「宇宙科学技術局にようこそ!」
「こんにちは!お世話になります!」
正面受付で対応している係員へ、
施設内を行き交う人にブルー族の人が多いというのもあるが、初めての場所なので周囲をよく見回していた。
「お子さん、大きくなりましたね」
「ええ、しっかり者の可愛い息子です」
父親のデレ顔はいつも見てるからいいが、受付の男女はどちらも顔が緩んでいる。職場自体は子供に不人気って訳じゃないだろうから、たまたまか?
父親の仕事場に行くまでもまた一苦労だった。3歩も歩けば人に囲まれて、愛想よく挨拶して微笑んで。
父親の使うブースに入る頃には僕も父親も疲れて顔が能面になっていた。
「疲れた」
「僕も」
しばらく椅子と備え付けのソファでぐんにゃりとアザラシ親子していたが、性急なノックで背筋が伸びた。
「どうぞ」
「ジル!緊急だが」
飛びこんできたのは、お、珍しい。鮮やかな赤い体のレッド族だ。
父親が僕を見る前に、背負ってきた小さなリュックからデータパッドを取り出して膝へ置く。
「いってらっしゃい!」
「はーい、いってくるよ!」
ブースから軽やかに父親が出ていく。…で、何でこのレッド族の人はここにいるんだ?フリーズした?
「おじさん、大丈夫?スペースキャット顔になってるよ?」
「
……初めて翻訳がバグったな。だが再起動には成功した。
フリーズしていたレッド族の人もダッシュで出ていき、部屋はようやく静かになった。
何か刺繍の図案を考えよう。
データパッドから絵描きソフトを起動。タッチペンで、シルバーグラスを描く。
しかし、どう見てもクリスタルガラスで作ったススキっぽいんだよね…。前世で箱根の仙石原に行った時の群生も綺麗だったな。
ススキの季節は秋。秋なら紅葉と菊も外せない。紅葉の吹き寄せもいいな。菊も沢山の図案がある。濃い甘い香りの金木犀に控えめな銀木犀。
冬…冬は定番ネタの雪の結晶とか、雪で作るウサギ、南天。シマエナガ可愛いよな。凛々しい水仙。
夏は絽地に涼しげに銀で流水、鮎、花火。紫陽花は色の濃淡が腕の見せどころ。
春、梅に桜。薔薇に牡丹。手毬のような沈丁花。青い空を飛ぶ燕。
はっと気づいた時には大量の図案画がデータパッドのみならず、周囲にも展開されていた。
慌てて全部保存する。もう途中から完全に連想ゲームになってたよ。
いつの間にか戻ってきていた父親もホロ展開した書類を読んでいたが、視線に気づくとこっちを見て微笑んだ。
「ジェイド、沢山描いてたね。描くのが楽しいかい?」
「えと、これは設計図みたいなもので」
説明しようとしたが、僕の腹の虫が鳴いたので施設内にある食堂へ行くことにした。
「さっきの音って何?」
「腹の虫。本当に虫がいる訳じゃないって、あのおじいさんが言ってた」
後半はエレベーターにいた他の人へ向けても言っている。あなたですよ。お腹触って「え?虫?え?」な顔してたあなた。
食堂に着いたが…メニューは何があるのかな?
券売機みたいな機械の表示には【甘い】【辛い】【酸っぱい】【苦い】【肉】【魚】【野菜】【汁もの】とあるが…………これ、メニューって言う?
結論。微妙だった。確かに味はする。でも半固形のゼリーとも何とも表現しようがない物体。
≪うちで食べる方が美味しい…≫と、隣で能面顔になっている父親が溢した。確かにこれは下手すると拒食症になりかねない。けど本格的にテコ入れされるのは何万年後かな…。
食事と書いて半ば拷問を終え、ブースでおやつに持参した林檎を齧る。
図案は描いた。後は染色した絹糸に針と布に刺繍枠を準備しよう。…U40では図案ない状態でよくやったよ。