モデルとなった百貨店は現存しますが、間取りは一部配置や商品を捏造してます。
一応擬態と変装ついでに、言語系も主に英語で喋ってます。
やっと!地球に!来た!
「今まで見た事ない程浮かれてますねあなた」
「そりゃ浮かれるさ。憧れだもの」
「むぐむー」
「あなたは食べ終わってからお喋りなさい。ふむ、いい香りがする団子ですね」
ボスがメレディスの口元についていたあんこをおしぼりで拭っている。
メフィラス星人のボスは、黒に銀混じりの髪に薄い茶色の瞳に銀縁眼鏡のイギリス人っぽい擬態。服は僕が仕立てたトラディショナルスタイルのグレンチェック地の三揃え。ネクタイは綾織。カフスボタンは銀台にエナメルのチェーン付き。
イギリス流の仕立ての場合は腰のラインを絞るのが特徴。
アメリカ流ならあまり腰は絞らず、全体的に長方形。
マグマ星人のメレディスは、ウルフカットの茶色い髪に鋭い青の瞳。…難点だった胸はやはりそのままで、擬態した直後からしばらく項垂れていた。全裸で項垂れるのは止めてほしいけど、今言っても耳には入らないからそっと毛布をかけてしばらく放っておいた。
胸を目立ちにくくする為に、下着も工夫した特別製に付け替えてもらった。
その上から、マニッシュな印象のワイドパンツスーツに歩きやすいローヒール。シンプルな白ニットを襟元に巻いたスカーフで華やかさをプラスした。…醤油こぼさないか心配。
ただ、着物を着たいとなったら君は補正がちょっと大変なんだよなあ。身長170センチもあるとおはしょり作れるか微妙だから、いっそ着丈でいいか。
そして僕は肌の色は青白く、やや赤みがかった茶色の髪に明るい茶色の瞳で長羽織と着物にショートブーツ。鼻筋を横切る薄い傷痕つき。傷痕で印象操作の実験も兼ねている。
「あんたもワイドパンツ?お揃いだやった!」
≪違うって…≫
≪言いづらいですねぇ≫
一応偽名は決めておいた。
ボスは基本そのままの呼び方。書面などにサインする時は「ボイル・スミス」。
メレディスは娘役で「メレディス・スミス」。
僕は現地ガイド役の「
資金は宇宙にゴロゴロしているダイヤモンドをはじめ、多様な宝石類や半貴石を多量に持ち込み、あちこちの質屋や宝石商で少しずつ売った。
お金で懐が温かくなれば、ふらふらと特有の匂いにつられてきんぴらの一字違いが湧く。
大人しくしている事に我慢の限界だったメレディスが止める前に殴りに行ってしまった。千切って投げ、千切っては投げのワンサイドゲーム。擬態で相当セーブされているとはいえ、筋肉モリモリマッチョマンでもない彼女に全員近くの川に投げ込まれ、悲鳴と罵声の耳障りな重奏を奏でている。
「歯応えなかったけど楽しかった!」
「怪獣と比べるんじゃありません」
僕はその怪獣をフルボッコしたり保護する側だけどな。
「メレディス、暴れたからお腹空いたでしょ?」
「うん!」
「少し移動する必要はあるけど、百貨店で食事にしよう」
「事前予習がかなり念入りですね。服装までこんなに手のこんだ作りで」
「勿論!待ちに待った
財布はある!時間もある!やりたい事がある!幸せ!
日本橋の百貨店、玄関にあるブロンズのライオン像を撫でて、店内へ歩み出した。まっすぐ歩いて3ブロック半先を右。
中央エントランスに設置された「天女像」。
「えっ、でかっ!綺麗…色が素敵…」
目付きの鋭いメレディスが、頬を上気させてうっとり見つめている。
「パパ!あんな像欲しい!」
「うちには置けません」
いや置ける「家」ってないって言うか、そもそもあのデカさだから「宮殿クラス」じゃないと無理。
4階まで吹き抜けのうち、3階まである高さに加え、丁寧なメンテナンスも必要。埃溜まりやすそうだし。
好事家の中には家の中にブロンズ像置く人もいるけどな。…価値云々より、僕は地震と床が抜けないかと心配する。
ぶすくれたメレディスに、「大きさは敵わないけど精巧なレプリカがあったよ」と近くのお店の店頭へ呼びよせ、高さが20センチほどの瀬戸の置物を示す。裏側まで丁寧に再現されている。
「こういうサイズなら部屋に置ける!」
「裏側も表側に負けず劣らず華やかだよ。因みにあれ木製」
「木製!?木製であの細かさと色?…え、あの置物、レプリカって事は大きさが違うだけでそっくり…?…こわ…」
前世が日本人としてはそこで怖がられるのも複雑だ。
その間ボスはひたすら像を鑑賞していた。
「さて、地下1階と3階と7階にレストランがあるけど、どこから行く?」
「端から!」
「ダンジョン扱いか。それより胃袋もつ?食事を残すのはダメだよ」
『お待たせしました!天丼をご注文のお客様、てんぷら定食と、天茶です。熱いのでお気をつけてお召し上がりください』
「この刺身?って生だけど大丈夫?」
「魚は焼いても生でも美味い。食事に関しては日本はプロだ。醤油をこの小皿に、わさびは刺身の上で、花穂も少し。はい、どうぞ」
「……美味しい!」
接客してくれたお姉さん達が少し離れた厨房辺りから心配そうにこっちを見ていたが、メレディスが刺身を食べて笑顔になったら小さな声で「やった!」と喜びの声が聞こえた。
しかし、その後は何故か僕が延々食べさせる羽目に。天丼食べたいんだけどな。……天丼ちょっとあげるから自分で食べようよ。ね?
ボスは天茶に舌鼓をうっていた。
「ケース見て歩いてるだけでも楽しい!マッツ、あれ何?」
「これは干菓子。和三盆という一番上質な砂糖を、職人さんが型抜きして作る」
「え?砂糖?この小さい波や葉っぱも?…食べるのやだ…」
お茶会の話したら頭がこんがらがるだろうから止めておこう。
「そっちのは生菓子。季節の草花がモチーフで、目で楽しんで、舌も楽しむもの。これは菜の花。…ホテルの部屋にお茶はあったから、買う?」
「買う!」
「ここは惣菜を扱っているエリア」
「惣菜?」
「主食のご飯と合わせて食べるおかず。本来は各家庭で作るものだけど、仕事や家事が忙しいと難しいよ。あと自分で作るより楽。作ったら片付けも結構面倒なんだ、これが」
「マッツは平気でやってたじゃん」
「自分は出来ても他の人には出来ない事だってあるよ。僕は素人だからプロには負けるさ」
「ふーん…?」
「ここは何を扱ってるの?」
「牛肉、鶏肉、豚肉。大体の部位はある。それは肉団子の甘酢あんかけ。隣は胡麻と鶏肉のサラダ」
「多すぎて目が回る……」
結局、百貨店を1軒全階層を制覇するには2週間近くかかった。かかった費用?……考えない方がいい。
他にも思いつく限りで色々なお店に行った。炉端焼き、ラーメン、喫茶店、甘味処、居酒屋、お寿司屋さん、鰻屋、焼き鳥屋などなど。
寺社仏閣にもお参りしたし、合羽橋で調理器具のお店にテンション爆上がりした僕に2人がドン引きしたり。
地球時間で1カ月半も食べて、買い物して楽しく過ごしたので、荷造りよりも帰りたくないと拗ねるメレディスを説得する方が大変だった。
帰りたくないのは分かるけど、バスルームに籠るのは勘弁して!