お待たせしてしまい申し訳ありませんでした……。
そして、今更ですがスーパースター始まりましたね
『なにしてんだ、こんなところに一人で』
夕方、昔からよく知っている公園にやってきた俺は、ベンチに腰掛ける一人の女子に声をかけた。
制服的に……中学生くらいだろうか?
だとしたら俺と大体同じ年くらいか。
ベンチに座り俯いているその女子は、その長い髪のせいでよく顔が見えない。
どんな顔をしているのか。
どんな表情をしているのか。
なにを考えているのか。
よく分からない。
俺は彼女と距離を離して隣に座った。
俯く彼女とは反対に、背もたれにグタッと寄りかかり天を仰ぐ。
『……』
少女はなにも返事をしない。
まぁ……それも当然か。
突然よく知らない男に声をかけられてホイホイ返事をする女子なんてなかなかいないだろう。
下手したら通報レベルだ。
とはいえ俺は、別にナンパ目的で彼女に話しかけたわけではない。
しっかりとした理由があるのだ。
『……ここの公園、俺もよく来るんだよ』
ここの公園にやってきたのは一度や二度じゃない。
元々何度も来ていたが、最近は特に頻繁に来ている。
未だに返事をしない彼女に俺は言葉を続ける。
『ここに来て、このベンチに座って……こうして意味もなくボーっとしてる』
俺がどうして彼女に声をかけたのか。
それは単純に、俺以外の誰かがこのベンチに座っているのが珍しいからだった。
もちろん公園である以上、いろいろな人が遊びに来るだろうし、ベンチだって当たり前のように利用するはずだ。
しかし、この時間帯……夕方にこのベンチに座っている人を見かけたことは全然ないのだ。
この公園自体そんなに目立った場所にあるわけではないため、利用者が少ないから余計に驚いた。
とはいえ別に座っていること自体は全然問題ないのだ。
ただ俺が気になったのは――。
『……』
彼女は纏うその暗い雰囲気だった。
とても公園に遊びにきたとは思えないその雰囲気に……。
俺は……どこか親近感を感じてしまったのだろう。
でなければ……知らない女子にいきなり話しかけるというリスキーな行為ができるはずない。
『……だんまりか。まぁ……俺には関係ないけど』
俺の質問に答える気がないことが分かった俺は、小さく息をつく。
どうせこうして会うのは今日だけだ。
明日になったらいないだろうし、当然お互い知らない関係である以上話しかけ続ける理由はまったくない。
俺はこれ以降彼女に話しかけることをやめ、ボーっと夕暮れの空を眺めていた。
誰もいない公園。
静かで……涼しい風が俺たちを包み込む。
『……』
これが俺と――。
# # #
「――くん。篁くん」
俺を呼ぶ声が聞こえたことでハッとする。
その声の主に視線を向けると、前に立っている東條が心配そうな表情で俺を見ていた。
俺は軽く頭を振り思考を切り替える。
「あ……悪い悪い。ちょっと考えごとしてた」
「まったく……ボーっとするのは顔だけにしてちょうだい」
「え? 顔がかっこいいって?」
「幸せな耳を持っているようで羨ましいわ……」
東條の隣に立つ会長が呆れて溜息をつく。
なんか会長って俺と話すとき絶対に溜息つくよね。なんでだろう。不思議。
俺たちのやり取りを聞いていた東條が小さく笑い、視線を正面に戻す。
そのあとに続いて俺たち眼前に広がる『扉』を見た。
『理事長室』――。
そう書かれたプレートが扉に張り付けられていた。
俺たちは今……理事長室の前に立っていた。
「まさか……理事長室に乗り込むなんてなぁ。さすがは我らが会長様だ」
ポリポリと頬を掻き俺は呟く。
事の発端は簡単だ。
昨日、理事長の娘さんたちと話して収穫を得ることができなかった俺たち。
そして今日、我らが会長絢瀬絵里は言ったのだ。
――『直接理事長に話を聞きにいくわ』……と。
さすがに放っておけないと思い、俺と東條もこうして同行している……というわけだ。
会長のことだから、一人で行かせたらヒートアップして大変なことになりそうだもの。
それに俺自身、理事長から話を聞きたいという気持ちあるし。
「茶化さないで。こうするしかないから仕方ないじゃない」
「……ま、それもそうだな。あー緊張する」
理事長なんて普段滅多に話さないからな……。
俺の言葉を聞いて東條がニヤリと笑みを浮かべた。
あ……嫌な予感するこれ……。
「理事長すごく綺麗やからね。篁くんは緊張するよね?」
「……否定はしない」
「……うわ」
「はいそこの金髪ポニーテール。思ってても『うわ』とか口に出さないようにしなさい」
しかも本気でドン引きの表情だし。
「変なこと言ってないでいい加減入るわよ」
「そうだよ篁くん。おふざけはここまでや」
いや元はといえばお前らが……。
なんて言っても絶対に意味ないから言わない。昴君偉い。
しかし東條の言った通り、ふざけていられるのもここまだ。
これから理事長と話をしようというのだ。変なところを見せるわけにはいかない。
「……行くわよ」
会長は呟き、理事長室のドアをノックする。
『はい』
扉の向こうから聞こえてきた大人の女性の声。理事長の声だ。
「失礼します」
会長は凛とした声で言うと、ゆっくりと扉を開けた――。
さて……話を聞かせてもらおうじゃないの。
音ノ木坂学園……理事長さん。
# # #
「――というわけで、我々生徒会も学校存続のためにいろいろ活動したいと考えております」
俺たちの前の座る美人な女性。
彼女こそ昨日話した後輩の母親である理事長。
スーツをバッチリ着こなし、『できる女性』感に溢れる理事長。
いつも余裕を持っているこの雰囲気は正に大人の女性だ。
……無理無理。目合わせられないわ。
なんかもう目合っただけで大人の魅力にあてられて好きになっちゃいそう。
昴君マジ純情。
――なんて馬鹿なことを考えている一方で、会長は改めて廃校の件に関して自分の気持ちを告げた。
このまま黙って廃校を待つことはできない。廃校阻止ができるのなら、自分たちにできることを精一杯やりたい……と。
「……そうですか」
理事長は会長の言葉を静かに聞いている。
「それと、廃校発表の用紙にはこう書かれていました。『入学希望者が定員を下回った場合、廃校を決定せざるを得ない』……と」
「つまり、定員を下回らなければ廃校ではなくなる……ということですよね?」
会長と東條の言葉。
たしかにそう書かれていたし、つまり入学希望者がたくさんいれば廃校ではなくなる……ということだろう。
とはいえ――。
「……たしかにその通りです。ですが、生徒が簡単に集まらないからこそこのような決定になったのです」
理事長の言っていることも正論なのだ。
俺たちみたいなただの生徒より、理事長の方がこの学園の現状を遥かに理解している。
理解しているからこそ……このような状況になったのだろう。
なんとかできるのなら……問題はとっくに解決されているはずだ。
理事長は会長を見据えて穏やかな口調で尋ねる。
「それとも……なにか良い方法があるのですか?」
「それは……」
理事長に質問に対して俺たちは答えられない。
俺たち自身……どうすればいいのか分からないのだ。
入学希望者を増やすなんて……口では簡単に言えるが現実は甘くない。
「思い付きで行動しても……簡単に状況は変わりません。生徒会は、今いる生徒たちのことを考えて行動するべきです」
「で、ですが! このままなにもしないというわけには――」
「会長」
「っ……」
予想通り。
俺はヒートアップした会長を止める。
このままでは余計なことも言いかねない。
俺に止められたことで会長は大人しく引き下がった。
「……ありがとう、絢瀬さん。その気持ちだけ……ありがたく受け取っておきます」
最後まで穏やかに……そして優しく理事長は言う。
気持ちだけ……か。
会長も言いたいことはなにも間違っていない。
そして理事長の言っていることも間違っていない。
廃校を阻止できるのならできるに越したことはない。
しかしそれで今の生徒たちを放って、勝手に自分たちでアレコレする……というのもおかしいだろう。
理事長の言う通り、生徒会として大切なのは今この学園に在籍している生徒たちをサポートすることだ。
会長も……理事長……なにもおかしなことを言っていない。
どちらも正しいからこそ……余計に難しい問題なのだ。
「……失礼しました」
未だに納得ができていないであろうその表情――。
会長は小さく頭を下げると、俺たちを置いたまま理事長室から出ていった。
俺と東條は顔を見合わせて小さく頷く。
「失礼しました」
俺たちも会長と同様に頭を下げ、理事長室から出た――。
# # #
「まぁ……予想通りといえば予想通り……だな」
理事長室での一件後、俺たち三人は生徒会長室に戻ってきた。
それぞれいつもの席に座り、なんともいえない気持ちを抱いている。
「そういえば東條、少し戻ってくるのが遅かったけどなにかあったのか?」
正面に座る東條に、何気なく話しかける。
しかし当の本人は話しかけられて驚いた様子を見せた。
「……篁くん、女の子にそういうこと聞いちゃう?」
……え?
……。
あ。
「……わ、悪い。別にそういうつもりじゃ――」
そんな気まずい表情を浮かべる俺を見て東條が笑った。
「ふふ、冗談や。ちょっと寄り道してただけ」
「お、お前……! 純情な男子高校生を弄んで楽しいのか!?」
「もちろん。篁くんやからね」
なんだこの小悪魔女子。
みんな分かる? こうして世の女子高生たちは純情な男たちを騙すんですよ!
いったい何人の男が騙されて来たことか……!
よろしくない! 実によろしくない!
「……純情?」
「ずっと黙ってたのにそこだけ反応するのやめてくれません? 俺被害者ですからね?」
『こいつなに言ってんの』と言わんばかりに俺を見る会長。
深刻そうな顔をしていたから気を使って話しかけなかったのに……!
「まったく……あなたのせいで静かに考えごともできないわよ」
こめかみに手を当て、やれやれと頭を振る。
……え? なんで俺が悪いみたいになってるのこれ。
納得いかないのでここは悪ノリするとしよう。
「まぁたしかに俺みたいなイケメンがいたらドキドキして考えごとどころじゃ――」
「はいはいかっこいいかっこいい」
「雑っ!!!」
「……水谷くんはかっこいい……と思うよ、うん」
「目逸らすくらいなら最初から言うな!」
なるほど。これが理不尽か。
会長はまた呆れて溜息をついているし、東條は楽しそうにニコニコしている。
まったくこの女子たちは……。
――それにしても。
東條はどこに寄り道していたのだろうか?
一緒に生徒会室に向かって歩いていたはずなのに、気が付いたらいなくなっていたし。
なにか面白いものでも見つけたのだろうか。
東條のことだ……恐らくなにかあるのだろう。
うーむ……東條ってなに考えているかよく分からないからなぁ……。
俺が一人で唸りながら考えていたとき――。
コンコン――と、生徒会室の扉がノックされた。
突然の来客に俺たちは顔を合わせ、会長は小さく咳払いをする。
珍しいな……最近こうして誰かが生徒会室に訪ねてくることはなかったのに……。
「どうぞ」
『失礼します!』
会長の言葉に対して、扉の向こうから聞こえてきた元気な女子生徒の声。
あれ……この声ってたしか……。
扉が開かれた次の瞬間、俺の疑問は確信に変わる。
やっぱり――。
「あなたたちは……」
やってきたのは昨日、俺たちが昼休みに話した三人の後輩たちだった――。
# # #
突然やってきた三人の後輩。
そして、彼女たちが生徒会長……絢瀬絵里に渡した一枚の用紙。
『新規部活動申請書』――。
どうやら彼女たちは新しい部活動の許可を得るため、ここにやってきたらしい。
南ことり。
それが三人の名前だった。
それにしても新しい部活か……。
それも昨日の今日でこう来るとはな……。
正直驚いた。
それも――。
「アイドル部の設立の申請書です!」
中央に立つ高坂穂乃果は元気よく告げる。
まさかアイドル部と来るとはな……。
アイドル……か。
その言葉を聞いて一人の女子生徒が脳裏を過る。
「それは見れば分かります」
淡々と会長は言葉を返す。
昨日も思ったけど、なんでこの人他の生徒には冷たい感じで接するの? 怖いよ?
「それじゃあ認めていただけますね!?」
「いいえ」
嬉々として尋ねる高坂に即答する会長。
いやまぁ……この場合は間違ったことは言っていないんだけど……。
だとしても少し言い方を変えても良くない……?
「部活は同好会でも最低五人は必要なのよ」
「えっ!」
高坂は会長の言葉に驚いた。
部活動の設立には最低5人以上必要――。
これは校則で決まっていることだ。
といっても俺も知ったのは生徒会に入ってからだけど。「
「ですが、部員が五人以下の部活動も存在すると聞いています」
「設立時は五人以上だったはずよ」
ロングヘア―の女子生徒……園田の質問にも会長は淡々と返す。
最初こそ五人以上でも、部員が辞めていって五人以下になった部活もあるのだろう。
まぁ俺は部活動に所属する気ゼロだから全然詳しくけど。
そもそもこの学園に存在している部活動の数ってどれくらいなのだろうか。まったく分からん。
……これ会長に言ったら死ぬほど呆れられそう。
「あと二人……やね」
優しい口調で東條が言う。会長との温度差がすごい。
でもこればかりは校則だから仕方ない。俺たちがどうこうできる問題ではないのだ。
「あと二人……分かりました。行こう、二人とも」
うむうむ。頑張れ頑張れ。
高坂は東條に言葉に頷き、俺たちに背を向けた。
ふと、三人の一人……園田海未と目が合う。
……え、なに? もしかして俺のかっこよさに惚れ――。
「……」
はい一瞬で逸らされました。僕の勘違いでしたごめんなさい。
こうも一方的に目を逸らされるとそれはそれでしんどいな……。
別に関わりがない相手だから問題はないんだけど……。
――ま、ともかくこの件は一先ず終わりかな。
なんて思っていると……。
「――待ちなさい」
会長が呼び止めたことで、三人は足を止めてこちらを向いた。
俺も驚いて会長に視線を向ける。
いったい突然どうしたのだろうか?
「どうしてこの時期に突然アイドル部を始めるの? あなたたち二年生でしょ?」
なるほど。
それはたしかに俺も同じことを思った。
ここは一旦大人しく聞いていることにしよう。
「私たち、廃校を阻止したいんです! スクールアイドルって今すごい人気があるんですよ! だから私は――」
スクールアイドル。
その言葉を聞いて会長の目がスッと細まる。
そして……高坂の言葉を遮り冷たく言い放った。
「だったら……例え五人集めてきても認めるわけにはいかないわね」
……。
「ど、どうしてですか!?」
「……部活は、生徒のためにやるものじゃない。思い付きで行動しても、状況は変えられないわ」
不穏な空気が生徒会室を包み込む。
チラッと東條を見てみるが、彼女は目をつぶったまま穏やかな表情を浮かべていた。
まるで彼女たちがここに来て、会長が冷たく突き返すことが分かっていたかのように……。
東條……お前……。
「変なことを考えてないで、残り二年……自分のためになにをするべきなのかをよく考えなさい」
最後まで一方的に突き放す会長。
しかし会長の言っていることはなにも間違っていない。
スクールアイドル活動で入部希望者を集めるなんて……非現実的すぎる。
彼女たちは素人で、アイドル経験なんてないだろう。
それでアイドル活動をして、注目を集めることで入部希望者が増える……なんてことはありえるのか?
――答えは限りなくゼロだ。
だけど。
限りなくゼロだとしても――。
「……」
俺は……たしかに感じたんだ。
高坂の瞳から伝わる強い『想い』。
そして――。
三人から伝わった不思議な『予感』。
根拠なんてない。理由なんてない。
それでも俺は――。
彼女たちならもしかしたら――。
そう……思ったんだ。
# # #
『立ちはだかる廃校と名の壁。
なにをするべきなのか、どうすればいいのか……。
このときの俺は……俺たちは全然分かっていなかった。
廃校を阻止したい。しかし具体的な方法が分からない。
そしてそんな俺たちの前に現れた、彼女たち。
正直驚いた。今になって新しい部活動を……それもスクールアイドルだぞ?
それで廃校を阻止なんて……とんでもないことを考える連中だなぁって心底思った。
それと同時に……どこかワクワクしたんだ。
こいつらならもしかして……ってな。
どうしてそう思ったのかは分からない。なぜそう感じたのかは分からない。
ともあれ、俺も俺でやるべきことがある。
会長の様子も心配だしな……本人には絶対に言えないけど。
俺は俺なりに、生徒会として……一人の生徒として動くだけだ。
こんな感じで以上! 本日の議事録! 終わり!
……今日はちょっと真面目なこと書いたな俺。
×月〇日
生徒会書記:篁昴』