無敵の超能力者が異世界から来るそうですよ? 作:フォルテピアノ
はやっ
白夜叉とのゲームを終えて別れた後、僕らは半刻ほど歩いて"ノーネーム"の居住区画の門前に着いた。門を見上げると、旗が掲げてあった名残のようなものが見える。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入り口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので……」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
黒ウサギは躊躇いつつ門を開けた。
「っ、これは……!?」
その風景は正しく『凄惨』の一言に尽きた。
街並みに刻まれた傷は想像以上で、皆一様に息を飲む。
「……おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この
十六夜がそう言うのも無理はないだろう。
それほどまでに"ノーネーム"のコミュニティは何百年という年月をかけたように崩れ去っていたのだから。
…一体、どれほどの力を用いればこんなことになるのか。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃあまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「……生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
「……魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ……コミュニティから、箱庭から去って行きました」
心を折られるのも仕方がないと思える。こんな力を持った魔王に叩きのめされたら大抵の人間は抗いたくもなくなるだろう。
言葉を失った僕らは、崩れた街を静かに歩くことしか出来なかった。
「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか……!」
…もっとも、この男はいつも通りだが
*****
―――"ノーネーム"居住区、屋敷の貴賓室
……疲れた。今日一日がとても長く感じたぞ。
あれから本拠に辿り着いた僕らは、コミュニティの子供たちに歓迎を受けた。
彼らは皆、十代の少年少女ばかりで何故か大人が一人も見かけられなかった。
黒ウサギによると、彼らの親も魔王によって連れ去られてしまったらしい。…嫌な話だ
その後、十六夜が持ってきた水樹の苗を貯水池の台にセットし、再び水路へ水を流すことに成功した。これで風呂に入れると女性陣は大喜びだ。
『お嬢……ワシも風呂に入らなアカンか?』
「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」
現在、屋敷に辿り着いた僕らは、黒ウサギが湯殿を準備する間に待機している最中だ。
三毛猫は昼間の溺れかけたトラウマがあるのだろうか。必死に春日部さんに対抗している。気持ちはわからなくもないが、後でノミが沸いても知らないぞ
「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!」
「ありがと。先に入らせてもらうわよ、二人とも」
「俺は二番風呂が好きな男だから特に問題はねえよ」
僕も問題ない
「……あとでちゃんと洗うからね?」
『お、おう!ワシも男やから後で入るで!ホンマや!」
あんたは男でもオスだろうが
春日部さんがやや不満そうだが、女性陣は真っ直ぐに大浴場へ向かっていったのだった。
やれやれ、女性陣の風呂が終わるまでゆっくり休むとするか…
………………………………
…なんだ?三毛猫
いきなり僕の膝の上に乗らないで欲しいんだが
『……兄ちゃん。ほんまはワシの言葉、わかるんやろ?』
なっ!?
……どういうことだ?僕は三毛猫と直接会話した事はないし、第一テレパシーが使えることはまだ他の誰にも知られては……
『んー、なんやろな〜。ワシが昼間にネコマンマ頼んだ時に一人だけツッコミたそうな顔してたやろ?』
そんな顔をしてたのか?僕は寧ろ鉄仮面な方だと思ってるのだが
『表情を見るのは得意なんやでー。ほら、コーヒーゼリーを食べてた時の兄ちゃんなんか…』
それは忘れてくれ
『でもな、確信したのはお嬢がグリフォンに誇りを賭けた勝負を挑んだ時や。命を賭けるってお嬢が言った時、ウサ耳の姉ちゃん達が慌ててる中で、一人だけお嬢の事を理解して納得してた様に見えたもんな!』
…………
…やれやれ、完敗だ。
猫一匹も騙せないなんて、僕も箱庭に来てから相当気が抜けてきている。
『別に隠す必要も無いやろ?寧ろお嬢が知ったら喜ぶと思うで〜!動物の言葉がわかる仲間がいるんやからな!』
…悪いが、春日部さんの"生命の目録"と、僕が動物と意思疎通出来ている能力は全く別の代物と考えた方が良いぞ?
『?どういうことや?』
そうだな。その為にはまず"テレパシー"から教えた方が良いか
「おい斉木。お前さっきから何見つめあっちゃってんの?」
…こいつを忘れていた。
**
「へえ、"テレパシー"か。そんな能力も隠してたのな」
……こいつにもなし崩し的に教えることになってしまったのは痛手だった。
そもそも三毛猫に気を取られて、数分も見つめあってしまったのが悪かったのだ。そのせいで下手な言い訳が出来なくなってしまった。
全く、コイツが燃堂並みのバカなら良かったのに
そもそもテレパシーを知られたら、周りと距離を置かれる可能性は多いにある。誰だって自分の考えを他人に知られるのは嫌だからな。だからなるべく隠しておきたい超能力筆頭だったのに……
『なるほどー。ワシらとはその【テレパシー】ちゅうのを使って脳内で直接会話しとるんやな。思えばワシは普通に話しとるのに兄ちゃんはずっと黙っておった。いや〜、兄ちゃんがあんま喋らんせいで気づかんかったわ!』
いや、そこは普通に気づけよ
十六夜は端から見ればニャーニャー鳴く三毛猫と見つめあっている僕に対して口を開いた
「テレパシーってだけでもそんなにデメリットがあるって結構面倒臭いのな。一秒でも抑える方法ってねぇの?」
あるにはあるが……
と言っても、ゲルマニウム製の物を身につけるというシンプルな物だ。手にいれにくいがそれだけでテレパシーは封印出来る。
…だが、他人の心の声が一切聞こえなくなるのはそれはそれで落ち着かない。
それこそ今に天井から忍者が暗殺しに来るのではと変な不安に苛まれるくらいだ。
「それ、流石に考えすぎじゃね?」
僕もそう思う。生まれた時からテレパシーが当たり前になっているからだろうか
「……その超能力は先天性か」
ああ、生まれた時から備わっていた能力だ。本当に迷惑極まりないが
「ふーん……」
僕の答えを聞いた十六夜はスッと目を細めるとそのまま立ち上がった。
「ちょっと外で身体動かしてくるわ」
待て、こんな真夜中にか?
「まーな」
僕に背を向け手をヒラヒラと振って立ち去ろうとする十六夜に僕は少し呆気に取られた。
というか、お前は僕のテレパシーについて何も思わないのか?
「いや?常時休日のデパート状態なんて大変なんだなー、って思ったことくらいだ」
それだけ言うと十六夜は部屋を出ていってしまった。
……なんなんだ、あいつは
「そうだ。後で他の超能力も教えてくれよー。あんな大層なギフトネームなんだから、当然すげぇモンをまだ持ってんだろ?テレパシーはまだ黙ってやっからさ」
…何処までも隙の無い奴め
**
今のところ、十六夜たちに知られている超能力はサイコキネシス、透視、服を温めるのに使った超能力、それとテレパシー(十六夜と三毛猫のみ)くらいだ。まだ僕の持っている超能力の数%もバレていない。
何れ他の能力も使う機会が来るだろうが(そうなる前に十六夜に全バレしてしまう可能性もあるが)、取り敢えず今のところはサイコキネシスのみでも十分なんとかなりそうだ。
まあ、一番制御が難しいのがサイコキネシスでもあるのだが……精密に動かそうとすると捕獲寸前のハプルボッカみたいな顔になるし
『ハプルボッカって美味いん?なあ、美味いん?』
言っておくが魚ではないぞ。アレは
『へぇー、兄ちゃんは何でも知っとるんやなぁ。……あ!そういえばサイコキネシスで思い出したんやけど!』
なにがだ?
『もしかして、昼間溺れかけてたワシを助けたのも兄ちゃんちゃうんか?』
……さあ、どうだろうな?
『絶対そうやって!水面に上がれなくてどんどん下がってくって思うたら急に上から押し上げられたんや!あれは兄ちゃんのサイコキネシスで間違いない!』
存じ上げませんが
『ぐぬぬ…あくまで認めんのなら別にええ。……でもな、お礼ぐらいは言わせてくれ。な?』
……それくらいは別に構わないが
第一、あれは三毛猫が目の前で死なれたら寝覚めが悪いと思ったからであってだな…
『兄ちゃん!おおきに!!』
……まあ、今は良いか
**
『お嬢とワシは同じ日に生まれてな。それから今日までずっと一緒だったんや』
春日部さんと同じ年に…ということは猫としてかなりの高齢なんじゃないか?猫の平均寿命は15歳と聞くが
『お嬢は14や。…ワシももうそろそろってとこかな』
……そうか
『でも寿命ばかりはどうしようもないんや。ワシもお嬢は悲しませたくないし、最期はひっそり迎えようと思っとるんやが……あ!今のはお嬢には内緒やで!!』
言われなくても黙ってるつもりだ。第一、死ぬ直前に飼い主の前から姿を消すというのは猫の性質みたいなものじゃないのか?
『んー…他の猫についてはよく知らんが、兄ちゃんがそう言うのならそうちゃうんか?』
適当だなオイ
『……まあ、いつしかお別れの時が来ると思うけど、その時までは何事も無くお嬢と暮らしたいなぁ』
それなら大丈夫だろう。この箱庭に居れば、賑やかに余生が過ごせると僕は思うぞ
『ワシもそう思っとるわ!!いやーここに来てほんま良かった!!あのねーちゃんにもまた会いにいかんとな!甘噛みしに!』
だからそれはセクハラじゃないのかよ、おっさん
『んー、どうやって行こうか…。お嬢は初めての友達となるべく一緒にいて欲しいし無理に誘いたくないなぁ…』
……やはり、春日部さんは
『あ!お嬢に人間の友達がいなかったことも内緒や!!バラしたら承知せえへんで!フシャーー!!』
いや、先程久遠さんが微妙に察していたが……まあ、黙っておこう。
それより三毛猫。あのカフェに行きたいと言ったな?
『あ、ああ。それがどうしたん?』
…なんなら僕が連れてってやらんこともないぞ
『ホンマか!!』
ああ、僕もあの店のコーヒーゼリーに…ゴホン、あの店が気に入ってな
『兄ちゃんほんまにコーヒーゼリーが好きなんやな!あんだけコーヒーゼリーが好きな人間、初めて見たで!』
……五月蝿いな。コーヒーゼリーは嫌いではないだけだ
『それに兄ちゃんのゆるーい顔ももう一回』
やっぱ連れてくのやめようかなー
『あああ!!冗談!冗談やで!!』
……ならば良い
『・・・兄ちゃんって鬼畜言われへんか?』
僕は至って健全な男子だが?
**
『ええ!?兄ちゃん猫派じゃないんか!?』
いや、寧ろ何で僕が猫派だと思ったのか逆に聞きたい
『いやー、なんかこう。ワシと話す態度とか?』
どの態度がだ。全く……
僕は「犬か猫、どっちが好き?」と聞かれたら「割とどうでも良い」と返すぐらいには執着していない。
そもそも、大半の判断材料であるものは全て、僕の前では無意味と化すからである。
見た目?
透視(常時発動)の前では皆平等にスケルトンだが?
性格?
テレパシー(常時発動)のせいで人間と大差つかないんだが?
そんな訳なので、「犬派?猫派?」と聞かれるのは「トッポ派?ポッキー派?」と聞かれることと比べかなり漠然としたものなのである。因みに僕はトッポ派だ
『ほへー…なんかワシには想像もつかん世界や……』
そうだろう。
そもそも普通の人間と僕自体、種族が違うと言っていいほどの差があるのだから。今更猫か犬かと聞かれても些細なことなのである。
『むう……しかしワシとしては、何としても兄ちゃんに猫派になって欲しい所存やで』
いや何でだ。あまりゴリ押しされるのは逆にマイナスだからな
『うーむ……。あ、そうや!!』
何かを思いついたのか、三毛猫は僕の膝を飛び降りると何処かへ行ってしまった。
やれやれ、何処までも五月蝿い奴だった
……しかし、これでやっと落ち着いて食べられるというものである。
先程から置いてあった袋……昼間に貰ったコーヒーゼリーの入った袋を僕は手に取った。
フフフ、しかし二個も貰って本当に良かったのだろうか?
ここには冷蔵庫が無い為早めに食べなければいけないが、ちょっと贅沢した気分だ。
…ふむ、しかし風呂に入ってからの方が良いか?流石に汚い状態で食べるのは気が引ける。いやしかし……
『兄ちゃん兄ちゃん!!』
五月蝿いな三毛猫。今僕はこのコーヒーゼリーをどうするかで…
**
『いやー、ワシも考えたんやけどな。やっぱ犬に出来なくて猫に出来ることと言ったらアレやろ?害虫駆除!兄ちゃんは可愛らしさとか判断基準にならないらしいし、利便性なら評価してくれると思ってな!!そこでまずは試しにこの屋敷にいたアレを仕留めてきたでー。やっぱ異世界でもいるもんはいる……ってあれ?兄ちゃん?兄ちゃーん!!!』
*****
「どわぁぁぁぁい!?なんじゃ!?おんし、どうやって私の私室に入りおった!!!」
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ゴキブリガイタ
先に猫と仲良くなる斉木さん。オリ回でした
ハプルボッカってモンハンだったんですね…4しかやってないもんで…
そしてまさかの展開へ……