PSO2外伝 仮面ライダーオラクルズ-Side:ArMS-   作:矢代大介

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File.01〈Weiß Granz〉 前編

 

 

《アークス各員へ緊急連絡! 現在、アークスシップ44番艦〈ホレイトス〉が、ダーカーの襲撃を受けています! 出撃可能なアークスは直ちに出撃し、ダーカーの殲滅に当たってください! 繰り返します――》

 

 その日舞い込んできた任務は、突然の、しかしいつも通りの任務だった。

 

「クソッ、せっかく仕事終わりのアニメ鑑賞としゃれこむつもりだったのに……!」

「まったくです! せっかく新しい衣装を試そうと思ってたのに、台無しですよ!」

「それが任務、仕方ない。……でも、限定メニュー、食べたかった」

 

 強いて違いを上げるのならば、その日の「彼」の脳裏に、ぬぐえない一抹の不安がよぎり続けていたこと。

 

《テレパイプ座標固定、接続完了。乗組員は、順次出撃をお願いします》

「ま、ダーカーが空気を読まないのは、今に始まったことじゃないか」

「ですね。こうなった以上は仕方ないです。ぱぱっと終わらせて帰りましょう」

「賛成。じゃ、早く行こ」

「そうしよう。――出撃するぞ!」

 

 それが、「彼」にとっての運命の分岐点であることは、誰にも知りようは無かった。

 

 

 

 

 Phantasy Star On-Line 2 The Another History

  Masked Rider Oracle's -Side"ArMS"-

 

   File.01 〈Weis Glanz〉

 

 

 

 

 

 

 黒く煙る仮想の空を、青白く輝く流星たちが、鋭く切り裂く。

 3つの流星は軌道を同じくして、アークスシップ「ホレイトス」が擁する市街地の一角へと着弾。光の奔流(ほんりゅう)と共に、三人の人影をそこに現出させた。

 

「――分隊各員、展開完了。コネクトよりオペレーターへ、状況を教えてくれ」

 

 先んじて立ち上がり、戦いの爪痕を刻まれた街並みを睥睨(へいげい)しながら、「コネクト」と名乗った青年が、耳裏のマイクロインカムへと声をかける。

 

《オペレーターより現地へ。現在、そこから3ブロック北方向にてダーカーの反応があります。対処に当たり、殲滅をお願いします》

「了解した。――というわけだ。二人とも、準備は?」

 

 通信を切ったコネクトは、その場で振り返り、背後に立つ二つの人物を見やる。

 

「問題ありません。私はいつでも行けますよ」

 

 先んじて返答するのは、肩まで伸ばした金髪と翠眼を持つ、デューマンの少女。フォトン感応力を高める高露出の戦闘服を身に纏う彼女は、その手に握ったアサルトライフルを、自慢げに掲げてみせた。

 

「索敵完了。この数なら、わたしたちだけでも対処は余裕、だと思う」

 

 続けて推論を口にしたのは、真っ白な長髪と青い瞳を持つ、キャストの少女。機械の躯体に、光沢のある装甲で構成される戦闘装束に身を包み、腰に下げていたウォンドを、静かに抜き放った。

 

「了解。戦力比較はこちらの方が上、か」

 

 白髪の少女が伝えた分析結果を受け、コネクトは目的地の方角を見やる。風に揺れる濡れ烏色の髪の下では、鮮やかな金に輝く瞳が、静かに彼方を見つめていた。

 

「それで、方針ははどうしますか?」

「わざわざ分散して戦力を目減りさせる理由もない。全員で固まって、集中攻撃で一気に殲滅するぞ」

 

 そう答えながら、コネクトは背に吊った得物の柄を握る。

 実体刃に薄いフォトンコートを施し、剛性と切れ味の両立をコンセプトにしたソード「コートエッジ」を、音高く抜刀。

 

「よし――作戦開始だ!!」

 

 高らかに発された号令と共に、三人のアークスは同時に地を蹴った。

 

 

 

***

 

 

 

「はあぁぁッ!!」

 

 黒金色のコート型戦闘服を(ひるがえ)しながら、青年――コネクトが疾駆(しっく)する。

 焼けた鉄を思わせる、明るいオレンジ色の軌跡をたなびかせるコートエッジの切っ先が、漆黒の体躯を持つ異形(ダーカー)を捉え、両断。ザンッ! という快音を遅れて響かせながら、また一体のダーカーを塵に帰してみせた。

 

「■■■!!」

 

 耳障りな咆哮をあげ、続けて襲来する無数のダーカーたちを危なげなく回避しつつ、コネクトは手にする武器を換装。コートエッジと同じ意匠を持つ二丁の大型拳銃「コートバレル」を取り出した。

 

「失せろッ!!」

 

 体勢を立て直したコネクトが、再び大地を蹴り、加速。中空で身体をひねりながら、コートバレルのトリガーを引き絞り、周囲一体めがけて無数の弾丸を叩き込む。

 嵐のような弾丸の乱舞は、コネクトを襲ったダーカーたちへと着弾。異形たちのことごとくを削り、穿ち、吹き飛ばしていく。

 ザリッ、と戦闘服のブーツを鳴らして着地すれば、そこに残るのは、塵芥(じんかい)に帰していくダーカーの残骸だけだった。

 

「D因子汚染係数、規定値へ回復――殲滅完了。二人とも、そっちはどうだ?」

 

 殲滅完了を確認したコネクトが無線に呼びかけると、ほぼ同じタイミングで、別々の方向から衝撃音が響く。

 かたや銃声、かたや爆発によってかき鳴らされたそれが止むと、コネクトが立つ場所のほど近くに、二人の少女が降り立った。

 

「こちらも殲滅完了です。損耗もありませんでした」

「わたしも、消耗は軽微。このくらいなら、なんてことない」

 

 それぞれの言葉で伝えられる報告を聞いて、コネクトは詰めていた息を細く吐き出した。

 

「そうか。……規模の割には、なんてことない数だったな」

「先に殲滅されていたにしても、言うほど激しい攻勢ではなかったですね。拍子抜けだったけど、楽に終われるならなによりです」

 

 金髪の少女の言葉に、コネクトも「違いない」と同意する。

 ――しかしその直後、白髪の少女が眉根を寄せ、険しい表情を見せた。

 

「ッ――エネミーの増援を確認。ここから離れたポイントに複数、同時に来た」

「……はぁ、なんでこうすんなり終わらせてくれないんだろうな。で、数は?」

「この近辺は、四か所。うち二か所は、近場に別の部隊が展開してる。任せていいと思う」

「なら、俺たちが残りに対応だな。2-1で分けて対応するのが無難か」

「賛成。片方の反応が多いから、そっちに多く割くのが良いと思う」

「私も同意見です。……内訳(うちわけ)はどうしましょうか?」

「そうだな……効率的に被害を食い止めるなら、俺が少ない方に向かって、殲滅次第そっちに合流……ってのがベストか」

「異論なし」

「右に同じく、です。こっちは任せてください」

 

 ふっと微笑みを見せながら、金髪の少女が自身の胸を軽く叩く。その顔に不安や憔悴の色はなく、コネクトと少女たちの間に刻まれた信頼関係の深さを、無言のままに物語っていた。

 

「ああ、頼む。さっさと片づけて帰るとしよう」

 

 不敵な笑みと共に軽口をたたきながら、コネクトは踵を返し、二人の少女と別の道へと駆けだす。

 

(――この胸騒ぎが、杞憂(きゆう)だといいんだが)

 

 胸中にわだかまる嫌な予感が現実にならないことを祈りながら、コネクトは足に力をこめ、さらに加速をかけた。

 

 

***

 

 

 しばらく走り続けて、コネクトは仲間の少女が示していたポイントに到着する。

 

「……妙に、静かだな」

 

 周囲を見回し、ぽつりとごちるコネクトの言葉通り、そこは不自然なほどに静まり返っていた。

 情報の通りであれば、ここにダーカーたちが現れたのは間違いないはず。しかし、実際のこの場には、破壊の爪痕や戦火の残り火こそあれど、異形の敵たちの姿はなかった。

 

(あの子の分析が間違ってた、とは考えづらい。となると、考えられるのは――?)

 

 脳裏で思案していたのもつかの間、周囲を警戒していたコネクトの視界に、ふとあるものが映り込む。

 それは、一台のトラックだ。戦火に巻かれて放棄されたのか、車体は派手に横転している。だが、そこかしこに赤々と燃える炎が目立つこの場において、目立った損壊も、故障で吹き上がる黒煙もないまま、ただそこに転がっているという事実が、かえってコネクトの目を引いた。

 訝しむコネクトの耳に、ふと何かの物音が聞こえる。音源は、どうやらトラックの運転席付近らしい。

 

「――放置するわけにもいかないか」

 

 言うが先か、コネクトは迷わずトラックへと接近していく。

 近づいてよく聞いてみれば、それは内側から扉を叩くような音だと判明する。同時に、運転席の中からは、「おーい、誰かー!」という、助けを呼ぶ声も聞こえてきた。

 

「やっぱりか。今助ける、ドアから離れていてくれ!」

 

 精一杯の大声で呼びかけてから、背に吊っていたコートエッジを抜刀する。

 振り抜く位置を確認して、コネクトはぐっと剣を引きしぼると、運転席のドア部分めがけて、横一文字に斬撃。惑星リリーパの機甲種すらなんなく両断するフォトンの刃は、トラックのドアを薄くスライスして、いともたやすくこじ開けてみせた。

 

「っと……大丈夫か、助けに――」

 

 切断したドア口を押しのけながら、コネクトが運転席を覗きこもうとしたその時、運転席からびょん! と人影が飛び出す。

 

「うぉーっ、外だー! いやー助かったよ青年。このまま誰も助けてくれないんじゃないかって結構不安だったんだ」

 

 飛び出してきた人影は、羽織っていた白衣を風に翻しながら、ソプラノボイスで雄叫びをあげる。

 研究者然とした出で立ちと、赤いアンダーリムのメガネが特徴的なその女性は、コネクトの方を見やると、整った顔をいたずらっぽく歪めて笑いかけてみせた。

 ――その頭頂部は、コネクトの目線からさらに下にある。

 どこか色気を醸し出す振る舞いとは裏腹に、飛び出してきた女性は、まるでごっこ遊びに興じる子供のような、小柄な容姿をしていた。

 

「……」

「ん、どうした青年? 私の顔に何かついてるかい?」

「いや……ごっこ遊びにしては凝ったコスプレだなって思って」

「誰が子供だ!!! 私はれっきとした技術開発局の研究員だ!!」

 

 眉根を釣り上げつつ、むんっと張られた胸元には、「アークス技術開発局 プロジェクトAr.M.S研究開発主任 フランチェスカ」と刻まれた研究員証が下げられている。記載されたプロジェクト名に聞き覚えはないが、本物の研究員証を見たことのあるコネクトには、それが本物であることもすぐにわかった。

 

「わ、悪かった。……それで、技術開発局の人間が、なんでこんなところで立往生を?」

 

 ぷりぷりといかにも子供らしい怒り方をする小柄な女性、ことフランチェスカにそう問いかけると、嘘のように怒りのオーラが霧散。額に手を当て、疲れ果てたようにため息をついた。

 

「あぁ、実は……私の属する研究室がこの(シップ)に在ったんだが、運悪くダーカーの襲撃を食らってしまってな。せっかくの研究をオシャカにされちゃたまんない、と思って、どうにかデータのバックアップと、完成していた先行量産モデルの一つだけを持って、急いで逃げてきてたんだ」

 

 言いつつ、フランチェスカは白衣から小さなデータ端末と、何かしらの機械を取り出して見せる。

 

「で、運悪く戦闘に巻き込まれて脱出不可能になったと」

「そういうことだ。お前が通りがかってくれて助かったよ」

 

 肩をすくめて、フランチェスカが苦笑する。言葉にこそ出していないが、自力での脱出が望めない状況に、相当参っていたであろうことは想像がついた。

 

「なるほど、だいたい状況はつかめた。……ところで、そこに書いてある……A(エー)r(アール)M(エム)S(エス)? とかいうプロジェクトはなんなんだ? そんなプロジェクトがあるなんて聞いたこともないんだが」

Ar.M.S(アームズ)プロジェクトだ! ……ふふふ、そうか、気になるか? 気になるだろうな! 何せこのプロジェクトは、これからのアークスに革命をもたらすであろう、極秘裏に立案された世紀の一大プロジェクトだからな!!」

 

 先ほどまでの陰りを帯びた雰囲気は何処へやら、フランチェスカが突然鼻息を荒くしてまくし立ててくる。

 

「ArMSシステム、正式名称は〈Arks(アークス)-Masked(マスクド)-Soldier(ソルジャー)-System(システム)〉。ざっくり説明するなら、高密度に圧縮して結晶化させたフォトンを製錬した装甲合金を身に纏って、着用者の戦闘能力を外から底上げする次世代戦闘サポートシステムだ。超高密度フォトンの鎧を装着することで、物理的な防御力はもちろん、ダーカーどものD因子に対しても圧倒的な耐性があるんだ。加えて、鎧を構成するフォトンの作用は身体能力を底上げしたり、攻撃時の威力を増幅したりすることも可能で――」

 

 静止する間も無く、フランチェスカはマシンガンのように淀みなく解説を並べ立てていく。やや大げさな身振り手振りを交えながら説明する彼女は、どうやら完全に自分の世界に入っているらしく、放っておけばこのまま延々と喋り続けているだろうことは容易に想像できた。

 

「あ、ああ、だいたいわかった、ありがとう。……話を聞く限り、実用化されればかなりの戦力になりそうだな」

「だろう? ……ただ実は、このシステムを使うには条件があるんだ」

 

 数秒前の語勢の強さとは打って変わって、フランチェスカが難しい表情を見せる。

 

「条件? 誰にでも使えるわけじゃないのか?」

「ああ。何せ、このシステムを稼働させている最中は、常に超高密度のフォトンを浴び続けているに等しいからな。適性がない奴が無理に使えば、深刻な悪影響を及ぼしかねない。だから現状、ArMSシステムを満足に扱うには、フォトンに対する先天的な高い資質を持つ奴に限定されているんだ」

 

 解説を聞いて、コネクトもなるほどと得心する。

 便利な薬が過剰に供給されれば毒になるのと同じように、フォトンも濃度が濃すぎると人体に悪影響を及ぼす。フランチェスカの言うような「フォトンに対する高い資質を持つ者」であれば、過剰なフォトンを浴びてもコントロールすることはできるが、それができない普通の人間にとっては、超高密度フォトンというものは毒に等しい存在に他ならないのだ。

 

「難しい問題なんだな」

「ああ。フォトン装甲の精製には、フォトンの高密度圧縮による結晶化は必要不可欠だ。どうにか影響を抑えられるように研究を進めてはいるけど……今のところ、成果は芳しくないんだ」

 

 眉間を抑えるフランチェスカだったが、直後「しかーし!」と言葉を続ける。

 

「その程度でつまづくようじゃ私の名がすたる! 必ずや量産にこぎつけて、その暁にはいろんな奴の〈変身〉を見届けるんだ!! そのためにはまず――」

 

 聞きなれない単語を口にしながら、フランチェスカはマシンガントーク――どちらかといえばマシンガン独り言といったほうが適切かもしれないが――を再開する。

 コネクトとしても新しい技術に興味はあったが、彼は今任務中であり、ここはダーカーの潜む戦場だ。聞き返して引き伸ばした自分にも非はあるが、これ以上長話を続けるのは危険だろう、とコネクトは判断した。

 

「わ、わかったわかった。とりあえず、どこか最寄りのシェルターに――」

 

 避難を促そうとした、その時。

 不意に、コネクトの第六感が、けたたましい警鐘を鳴らした。

 

「ッ!?」

 

 言葉を紡ぐよりも早く、コネクトは反射的に動き出す。

 未だ口を回すフランチェスカを抱え上げ、力の限りその場から飛び退って。

 

 その数刻後、横転していたトラックが、突如として爆煙をあげた。

 

「は――っな、なんだ?!」

 

 遅れて事態に気づいたフランチェスカの憔悴する声を聞きながら、コネクトは周囲を見回す。どこからか向けられた「殺意」の源を辿ると、視線はほど近い場所にあるビルの上へと向いて。

 

 

 

「ちっ――外したか」

 

 そこに立つ、「人影」を見つけるに至った。

 

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