とある軍港の執務室。
いまここで一人の女性、この軍港の指揮官は十数枚の絵ハガキと睨み合っていた。
しかしこのハガキたちは別に仕事ではなく、これを言ってしまっては元も子もないが、つまるところ暇を持て余している状態だ。
それもそのはず。なにせ季節は年の暮れ。
そう、ニューイヤーカード。我々で言う年賀状を書いているのだ。
明日はいよいよ新年。
にもかかわらず指揮官の手は動いておらず、ただただ無駄な時間が過ぎて行く。
それとは裏腹にじっと見つめる彼女の目は少し細く、真面目なもの。
ただその目は「何を書こうか」と考えているというより、「この行動は正しいのか」と疑問に満ちたものだった。
そこにトントン、とノックの音が響く。
「はいは~い。どうぞ~」
それに対し、指揮官は軽率な態度で反応を返し、ノックした者を部屋に招く。
「あぁ、ニュルンベルク」
入ってきたのは灰色の髪と、重桜の者によく見られるが鉄血では珍しい角が特徴的なライプツィヒ級二番艦のニュルンベルク。
指揮官は室内一人で寂しかったのか。彼女を見て頬を綻ばす。
「失礼します、指揮官さん。今日の――」
ニュルンベルクは今晩のパーティーのとあることを聞きにここに訪れたのだが、未だ机に向かう指揮官を見て言葉を切った。
「……年の瀬と言うのにまだ仕事が残ってるんですか?」
「ううん、ニューイヤーカードがまだで……」
指揮官は瞬時にニュルンベルクの考えを切る。
だが、嘘でも「まだ仕事だ」と言った方が格好は付いただろう。
その言葉を聞き、ニュルンベルクは思わずため息を吐く。
「もうっ。私、今月の頭から言ってましたよね? というか去年も一昨年もこんな感じだったような」
その言葉はもっともで返す言葉は無く、そのことについては指揮官自身も酷く痛感しているようだ。
笑ってはいるものの、その笑いは誤魔化しに近い。
「まぁ新年に届かないことは残念だけど、世が世だし。きっと許してくれるよ」
「……その言い訳も毎年聞いているような気がします」
またニュルンベルクはため息を吐き出す。
まだ告げられていないが、彼女がここに来た理由を指揮官はおおむね理解している。
しかしこの態度、きっとパーティーまで引きずることだろう。
どうにかして軌道修正しなくては……。
そう考えた指揮官が取った行動はパイタッチ。
「ほらほら、そんなに怒ってるとまたおっぱい大きくなっちゃうよ~?」
「きゃあああああ!! 触らないでください、親父指揮官!」
下から舐めるように触れられたニュルンベルクの巨峰はタプンと波を打つ。
当然、突然された彼女は悲鳴を上げる。
親父臭く「にしし……」と笑う指揮官の頬を打たないのは彼女の優しい性格ゆえか。
最近そこに付け込まれている気がしなくなく、いい加減本当に強気にならなければならないのでは?
とニュルンベルクは近日頭を悩ませていた。
それはそれとして、あからさまに話を逸らそうとしたことは残念ながらバレバレだった。
先程のパイタッチも合わせ、怒ったニュルンベルクは頬を膨らませ後ろへ振り向く。
「ケーキを選んでもらうと思ってきたのに……もういいです。他の二人はカドマツの準備を先にしてくれてるんで、指揮官さんも早く来てくださいね、ふんっ!」
まさかそんな重要な話だったとは……。
足音を立てながら退室するニュルンベルクの背で指揮官はポカーンと口を開く。
「も、モンブランで!」
そして再び一人寂しくなった部屋で指揮官の要望が響いた。
聞き届ける者はもちろんいない。