紺野は澪が通う桜咲高校にやって来ていた。何故彼が澪の高校にいるのかというと、その原因は澪にある。
澪の友人の美術部員が、とある事件の話で相談を澪にしていたそうだ。澪は紺野の了承を得ることなくそれを引き受け、紺野を無理やり引っ張ってきたのだ。
「で、その事件とやらは何なんだい」
廊下を歩きながら紺野は、依頼者の
桧森は「そうそう」と言って話し出した。
「部長の描いた絵が何者かに台無しにされてたんです」
「ほう?」
「ひどいんですよ。絵の上に黒い絵の具で、『死ね』って文字が書いてあったんです」
「なるほどな。その部長は誰かに恨まれてるようだね」
「正直なところ、私も部長のことはあまり好きにはなれません」
桧森は少し目線を床に向けて言う。
「『死ね』と書くのはひどいことです。でも、部長は自分のことしか考えてない人です。恨んでる人の方が多いかもしれないです。特に美術部員たちは」
「つまり、美術部員の中にいるであろう、部長の絵に『死ね』と書いた犯人を探してくれと」
「そうです。美術部員として、作品を貶すことは許せません。あ、ここが美術室です」
桧森が指をさす。「美術室」と書かれたプレートがドアに掛かっている。
「地味に入るの初めてだー」
紺野は澪がワクワクしているのを横目に、ドアのノブに手をかけた。
ガラガラという音を立てて、ドアはスライドする。
そして──―。
「きゃああああああ」
紺野たちの目の前に、男の死体が現れた。
「下がってなさい」
すぐに紺野が死体の元へ駆け寄る。
「ぶ、部長、どうして…」
「この人が例の部長か」
死体はどうやら美術部の部長のようだ。
死体は椅子に行儀よく座っているが、顔は恐怖に慄いていた。
そして紺野は1つ何かを見つける。
「これは…」
死体の額に「死ね」という文字が黒い絵の具で書かれていた。
「俺の勘だと、どうやら、例の事件と同一犯のようだな…」
「なんだ今の悲鳴は!」
すると、4人の男女が先程の悲鳴を聞いて集まってきた。
「上総部長!」
「ぶ、部長がどうして!?」
「落ち着いてください。とにかく、警察を呼んでください」
「…刺殺だな。心臓を一突きと言ったところか」
鬼立がそう言って立ち上がり、紺野に目を向ける。
「名前は何だったかな」
「彼らによると、この美術部の部長で
「そうか。それにしても、遺体の顔にわざわざこんなメッセージを残すとは、相当恨んでいるようだ」
「恨んでる人は多いですよ」
部員の1人が言う。
「あ、僕は美術部員の
「萩川さん。恨んでる人が多いというのは?」
「ええ、部長は人の作品を1度も褒めたことがないんです」
「え?」
「どれだけ自分が納得する絵を描けても、部長はいつもそれを『駄作だ』『下手だ』『こんなの絵とは言えない』と言って、貶していたんです」
萩川は顔を歪める。
「そうよ。部長は自分より絵が上手い人に嫉妬してたのよ」
「あなたは?」
「私は
続けて不動は言う。
「絵に『死ね』って書かれた時もかなり憤慨してたわ」
「俺たちをずーっと疑ってたしなぁ。あぁ、俺の名前は
金髪の時東は「へへ」と笑いながら言う。
「わ、私は、
おどおどとした蒼井も続けて自己紹介をする。
「あらあら蒼井さん。どうしてそんなに怯えてるわけ?」
「い、いえ…」
不動が蒼井に詰め寄ろうとする。
同じ部活内でイジメ問題もありそうだ、と紺野は考えた。
「ところで、鬼立警部」
紺野は鬼立の方を向いて尋ねる。
「凶器の方は?」
「あぁ、この部屋の中からは今のところ見つかっていない。尖ってる物は片っ端から調べているがね」
肩をすくめる鬼立。そして、室内を少し見渡す。
「それにしても、粘土の作品が多いですなぁ。皆さんでお作りに?」
「いえ、それは全部私です」
「そうそう、桧森さんは粘土の造形が得意だからね」
萩川が言うと「そんなことないよ」と桧森。
「あなたは第1発見者の桧森さんですな。全部あなたが?」
「そうです。美術部員こうしてやってますけど、絵はちょっと苦手で」
あはは、と誤魔化すように笑う桧森。
死体の隣にはずらっと端まで、粘土の作品が並んでいた。器やカップのようなものから恐竜やロケットのようなものまで並んでおり、紺野自身も驚いた。
「美術部員はこれで全員か」
「犯人はこの中にいますよ、そう僕の勘が言っております」
「相変わらず万能だな。俺にも分けて欲しいくらいだ」
鬼立が羨ましそうに紺野を見る。
「ダメだよ警部さん。勘は紺野の特権だよ」
澪が会話に入ってきた。紺野は「いや、前にそうやって僕が言ったら否定したじゃないか」と言おうとしたが、澪に足を踏まれて口をつぐむ。
「わかったわかった。コホン」
わざとらしい咳をする鬼立。
「今から1人ずつ事情聴取を行いますので、まずは桧森さん。隣の教室へどうぞ」
「僕も事情聴取に参加しましょう」
「私も!」
紺野と澪は鬼立と桧森のあとについて行く。
「あぁ、1つよろしいですか鬼立警部」
「何かな」
「…また誰かが殺される気がします」