自主的な謹慎から3ヶ月明け、僕は現在、光の国の近くでまだ扱い慣れないワイヤーでせっせと隕石をスライスしている。
事の発端は、うちの前にガタイのいいレッド族が墜落ー浮遊と飛行がほぼ全国民が出来る光の国の住人で墜落するのは、意識の喪失などの意識障害、もしくは飛び始めの
父親が出勤前にたまたまデータパッドを取りに家に戻ったから無事だったが、運が悪かったらそのままお互い頭突きしていた。その場合は最悪、どっちも死んでいたかもしれない。
父親は職場へ遅刻の連絡、母親には銀十字軍へ連絡してもらい、緊急時対応で都市内を最短距離で突っ切ってくるのを待つ間、細やかながらテレキネシスの練習のつもりでレッド族に回復体位をとらせた。効果があるかは分からない。だが何もしないでオロオロしているよりは、行動した方がいい。
最短距離で突っ切ってくるという事は、マッハで飛んでヴェイパーコーンも出るんだろうか?…飛行してくるルート上にある、クリスタルタウンの窓という窓からガラスが消えた場合、その請求はどこに回されるのかと、思考を斜めにずらして現実逃避に勤しんだ。
スーパーヒーロー着地はなしで、ふわりと優雅に舞い降りた銀十字軍の人はてきぱきと担架にレッド族の人を乗せ、その上からシールドをかけてまた飛び去った。
警らの人も来て現場保存のテープは張られたし、事情聴取は全員受けた。
父親は出勤を諦めてテレワークに切り替え、母親は読書、僕は部屋で糸の扱いを練習していた。
…ジジイときたら、僕が扱いに苦労しているのを知ってて、「
と治ったその日にどこかに飛んでいくし。一体何をとりに行ったんだか。せめてバイオハザードテロはやらかさないでほしい。
不意に家の外に誰かが着地した。ジジイ含む近親者にはいない、重量級の音。何事かと、低視認性フィルムコーティングされた窓から外を覗く。
朝見たレッド族並みのガタイのシルバー族だ。胸にカラータイマーが埋まっているので、星域外での行動もしているらしい。
「母さん、誰か来たの?」
「あらジェイド。うちの息子です。今朝のレッド族の人、うちの3軒隣のアパートの人ですって」
「へー。何で落ちたんだろ?」
玄関にいたシルバー族に顔を見せついでに情報を小出しにする。
「オレもそこが聞きたくて。今アイツ、病院で寝てるから」
意識ないんじゃそりゃ聞けないよな。肩を竦めたシルバー族に内心そう返した。
「とにかく、怪我がなくて何よりです。また何か分かったら連絡……あ、あぁー!」
いきなり叫んだと思ったら頭抱えて「ヤバいヤバい」を連呼し始めたので、母親をゆっくり後退りさせて家に入れ、すぐにドアをロック出来るように構えた。
しばらく何かぶつぶつ呟いていたと思ったら、いきなり目が合った。即ドアを閉めた。
「恥を忍んで君に頼みがある!!」
「残念ですが警ら呼びました」
「キャー!待って待ってせめて話聞いて!人助けと思ってさぁ!」
「このクソ筋肉!うちの母親に情で訴えるとか反則だ!テメェの尻くらいテメェで拭け!」
「うーんさっきとのギャップで風邪引きそう」
「そのまま肺炎拗らせて光に還れ」
かなりの速度で飛ばしていくシルバー族の肩に担ぎ上げられた状態で星の外に出た。30人ほどのウルトラ族ー大体がシルバー、たまにレッドーが何かを待っているかのように談笑しながら浮いている。
「遅刻だぞ。……え?お前、何でブルー族の、しかも子供!?」
中心で浮いていた、恐らくリーダーがーこの人もシルバー族だったーが振り向いて盛大に驚いていた。
周囲がどよめいてあちこちで話をしているが、僕を抱えたままの男が「はい、助っ人です!」と両脇を支えてリーダーらしい人に差し出した。因みに僕の表情筋は仕事を放棄したので能面になっている。
すいと寄ってきたレッド族の女性が「可愛い!よく顔を見せて?」と弾んだ声で僕を抱き上げ、他の人にも見せようと離れた。つい反射で愛想笑い。
「立派な児童誘拐じゃゴラァ!!」
リーダーの綺麗な踵落としが決まった。
「隕石の破砕?」
「うん。主に光の国の外殻に直撃するルートを通る隕石を破砕する、保安部でも非常ーに地味な仕事だ」
「地味でも重要ですよね、いつもありがとうございます」
「優しい…泣きそう…。何でエル、君を浚ってきたあいつな、に連れ去られたのか、聞いても?」
「はい、僕に分かる範囲ですが」
リーダーのスノウさんにレッド族墜落の件から繋がる誘拐を話した。
「……確かに仕事に穴開けるなとは怒ったけど、まさかこんな手で来るなんて。ベル、そろそろ離してやってくれ」
僕を抱き上げてさりげなく離したレッド族の女性はベルさん。あまり表情は変わらないが、やや口角が上がっているので楽しいらしいというのは分かる。
「スノウ、この子スカウトしたい」
「でもまだ子供だ。…悪いけど、隕石破砕が終わるまで俺の近くにいてもらえるか?」
うろちょろしませんとも。
「いつも以上に数多くないすか!?」
「星系内で星が爆発したか、あるいは外から。必ずペアで当たれよ!ダメだった時は声をかけろ!」
光線技がじゃんじゃん飛び交い、割れた破片がそこかしこから飛んでくる。指示を出しながら光線を打つスノウさんの後ろにぴったりくっついて、どこから破片が飛んでくるのを教えて、たまにちょっとテレキネシスの補助も。
「周囲の哨戒、補助、いよいよスカウトしたいな。惜しい」
仕事積まれて過労死マッハになりそうなので勘弁してほしい。
そんな返事をする前に、メンバーの誰かにぶつかりそうになった破片にテレキネシスでコースをずらす。
ずらした破片を誰かが打った光の矢尻が追いかけて、更に不規則に割る。
「めちゃくちゃしんどい」
「つかれた」
語彙ががた落ちしている。ディファレーター光線は変わらず放射されているからエネルギー切れではなく、精神的な疲れだ。でも僕も疲れたし少し頭も痛い。小中学生にして頭痛持ちになるのは嫌だぞ。
「はい、デルタチーム。……は?いえ、了解しました。向かいます。よーし、移動するぞー」
スノウさんが通信にげんなりした顔はしたが、現場に向かう事を了承した。大方、別方面からでかい隕石か。
今のようなデータを基に、隕石を隠れ蓑に敵襲は有り得る。
だが、何の後ろ楯もなければデータもない子供の妄言を提言して、果たして聞いて現場へ
だが何につけても
スノウさんのチームと一緒に飛んだ先で他のチームとも合流、隕石はまだ大分先だと言う割にでかい。
「でかい」
「あれ砕けるか?」
「収束して打つなら誤差修正に観測が」
……まだ不慣れな武装しかないが。
「スノウさん、賭けは得意ですか?」
メンバー内で一番余力のあるエルに僕を抱えさせ、隕石へ接近。手袋を指の部分で分解、最大伸展させたワイヤーで作った輪でフライバイしながら幾ばくか掠め切り、を隕石が砕ける大きさになるまで繰り返す。エルが力尽きたら、飛行は別の人にバトンタッチして、また削る。
リアルタイムレンダリングVRで生身で連続高速飛行しながら隕石破砕とか三半規管ぶっ壊れるな。
合図にエルの腕をぺちぺち叩くと、真っ直ぐ隕石へ向かう。ワイヤー…よしかかった!
「削れろぉぉぉ!」
道路掘るドリルか、チェーンソーに近い!振動がきつい!でも角度を維持しないと削る量が減らない。
まあ、
続けて第2段が突入。大人の面目躍如か、僕が削った量より多いな。ワイヤーが太くて保持しやすい?意見ありがとう。
何回かスイングカッティングした後の多人数での同時収束光線は、威力がえげつなかった。
隕石カッティング後
「この装備いいな!どこ開発?」
「確か、科技局だったかと。切る部分のワイヤーなら、食品や資材の切り分けにも利用されてますよ。でも長さが欲しい時は申請した方が間違いないです」
「手袋は自動でサイズ合わせてくれるといいな」
「カラー展開」
「他の手袋と接続して多方面からスライスとか」
「待ってそれ最高か?」
「サンプルがよく採れる」
「これで誤射率と負傷率が減る!」
…最初より大事になってきたなこれ。身長差故に、頭の上で交わされる率直な意見をベルさんが書き留めてくれている。
後にこのワイヤーソーは保安部が隕石破砕する時の標準装備になったと聞いた。
ジジイはどこへ行ったのやら。