蝕む思いは年の瀬を越える   作:水瓶トロワ

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#?

「好奇心は猫を殺す。ハッピーエンドで終わりたいならここで戻りなさい」

 

 

 

 

 ここは軍港ではない。監獄だ。

 

 

 

 

 

 数日後

 

 ポストには数枚の手紙が届いていた。

 全て送り主は指揮官の名がつづられており、「あて先、尋ねありません」の判子が押されていた。

 それを手に取ったニュルンベルクは少しその手紙を胸に当て、目を閉じ黙とうした。

 

 毎年、こうである。

 ここで勤めだし、初めての年からずっと、指揮官の出した手紙は同じように宛先不明で返送される。

 無論、そのことは黙って二人は手紙を処分している。

 

 これはイタズラでも上層部からの圧力でもない。

 送り先は現在更地になっており、本当に誰もいないのだ。

 

 〝家族はどれだけ離れてても一緒だと思えば一緒なんだよ。〟

 先日ツェッペリンちゃんに告げた言葉がニュルンベルクの胸に刺さる。

 

 

『私はセイレーンたちを全滅させるために軍部に入った。君たちはその為の武器に過ぎない』

 

 

 ライプツィヒとニュルンベルクが指揮官と初めて会った時に言われた言葉だ。

 ライプツィヒはその言葉に怖気づいてしまっていたが、ニュルンベルクは粛清されること覚悟で質問した。

 

 

『どうしてそこまでセイレーンを憎むのですか? 敵だから、だけじゃないですよね?』

『奴らは私の両親や友人の命を奪った。絶対に許してはいけない存在だ』

 

 

 激しい憎しみだった。きっと今でも指揮官は両親や友人の影を追っていることだろう。

 それなのにあのような軽率な言葉を攻めないのは彼女に記憶が無いからだ。

 

 

『セイレーンの基地を再利用するとはどういうですか!』

 

 

 指揮官はセイレーンのノウハウを流用すること自体嫌っていたが、基地再利用の件で決定的になった。

 軍部そのものに嫌気がさし、クーデターを決行する。

 

 しかしクーデターはものの見事に失敗。

 それでも今までの優秀な成績とその無謀さに感服した上層部は彼女の記憶をセイレーン侵攻前まで、憎しみを抱く前まで消した。

 そしてツェッペリンちゃんの観察を主な任務とし、この軍港という名の檻に監禁した。

 

 彼女は優しい人だった。

 もっとも最初に「君たち」と呼んできた時からライプツィヒはなんとなく察していたようだが。

 

 セイレーンを激しく憎んでいるのに非道になりきれず、自己犠牲の上で成り立っていた作戦が多かった。

 それを責め、喧嘩になったことも何回もあり、クーデターの時もそれを受け入れられなかったライプツィヒとニュルンベルクにより作戦は失敗した。

 しかし命が助かっただけ儲けものだろう。死に急ぐ彼女はそう考えなかったかもしれないが。

 

 時たま三人でお茶をした際、彼女が見せた噛み殺すような笑みを二人は鮮明に覚えている。

 記憶をなくして以降は疑惑が確信に変わった。彼女は歳相応の明るい性格の持ち主だ。

 

 記憶が消され、五年。

 現在のライプツィヒとニュルンベルクは彼女の現状を本部に連絡するが主な任務だが、元々は彼女の秘書艦である。

 

 五年の月日は長かったが動きが出るには良い時間だった。

 指揮官は思い出してはいないものの、徐々に今の状況に気付きつつある。

 招待状やニューイヤーカードを出すのが遅いのもその存在がいないことに薄々気付いているからだろう。

 

 だがこの状況について二人は本部に連絡していない。

 彼女らはいつまでも指揮官の味方だから。

 

 それでも迷う。

 憎しみを忘れておくことが幸せなのか。

 それとも憎しみのまま動くことが幸せなのか。

 来年も、再来年も。きっとこの疑問に答えは出ないだろう。

 

「ハッピーニューイヤー 。貴方の新年が良い年となりますように」

 ニュルンベルクはそう挨拶すると返ってきた手紙を海に捨てた。

 

◇ end

 

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