議題1 音ノ木坂学院の廃校
春。
俗にいう出会いと別れの季節だ。
様々な期待と希望に胸に新入生たちは入学する。
新たな環境、新たな出会い、新たな感情……。
そんな様々な『初めて』を経験する季節だ。
そして――。
音ノ木坂学院に厳しい試練が言い渡された季節でもある。
あの頃は……色々大変だったなぁ。
生徒会としても……一個人としても、特にあの時期は今思い返すだけで色々感慨深いものがある。
辛いこともあった。
面倒くさいことも沢山あった。
でも、俺はむしろ学院に転機が訪れて良かったって思っている。
もしあのままなにも起きなければ……俺は、
辛くて良かった。
面倒くさくて良かった。
彼女たちに……奇跡に出会えてよかった。
もし彼女たちに出会えなかったら俺は……俺たちは、前に向かって歩くことができなかっただろう。
# # #
「ふぁぁ……ねっむ。だっる。帰りてぇ……」
朝の定番の三コンボが決まる。
絶対の三コンボって、朝によく言われる言葉トップスリーだと思うんだよね。
なんなら朝に関しては『おはよう』とこの三つの言葉で会話できると思うんだ。
――なんて、とてつもなくどうでもいいことを考えながら俺は通学路を歩いていた。
そして我らが国立音ノ木坂高校の校門へとたどり着いたとき。
「……ん?」
なにかが……おかしい。
いや、なんかこう……上手くは言えないけどいつもと違う感じがする。
騒がしいというか慌ただしいというか……。
ともかく、そんな感じがするのだ。
なにか校内で事件でも起きたのだろうか?
嫌な胸騒ぎを感じつつ俺は昇降口へと向かう。
そしてふと……昇降口に設置されている掲示板に目がいった。
普段はあまり生徒たちに見られることがないその掲示板。
しかし今日は、掲示板の前に生徒たちが立っていた。
それも……神妙な面持ちで。
「……悪い、ちょっと俺にも見せてくれるか」
上履きへと履き替え、俺も掲示板へと向かう。
そして俺はそこで……驚愕の文字を目にしたのだ。
掲示板に貼られた一枚の紙。
理事長から通達であろうその紙には……こう、書いてあったのだ。
「廃……校……?」
――は?
いや待て待て。
どういうことだよ?
廃校ってつまりそのままの意味での廃校で……。
学校が……無くなる?
今すぐというわけではないが、このまま行ったら現在在籍しているすべての生徒が卒業したのちに廃校となるようだ。
張り紙には、来年の入学希望者が定員を下回った場合……と書いている。
今の一、二年生に関しては定員を大きく下回った結果が現在のクラス数だ。
実質これは……廃校決定と言ってもいいかもしれない。
つまり一年生に後輩ができることはない……ということ。
俺はこの学院を心の底から大好きだというわけはないが、当然思い入れはある。
この学院で今まで過ごしてきた日々は……紛れもなく俺の大切な思い出だ。
――待てよ?
この学院が大好き……?
「――会長」
考えるより先に俺の足は動き出していた。
廊下を速足で歩き自分のクラスへと向かう。
廊下では生徒たちが廃校について話していた。
そして。
俺は自分のクラスへとたどり着くと扉をあける。
――いた。
俺は挨拶することなく教室内へと入っていくと、一人の女子生徒の机まで歩いていく。
「……」
その生徒は一人窓から外を眺めていた。
こちらを向いているわけではないからその表情は分からない。
でも……なんとなく想像はできる。
きっと今この人は……。
「会長」
俺はその生徒……絢瀬絵里に話しかける。
会長は俺に呼ばれたことに反応すると、ゆっくりとその顔を俺に向けた。
「篁君……」
元気のない……その声。
その原因など考えるまでもない。
当然、学院の廃校だろう。
俺は会長にかける上手い言葉が見つからず、とりあえず彼女の隣兼自分の席に座った。
俺が座ったのを確認すると会長がぽつりと呟いた。
「あなたも見たわよね……あの張り紙」
「それは……まぁもちろん」
会長の質問に頷き俺は言葉を続ける。
「マジか……って感情と、やっぱりなぁ……って感情が混ざり合ってなにも言えないです」
ここ数年悩まされていた生徒数の減少。
もしかしたら……って考えはしていた。でも……どこかでなんとなるだろうという甘い考えも持っていた。
それが今日……真正面からぶち壊されたのである。
まさかこんないきなり『その時』が来るなんて……誰が予想できたのだろうか。
会長のこの様子を見ると……きっと今日初めて知ったのだろう。
生徒会長だから理事長に教えてもらっていたというわけではなさそうだ。
「思ったより深刻だったわけですね」
「だとしても……いきなりすぎよ」
「……ごもっとも」
ごもっともすぎる。
誰もが予想していなかったこの廃校という事実。
「廃校だなんて……」
会長の顔を見るだけで分かる。
今この人は俺が思っている以上に悩んでいるに違いない。
思い詰めているに違いない。
俺の知っている会長だったら、恐らく廃校を阻止するためになにかできることを探すはずだ。
であれば……俺には一体なにができるのだろうか?
この会長のために俺は……なにができる? どう動ける?
――そもそも俺は、廃校を阻止したいと心の底から思っているのか?
「そういえば――」
会長は続けて言葉を発したことで俺は考え事を中断する。
「二年生に…理事長の娘さんがいたわね」
「あ、そうなんですか」
「えぇ。というか知らなかったの?」
「その子どころか同級生さえ危ういですよ俺」
「それを自信満々に言うのはどうなのよ……。まぁあなた友達いないものね」
おぅふ……。
気遣いなんて無縁な言葉を言うと、フッと会長は笑った。
この人俺に悪口言うときは良い表情するんだよなぁ……。
さっきまでも思い詰めた表情どこに行ったんだ。
ほんと真性のドSだわ。
「ちょっとストレートな悪口すぎません? もっとこうオブラートに包むとか……」
「じゃあ……友達いるのかしら?」
「いやそれはもう……。ほら、会長とか超友達じゃないですか?」
「あら、それはありがたいわね。嬉しいわ」
「せめて表情と言葉を統一させてくれません? 自分で今真顔って気付いています?」
この人嬉しいとか言っておきながら真顔なんだけど。
というか友達って……。
一体この人はなにを言っているのだろうか?
俺は生徒会の人間だぞ? 割と目立つ立ち位置だぞ?
そりゃもう友達の一人や二人や三人くらい……そのくらい……。
…………。
――あれ。
俺、友達いなくね? 三年間なにしてきたの俺。
「あなたの友達事情はどうでもいいのだけれど……」
「どうでもいいは失礼すぎませんかね」
俺のナイーブな問題をどうでもいいで一蹴しやがった。
会長は俺のツッコミをスルーして言葉を続ける。
「とにかく、昼休みに一度その子に会いに行ってみるわ」
その子……とは、恐らく先ほど話していた理事長の娘さんのことだろう。
それにしても二年生か。
ただでさえ同級生さえまともに話したことある奴が少ないのに、後輩なんてそれ以上に話したことがない。
特別なにか部活をしているというわけでもないし、積極的に色々な生徒と絡むようなタイプでもない。
別に積極的に関わり持ちたいわけではないのだが……。
……俺、こんなんだから友達いないんだろうなぁ。
まぁそれはともかく。
「俺も一緒に行きますよ」
俺の発言に会長は驚いた表情を見せた。
「あなたも?」
「はい。だって会長、コミュニケーション下手だから相手の子威圧しそうですもん。ましてや後輩相手だし」
「威圧ってあなたね……。私をなんだと思っているのよ?」
「そりゃもう、鬼――」
「なんですって?」
「いえなんでもありませんもう女神様のような存在ですいつもありがとうございます!!!」
会長から感じた殺気に俺はとっさに頭を下げた。
あぶねぇ……あのままいったら俺この世とおさらばしていたわ。
この学院の前に俺自身が廃校になってたわ。
――なにはともあれ。
今の会長はあまり一人にしたくないというのは事実だ。
突然の廃校ということで会長自身少しは混乱しているはずだ。
そんな会長を一人にしてみろ。
下手したら理事長の娘さんに詰め寄りかねない。
いや……まぁさすがにそんなことはしないだろうけど……。
ともかく、一言で言えば。
心配……なのである。
「東條には俺の方から声をかけておきますよ。昼休みになったら一緒に行ってみましょうか」
「え、えぇ。ありがとう」
東條もきっと会長を心配しているはずだ。
とりあえず後で会長の様子だけでも報告しておくとしよう。
俺自身が廃校についてどう思っているなど、後で考えれば良い。
今は今できることに専念するべきだ。
「それにしても……理事長の娘か」
後輩とはいったものの……一体どういう子なのだろうか。
理事長はめっちゃ綺麗な人だからなぁ……。THE・大人の女性って感じの人である。
あんな美人の血を引いているんだったら……。
母親の超絶可愛い子だという可能性も……。
そんな子から『篁先輩!』なんて呼ばれたら――。
――なるほど。
素晴らしいな。
いや待てよ? もしも父親がゴリゴリのマッチョ系の人でそっちの血の方が強かったら?
むむむ……。
「……気持ち悪い」
……。
いや、だからさ……。
「勝手に人の思考を読んで勝手にドン引くのやめてくれる?」
# # #
昼休み。
「悪いな東條、急に言ったうえに付き合わせちゃって」
「ううん、別に大丈夫。ウチもエリチが心配やったしね」
ガヤガヤとした校内の雰囲気がなんとも昼休みらしい。
俺は教室の外の廊下で、東條と話しながら会長を待っていた。
「それにしても理事長の娘がこの学院にいたなんてな……。会長に聞かされて初めて知ったぞ」
東條にはあらかじめ今朝の一見のことは話している。
やはり親友である会長の様子が心配だったようで、昼休みに理事長の娘さんの会いに行こうと提案した際は二つ返事で了承してくれた。
きっと東條も会長のことを放っておけないのだろう。
「篁くん、あまり積極的に人と関わろうとしないもんね」
「東條……お前優しいな」
「えっ……? えっとウチ……別に褒めたわけじゃないんやけど……」
突然の褒め言葉に東條は困惑した様子で首をかしげた。
「会長と同じ話をした時、あの人『お前友達いないから当然か』って一刀両断したからな」
「あはは……その会話想像できるよ」
「いやもうほんと……怖いわあの人」
溜息交じりの俺の言葉。
しかし、東條は俺を心配するどころか楽しそうに笑っていた。
なんだなんだ? 人の不幸を笑っているのか?
まったく! 昴君怒るぞ!
「ふふ、でも篁くん。エリチが心配だから昼休み自分も一緒に行くって言いだしたんやろ?」
「……」
「違う?」
優しく微笑んで俺を見る東條。
やはりこの東條希という少女は……周りをというか……他人をよく見ている。
誰よりも優しい東條が東條たる所以である。
まったく……。
そういう面に関しては東條に一生勝てそうにないな。
ストレートに言われて恥ずかしくなってきた俺は、東條から目を逸らし頭をガシガシと掻く。
「……ノーコメントで」
「それはつまり図星ってことやね。篁くん、その優しさをもっと表に出せばいいのに……」
「……。だーもう! お前は俺のママか! 希ママか!」
「篁くんみたいな息子は……ちょっとNGで……」
「まさかのNG出ました!」
東條と話すと、会長とは別の意味で疲れる……。
なんかこう……俺の考えていることがすべてバレているような感じがするのだ。
楽しそうに笑う東條を横目に俺は溜息をつく。
「――ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」
ふと、俺と東條に声がかかる。
教室でなにか作業をしていた会長がやってきた。
「ううん、大丈夫やで。篁くんとお話してたし」
「んじゃ、パパっと行きますか。早くしないと昼ご飯を食べる時間なくなっちゃいますし」
「あら、あなた別にご飯食べなくても生きていけるじゃない」
「普通に死にますから。人を人外みたいに言うのやめてくれます?」
邂逅一番さっそくドSのナイフで俺を切り裂く。
この人可愛い笑顔を浮かべて容赦なく切りつけてくるからな……。
とはいえ冗談で言っていることなんて当然分かっているから、別に言われていて辛いとかは微塵もないのだけど。
むしろ他の生徒たちから恐れられている絢瀬会長は実はこんな人なんだよって、少しは分かってくれたら嬉しいまである。
……あれ? でも待って?
会長って俺と一緒の時だとドSマックスやん。
それを見て他の生徒はどう思う?
――まぁ、決まってるよな。
『私も罵って~!!!』と言うに違いない。ドМ万歳。
「ふふ、今日も二人は仲良しやね」
俺と会長を見て東條は微笑む。
それに対して会長は大きな溜息をついた。
「そりゃそうよ! 俺と会長は強い絆で結ばれた最高のパートナよ!」
「そうね。糸こんにゃくくらい強い絆で結ばれているわね」
「すぐ切れるっっっ!!!」
一噛みですぐ切れる!
「もう……。くだらない話をしていないでさっさと行くわよ? 時間もないんだから」
「はーい」
二人は並んで歩き出した。
元はと言えば会長の発言がきっかけなんじゃ……?
怖いから絶対そんなこと言えないけど。
「ほら、篁くんも早く行こ?」
東條が振り向いて俺を呼ぶ。
まったくこの二人は……。
「りょーかい」
俺は溜息をついて歩き出す。
とりあえず、理事長の娘さんに会いにいくとしよう。
どんな子なのか……結構楽しみである。
あ、いや、別に変な意味はないからね?
# # #
場所は変わり中庭。
日が良く差し込み暖かいこの場所で、昼ご飯を食べる生徒は結構多い。
え、俺?
こんなところでご飯食べたらぼっちなのバレちゃうでしょ! やめて!
くだらないことを考えつつ、俺は生徒たちを見回しながら会長に声をかける。
「それで会長、その子の顔とかって分かってるんですか?」
「えぇ、もちろん」
会長は中庭をキョロキョロと見回し――。
そして……一つの女子三人組グループが視界に入った。
「いた」
会長は短く言うと、ベンチに座っている女子三人組に向かって歩き出す。
あの子たちが……そうなのだろうか?
たしかにリボンの色的に二年生だけど……。
というか突然先輩に、それも生徒会長に話しかけたら相当驚くよね。
――ドンマイ、後輩。
俺と東條も会長に続き歩いていく。
「ねぇ、ちょっといい?」
三人組のもとにたどり着くと同時に、会長は彼女たちに声をかける。
最初は『え……?』って様子で俺たちを見ていた彼女たちだが、会長の顔を見るなり驚いた表情を浮かべた。
そりゃそういう反応になるよなぁ……。
会長も会長で、ちょっと素っ気ない雰囲気出しすぎでは……?
『は、はい!』
彼女たちは揃ってベンチから立ち上がる。
そして――。
「だ、誰……?」
中央に立つ女子がボソッと聞いていた。
サンドアップの髪型に、大きく綺麗な青の瞳。
その表情や雰囲気から見るからに『元気っ娘』だと分かる。
というか生徒会長の顔を覚えていないのかよ。
「生徒会長ですよ。左右にいる方は、副会長と――」
元気娘(仮)の問いに答えたのは、横に立っていた青髪ロングヘア―の生徒。
整った顔立ちといい、立ち振る舞いやクールな雰囲気と言い『優等生感』があふれ出ている。
大和撫子……という言葉が当てはまるかもしれない。
……あれ?
この子……どっかで――。
「……」
優等生(仮)は東條を見た後、俺を見て……言葉を止めた。
俺を見て……驚いたような表情を浮かべている。
……え、なに? もしかして俺のこと知らないパターン?
『やべぇ分かんねぇこいつ誰?』って顔?
いや、まぁ別に全然問題ないんだけど……。
「……
ほう、この優等生は海未ちゃんといいのか。
その海未ちゃんとやらは、元気っ娘に生を呼ばれてハッとした。
「あっ、い、いえ……。その、書記の方……だったと思います」
おぉ……!
良かった、ちゃんと覚えられてた……! 昴君感動。
海未ちゃんはその後も俺をチラッと見たが、偶然俺も見ていたため目が合ってしまった。
そして彼女に凄まじい速さで目を逸らされる。
うわ……なに今の結構しんどい。出会って数秒でもう嫌われたのかよ俺。
「
「は、はい!」
会長の呼び声に最後の一人が反応する。
南ということは……この子が理事長の娘……?
えぇ……なにこの子……。
――めっちゃ可愛いんですけど。
可愛らしい顔立ちにパッチリお目々、全身から漂う『可愛い』オーラ。
素晴らしく可愛い娘さんでした。
「あなた確か、理事長の娘よね?」
変なことばかり考えている俺と比べて、会長はしっかり聞きたいことを聞いている。
「は、はい……そうですけど……」
「理事長、廃校についてなにか言っていなかった?」
南さんは申し訳なさそうに顔を伏せ、左右に首を振った。
「いえ……私も今朝知ったばかりなので……」
そりゃそう……か。
いくら娘といえど学院の生徒の一人。
不平等な扱いはしないよなぁ……。
となるとやはり、廃校については全生徒が今朝知ったということだ。
突然すぎますよ……理事長。
「……そう、ありがとう」
素っ気なく返事をすると、会長はこの場から立ち去ろうとする。
「あ、あの……!」
そんな会長を、中央に立っていた元気っ娘が呼び止めた。
「なにかしら?」
足を止め、会長は彼女たちに顔を向ける。
元気っ娘は真剣な表情で……会長に言葉を投げた。
「本当に……学校、無くなっちゃうんですか?」
突然の廃校に戸惑っているのは俺達だけじゃない。
後輩たちも……同様なのだ。
皆、なにかしらの理由があってこの学院に通っている。
この学院が好きだから、制服が可愛いから、家から近いからなどなど……理由は人によってそれぞれあるだろう。
しかし、この学院が嫌いで通っているという生徒はいないはずだ。
みんな……なにかしら学院に対して『好きだ』と思う部分はあるだろう。
そんな『好き』が突然取り上げられてしまうんだ……。
戸惑わないはずがない。
会長には、後輩を少しでも安心させるようなことを言って欲しいが……。
俺は心配な気持ちを抱えて会長を見る。
「……あなたたちが心配するようなことじゃないわ」
いやお前……マジで……。
最後まで素っ気なく言葉を返し、立ち去っていく会長。
「ほなまたねー」
東條もなにも言うことなく会長についていく。
俺は――。
「はぁ……まったくあの人は……」
あまりの素っ気なさにその場で溜息をついた。
それにより後輩たちから視線が集まる。
俺は立ち去っていく会長の背中を見ながら、言葉を続ける。
「悪いな、あの人あんなんだけど……悪いやつじゃないんだ。むしろ……誰よりも焦っているんだと思う」
「焦って……?」
南さんの問いかけに俺は頷く。
「あの人、ここの生徒の中で一番この学院が大好きなんだよ。だからこその焦り……かな」
三人はみんな……不安そうな表情をしている。
不安な気持ちは……一緒だよな。
俺は会長から彼女たちに視線を移す。
「一つ、聞いてもいいか?」
「あ、はい!」
元気っ娘が頷く。
俺が先輩だということもあり、まだ彼女たちはぎこちない様子だ。
まぁそれもそうか……そもそも話したことすらなかったのに。
俺はそんな彼女たちを見て小さく笑い、質問を投げかける。
「この学院……好きか?」
「好きです!」
即答。
自信満々に言う彼女の瞳は真っすぐだった。
「そっか。他の二人は?」
元気っ娘を除く二人も同様に頷いた。
「私も好きです!」
「私も……二人と同じです」
迷いのない……その言葉。
俺は思わず、嬉しくて笑みがこぼれた。
学院のことを迷いなく好きだなんて言える生徒がいるなんて……。
俺は三人の言葉に「ありがとう」と頷いた。
「俺達生徒会も、やれることはどんどんやっていく……と思う」
会長次第だけど。
「それでも俺達だけじゃ限界はある。詰まって……前に進めなくなる可能性もある」
会長は当然諦めていないはずだ。
生徒数を増やすために……色々考えるだろう。
それでも……一人の力では限界がある。
俺と東條がいても……それは変わらない。
だから。
「だから、思いついた時でいい。なにか廃校を阻止するために出来そうなことがあれば……やりたいことがあれば、教えてもらえると助かる」
学院の想う気持ちは、この達もきっと会長と同じはずだ。
学院のためになにかしたい……という気持ちがあれば、それを無下になんてしたくない。
「やりたいこと……ですか?」
「おうよ、別になんでもいいぞ。……あ、でもそれであの会長が納得するかどうかは別の話だけどな?」
あの会長のことだ。
大した案じゃなかったら――。
『却下。こんな下らないことを考える暇があったら将来のために勉強したらどう?』とか言いそう。
なんか会長の言いそうなことがどんどん分かってしまうあたり怖いわ俺。
「わ、分かりました!」
「んじゃ、俺はそろそろ行くわ。お昼なのに邪魔して悪かったな」
俺は手をヒラヒラっと振り、立ち去ろうとする。
「あ、あの……!」
会長の時と同様、元気っ娘が俺を呼び止める。
「先輩の、その……お名前を教えてもらってもいいでしょうか!」
――あ、やっぱり俺のこと一切知らなかった感じね……。
別にいいんだけどさ……。
俺はニカッと笑い、彼女たちに名前を告げた。
「篁昴。またなにかで会う時があったら……その時はよろしくな」
「はい! ありがとうござました昴先輩!」
いきなり名前呼びだと――!?
さてはこの子……コミュ力の化物だな……!?
にしても昴先輩……か。
昴……先輩。
――ふっふっふ、悪くないじゃないの。
「篁……昴……先輩。やはり……」
# # #
『――というわけで、突然の廃校。
初めてあの張り紙を見たとき……本当に驚いた。
いや、むしろ驚かないやつなんていないだろう。
会長も会長で……どこか焦っているようにも見えたし。
当面の間、生徒会活動は廃校問題について重点的に話しそうだな……。
なんかいつもより更に雰囲気が重くなりそうだ……考えるだけでもしんどい。
そして……あの三人組との出会い。
本当だったらあの時、俺も会長と一緒にすぐその場から離れるつもりだった。
だけどなぜか……彼女たちに話を聞いてみたいと、想いを聞いてみたいと思ったんだ。
理由は分からない……分からないけど……。
彼女たちの存在が、想いが……今後の鍵となるかもしれない。
そう……思ったんだ。
……アレだな、最近の俺スピリチュアルパワー全開だな。
理由は分からない。だけどそんな感じがする……っていうのが多いよなぁ……。
しかし!事実なのだから仕方ない!
まぁそんなこんなで、本日の議事録とする。
最高にでかいこの壁を……乗り換えられると信じて。
×月〇日
生徒会書記:篁昴』