ。この世界では凄い奴に限ってロリの法則でもあるのか。
「どうした?私の顔に何か付いているか?」
まじまじと見つめる僕らの視線に気づいたのだろう。レティシアが小さく笑って尋ねた。
「別に。前評判通りの美人……いや、美少女だと思って。目の保養に鑑賞してた」
相も変わらず現金な奴め
「ふふ、なるほど。君が十六夜か。白夜叉の話通り歯に絹着せぬ男だな。しかし鑑賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」
「あれは愛玩動物なんだから、鑑賞するより弄ってナンボだろ」
「ふむ、否定しない」
「否定してください!」
……なあ、黒ウサギ。このコミュニティにツッコミは
「く、楠雄さんがいても足りませんよぉ〜…」
でしょうね
「って!話が脱線しております!!…して、どのようなご用件ですか?」
黒ウサギが一転して真面目な顔でレティシアに尋ねる。
他人に所有されているレティシアが此処に訪れているということは、並々ならぬ理由がある筈だ。
それに表からではなく、こんな談話室の窓からやって来たのだ。普通に表からジン達に挨拶しないことを考えると…
「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」
レティシアはそう言うと僕を――正確には僕の右腕を――静かに見つめた。
……そうか、お前がガルドのギフトゲームの黒幕だったのか
「君達にはすまない事をした。私は"ノーネーム"が再建の道を掲げ、更に神格級のギフト保持者がコミュニティに参加したと聞き、その力量を試してみたくなったのだ」
神格級のギフト保持者、というのは十中八九十六夜のことだろう。僕は沢山超能力が使えるだけの普通の高校生だ。多分
「それで、結果は?」
「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加した彼女達はまだ青い果実で判断に困る。……もっとも、そこの少年は違うがな」
レティシアは僕に視線を向ける。
…別に、僕はほとんど活躍出来てないぞ。怪我をする失態まで犯してるし
「そういうことではない。お前はあの状況において冷静に自分のギフトを使いこなせていた。まだ彼女達が己のギフトについて深く知り得てない事と比べると、それは評価されるべきことだろう」
……なんせ16年間の付き合いだからな。制御する為も兼ねて、これでも己の超能力はほぼ全て知り尽くしている方だと思っている。
これでも白夜叉が言うにはまだまだらしいのだが。
「ふむ…私はお前達になんと言葉を掛ければ良いのか。はっきり言って現段階で魔王に太刀打ち出来るとは思っていない。かと言って解散を呼びかけるには遅すぎた」
「要は不安ってことだろ?…その不安、拭う方法があるぜ」
突然の十六夜の一言にレティシアは眉を顰める。
「何?」
「実に簡単な話だ。アンタが"ノーネーム"が魔王に勝てるか不安を持ってるなら、その力で試せばいい。―――どうだい、元・魔王様?」
…実に十六夜らしい提案だ。
レティシアもこれには唖然としていたが、すぐに笑い声を上げると立ち上がった。
「ふふ……なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ」
「ちょ、ちょっと御二人様?」
「ゲームのルールはどうする?」
「どうせ力試しだ。手間隙かける必要もない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」
「地に足を着けて立っていたものの勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴?」
黒ウサギが慌てる中で着々と話は進められて行く。そうなっては止められる者は誰もいないだろう。
さて、僕は…
「って、楠雄さん!何処に行かれるんですか!?」
いや、十六夜に巻き込まれるのが嫌だからさっさと退散するんだが?
僕は学んだ。
適当に勝負が終わったら教えてくれ。じゃあな
「く、楠雄さーん!!」
燃える二人と悲鳴を上げる黒ウサギを尻目に、僕は己の寝室へと戻って行った。
…さて、寝るか
――――この数刻後。僕は己のスルースキルの発動場所を間違えた事に気づくこととなる
新章突入。導入回ということで今回は短めです。