袴履いてバイク跨がるとかっこいい。裾は巻き込んだらアウト。
ゾフィー隊長も愚痴る、多分、きっと。
≪ジェイド聞いてよー。昇進させられたし、おまけにスターマーク付きになった~やだ~≫
「お疲れさま。昇進すると単純にめちゃくちゃ仕事増えるよな」
≪そう、本当にそう!めちゃくちゃ仕事増えた。おまけに会合とか会食とかめんどくさーーい!≫
「めんどくさいよな。星によって礼儀作法や風習が違うし、ここウン百年はいなかったスターマーク付きの若い隊長、そりゃ面倒ごとだらけだな」
≪君んとこ逃げていい?≫
「来る?休暇届けと旅程表を提出するならいいよ。何食べたい?肉?魚?どうせだからウルトラマンと一緒においでよ。地球恋しがってるだろ?」
盗聴プロテクトをかけた個人専用回線なのをいい事に好き勝手に愚痴りながら、僕は枠に固定した半襟に桜の刺繍をしている。小さい花弁を絹糸で丁寧に縫い重ね、糸の色を徐々に切り替えてグラデーションもつける。
ラジオを流しながら作業すると何故か早く出来るっていうのに近い。
≪何作ってるんだっけ?≫
糸を切った鋏の音にゾフィーが反応した。
「桜の半襟。下着の襟を好きな花や季節を先取りしたものに代えてチラッと見せてお洒落を楽しむんだ」
人によっては『これ、子供/孫が買ってくれたの!』と話したいが為にわざと少し広めに半襟を見せる、なんて事もある。褒めてほしい、気づいてほしいのはとても分かるが、それ何て誘導尋問。
「ただ、襟って洗い替えしないと汗やら何やらで不潔になるから、うちのはちょっと細工する」
他所より工夫しないと生き残れない厳しい業界です。
半襟の端と襦袢にスナップボタンつけるか、マジックテープでバリバリするかは買った人に選んでもらって、僕が現場で縫い付ける。お得意様相手に訪問販売した場合もその場でやる。
こっちは少額の材料費を負担してもらう、お客さんは細かい作業をお任せでお互いwin-win。今は若くても、将来的には針の穴に糸通すのも苦労する事まで考えたサービス展開だ。
そのうち帯のお太鼓までやる事になりそうな予感もする。僕は男だけど、女性の着物でお太鼓作るのって慣れないと難しいし、歳とると腕が上がらないんだよな。…常連さんに聞いてみるか?
≪前から思ってたけど、君って着眼点が面白いよね。ワイヤーソーも最初は人気なかったけど、スノウ班が他の人の前でバンバン隕石スライスしてプレゼンしてたよ≫
「スノウさん有能だ。現場でプレゼンしてみせるのは分かりやすくていいんだよ。そんなに沢山売り込みしてくれたなら、うちの営業部長って事でお給料出しても雇いたいな」
≪いいよー、名目何てつけようか?≫
「賞与、とか?…地球基準だと1か月から2.5とか3まで幅あるけど、沢山売り込みしてもらってるから3だな」
月4万4400円の3がけを更にウラー換算、占めて3996万ウラー。指定口座に送金。
≪…私や君には今更見慣れた額だけど、スノウさんが卒倒しないかな?≫
「あ」
慣れって怖い。
≪話は全く変わるんだが、ちょっとみてほしい相手がいてね≫
「見るって、どういう意味で?観察か、透視?透視しながらの浮遊と尾行はキツいんだがな」
≪いや、そういう意味じゃない。…知人の息子さんなんだが、恒星観測員で太陽系の軌道図の作成の為に現地入りしたい、というかしそうというか≫
「うちが通信中継地になるのか。……ん?しそう?」
≪ごめん、もう入ったって本人から……ほんとごめん……≫
財布と筆記用具とメジャーを掴んで、馬乗袴の裾をマジックテープで巻いて止め、草履をブーツに履き替え、バイクを飛ばしていざ富士山!!間に合うように途中でワープしよ。
基地近くの公衆電話からウルトラ警備隊に電話をかけ、駆けつけたMPに左右から挟まれながら入口まで移動。
「長川さん!?君たち、すぐに彼を離すんだ!いや驚いた。随分早いですね」
「ヤマオカ長官、大丈夫です。彼らは至極真面目に職務をこなしただけですよ。ちょっとお耳拝借したい事が」
「ああなるほど、ダンの事でしたか!いやはや、あなたの力添えもあればとても助かります!」
僕が繋ぎつける前に入隊とか、どうやって身元調査を誤魔化す気だったんですかねぇ…?むしろ入隊のきっかけを今聞いて、冷や汗と胃痛が止まらない。本当によく撃たれなかったな!?
というか定期検診どうするんだ。僕みたいに
「会って行かれますか?モロボシくん、君にお客さんだ。こちらはうちの制服を一手に取り仕切る、長川さんだ。とても腕のいい職人さんだよ」
「はじめまして。では採寸しますよ。制服の件ですが、なるべく早く用意した方がいいですね?今日計測して…往復約4時間半の移動も含めると、明日の朝になります」
途中でワープするからちょっとは時間に余裕があるが、それでも結構タイトなスケジュールだ。
同時進行で市役所のケムール星人に連絡。
「相変わらず仕事が早いねぇ。ついでに、部屋に置く日用品も買いに行ってきなさい」
「なら制服の仮置きもあるので彼を店に泊めてもいいですか?仮入隊早々に外泊ですが、何か用意する書類とか」
「いやいやいや私がやっておきますよ!さ、どうぞどうぞ」
ダンが会話のラリーについてこれずにきょとんとした顔になっているが、話が早い人は好きだ。店を出て2時間以内でダンもとい恒星観測員340号の拉致捕獲に成功した。
「さ、逝こう行こうか?」
笑顔で促したら2段くらい顔色悪くなったけど、元はといえば報連相なしに地球に来た君が悪いんだぞ?
帰りもワープして、店に着いて早々にゾフィーに繋いだ通信室にダンを放り込み、すぐ後ろで制服を仕立てていく。
兄2人にこんこんと説教されて、ダンが精神的にぼこぼこになったところで「時間がないから店屋物で悪いけど、ご飯にしよう」と一時休止。
ただ休憩するだけじゃなくて、箸使いや食べ方をチェックする時間でもあるけどな!とりあえず変な癖はなくて良かった。
風呂やトイレなどの細々した事まで教えながら仮置きは完了、布団に放り込み、呑気な寝息を聞きながら運針。
翌日にしつけ糸付きの制服と日用品を抱えさせて警備隊前に置いてきた。
口を酸っぱくして体の調子が悪くなったり、他にも相談したい事があったら、テレパシーでも電話でもかけるようには言ったが、ちゃんと話聞いてたか?
「長川さーん!」
……半ドンとかで来たんだろうけど、徹夜明けに見たい顔じゃないんだよなぁ……。
地球を狙う動きが本格化してきたので、僕自身も深夜に
「そういえばこの間はこういう怪獣を…」
「口述を書くから待て!戸棚に柴舟、薄い小さな煎餅みたいなのがあるからそれを食べててくれ。全部食うなよ!?」
「あ、長川さん!」
「ダン、今はパトロール中か。ソガさんもお疲れさまです」
「ダン、アンヌさんは素晴らしい才媛だな」
「そう、才媛の上に優しくて可愛い…ちょっと!鎌かけたんですね!ん?こっち見てないのに何で?」
「君を観察していれば分かるよ。瞳孔の拡大、脈拍の上昇、何より表情と視線。非常に読みやすいね」
ついでに僕の向かっている作業机の向こう側に全身鏡がある事も教えてあげた。
「ダン、僕のウルトラ族としての名前は、ジェイドだ。君の前に現れたウルトラマン、彼の出現より25年も前から準備していた。
念力使いは久しぶりに見たな。そのうち本国に帰れたら手合わせ願おうかな?僕も念力使いだから、対戦するのが楽しみだよ」
「ダンが怪我を?……ええ、手術する必要ありですね。分かりました。そちらへ行きます」
≪ゾフィー!至急で救命艇と銀十字軍を地球の大気圏外に待機させてくれ!セブンは帰る分までエネルギー使いきる勢いだ!≫
「馬鹿が、体調不良は隠すなって言ったのに…!」
≪セブン、今から言うポイントに行きなさい。帰る体力すら残ってないじゃないか、馬鹿なことして≫
飛んでいたセブンがぐらりと体勢を崩した。
「ぐっ!しょうがない、エスコートするよ」
心配だったのでセブンのやや下を並走していたが、もろに背中に降ってきた形だ。半ば背負ってランデブーポイントへ飛ぶ。というか背中が熱い!
あ、銀十字軍の人だ!搬送お願いします!
確か、盗聴した地球のメディカルチェックでは脈が360回/m、血圧400mmHg、体温90℃。体温計が爆発しなかっただろうか。水銀計は回収が大変だよ。
救命艇に押し込んで銀十字軍の看護師さんと情報共有している間に、セブンはうっすらと目を開けてこっちを見ている。
頭を撫でて、「セブン、国に帰って、ゆっくり休め」と優しく耳元に囁くと目が閉じた。
「いらっしゃいませ、友里アンヌさん」
「え?どうして私の名前を?」
「特徴的な消毒薬の匂いと、右手の書き物の跡、きびきびした歩き方、それに以前街でダンと一緒にいたのをお見かけしたので。……不躾ですが、少しお痩せになりましたね」
「ええ。……あの、ダンから、何か連絡は。最後の時はあんなにふらふらだったので」
「え?手術の話があったので基地にバイクで向かっていたんですが…またどこに行ったのかあいつは…」
「また会えますか?」
「会えますよ。きっと。連絡があったら一番にあなたに連絡します。約束ですよ」
≪セブン!!今日アンヌ隊員がうちの店に来たぞ。痩せて目が赤かったし、顔色もあまり良くなかった。添付した画像を見ろ。いいから彼女に会え。
≪アンヌ…!≫
やれやれ、やっと飛んだぞ。…………お膳立て、めちゃくちゃ疲れた。体調が回復したのに会いに行こうとしないから、長官と参謀とソガさんとアマギさんとキリヤマ隊長を巻き込んで、こんな遠回りをする羽目になった。フルハシさんには運転手を頑張ってもらった。
「……仕事しよ」
恒星観測員340号が体調不良をおしてまで出動、円盤の護衛だった双頭怪獣、現地呼称「パンドン」との2度の戦いは、セブンが所属していた現地警備隊「ウルトラ警備隊」からの火力支援もあり、撃退に成功。
しかしセブン本人の衰弱が著しく、本国までの超長距離飛行及びワープ航法には肉体への負担が大きい為、銀十字軍の派遣と救命艇による搬送を具申、承認された。
尚、セブンの体調が回復した暁には、地球での一時的現地調査任務が予定されている。
地球時間○月○日送信