居酒屋メニューっぽいものを考えるの楽しいです。
ディノゾールの個体数云々の話は捏造です。
星域外からの帰還手続きの為にエアポートに到着した時、嫌な予感がした。
「ジェイド君、だね?同行頂けるかな?」
ある特定の一族にしか遺伝しない「角」を備えたシルバー族が優しいが有無を言わせない口調で「お願い」してきた。お願いとは名ばかり、実質は脅しのようなものだ。
おまけに隣にはベルグ並みにゴツい上に目つきのキツいレッド族。間違いなく護衛。僕の光線で狙うなら足の指、目、そして耳。だが人質としての価値なら断然、角の方だ。
「別に構いませんが、バイオハザード引き起こさない為に先に除染しても?」
どうせ逃げたら逃げたで多人数対1の市街地チェイスで疲れが余計増すし、こっちは頭の先から爪先まで油っぽい泥塗れなので落としたい。今だって、エアポート職員が輝く床に不定形の痕を描く泥に卒倒しそうだ。
「構わないよ。ゆっくりどうぞ」
なるべく素早く、かつ洗い残しのないように除染を済ませて戻ると連行された先は、まだ建設中の建物。
急設えの来客用の応接セットに案内され、腰を下ろしてすぐに口を開いた。
「で、ご要件は?」
「君を保安庁から引き抜きたくてね」
「帰る」
椅子から立ち上がる前に護衛が「待て貴様!」と飛んできた。
「止めなさい。…護衛がすまなかった。
手袋の台座から展開、護衛の足から登って首に巻き付いて、蛇のように鎌首をもたげる30ミクロンのワイヤー。だが真打ちは鋼糸の下に潜らせた
19万歳になっても思うが、昔からスパルタすぎだろあのジジイ。訴えたら全面勝利しかないよ。
「個体数を制御する事が未来の為」と、いきなりディノゾールの営巣中の群れのど真ん中にテレポートで落とされ、ミクロンVSオングストローム時間無制限全方面デスマッチ(補給なし)。終わったら解剖学。
舌は素早く静かに、ワイヤーは見せつけるようにややわざと金属音をさせながら台座に納めた。
「君を引き抜きたいと思った理由は、清濁併せ呑む精神、人脈、多様な戦術の知識」
「本件は持ち帰って検討しますお疲れさまでしたお時間ありがとうございました失礼します」
真っ直ぐ帰ってメール返信して爆睡した。
待ち合わせより少し早く居酒屋に入ると、相手はまだ来ていなかった。周囲の建物の入口出口、万一の逃走経路、追跡がいないかを先に確認してきたが、追跡されてはいないらしい。
盗聴が不安だったから居酒屋にした。あと前世にはまだ及ばないが、この店の料理は近辺の中ではまあまあ美味い。
…今までが霞と光食って生きてきたような種族からすれば結構な食い道楽だが、日本人の食事とお洒落にかける情熱を考えればまだ軽い。
「いつも早いなお前」
時間ぴったりに現れた相手ーマグマ星人ーはいつも呆れた顔をする。
「用心し過ぎか?」
「いや、お前のお墨付きなら安心だな」
体質が合わないというより習慣で、注文しておいた薄い酒と茶が来た。茶はせめてもの擬態。
ぬるい薄い酒のグラスは片手でジョッキが結露するまで冷やして渡す。乾杯して喉を鳴らして飲み干した次にはどっこいしょ、の掛け声に続いて、豊かな胸が卓に載る。
周囲の男の視線が集まったので殺気を出す。不躾な視線ほどムカつくものはない。
「あ゛ーーーもうやだ肩凝るし重いし野郎の視線がウザい!!でもお前が助けてくれる…楽…」
今目の前にいるマグマ星人のメレディスは、僕に以前ガチビンタした奴だ。銀河系のあちこちで、高齢者の手伝いや荷物の配送手配に喧嘩の仲裁から、殺しとクスリ絡み以外なら請け負うフィクサーをやってたら、
お互いの話を擦り合わせてみたら依頼人が踏み倒す気満々だったので、「提案があるけど、のる?」「のった!」と返す刀で依頼人をどつき回して以来、不定期にだが飲む飲み仲間だ。
ついでに被検体と書いてテスターとも読む。下着系の話を異性である僕から持ち出すのはどうかと思ったが、色々不自由していたところに持ち出されたテスター話に想定以上に食い付きを見せたメレディスに「話はナシ」なんて闇討ちフラグしかない。
「お袋の書いた配合表があるから糸と場所さえあれば同じのは作れる!というか作った!だから!お前のソレをくれぇぇぇ!」
メレディスの目が血走っているが、下着のテスターの話です。
「引き抜きぃ?それっていい話か?」
唐揚げもどきをフォークで刺してがぶりと噛みついたメレディスが首を傾げた。
「どうかな。違う職種だし、前線系っぽい。フィクサーに何求めてるんだか。開業用としばらく客が来なかった時用でこつこつ貯めてたのに…」
僕は持ち込んだ七味をちょっとつけたイカゲソもどき(これが植物って信じられるか?)を噛みながら項垂れた。色々考えて計画立ててたんだがな。
「どこで開業する予定なんだ?」
「ソル系第3惑星、地球」
「『テッキュ』?」
「『地球』。まだ宇宙公用語の発音が甘いな」
ゆっくり的確な発音で訂正しながら、茶の2杯目をやっと干した。メレディスはいつの間にかネギ入り厚焼き玉子(僕が考案した。いい売り上げみたいだ)と餃子もどき(皮に苦労した)をつまみに濃い蒸留酒のボトルを抱えてちびちび小さいグラスで飲んでいる。
「お前がどっか行っちまうのか…器用で何でも出来て、余計な事は言わないし、オレをスケベな目で見ない」
「メレディス、ほら、茶を飲め。少しペースが早いぞ」
グラスとお茶をテレキネシスで入れ替えながら、そういえばこいつは絡み酒だったと思い出した。
「しぇいろ、しゃけ」
「お茶を飲んだらな。ほら持って」
居酒屋近くの宿の部屋で、アルコール摂取した後に早く醒ます為にお茶を飲ませる。
「ねゆ」
「おやすみ」
隣のベッドで端末を開いて連絡をとりながら、時々呼吸が止まっていないか、吐く兆候はないかと観察している。寝ゲロの心配とか、完全に介護してる気分だ。
≪どうしました?≫
画面の向こうからこっちを見ているのはメフィラス星人、通称ボス。蚤の市で僕が香水瓶を『買った』相手だ。
「メレディスがイビキかいてる」
≪やれやれ。それはいいとして、あなたがヘッドハンティングされたというのは事実ですか?≫
「どこから聞いたんだか。確かにされた。でも検討中」
≪困りましたね。資金と船を提供しますから、他所に逃げませんか?私の部下に欲しいです≫
「船ごと八つ裂きにされたくないからパス、悪いな」
そこで閃いた。情報収集には事欠かない飲食店併設して、店をやろう。
「ボス、地球に物件か土地はある?少しならお金はあるから買い取るよ。2回分の仕立てをロハもおまけ」
≪はえ?≫
翌日。
「そうか、受けてくれるか!嬉しいよ!」
角付きが机の向こう側で満面の笑顔を浮かべている。
「ただ、僕の実技結果はご存じかと思うので、情報収集のような支援業務に努めます。それに、昔から店を持つのが憧れだったんです」
「ほお。どんな店だい?」
「はい、服屋です。同一施設内に飲食店も併設します」
「いいな。いつ着任できるかな?」
「土地の目星をつけてから銀行行って不動産行っていやその前に戸籍どうするかが問題でして現地に定住する以上怪しまれない為には目立たず溶け込むことが重要です銀行にしろ不動産にしろ戸籍がないと非常に難航するのが予想されますおまけに」
「あー、すまない。次の面談予定が」
「では失礼しました」
…ワンブレスで捲し立てるのは疲れた。
後日、僕の手元に届いた書類には「装束部兼支援部」の文字が入っていた。保管庫で見た事がある、くしゃみ1発で崩れそうなボロボロの古典装束を修復しろと?