「ここまで探しても凶器が無いとはなぁ」
既に死体発見から3時間が経過していた。
一向に見つかる気配の無い凶器。
鬼立自身も憔悴しきっていた。
「犯人に凶器を隠しに行く時間なんて…無かったはずだ…」
「ということは考えられる可能性は、まだ犯人が凶器を所持しているか、現場もしくはその付近のどこかに隠してあるか、です」
「持ち物検査はさっきやって何も出んかったよ。ボールペンはあの刺し傷とはどう考えても合わないし」
「では、どこかに隠してあるということしか」
「だが、まだ見つかっていない。隠してありそうな場所は一通り探したはずだ」
その後鬼立は深いため息をついた。
「…ところで、美術部員たちは?」
紺野が澪に訊く。
「隣の準備室で待機してるみたい」
「そうか。じゃあ僕はもう少し彼らに話を聞こう」
そう言って紺野が美術室の出口へと歩き出した。
その時だった。
「きゃああああああああ」
どこからか女の人の甲高い悲鳴が響き渡ってきた。
「こ、この声は…」
「え、絵馬ちゃんの声だ…」
澪の顔が青ざめていく。
「準備室で待機してるんじゃなかったのか…!?」
紺野が急いで美術室を飛び出し、後に鬼立と澪も続く。
紺野は準備室の扉を勢いよく開けて、そこにいる人物を確認する。
「桧森さんと…不動さんがいない…」
「さ、さっきの悲鳴は…?」
萩川は紺野の顔を見て、事態が深刻だと言うことを察した。
「まさか不動さんが…? 君たち、2人がどこに行ったか知らないか?」
紺野は3人に問うが、3人とも首を横に振る。
すると、遠くの方から、
「誰かー!」
と声がした。
「不動さんの声だ。おそらく近い」
紺野は走り出した。
鬼立と澪が紺野に追いついたとき、紺野は音楽室の前に突っ立っていた。
「遅かったかもしれません…」
紺野がそう口にして、鬼立は音楽室の中に飛び込んだ。
紺野も鬼立の背後から音楽室へと足を踏み入れる。
室内の窓際の床には、2人の人間が倒れていた。
仰向けの不動は頭から血を流しており、その奥で桧森は背中にナイフを突き立てられて倒れていた。
「一体何が…」
鬼立は急いで不動の手首をとる。
しかし、既に手遅れだった。脈は完全に停止していた。
紺野も桧森の脈を確認する。
「桧森さんはまだ息があります!」
「わかった、氷川君、すぐに救急車を頼む」
「は、はい!」
紺野はうつ伏せに倒れ込んでいる桧森の顔を覗き込んだ。
桧森の額には、「死ね」の2文字がしっかりと書かれていた。
「部長を殺害した人物の犯行のようです」
「例の文字か…。これを書いたのはここで死んでる不動守心礼か。となるとこの事件の犯人は副部長の不動守心礼で決まりか…」
「いえ」
「何?」
紺野の否定に鬼立は動揺した。
「それはまだわかりません。気になる点があります」
「気になる点?」
「桧森さんの額のこの『死ね』の文字です」
「と言うと?」
「上総部長の時の文字はすぐに読めました。しかしこちらの文字は、持っていた筆が震えていたのか、線がギザギザしています」
「つまり、何が言いたいというんだね」
「つまり、――――ということです」
「な、何だと…。…お前の勘は侮れないからなぁ…」
紺野は1つの推論にたどり着いた。
しかし、鬼立は100パーセントの納得はできていない様子だった。
「逆にこの現場を見たままで捉えるには、説明できない部分があります」
「な、どこのことだ」
「…刺さっているナイフの柄の部分に着いている血です」
ガラガラと病室の戸が開いた。
「あ、紺野さん…」
「体の具合はどうだい?」
「はい、だいぶ平気になりました」
白いベッドに横たわる桧森は、花束を置いている紺野に微笑んだ。
「…不動さん、亡くなったんですね…」
「…頭部を殴られたのが致命傷だろう。しかも一撃だ」
「すみません…。不動さんが私を突然ナイフで襲ってきて…無我夢中で置いてあった花瓶を振り回したら…」
「運悪く頭部に当たって死亡…か」
紺野はベッドの傍の椅子に腰掛けた。
それと同時にガラガラとまた病室の戸が開く。
鬼立と澪、そして美術部員の萩川、時東、蒼井だった。
「お見舞いに来たよ。桧森さん」
萩川はフルーツの入ったバスケットを花束の隣に置く。
それを合図に紺野が口火を切った。
「…では、始めましょうか」
「は、始めるって…?」
桧森が尋ねると、紺野はこう答えた。
「…この血塗られた惨劇の推理ショーです」