PSO2外伝 仮面ライダーオラクルズ-Side:ArMS-   作:矢代大介

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後編

 

 

「……どういう了見だ。撃つ相手を間違えてるんじゃ無いのか」

 

 予想だにしなかった狙撃者の正体を目にして、コネクトは素早く抜刀し、構える。

 かの狙撃者の意図がいかなるものであったにせよ、この状況がイレギュラー極まるものであることは、考えずとも理解できた。

 

「間違えてる? ははっ、おかしなこと言うな、オマエは」

 

 にたり、と、底知れない不気味な笑みに口元を歪めながら、その人影は軽やかに跳躍し、コネクトの眼前へと降り立ってみせる。

 その手に握られていた一振りの銃剣(ガンスラッシュ)が冷たい輝きを放ち、静かにコネクトへと突きつけられた。

 

「オレの目にはごまかせないぜ。――お前が、クローンだってことはよ」

「……何?」

 

 まるで予想だにしていなかった言葉を耳にして、コネクトは思わず眉を顰める。だが、襲撃者はコネクトの様子をまるで意に介せず、独り言のように言葉をつづけた。

 

「とぼけても無駄だぜ? 俺の目にはお見通しなんだよ」

「へえ、随分な節穴もあったもんだな。D因子反応の有無も調べずに、よくもまぁ適当な結論を出せるもんだ」

「反応を調べる? 必要ねーよ。オレはな――〈力〉を手に入れたんだよ」

 

 力? とおうむ返しに聞き返すと、襲撃者はその顔に貼り付けていた笑みを、一層強く歪めた。

 

「あぁそうだ。力だ。――この力はいいぜ。誰にも負ける気がしねぇ。今のオレは、何だってできるんだよ!!」

 

 不意に、襲撃者が大仰な動作で、両の腕を大きく広げてみせる。

 ――直後、コネクトの耳元から、突如としてインカム越しに大音量の警報が鳴り響いた。

 

「ッ、D因子反応……?!」

「気をつけろ! 反応の出所は、そこの変なアークスだ!」

 

 近場の瓦礫に身を隠していたフランチェスカが警告を飛ばすのと、ほぼ同時。

 

「見せてやるぜ、オレの本当の力をよぉ!!」

 

 哄笑する襲撃者の全身から、ぶわりと「闇」が吹き上がる。

 高濃度のD因子が具現化した赤黒い霧は、襲撃者から滲み出ると同時に、絡みつくようにその全身を覆って行く。

 まるで、襲撃者を(よろ)うかのように渦巻いたD因子の霧が、襲撃者を覆い尽くしたその直後、弾け飛ぶように濃霧が霧散。

 

「ヒハハハハ!! ブッ壊してやるぜェ、何もかもなァァーッ!!!」

 

 渦巻く闇の中から現れたのは、奇怪に変質した外皮で覆われた、異形のヒトガタだった。

 

「アレは……なんだ?! 単なるD因子の侵食で、あそこまでめちゃくちゃな変質なんて起こらないはずだぞ!?」

 

 瓦礫の向こう側で、フランチェスカが驚愕の声を漏らす。

 D因子の侵食を受けた生物は、総じて生ける屍のような存在となる。体表に侵食の証である侵食核が生まれることこそあれど、侵食対象を異形へと変貌させるケースなど、これまで一度たりとも確認されていない。故に、フランチェスカは驚きを隠せなかったのだ。

 

「イレギュラーってことか。くそっ、面倒な……!」

「構えろアークス! すぐに仕掛けて来るぞ!!」

 

 フランチェスカの警告よりも早く、異形の怪人と化した襲撃者が跳躍。コネクトめがけて、大上段から強襲を仕掛けてきた。

 

「ハッハァーーーーッ!!!」

「ッ――」

 

 振り下ろされた鋭利な爪と、抜刀したコートエッジの切っ先が交錯し、盛大な火花が周囲を照らす。

 

「ぐぁっ!?」

 

 だが、自由落下の勢いを乗せた一撃は、コネクトの想定よりもはるかに強い。コートエッジごと吹き飛ばされたコネクトの身体は宙を舞い、ドガシャ! と瓦礫に突っ込んでようやく停止した。

 

「う、ぐっ……なんて、馬鹿力だ……ッ」

 

 万全を期した防御でなかったとはいえ、踏ん張る体勢を取っていたコネクトを、いともたやすく吹き飛ばすほどの怪力。人と変わらない体躯から生み出される、けた違いの破壊力に、コネクトは冷や汗をかいていた。

 

「もう、一撃ィィィーーッ!!」

 

 コネクトの健在を確認してか、怪人が再び突っ込んでくる。

 どうにか体勢を立て直したコネクトを襲うのは、目にも留まらぬ速度で繰り出される乱打。一撃で成人男性の身体を軽々吹き飛ばすほどの威力を持つ拳が、脚が、続けざまにコネクトを襲う。

 

「ぐ、おぉぉ……ッ!!」

 

 コートエッジの巨大な刀身を盾に防ぐコネクトだったが、一撃を食らうたび、その立ち位置はわずかずつ後退していく。

 

「ウラァァッ!!」

「ぐっ――?!」

 

 フィニッシュとばかりに叩き込まれた重い一撃が、盾となっていたコートエッジを、天高く弾き飛ばす。

 たたらを踏みつつ後退するコネクトの視界の端に、地面へ突き刺さるコートエッジが映り込んでいた。

 

「く、そっ」

「ハッハァーーーーッ!!!」

 

 

 真っ直ぐに突撃してくる怪人を前に、コネクトは武器を換装。

 コートエッジと同じ意匠を持つ特殊な投擲用の導具である「コートタリス」を手にした。

 

「大人しく――しろっての!!」

 

 振りかぶったコートタリスから、高速回転する鮮やかなオレンジの光刃が放たれる。

 風切り音と共に怪人へと飛びかかったそれらは、着弾と共に怪人へと絡みつき、断続的にダメージを与える凶器となる――はずだった。

 

「しゃらくせぇッ!!」

 

 怪人が、おもむろに激しく身を震わせる。

 すると、怪人に絡みついていた光刃が、パキン! と儚い音を立てて粉砕されてしまった。

 

「なっ……?!」

 

 一切のダメージを与える事すら敵わず、攻撃が無効化される。あまりに非常識な光景を目の当たりにして生まれた数瞬の硬直が、致命的な隙となった。

 

「ウラァッ!!」

「が――」

 

 気づけば、コネクトの頭を目掛けた蹴りが、目前にあって。

 次の瞬間、彼の身体は、元合ったはずの場所から遠く離れた所に、倒れ伏していた。

 

「う、ぐっ……!!」

 

 身にのしかかる途方も無いダメージが、身体のコントロールを奪っていく。

 たったの、二撃。たったのそれだけで、いともたやすく戦闘不能ギリギリまで追い込まれたという事実。かの怪人の戦闘能力は、これまで戦ってきたどのエネミーよりも驚異的だった。

 

 ――敗北の文字が、コネクトの脳裏をよぎる。

 アークスにとって、敗北とはすなわち死を意味する。ノックアウトされ、地に伏したコネクトは現在、死の淵に立たされているも同義の状態だった。

 

「クハハッ……オラ、どうしたよォ? これで終わりなんてつまんねーこと言わねェよなァ?」

 

 遠くから響いてくる、人ならざる者が近づいてくる足音。その主が、倒れたコネクトを確実に葬り去ろうとしていることは、火を見るよりも明らかだった。

 

(――冗談じゃ、ない)

 

 それを認識したコネクトは、胸中で吐き捨てる。

 

(こんなところで、死んでたまるかよ……!!)

 

 生への渇望を無言のままに叫びながら、コネクトは弛緩した身体にむち打って、ゆっくりと身を起こしてみせた。

 

「へっ、そう来なくちゃ。簡単に壊れてくれちゃ、力の見せようもねェからな」

 

 歴然たる実力差故か、怪人はコネクトの再起を止めようとはしない。

 癪な話ではあったが、今は四の五の言っている場合ではないのが現状。その慢心にあやかって、今は体勢を立て直すことに注力した。

 

(さぁどうする。考えろ、俺)

(少なくとも、奴はまともに戦って勝てる手合いじゃない。あの身体能力も、一撃の重さも、ただのエネミーとはケタ違いだ)

 

(チカラが要る。奴に追いすがって、渡り合って、勝利できるチカラが)

(だけど、そんな都合のいいチカラなんて、ここには無い。どうにかして、市街地の兵器の一つでも使えれば――?)

 

 思案を巡らせる中、不意にコネクトは数刻前の会話を思い出す。

 

《着用者の戦闘能力を外から底上げする次世代戦闘サポートシステムだ》

《身体能力を底上げしたり、攻撃時の威力を増幅したりすることも可能で――》

 

 長い話だったので、内容は断片的にしか覚えていない。だが幸いなことに、その大まかな概要は、コネクトの頭の中にしっかりと残っていた。

 

(大博打になる、か。――上等だ)

 

 過ぎる葛藤は、一瞬。

 直後、コネクトは腹に力を入れ、近隣に潜んで退避しているであろう少女に向けて呼びかけた。

 

「フランチェスカ!!」

「な、なんだ! どうしたアークス?!」

 

 返答の出所は、思っていたよりもはるかに近い。どうやら、怪人に吹き飛ばされたおかげで、フランチェスカの近くまで移動させられていたようだった。

 

「アレが欲しい。さっき言ってた、あの戦闘サポートシステムとか言う奴を。――持ってるよな?」

「え? あ、あぁ、持ってるけど、それがどうし――――っ!?」

 

 どうした、とまで言いかけたフランチェスカが、ハッと息を呑む。

 

「ダメだ! 説明しただろう、これを使うには適性が要る! 事前の診断もなしに使えば、どんなリスクが降りかかるかもわからないんだぞ!!」

「ああ、わかってる。――だけど、何もできないまま死ぬよりは、万倍マシだ」

「無謀すぎる! そんなの、自殺志願者のやることだ! お前は、命が惜しくないのか?!」

 

 叫ぶフランチェスカの声音は、憔悴と悲痛に満ち満ちている。それはすなわち、その戦闘サポートシステムが孕むリスクの危険性を示す、紛れもない証左でもあった。

 

 しかし、コネクトは引き下がろうとしない。ふ、と小さく漏らした笑いに釣られてか、彼の口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。

 

「バカ言わないでくれ。俺は、死ぬなんてまっぴらごめんだ」

「なら――!!」

「だからこそだ。俺は、俺の命が惜しい。だからこそ俺は――生き残るために、戦うんだ」

 

 彼の戦う原動力。生物が元来持つ本能からなる生存欲求を糧に、コネクトは毅然とした表情で告げる。

 静かな声音だったが、その言葉に宿る意志は、固く、重い。確かな手ごたえと共に紡がれたその確たる意思表示は、フランチェスカの心を、確かに動かした。

 

 数瞬、フランチェスカが逡巡する。

 だが、くっと唇を引き結び、顔を上げた彼女は、白衣のポケットから二つの機械を取り出し、コネクトめがけて投げ渡した。

 

 硬質な音を立てて、コネクトの手に機械――彼女の言うところの「戦闘サポートシステム」の根幹をなす物であろう装置が納まる。

 一つは、カートリッジ型の記録メディアとよく似た造形の機械。そしてもう一つは、それを装填するための物と思しきスロットが付いた、ブレスレット型のデバイスだった。

 

「……ブレスレット型のデバイスが〈アークスアーマライザー〉。もう一つのカートリッジが〈データドライバ〉だ。私の言う通りに装着して行け!」

「ああ!」

 

 フランチェスカの言葉を受けて、コネクトが体勢を立て直す。

 強烈な攻撃を受け、その身体には看過できないダメージが刻まれている。だが、コネクトはそれを生存本能から成る気合でねじ伏せ、両の足に力を込め、敢然と立ちあがってみせた。

 

「アーマライザーを手首に巻け! 生体反応を認証して、自動でシステムが立ち上がる!」

 

 指示に従い、コネクトは左の腕に、アークスアーマライザーと呼ばれたブレスレット型デバイスをあてがう。

 すると、アーマライザーからかすかな電子音が鳴り響いた後、本体下部から固定用のバンドが射出。意志を持っているかのように、ぐるりとコネクトの腕に巻き付いたと同時に、《Armoriser(アーマライザー) Start(スタート) up(アップ) !》という合成音が響き渡った。

 

「次は、ドライバを起動しろ! 取り付けてあるスイッチを押せ!」

 

 データドライバと呼ばれる機械を右の手に握り込み、スターターと思しきスイッチを押しこむ。

 幾ばくの間も置かず、データドライバから起動音が鳴り、《Empty(エンプティ) driver(ドライバ) Stand by(スタンバイ)!》という合成音が発された。

 

「次は?!」

「アーマライザーにドライバを装填して、アーマライザー側のスイッチを押せ! お前に適性があるなら、お前は〈変身〉できるはずだ!!」

「変身……よし!」

 

 言葉の通り、アーマライザーに空いた装填孔へ、データドライバを差し込む。

 《Armament(アーマメント) Ready(レディ) ?》と、問いかけるような合成音が鳴り響いた後、今度は起動コマンドの受付状態になったことを示すように、どこかチープで、軽快な待機音が流れ始めた。

 

 覚悟はいいか。まるで、装着社の覚悟を問うて来るかのような、そんな文言。

 胸中で、その言葉をわずかに反芻したコネクトは、不敵な笑みで、小さく口元を歪めて。

 

 

 

「――――変身!!!」

 

 アーマライザーのスイッチを、勢いよく叩き押した。

 

 

 

 

 直後、アーマライザーを起点に、コネクトの周囲に、強烈なフォトンの奔流が巻き起こる。

 

「ぐ、ぉッ……!!」

Initialize(イニシャライズ)...Confirm(カンファーム) Conformity(コンフォーミティー)

 

Rebooted(リブーテッド)――Armorise(アーマライズ)!!》

 

 だが、再び合成音が響いたその直後、青白く輝くフォトン流が、その流れを急激に変動させる。

 コネクトもろとも吹き飛ばさんと荒れ狂っていた光の嵐が、まるでコネクトを主と認め、その身を守るかのように、彼の周囲を包む。さらにそれだけでは飽き足らず、フォトン流はコネクトの身体に巻き付くかのように、その軌道を変化させた。

 

 視界すら阻まれるまばゆい奔流の中、コネクトの全身を纏っていた嵐が、次々にその形を変えてゆく。

 腕を、脚を、胴体を、次々に実体が包み込む。それらは、コネクトの知覚に確かな硬質さを伝えつつも、まるで重量感を感じさせないほどに軽やかだった。

 実体化してゆく光は、彼の頭部まで及ぶ。ひと際強く輝いた光は、コネクトの頭部をすっぽりと覆う、ヘルメットのような形状となって実体化した。

 

 

 時間にして、わずか数秒。その時、光の奔流が、内側から破られる。

 

 

 

《『Weis(ヴァイス) Ganz(グランツ)completed(コンプリーテッド) !!》

 

 ――そこに立っていたのは、青白いフォトンの光の元、純白の装甲を纏った、鎧装束の戦士だった。

 

 

 

「何……?」

 

 ことの成り行きを、面白い見世物のように見物していた怪人が、初めて動揺の声を漏らす。

 対照的に、白い鎧の戦士の背後にいたフランチェスカは、驚きと歓喜が複雑に入り混じった笑みを浮かべていた。

 

「やった……! やった!! おいアークス! 成功したぞ!!」

 

 喜色満面なフランチェスカの声に釣られて、白い鎧の戦士――ことコネクトが、改めて自身の姿を確認する。

 コネクトの全身を包むのは、光を受けてきらりと輝く、純白の装甲。全身の各所には、高圧フォトンを循環させる機関であろう、青白い光のラインが張り巡らされており、そこから発されるフォトンの波動の強力さを、無音のままに物語っていた。

 

「ああ。――これは、凄いな。身体の底から力が湧いてくるみたいだ」

 

 軽く手を開閉し、白い鎧の力を確かめたコネクトが、グッと拳を握りしめ、怪人へと向き直る。

 身を翻すと同時に、装甲を巡る光のラインと同じ色に輝く光のマフラーが、ばさりと大きくはためいた。

 

「はッ……そんな小細工ごときでぇ、俺に勝てると思ってんのかよォ!!」

 

 フルフェイスの仮面の下で不敵に笑うコネクトの所作を見て、怪人が苛立ったように吼える。

 

「ああ、勝てる。お前がどれだけ強かろうと、その力の源はD因子。――なら、お前のD因子を消し飛ばせるぐらい、強烈なフォトンを叩き込めばいいだけだ」

「~~~ッ! ……良いぜ。そこまで言うんなら、こっちも本気で行ってやるよォ!!!」

 

 そう言い放ち、天へ向けて怪人が咆哮すると、その周囲から無数の赤黒い霧が湧き上がってくる。

 霧の中からのそりと這い上がってくるのは、怪人と似通った意匠が施された、人型のナニカ。

 

「行けやァ!!!」

 

 いずれもD因子で構築されていると思わしきそれらは、怪人の号令と共に、コネクトめがけて一斉に飛びかかってきた。

 

「あのザコ怪人に生体反応はない! ArMSシステムの力、存分に見せてやれ!!」

「ああ、わかった!」

 

 分析結果を受けたコネクトもまた、単身怪人の群れへと突撃する。

 

「ハッ!」

 

 コネクトの手に、得物は存在しない。故に彼は、ザコ怪人と呼ばれた怪人の模倣体めがけて、握りしめた拳を叩き込んだ。

 フォトンアーツとすら呼ぶに値しない、ただ拳を振るうだけの一撃。しかしそれは、飛びかかってきたザコ怪人を捉えると、その躯体を遥か彼方へと吹き飛ばし、無力なD因子の霧として粉砕してみせた。

 

「――行ける!」

 

 確かな手ごたえを実感したコネクトは、続けざまに襲い来るザコ怪人たちへと向き直る。

 

 一つ、また一つと、徒手空拳の一撃が放たれる。

 時に拳として、時に蹴撃として放たれるそれらは、一撃一撃がヒットするたび、群れるザコ怪人たちを叩きのめしていった。

 途中、幾度か反撃とばかりに攻撃が繰り出されるが、コネクトは体捌きを駆使して逸らし、受け止め、受け流す。さらには、そこからつなげてカウンターを叩き込むことで、さらに殲滅速度を速めていった。

 

「ハァッ!!」

 

 何度目かの攻撃を叩き込み、ザコ怪人を叩きのめす。

 そうして顔を上げたコネクトの視界に映ったのは、ザコ怪人の本体たる怪人ただ一体のみだった。

 

「さぁ――お前で、最後だ」

「ク、ソがァ……ナマ言ってんじゃねぇぞォ!!」

 

 わなわなと震えながら、怪人が地を蹴り、コネクトへと飛びかかってくる。

 先刻コネクトを地に伏した時と寸分たがわぬ鋭い一撃が、コネクトを襲う。だがコネクトは、両の腕をクロスさせて盾を作り、怪人の一撃に対して、真っ向から立ち向かって見せた。

 

 甲高い衝撃音が、その場を震わせる。

 そしてその場には、両の腕を盾に、怪人の一撃をしかと受け止める、白い鎧の戦士(コネクト)の姿があった。

 

「な、にィ……ッ?!」

 

 ギリギリと音を立てて、怪人とコネクトがその場で拮抗する。

 先刻までのコネクトであれば、こうして怪人の一撃を受け止め、耐えきることはかなわなかった。だが、身に纏った白き鎧がもたらした力によって、コネクトはその攻撃を、難なく受けきってみせた。

 

「う、おぉッ!!」

 

 そのまま、お返しの蹴りを浴びせる。

 対外的に見れば単なるケンカ殺法の一撃でも、今のコネクトの一挙手一投足には、並々ならぬ濃度のフォトンが伴っているのだ。それが、D因子によって力を得ている怪人を捉えればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだった。

 

「ガハァァァッ!?」

 

 蹴撃をまともに食らった怪人が、大きく後方へと吹き飛ばされる。先刻のコネクトが体験したものと全く同じ現象を、今度は、怪人が体感する形となった。

 

「あ、がッ……ッソがあぁぁ…………!!」

 

 変異した身体の影響か、怪人は未だに健在らしい。だが、よろよろと立ち上がって呻くその全身からは、赤黒い霧がぶすぶすと垂れ流されていた。

 

「行ける……! おいアークス! 必殺技でとどめだ!!」

「必殺……? どうすればいい?」

「変身するときに押したスイッチをもう一度叩け! お前の攻撃に合わせて、最大出力の一撃が放てる!!」

 

 言われるまま、コネクトは再び左腕のアーマライザーに手を当て、スイッチを押しこむ。

 直後、《Maximize(マキシマイズ)!!》という合成音が鳴り、コネクトの身体の内から、これまで以上に凄まじい力が湧き上がってきた。

 

「っ……これを、こういうことかッ!」

 

 己の感覚を頼りに、湧き出て来る力を制御する。すると、それに追随するかのように、装甲に刻まれていた青白い光のラインが発光。キィィン、と甲高い音を立てながら、コネクトの右足に、莫大な量の光を集中させた。

 

「認め、ねェぞ……! 俺は、俺はァ、誰にも負けねェ力を手に入れたんだァァーーーッ!!」

 

 最後の力を振り絞ってか、怪人がコネクトめがけ、がむしゃらに突進してくる。

 

「……悪いな。俺は、やると決めた以上、手加減はしない性質(タチ)なんだ」

 

 対するコネクトは、静かな、しかし力強い口調でそうこぼすと、地面を踏み鳴らし、ダンッ!! と、天めがけて跳躍。

 

《『Radiant(ラディアント) Strike(ストライク)』!!》

 

 合成音が、必殺の一撃の名を告げると共に、中空で身体をひねったコネクトが、飛び蹴りの体勢を取って。

 

 

「決めろ! 〈仮面ライダー〉!!」

「ああ! ――――本気で行くから、気を付けろよォッ!!!」

 

 フランチェスカの声援を背に、流星の如き一撃が、怪人を貫いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

《アークス各員へ通達。アークスシップ・ホレイトスのダーカー反応はすべて消失。ダーカー勢力の撤退が確認されました。市街地に展開中の全アークスは、要救助者の救助等の後、順次所属船への帰投をお願いします。繰り返します――》

 

 市街地の全域に響く放送を耳に、コネクトはふぅ、と一息つく。

 眼前には、D因子による異形化が解かれ、ぐったりと横たわる男性の姿。幾ばくかケガは負っているものの、命に別状ないことは、すでに確認済みだった。

 

「よくやったぞーアークスーー!!」

「うぉっ?!」

 

 直後、駆け寄ってくる音と共に、背後から強かな衝撃に襲われる。何事かと確認すれば、フランチェスカが背後から抱き着いているのが見えた。

 

「素ッ晴らしいぞ、最高だったぞ!! お前の戦いっぷり、まさしく〈仮面ライダー〉にふさわしい!!」

「あ、ああ、ありがとう……でいいのか? いや、それよりも、これってどうすれば元に戻るんだ?」

「ん? あぁ、アーマライザーからドライバを抜き取ればいい。それで変身は解除できる」

 

 フランチェスカの言葉に従ってドライバを抜き取れば、コネクトの全身を包んでいた白い鎧が、青白いフォトンの粒子へと還元される。

 変身を解除したコネクトの姿は、たちまち変身前の戦闘服姿へと戻っていた。

 

「なるほどな。……とにかく、助かったよ。これが無ければ、俺はあいつに勝てなかった」

 

 軽く謝辞を述べながら、コネクトが軽く左腕のアーマライザーを掲げる。

 

「礼には及ばないぞ。むしろ、礼を言いたいのは私の方だ」

「と、いうと?」

 

 言葉の意味を掴み損ね、首をかしげるコネクト。それに対し、ようやく抱き着くのをやめたフランチェスカは、とても上機嫌そうな表情で言葉をつづけた。

 

「私たちの研究の成果を実証してくれたことだ。この実働データは、私たちだけでは決して得られない。それをもたらしてくれたお前に、私は感謝してるんだ」

「あぁ、そういうことか。……まあ、俺は生き残るためにやっただけだ。その実働データとやらも、ただの結果論さ」

「それでも、お前がそれをもたらしてくれたのは確かな事実だ。だから、ありがとうな、アークス」

 

 表情こそだらしない笑みで緩んでいるが、その言葉に確かな感謝の念が籠っているのを、コネクトも感じ取る。

 思いがけない形の感謝を受け止め損ねて、コネクトは照れ交じりの苦笑を漏らした。

 

「何はともあれ、これで適合者は見つかった! 後は、もっともっと稼働データを集めて、正式採用に踏み切るだけだ!」

 

 直後、フランチェスカの口から続いた言葉に、コネクトが眉を顰める。その言葉の裏に込められた意図を察して、彼の第六感が嫌な予感を伝えていた。

 

「……なあ。まさかとは思うけど、これからも俺がこれを使わなきゃならない、とか言わないよな?」

「ん? 当たり前だろう? さっきも説明した通り、それに適合できる人間っていうのはとても希少だ。せっかくの適合者をみすみす手放すなんてもったいない真似、とてもじゃないけど私にはできないぞ」

「……要するに、これからもこのアーマライザーを使い続けろ、と」

「その通りだ。もちろん、こっちでもできる限りサポートはするし、協力の見返りも用意する。代わりに、その仮面ライダーとしての力はいつでも使い放題だ。悪い話じゃないだろう?」

 

 それはそうだが、と口にしかけて、はぁと大きくため息をつく。

 

(面倒ごとは、なるべく避けたかったんだがなぁ……)

 

 胸中で愚痴ってから、もう一度、大きなため息。だが、わしわしと頭を掻いた後、コネクトは肩をすくめながらフランチェスカに向き直った。

 

「……わかったよ。どのみち、関わってしまった以上は最後まで付き合うのが筋だろうからな」

「ふふ、その言葉を待ってたぞアークス。――ま、細かい契約とか協力してもらう内容は、後日改めて詰めるとしようか。今はひとまず、ここを離れるとしようか」

 

 フランチェスカの言葉に周囲を見渡してみれば、事後処理を行うための機動部隊が、遠くからやってくるのが見て取れた。帰投命令も出ている以上、コネクトたちがこの場にとどまる理由はなかった。

 

「そうだな。……どのくらいの付き合いになるかはわからんが、宜しく頼むよ」

「ああ、こちらこそだ」

 

 踵を返しながら、コネクトとフランチェスカは軽く握手を交わし、その場を後にする。

 

 

「そういえば、さっき言ってた……かめんらいだー? ってのは何の意味があるんだ?」

「ああ、そのシステムを使って変身した人間を指す言葉だ。ArMSシステム自体、地球とかいう別次元の惑星で作られた、同じ名前の映像作品を元に開発されていてな。リスペクトの意味を込めて、そう呼ばれてるんだ」

「へえ、なるほど。語呂も悪くないし、中々良い響きだな」

「だろう!? しかも、その仮面ライダーっていうのがまた面白くてな! ――今度私の研究室に来い、一号から最新作までマラソンするぞ!」

「あ、あぁ……お手柔らかに頼むよ」

 

 沈みゆく仮想の夕日が照らす中、2人はそんな雑談を交わしながら、街を去っていった。




 お読みいただきありがとうございました。

 作者のブログにて、本作のあとがきや裏話等を掲載しております。興味のある方は、Twitterのアカウント(@daisuke_yashiro)の固定ツイート、もしくは「コネクトの雑記スペース」で検索してお越し頂けると嬉しいです。
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