PSO2外伝 仮面ライダーオラクルズ-Side:ArMS- 作:矢代大介
「……どういう了見だ。撃つ相手を間違えてるんじゃ無いのか」
予想だにしなかった狙撃者の正体を目にして、コネクトは素早く抜刀し、構える。
かの狙撃者の意図がいかなるものであったにせよ、この状況がイレギュラー極まるものであることは、考えずとも理解できた。
「間違えてる? ははっ、おかしなこと言うな、オマエは」
にたり、と、底知れない不気味な笑みに口元を歪めながら、その人影は軽やかに跳躍し、コネクトの眼前へと降り立ってみせる。
その手に握られていた一振りの
「オレの目にはごまかせないぜ。――お前が、クローンだってことはよ」
「……何?」
まるで予想だにしていなかった言葉を耳にして、コネクトは思わず眉を顰める。だが、襲撃者はコネクトの様子をまるで意に介せず、独り言のように言葉をつづけた。
「とぼけても無駄だぜ? 俺の目にはお見通しなんだよ」
「へえ、随分な節穴もあったもんだな。D因子反応の有無も調べずに、よくもまぁ適当な結論を出せるもんだ」
「反応を調べる? 必要ねーよ。オレはな――〈力〉を手に入れたんだよ」
力? とおうむ返しに聞き返すと、襲撃者はその顔に貼り付けていた笑みを、一層強く歪めた。
「あぁそうだ。力だ。――この力はいいぜ。誰にも負ける気がしねぇ。今のオレは、何だってできるんだよ!!」
不意に、襲撃者が大仰な動作で、両の腕を大きく広げてみせる。
――直後、コネクトの耳元から、突如としてインカム越しに大音量の警報が鳴り響いた。
「ッ、D因子反応……?!」
「気をつけろ! 反応の出所は、そこの変なアークスだ!」
近場の瓦礫に身を隠していたフランチェスカが警告を飛ばすのと、ほぼ同時。
「見せてやるぜ、オレの本当の力をよぉ!!」
哄笑する襲撃者の全身から、ぶわりと「闇」が吹き上がる。
高濃度のD因子が具現化した赤黒い霧は、襲撃者から滲み出ると同時に、絡みつくようにその全身を覆って行く。
まるで、襲撃者を
「ヒハハハハ!! ブッ壊してやるぜェ、何もかもなァァーッ!!!」
渦巻く闇の中から現れたのは、奇怪に変質した外皮で覆われた、異形のヒトガタだった。
「アレは……なんだ?! 単なるD因子の侵食で、あそこまでめちゃくちゃな変質なんて起こらないはずだぞ!?」
瓦礫の向こう側で、フランチェスカが驚愕の声を漏らす。
D因子の侵食を受けた生物は、総じて生ける屍のような存在となる。体表に侵食の証である侵食核が生まれることこそあれど、侵食対象を異形へと変貌させるケースなど、これまで一度たりとも確認されていない。故に、フランチェスカは驚きを隠せなかったのだ。
「イレギュラーってことか。くそっ、面倒な……!」
「構えろアークス! すぐに仕掛けて来るぞ!!」
フランチェスカの警告よりも早く、異形の怪人と化した襲撃者が跳躍。コネクトめがけて、大上段から強襲を仕掛けてきた。
「ハッハァーーーーッ!!!」
「ッ――」
振り下ろされた鋭利な爪と、抜刀したコートエッジの切っ先が交錯し、盛大な火花が周囲を照らす。
「ぐぁっ!?」
だが、自由落下の勢いを乗せた一撃は、コネクトの想定よりもはるかに強い。コートエッジごと吹き飛ばされたコネクトの身体は宙を舞い、ドガシャ! と瓦礫に突っ込んでようやく停止した。
「う、ぐっ……なんて、馬鹿力だ……ッ」
万全を期した防御でなかったとはいえ、踏ん張る体勢を取っていたコネクトを、いともたやすく吹き飛ばすほどの怪力。人と変わらない体躯から生み出される、けた違いの破壊力に、コネクトは冷や汗をかいていた。
「もう、一撃ィィィーーッ!!」
コネクトの健在を確認してか、怪人が再び突っ込んでくる。
どうにか体勢を立て直したコネクトを襲うのは、目にも留まらぬ速度で繰り出される乱打。一撃で成人男性の身体を軽々吹き飛ばすほどの威力を持つ拳が、脚が、続けざまにコネクトを襲う。
「ぐ、おぉぉ……ッ!!」
コートエッジの巨大な刀身を盾に防ぐコネクトだったが、一撃を食らうたび、その立ち位置はわずかずつ後退していく。
「ウラァァッ!!」
「ぐっ――?!」
フィニッシュとばかりに叩き込まれた重い一撃が、盾となっていたコートエッジを、天高く弾き飛ばす。
たたらを踏みつつ後退するコネクトの視界の端に、地面へ突き刺さるコートエッジが映り込んでいた。
「く、そっ」
「ハッハァーーーーッ!!!」
真っ直ぐに突撃してくる怪人を前に、コネクトは武器を換装。
コートエッジと同じ意匠を持つ特殊な投擲用の導具である「コートタリス」を手にした。
「大人しく――しろっての!!」
振りかぶったコートタリスから、高速回転する鮮やかなオレンジの光刃が放たれる。
風切り音と共に怪人へと飛びかかったそれらは、着弾と共に怪人へと絡みつき、断続的にダメージを与える凶器となる――はずだった。
「しゃらくせぇッ!!」
怪人が、おもむろに激しく身を震わせる。
すると、怪人に絡みついていた光刃が、パキン! と儚い音を立てて粉砕されてしまった。
「なっ……?!」
一切のダメージを与える事すら敵わず、攻撃が無効化される。あまりに非常識な光景を目の当たりにして生まれた数瞬の硬直が、致命的な隙となった。
「ウラァッ!!」
「が――」
気づけば、コネクトの頭を目掛けた蹴りが、目前にあって。
次の瞬間、彼の身体は、元合ったはずの場所から遠く離れた所に、倒れ伏していた。
「う、ぐっ……!!」
身にのしかかる途方も無いダメージが、身体のコントロールを奪っていく。
たったの、二撃。たったのそれだけで、いともたやすく戦闘不能ギリギリまで追い込まれたという事実。かの怪人の戦闘能力は、これまで戦ってきたどのエネミーよりも驚異的だった。
――敗北の文字が、コネクトの脳裏をよぎる。
アークスにとって、敗北とはすなわち死を意味する。ノックアウトされ、地に伏したコネクトは現在、死の淵に立たされているも同義の状態だった。
「クハハッ……オラ、どうしたよォ? これで終わりなんてつまんねーこと言わねェよなァ?」
遠くから響いてくる、人ならざる者が近づいてくる足音。その主が、倒れたコネクトを確実に葬り去ろうとしていることは、火を見るよりも明らかだった。
(――冗談じゃ、ない)
それを認識したコネクトは、胸中で吐き捨てる。
(こんなところで、死んでたまるかよ……!!)
生への渇望を無言のままに叫びながら、コネクトは弛緩した身体にむち打って、ゆっくりと身を起こしてみせた。
「へっ、そう来なくちゃ。簡単に壊れてくれちゃ、力の見せようもねェからな」
歴然たる実力差故か、怪人はコネクトの再起を止めようとはしない。
癪な話ではあったが、今は四の五の言っている場合ではないのが現状。その慢心にあやかって、今は体勢を立て直すことに注力した。
(さぁどうする。考えろ、俺)
(少なくとも、奴はまともに戦って勝てる手合いじゃない。あの身体能力も、一撃の重さも、ただのエネミーとはケタ違いだ)
(チカラが要る。奴に追いすがって、渡り合って、勝利できるチカラが)
(だけど、そんな都合のいいチカラなんて、ここには無い。どうにかして、市街地の兵器の一つでも使えれば――?)
思案を巡らせる中、不意にコネクトは数刻前の会話を思い出す。
《着用者の戦闘能力を外から底上げする次世代戦闘サポートシステムだ》
《身体能力を底上げしたり、攻撃時の威力を増幅したりすることも可能で――》
長い話だったので、内容は断片的にしか覚えていない。だが幸いなことに、その大まかな概要は、コネクトの頭の中にしっかりと残っていた。
(大博打になる、か。――上等だ)
過ぎる葛藤は、一瞬。
直後、コネクトは腹に力を入れ、近隣に潜んで退避しているであろう少女に向けて呼びかけた。
「フランチェスカ!!」
「な、なんだ! どうしたアークス?!」
返答の出所は、思っていたよりもはるかに近い。どうやら、怪人に吹き飛ばされたおかげで、フランチェスカの近くまで移動させられていたようだった。
「アレが欲しい。さっき言ってた、あの戦闘サポートシステムとか言う奴を。――持ってるよな?」
「え? あ、あぁ、持ってるけど、それがどうし――――っ!?」
どうした、とまで言いかけたフランチェスカが、ハッと息を呑む。
「ダメだ! 説明しただろう、これを使うには適性が要る! 事前の診断もなしに使えば、どんなリスクが降りかかるかもわからないんだぞ!!」
「ああ、わかってる。――だけど、何もできないまま死ぬよりは、万倍マシだ」
「無謀すぎる! そんなの、自殺志願者のやることだ! お前は、命が惜しくないのか?!」
叫ぶフランチェスカの声音は、憔悴と悲痛に満ち満ちている。それはすなわち、その戦闘サポートシステムが孕むリスクの危険性を示す、紛れもない証左でもあった。
しかし、コネクトは引き下がろうとしない。ふ、と小さく漏らした笑いに釣られてか、彼の口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。
「バカ言わないでくれ。俺は、死ぬなんてまっぴらごめんだ」
「なら――!!」
「だからこそだ。俺は、俺の命が惜しい。だからこそ俺は――生き残るために、戦うんだ」
彼の戦う原動力。生物が元来持つ本能からなる生存欲求を糧に、コネクトは毅然とした表情で告げる。
静かな声音だったが、その言葉に宿る意志は、固く、重い。確かな手ごたえと共に紡がれたその確たる意思表示は、フランチェスカの心を、確かに動かした。
数瞬、フランチェスカが逡巡する。
だが、くっと唇を引き結び、顔を上げた彼女は、白衣のポケットから二つの機械を取り出し、コネクトめがけて投げ渡した。
硬質な音を立てて、コネクトの手に機械――彼女の言うところの「戦闘サポートシステム」の根幹をなす物であろう装置が納まる。
一つは、カートリッジ型の記録メディアとよく似た造形の機械。そしてもう一つは、それを装填するための物と思しきスロットが付いた、ブレスレット型のデバイスだった。
「……ブレスレット型のデバイスが〈アークスアーマライザー〉。もう一つのカートリッジが〈データドライバ〉だ。私の言う通りに装着して行け!」
「ああ!」
フランチェスカの言葉を受けて、コネクトが体勢を立て直す。
強烈な攻撃を受け、その身体には看過できないダメージが刻まれている。だが、コネクトはそれを生存本能から成る気合でねじ伏せ、両の足に力を込め、敢然と立ちあがってみせた。
「アーマライザーを手首に巻け! 生体反応を認証して、自動でシステムが立ち上がる!」
指示に従い、コネクトは左の腕に、アークスアーマライザーと呼ばれたブレスレット型デバイスをあてがう。
すると、アーマライザーからかすかな電子音が鳴り響いた後、本体下部から固定用のバンドが射出。意志を持っているかのように、ぐるりとコネクトの腕に巻き付いたと同時に、《
「次は、ドライバを起動しろ! 取り付けてあるスイッチを押せ!」
データドライバと呼ばれる機械を右の手に握り込み、スターターと思しきスイッチを押しこむ。
幾ばくの間も置かず、データドライバから起動音が鳴り、《
「次は?!」
「アーマライザーにドライバを装填して、アーマライザー側のスイッチを押せ! お前に適性があるなら、お前は〈変身〉できるはずだ!!」
「変身……よし!」
言葉の通り、アーマライザーに空いた装填孔へ、データドライバを差し込む。
《
覚悟はいいか。まるで、装着社の覚悟を問うて来るかのような、そんな文言。
胸中で、その言葉をわずかに反芻したコネクトは、不敵な笑みで、小さく口元を歪めて。
「――――変身!!!」
アーマライザーのスイッチを、勢いよく叩き押した。
直後、アーマライザーを起点に、コネクトの周囲に、強烈なフォトンの奔流が巻き起こる。
「ぐ、ぉッ……!!」
《
《
だが、再び合成音が響いたその直後、青白く輝くフォトン流が、その流れを急激に変動させる。
コネクトもろとも吹き飛ばさんと荒れ狂っていた光の嵐が、まるでコネクトを主と認め、その身を守るかのように、彼の周囲を包む。さらにそれだけでは飽き足らず、フォトン流はコネクトの身体に巻き付くかのように、その軌道を変化させた。
視界すら阻まれるまばゆい奔流の中、コネクトの全身を纏っていた嵐が、次々にその形を変えてゆく。
腕を、脚を、胴体を、次々に実体が包み込む。それらは、コネクトの知覚に確かな硬質さを伝えつつも、まるで重量感を感じさせないほどに軽やかだった。
実体化してゆく光は、彼の頭部まで及ぶ。ひと際強く輝いた光は、コネクトの頭部をすっぽりと覆う、ヘルメットのような形状となって実体化した。
時間にして、わずか数秒。その時、光の奔流が、内側から破られる。
《『
――そこに立っていたのは、青白いフォトンの光の元、純白の装甲を纏った、鎧装束の戦士だった。
「何……?」
ことの成り行きを、面白い見世物のように見物していた怪人が、初めて動揺の声を漏らす。
対照的に、白い鎧の戦士の背後にいたフランチェスカは、驚きと歓喜が複雑に入り混じった笑みを浮かべていた。
「やった……! やった!! おいアークス! 成功したぞ!!」
喜色満面なフランチェスカの声に釣られて、白い鎧の戦士――ことコネクトが、改めて自身の姿を確認する。
コネクトの全身を包むのは、光を受けてきらりと輝く、純白の装甲。全身の各所には、高圧フォトンを循環させる機関であろう、青白い光のラインが張り巡らされており、そこから発されるフォトンの波動の強力さを、無音のままに物語っていた。
「ああ。――これは、凄いな。身体の底から力が湧いてくるみたいだ」
軽く手を開閉し、白い鎧の力を確かめたコネクトが、グッと拳を握りしめ、怪人へと向き直る。
身を翻すと同時に、装甲を巡る光のラインと同じ色に輝く光のマフラーが、ばさりと大きくはためいた。
「はッ……そんな小細工ごときでぇ、俺に勝てると思ってんのかよォ!!」
フルフェイスの仮面の下で不敵に笑うコネクトの所作を見て、怪人が苛立ったように吼える。
「ああ、勝てる。お前がどれだけ強かろうと、その力の源はD因子。――なら、お前のD因子を消し飛ばせるぐらい、強烈なフォトンを叩き込めばいいだけだ」
「~~~ッ! ……良いぜ。そこまで言うんなら、こっちも本気で行ってやるよォ!!!」
そう言い放ち、天へ向けて怪人が咆哮すると、その周囲から無数の赤黒い霧が湧き上がってくる。
霧の中からのそりと這い上がってくるのは、怪人と似通った意匠が施された、人型のナニカ。
「行けやァ!!!」
いずれもD因子で構築されていると思わしきそれらは、怪人の号令と共に、コネクトめがけて一斉に飛びかかってきた。
「あのザコ怪人に生体反応はない! ArMSシステムの力、存分に見せてやれ!!」
「ああ、わかった!」
分析結果を受けたコネクトもまた、単身怪人の群れへと突撃する。
「ハッ!」
コネクトの手に、得物は存在しない。故に彼は、ザコ怪人と呼ばれた怪人の模倣体めがけて、握りしめた拳を叩き込んだ。
フォトンアーツとすら呼ぶに値しない、ただ拳を振るうだけの一撃。しかしそれは、飛びかかってきたザコ怪人を捉えると、その躯体を遥か彼方へと吹き飛ばし、無力なD因子の霧として粉砕してみせた。
「――行ける!」
確かな手ごたえを実感したコネクトは、続けざまに襲い来るザコ怪人たちへと向き直る。
一つ、また一つと、徒手空拳の一撃が放たれる。
時に拳として、時に蹴撃として放たれるそれらは、一撃一撃がヒットするたび、群れるザコ怪人たちを叩きのめしていった。
途中、幾度か反撃とばかりに攻撃が繰り出されるが、コネクトは体捌きを駆使して逸らし、受け止め、受け流す。さらには、そこからつなげてカウンターを叩き込むことで、さらに殲滅速度を速めていった。
「ハァッ!!」
何度目かの攻撃を叩き込み、ザコ怪人を叩きのめす。
そうして顔を上げたコネクトの視界に映ったのは、ザコ怪人の本体たる怪人ただ一体のみだった。
「さぁ――お前で、最後だ」
「ク、ソがァ……ナマ言ってんじゃねぇぞォ!!」
わなわなと震えながら、怪人が地を蹴り、コネクトへと飛びかかってくる。
先刻コネクトを地に伏した時と寸分たがわぬ鋭い一撃が、コネクトを襲う。だがコネクトは、両の腕をクロスさせて盾を作り、怪人の一撃に対して、真っ向から立ち向かって見せた。
甲高い衝撃音が、その場を震わせる。
そしてその場には、両の腕を盾に、怪人の一撃をしかと受け止める、
「な、にィ……ッ?!」
ギリギリと音を立てて、怪人とコネクトがその場で拮抗する。
先刻までのコネクトであれば、こうして怪人の一撃を受け止め、耐えきることはかなわなかった。だが、身に纏った白き鎧がもたらした力によって、コネクトはその攻撃を、難なく受けきってみせた。
「う、おぉッ!!」
そのまま、お返しの蹴りを浴びせる。
対外的に見れば単なるケンカ殺法の一撃でも、今のコネクトの一挙手一投足には、並々ならぬ濃度のフォトンが伴っているのだ。それが、D因子によって力を得ている怪人を捉えればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだった。
「ガハァァァッ!?」
蹴撃をまともに食らった怪人が、大きく後方へと吹き飛ばされる。先刻のコネクトが体験したものと全く同じ現象を、今度は、怪人が体感する形となった。
「あ、がッ……ッソがあぁぁ…………!!」
変異した身体の影響か、怪人は未だに健在らしい。だが、よろよろと立ち上がって呻くその全身からは、赤黒い霧がぶすぶすと垂れ流されていた。
「行ける……! おいアークス! 必殺技でとどめだ!!」
「必殺……? どうすればいい?」
「変身するときに押したスイッチをもう一度叩け! お前の攻撃に合わせて、最大出力の一撃が放てる!!」
言われるまま、コネクトは再び左腕のアーマライザーに手を当て、スイッチを押しこむ。
直後、《
「っ……これを、こういうことかッ!」
己の感覚を頼りに、湧き出て来る力を制御する。すると、それに追随するかのように、装甲に刻まれていた青白い光のラインが発光。キィィン、と甲高い音を立てながら、コネクトの右足に、莫大な量の光を集中させた。
「認め、ねェぞ……! 俺は、俺はァ、誰にも負けねェ力を手に入れたんだァァーーーッ!!」
最後の力を振り絞ってか、怪人がコネクトめがけ、がむしゃらに突進してくる。
「……悪いな。俺は、やると決めた以上、手加減はしない
対するコネクトは、静かな、しかし力強い口調でそうこぼすと、地面を踏み鳴らし、ダンッ!! と、天めがけて跳躍。
《『
合成音が、必殺の一撃の名を告げると共に、中空で身体をひねったコネクトが、飛び蹴りの体勢を取って。
「決めろ! 〈仮面ライダー〉!!」
「ああ! ――――本気で行くから、気を付けろよォッ!!!」
フランチェスカの声援を背に、流星の如き一撃が、怪人を貫いた。
***
《アークス各員へ通達。アークスシップ・ホレイトスのダーカー反応はすべて消失。ダーカー勢力の撤退が確認されました。市街地に展開中の全アークスは、要救助者の救助等の後、順次所属船への帰投をお願いします。繰り返します――》
市街地の全域に響く放送を耳に、コネクトはふぅ、と一息つく。
眼前には、D因子による異形化が解かれ、ぐったりと横たわる男性の姿。幾ばくかケガは負っているものの、命に別状ないことは、すでに確認済みだった。
「よくやったぞーアークスーー!!」
「うぉっ?!」
直後、駆け寄ってくる音と共に、背後から強かな衝撃に襲われる。何事かと確認すれば、フランチェスカが背後から抱き着いているのが見えた。
「素ッ晴らしいぞ、最高だったぞ!! お前の戦いっぷり、まさしく〈仮面ライダー〉にふさわしい!!」
「あ、ああ、ありがとう……でいいのか? いや、それよりも、これってどうすれば元に戻るんだ?」
「ん? あぁ、アーマライザーからドライバを抜き取ればいい。それで変身は解除できる」
フランチェスカの言葉に従ってドライバを抜き取れば、コネクトの全身を包んでいた白い鎧が、青白いフォトンの粒子へと還元される。
変身を解除したコネクトの姿は、たちまち変身前の戦闘服姿へと戻っていた。
「なるほどな。……とにかく、助かったよ。これが無ければ、俺はあいつに勝てなかった」
軽く謝辞を述べながら、コネクトが軽く左腕のアーマライザーを掲げる。
「礼には及ばないぞ。むしろ、礼を言いたいのは私の方だ」
「と、いうと?」
言葉の意味を掴み損ね、首をかしげるコネクト。それに対し、ようやく抱き着くのをやめたフランチェスカは、とても上機嫌そうな表情で言葉をつづけた。
「私たちの研究の成果を実証してくれたことだ。この実働データは、私たちだけでは決して得られない。それをもたらしてくれたお前に、私は感謝してるんだ」
「あぁ、そういうことか。……まあ、俺は生き残るためにやっただけだ。その実働データとやらも、ただの結果論さ」
「それでも、お前がそれをもたらしてくれたのは確かな事実だ。だから、ありがとうな、アークス」
表情こそだらしない笑みで緩んでいるが、その言葉に確かな感謝の念が籠っているのを、コネクトも感じ取る。
思いがけない形の感謝を受け止め損ねて、コネクトは照れ交じりの苦笑を漏らした。
「何はともあれ、これで適合者は見つかった! 後は、もっともっと稼働データを集めて、正式採用に踏み切るだけだ!」
直後、フランチェスカの口から続いた言葉に、コネクトが眉を顰める。その言葉の裏に込められた意図を察して、彼の第六感が嫌な予感を伝えていた。
「……なあ。まさかとは思うけど、これからも俺がこれを使わなきゃならない、とか言わないよな?」
「ん? 当たり前だろう? さっきも説明した通り、それに適合できる人間っていうのはとても希少だ。せっかくの適合者をみすみす手放すなんてもったいない真似、とてもじゃないけど私にはできないぞ」
「……要するに、これからもこのアーマライザーを使い続けろ、と」
「その通りだ。もちろん、こっちでもできる限りサポートはするし、協力の見返りも用意する。代わりに、その仮面ライダーとしての力はいつでも使い放題だ。悪い話じゃないだろう?」
それはそうだが、と口にしかけて、はぁと大きくため息をつく。
(面倒ごとは、なるべく避けたかったんだがなぁ……)
胸中で愚痴ってから、もう一度、大きなため息。だが、わしわしと頭を掻いた後、コネクトは肩をすくめながらフランチェスカに向き直った。
「……わかったよ。どのみち、関わってしまった以上は最後まで付き合うのが筋だろうからな」
「ふふ、その言葉を待ってたぞアークス。――ま、細かい契約とか協力してもらう内容は、後日改めて詰めるとしようか。今はひとまず、ここを離れるとしようか」
フランチェスカの言葉に周囲を見渡してみれば、事後処理を行うための機動部隊が、遠くからやってくるのが見て取れた。帰投命令も出ている以上、コネクトたちがこの場にとどまる理由はなかった。
「そうだな。……どのくらいの付き合いになるかはわからんが、宜しく頼むよ」
「ああ、こちらこそだ」
踵を返しながら、コネクトとフランチェスカは軽く握手を交わし、その場を後にする。
「そういえば、さっき言ってた……かめんらいだー? ってのは何の意味があるんだ?」
「ああ、そのシステムを使って変身した人間を指す言葉だ。ArMSシステム自体、地球とかいう別次元の惑星で作られた、同じ名前の映像作品を元に開発されていてな。リスペクトの意味を込めて、そう呼ばれてるんだ」
「へえ、なるほど。語呂も悪くないし、中々良い響きだな」
「だろう!? しかも、その仮面ライダーっていうのがまた面白くてな! ――今度私の研究室に来い、一号から最新作までマラソンするぞ!」
「あ、あぁ……お手柔らかに頼むよ」
沈みゆく仮想の夕日が照らす中、2人はそんな雑談を交わしながら、街を去っていった。
お読みいただきありがとうございました。
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