光の国と地球の技術力とは隔絶した差がある。
生半可な装備では傍受する事も出来ないが、念には念を入れて、月の裏側から通信する。
秘匿通信コマンド、念の為にダミーと防壁も噛ませて。
「ゾフィー、今手は空いているか?」
≪やあジェイド。大丈夫だよ≫
「本当だった試しがない『大丈夫』だな。まあいい、先に報告書は送信した。本題はウルトラマンだ。そろそろ肉体的に限界が近い」
≪そうか……。私からも帰還しなさいと言ってはいるんだけど、無視されるしワン切りもされて≫
「構いすぎたからでは?そりゃ無視もしたくなる」
≪君は懐かれてるからいいじゃないか!!……んんっ。それで、私にどうしろと?≫
「
≪彼を被験者にはしないぞ!≫
「しないならそれで結構。最悪、どちらかが死ぬまでだ」
あのゾフィーが絶句した。
「地球の人に随分ぞっこんだよ。だから自分が死ぬ覚悟はあると、打ち明けてくれた。今こうしてバラした時点で、こつこつ稼いできた僕の信頼度は大暴落する訳だが、知らないで来て僕も巻き込まれるのは願い下げだ。被験者にするのは僕も悩んださ。だか回避出来る手段があるなら使えばいい。……どこかと揉めてるのか?」
≪え?≫
「惚けるな。今
≪えぇー…口調変わりすぎ…≫
「時間が押してるんだ。来るのか、来ないのか」
≪行く!≫
「良し。来ないと言ってたら宇宙船に括りつけさせてた」
≪え゛≫
『私は命を2つ持ってきた』
光の国に強制帰還されたウルトラマンは、そのままクリニックに軟禁されたそうだ。通信で助けを求められたが、その後の話の方のインパクトが強かった。
「ハヤタさんの記憶を消したぁ!?」
『ジェイド、声が』
「でかくもなるわ。何でよりによってそういう繊細な分野に手を出すかな……地球に定住してる僕にどう口裏合わせろと言うんだ」
たまに店に来るムラマツキャップは、よくウルトラマンの話をしてくれるが、最近は見かけないな。
まあ、「ウルトラマンの話に興味がある!」と公言したからこそ集まる情報だが、よく考えてみればこれってプライバシーの侵害だよな。キャップは部下が=ウルトラマンと薄々気付いてたみたいで、誰かとは特定出来ないような話になっていた。
でも本人が店に来ては事情聴取して宇宙警備隊へ報告書出してるから、キャップの話を聞きながらズルしてる気分になってくる。今のとこ話を聞きながら受け答えでボロを出したことはない。
しかし記憶か…。
よく紐付けされる組み合わせとしては、香り、光。
古い箪笥の防虫剤の香りがする着物の模様や手触り、カレーの香りと笑顔。
フィクションではよく消した消したと言うけど、そんなに簡単に消えるか?21世紀になっても未だに全てが解明しきってないのが脳だよ?
仮に記憶取り戻したら……危険といえば危険だが、自分が当時現場にいた、と確証持てる事がアイデンティティーになる、のか?
ハヤタさん、ますます目が離せないね。監視しよ。
『そこは何とか』
「アドリブ任せって実は結構やっちゃいけないんだけどねぇ?始末書の様式送るよ」
『うぇぇ…』
君が現場で大立ち回りする度に報告書やら何やらで僕の胃もギリギリしてたんだよ。
仮に査問部から
「そういえばご家族には連絡した?」
『……』
「……」
してないんかい!!ああもう世話の焼ける!
「いいから話せ。仮に殺されでもしたら看護師さん達に
…………長官だから開幕肉体言語とか光線技で語り合いとか、しないよね?通信切った後でいきなり心配になってきた。
遠目から透視と耳で声を拾う限り、ハヤタさんはぼんやりする事が多くなった。ムラマツキャップ達は気遣ってあまりウルトラマンの事には触れないようにしているが、早いものでもう1か月が経つ。
偶々を装って近所の和菓子屋に連れてきたものの、あまり食べる気はしないらしい。前に連れてきた時はウルトラマン込みだったが、彼は一口一口が感慨深いと丁寧に味わっていた。
「食欲ない?」
「すみません、連れてきていただいたのに」
溌剌とした青年が落ち込んでいるのが見ていて辛い。
「そういう時もあるよ。これ、キャップ達への差し入れ。ここの草餅は生の蓬を使ってるから、香りがいいし、美味しいよ」
真相を全部知っているけど、僕は君に教えられない。ごめんなさい。
あと、もしかしたらそのうち、いつになるかは分からないけど君に心底から惚れ込んだ銀と赤の流星が星雲から飛んで来るかもしれない。
その時は、再会に抱擁するなり平手打ちしてから泣くなり、好きに喜んでほしい。
ウルトラマンがくしゃみをしたかは知らない。でも記憶は返してあげて?