「共通点がわかった? 一体なんだと言うんだね」
「……曜日ですよ」
「曜日?」
鬼立が首を捻る。
「被害者の名前にはそれぞれ曜日がはいっているんです。最初の犠牲者、金村照史は『金』と『日』、2番目の犠牲者、稲垣文音は『土』と『日』、3番目の犠牲者、姉島春子は『日』、4番目の犠牲者、早乃木菜月は『日』と『木』と『月』、そして今回殺害された第5の犠牲者、火邑朋香は『火』と『月』と『日』、というふうにね」
「な、なるほど」
鬼立は納得する。
「しかし、それだけでは今後起きるかもしれない事件が防げない」
「いいえ、それも問題ありません。順番に、金、土、日、月、火という順番で狙われています。つまり、次に狙われるのは名前に『水』が入っている人物です。例えば、先程お会いした水城教授とか、火邑さんのお友達というこの三炭水無子さんとかね」
紺野は三炭を見て言う。
「ふむ、この大学内で『水』という文字を含む者たちを調べた方が良さそうだ」
帰り道は暗かった。
光は道の傍らにある街灯だけで、とても閑静な住宅街だ。
彼女の歩く音が周囲に響く。
前から人影が近づいてくるのに気づいたのはすぐだった。
その人影はフードを被っており、顔はフードとこの暗さが原因で全く見えない。
彼女は警戒しながらその人影とすれ違おうとした。
その瞬間だった。
彼女の腹部にキラリと光るものが勢いよく刺さった。
その場で吐血し、崩れ落ちる。
人影は突き立てられたナイフを見て、ニヤリと笑った。
「『明のために』か……。次のターゲットの基準がわかっていながらみすみす殺されるとは……」
「警察の面目丸潰れですね」
「本当に……」
鬼立と紺野は既に息のない三炭水無子の遺体のそばに座り込んでいた。
遺体のすぐ横に例のメッセージが残されていた。
「どうやら確実に他殺のようだ……。しかし、何故突然他殺とすぐわかるような手段で……?」
すると勘が働いたのか紺野が口を開く。
「勘ですが、犯人はもうすぐ目的を達成するのではないでしょうか」
「目的?」
「そうです。目的を達成できさえすれば自分が捕まろうとどうでもいい。そう考えたのかもしれません」
「お前の勘は当たるからなぁ……。もしそうなら、可能性があるのは犯人が最後のターゲットを狙っているということか……」
「だとすれば、次狙われるのは立森准教授の可能性も……」
突然、紺野は喋るのをやめた。
「どうした」
紺野は完全に固まっていた。
「まさか……。とんでもない勘違いをしてたかもしれないです」
珍しく紺野は焦りを見せていた。その様子に鬼立も動揺した。
「ど、どういうことだ。説明してくれ」
「……姉島春子が一連の事件とは無関係、と考える必要があります」
「え?」
鬼立はしばらくの間あっけにとられ、そして再び我に返る。
「ちょっと待て。この前君は言ったじゃないか。犠牲者はみな曜日の順に狙われていると」
「それは間違いありません。ただ、姉島春子を除いてもこの法則は成り立つんです」
「何?」
「第1の犠牲者、金村照史が『金』、第2の犠牲者、稲垣文音が『土』、ここまでは以前の推理通りです。仮に姉島春子の事件が無関係だとすると、第4の犠牲者、早乃木菜月の『日』、そして第5の犠牲者、火邑朋香の『月』、第6の犠牲者、三炭水無子の『火』。これでも曜日の順番が成り立つのです」
「……つまり、その理論だと次のターゲットが本当の『水』って訳か!」
「そして僕の勘がさらに働きました。犯人は今夜必ず水城教授を狙う」
ガチャリ、と扉が開く音がし、水城はそちらを見た。
「立森君、まだ帰っていなかったのかね」
「ええ、レポートも確認しなきゃいけませんし」
立森はゆっくりと水城のところへ歩く。
「それで、なんの用かね」
「……それは……こういうことですよ」
そう言った立森は歪んだ笑みを見せて、懐からナイフを取り出した。
「ど、どういうつもりだ!?」
「ははは」
立森は高笑いをする。
「この前来た刑事さんと探偵さんが言ってたでしょう。『明のために』ですよ」
「何を言っている。私は明なんて人物は知らん」
「そうでしょうね。今まで私が手にかけた人たちの中に、明の知人なんて1人もいませんでしたから」
「な、何を……。じゃあお前は何で……」
「……私の息子だった明は、飲酒運転の車に轢かれて死にました。まだ運転手が息子を助けようとしたなら良かった。でもそいつはその場から逃げ去った。許せなかったんだ! 明が何をしたって言うんだ! どうして明が身勝手な奴のせいで死ななければならない!」
立森の怒号が響き渡り、水城も立森に釘付けになる。
「私はそんな身勝手な行動をとる輩を許せなかった。そう、今まで私が殺したのは、飲酒運転をした過去がある人たちです」
「ば、バカな! わ、私は飲酒運転などしたことない」
「そんな泳ぎまくった目で何を言っているんです? それに、私はあなたが飲酒運転をしたところを見てます」
「だ、誰か助けてくれ!」
「さよなら」
立森は思い切りナイフを水城に振り下ろした。
「そこまでだよ、立森准教授」
振り下ろす手が止まり、立森はその声のする方に振り向いた。
「これ以上罪を重ねるのはやめるんだ」
そこには鬼立と紺野が立っていた。
「何故止める。飲酒運転をしたんだぞこいつは! 悪に正義の鉄槌を下して一体何が悪いと言うんだ!」
声を荒らげる立森に、鬼立も紺野も呆れていた。
「あなたも同じ悪じゃないのですか」
「いいや、私は悪じゃない。本当に悪なのはこいつらだ。こいつらは人間の風上にも置けない極悪人だ! そして私はそれを裁く死刑執行人だ!」
「人間の風上にも置けないのはあなたですよ、立森准教授」
「何だと!」
「あなたが正義と言い張るその行為は、飲酒運転で息子を死なせた人がやってることと同じだと言っているんです」
紺野が喝を入れるような口調で立森に投げかけた。
「確かに飲酒運転で人の命を奪うことは決して許されない。ですが、どういう理由であれ、あなたが人の命を奪っていいわけが無いでしょう。人の命を奪ってしまった時点であなたは飲酒運転をしてる人間と同じです」
立森はしばらく怒りのあまり震えていた。
やがて彼の手からナイフが床に落ち、それと同時に彼の手首に手錠がかかった。
「なんとも悲しい事件だった」
「ええ。息子を失ったことで、彼は正義を見誤ってしまったようですが」
「水城も飲酒運転の件で、取り調べ中だよ。……あぁそうだ」
「どうしました」
「例の件なんだが、その事件を担当していた刑事がわかったよ」
「まだ刑事をしてらっしゃるんですかその方は」
「いや、今は刑事を辞めて私立探偵をしてるらしい」
「その人に聞けば、いろいろ分かりそうですね」
「あぁ。しかし、あの事件は迷宮入りしている。とても真相がわかるとは思えんが」
「……僕は事件の真相がわかるまで探偵を辞めるつもりはありませんから」