ここは鉄血に存在する小さな小さな軍港。
その規模はちょっとしたショッピングモール程度しかなく、所属している艦船も三人と非常に少ない。
町までは車で行くにしても少し遠く、軍からの週一回の定期便が生命線とも言える。
それでも彼女らは日々幸せに過ごしている。
「出来たー!」
指揮官がニュルンベルクに蛮行を行っているのとほぼ同じ頃。
雪降る外では元気な声が一つ、喜びを表していた。
幼い身でありながら、歳不相応な長い髪の毛を持つ彼女はツェッペリンちゃん。
その名の通り、容姿はあのグラーフ・ツェッペリンを幼くさせたような姿をしており、性格もどことなくオリジナルを彷彿させる感じがある。
彼女はグラーフ・ツェッペリンを元に建造されたと噂はあるが厳密な建造過程は不明な少し特殊な艦船だ。
その特異な出自からまだ正式実装には至っていないと言う。
そんな彼女がなぜこんな辺境にいるのかはさて置き。
当初は少しとっつきにくい性格だったが、今ではすっかり丸くなり、指揮官とニュルンベルク。そして四人目の住人、ライプツィヒとも仲良く暮らしている。
「本当だ! 可愛く出来たね」
妹であるニュルンベルクとは対照的な金の短髪を持つライプツィヒ級のネームシップであるライプツィヒは膝を折り、優しくツェッペリンちゃんの頭を撫でる。
それが嬉しいのか。寒くて赤くなっていたツェッペリンちゃんの頬は更に赤らむ。
そして今一度、出来上がったそれを二人で見て微笑んだ。
「ライプツィヒちゃん! ツェッペリンちゃん!」
そんな折、防寒具を装着したニュルンベルクが手を振りながら基地内から出てきた。
その声で彼女が来たことを知るとツェッペリンちゃんは一目散に駆けて彼女に抱き着く。
「ニュルンベルク!」
見事なジャンピングダイブに最初は驚いたものの、なんとかキャッチできた。
それも含み、ニュルンベルクは微笑みを見せる。
「遅いぞ、ニュルンベルク! もうほとんど飾り付けが終わってしまったではないか!」
「ごめんごめん。って、うわぁ……ホントだ。すごいね!」
ツェッペリンちゃんが訴えるように彼女の駆けて来た方を見ると立派なカドマツが飾られていた。
ただそれは重桜の門松とは違い、地域独自にアレンジされたもので、重桜の者が見たら首を傾げる事だろう。
しかしツェッペリンちゃんが褒めて欲しいのはそこではない。
意図が読めたニュルンベルクは微笑みに表情を変える。
「カドマツの横の大きな雪ダルマ! 頑張って作ったね!」
「おぉ、流石ニュルンベルク! わかってくれたか!」
そう。二人はカドマツの飾り付けが予想以上に早く終わったので、その隣に雪ダルマを作っていたのだ。
言うほど積もってはいないのでそこまで大きなものは作れないのだが、それでも子供が作ったものとしては大きいに分類されるだろう。
その大きさはカドマツの土台ほどの大きさがあり、余った飾りで可愛くデコレーションされている。
「もちろん我だけじゃなくてライプツィヒも手伝ってくれたんだぞ!」
こういう子供っぽい無邪気さに思わず癒される。
いつか子供が出来たならこういう素直な子が良いな~、っとかなり早とちった考えをしてしまうのはニュルンベルクの悪い癖だ。
現実に意識がない彼女は「そうなんだ~」とツェッペリンちゃんを褒めながら、その頭を優しく撫でる。
もちろんツェッペリンちゃんはなぜニュルンベルクがこんな放蕩と否定を繰り返しているような表情を浮かべているのか理解できないので、笑みのまま首を横に傾げている。
「あぁ、自分の世界入っちゃったかな……」
遅れてやってきたライプツィヒがすかさずニュルンベルクのフォローに入る。
しかしそれでも理解できないツェッペリンちゃんは、ライプツィヒを見て今度は首を逆方向に傾げる。
するとその言葉を聞き、ではなくライプツィヒを見て何か思い出したのか。急にニュルンベルクの肩を揺さぶり告白する。
「あ、そう言えば、そう言えば~!」
「ん~?」
「ライプツィヒ、何回か見事に巻き込まれて雪玉と転がっていたぞ!」
愛らしい無邪気さと同時にその裏側も見せられるのはご愛敬と言うものか。
その一言でニュルンベルクのマイワールドは音を立てて崩れていった。
「え……えっ? そ、そうなんだ……」
だが話が話だ。ニュルンベルクは笑うことが出来ず、一人焦燥する。
もっとも大事に至っていないことは当人を見れば一目瞭然なのだが。
「ツェッペリンちゃん、恥ずかしいから言わないで……」
ライプツィヒは恥ずかしそうに言う。
その声でようやくライプツィヒが近くにいたことに気付いたニュルンベルクは、はわはわしながら問いかける。
「ライプツィヒちゃん! 大丈夫? 怪我とかない?」
「うん、ありがとう。私は大丈夫だよ、ニュルンベルクちゃん」
そんな彼女をライプツィヒは微笑みを見せ安心させる。
互いを名前で呼び合っていることからもそれを伺えるが、彼女たちは姉妹艦ではあるものの、その間柄は姉妹と言うより親友に近い。
旧知の仲ということもあるが、故に仲は深く、互いに少し足りない部分を補っている。
そういうところが認められてか、二人揃ってここの秘書艦に就任している。
「それよりお疲れ様。指揮官さんどうだった?」
その一言で浮いていたニュルンベルクの動きは止まり、抱かれていたツェッペリンちゃんも思わず彼女の顔を見る。
「……ニューイヤーカード書いてた」
「あぁ、やっぱり今年もなんだね……」
ライプツィヒから視線を逸らし告白するニュルンベルク。もう恒例になっていたからか。
ライプツィヒも想像していたようで、苦笑を漏らした。
「あとそれを誤魔化すために胸触ってきたからケーキの種類聞かなかった」
「やっぱり指揮官は助兵衛なのだな」
幼女にそれを言われたら流石に立つ瀬が無くなるのだが、フォローできる言葉が見つからない。
ライプツィヒとニュルンベルクは寒空の下にもかかわらず、冷や汗を流しながら笑うことしか出来なかった。
「……あ、そうだ。ツェッペリンちゃん。カドマツも出来たことだし、ココア入れるから中に入らない?」
「おぉ、ココア! 入る!」
なんとか話を逸らすことに成功し、ほっと胸を撫で下ろす二人。
ツェッペリンちゃんはオリジナルと同じくで知的でときたま三人を悩ませる。
だがこういうところは子供っぽくて扱いやすい。
素直に応じた彼女はニュルンベルクに降ろされ、地に足を付けるとライプツィヒとニュルンベルクに手を伸ばし、二人はその手を握り基地内に戻ろうとする。
しかし未だ動揺は消えていないようだ。
その手には妙に力が篭っており、ツェッペリンちゃんを持ち上げてしまう形になっていた。
それに気付かず、何事もないかのように二人は歩く。
これには流石に無邪気に笑うことは出来ず、ツェッペリンちゃんは淡々とした表情で二人に問う。
「……妾は宇宙人か?」
「あっ……」
「……ごめんね?」
自身らが変なことをしていることに気付いた二人は謝るとツェッペリンちゃんをちゃんと降ろし、ようやく短い帰路へと足を進める。
臆病すぎるライプツィヒはツェッペリンちゃんが怒ってないか少しドキマギして、時たま少女の顔を覗く。だがそれは杞憂だと言うことがすぐにわかった。
「ところでこのカドマツとこないだのクリスマスツリーは何が違うのだ?」
「え? あぁ、クリスマスツリーはマツを、カドマツは竹を使うってところぐらい……かな?」
ふと飛び出してきた質問に数秒遅れ、ライプツィヒが答える。
その表情はいつものもので、彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「んー? カドマツなのにマツじゃないのか?」
「マツも使うよ。でもどうしても三本の竹が目立っちゃうからね。私たちのカドマツは竹を主にしているの」
何気ない話をしているとあっという間に基地内に三人はいた。
指揮官も合わせて四人で暮らすにはとても大きいホーム。遠征も哨戒も出撃もしない彼女らには無用の長物が多いところではあるが、それでも大切なホームだ。
辿り着いた階段前の分かれ道。そこでふとニュルンベルクの足が止まる。
「ニュルンベルク? どうしたのだ?」
ツェッペリンちゃんは不思議そうに彼女の顔を覗く。
そんな彼女は腕時計で時間を確認していた。現在の時刻は十一時。昼食にちょうどいい時間帯だ。
「いや、そろそろお昼の時間だな~って」
本当は未だニューイヤーカードを書いている指揮官を除いた三人でお茶と洒落込みたかったのだが、残念ながらそれは叶いそうにない。ニュルンベルクは少し寂しく笑う。
「あ、ホントだ」
ライプツィヒも腕時計を見て確認する。
それを聞き、今度はツェッペリンちゃんの表情が険しくなる。
「えっ……じゃあココアはお預けか?」
「ううん、そんなことないよ。ココア飲んで待ってよ」
「うん!」
愛らしいやり取りを見てニュルンベルクは笑みを零す。
「じゃあまたあとでね。あっ、ココア飲みすぎてお腹いっぱいにならないでね」
そう言葉を残すと彼女はツェッペリンちゃんから手を離し、手を振りながら調理室へ向かって行った。
残された二人も手を振り返すと階段を昇り、事務室と言う名の居間に向かった。