白峰の死体が見つかったのは翌朝だった。
最初に登校してきた男子生徒が発見したようだ。
すぐさま駆けつけた鬼立と紺野。その現場を見て戦慄する他なかった。
「…傘の亡霊の仕業か」
「今度は背中に傘が刺さっているようですね…」
椅子に座って、机に突っ伏すように倒れていた白峰の背中には傘が突き刺さっていた。口からは血が滴った跡が残っている。死体の虚ろな目を閉じてやってから、紺野は付近の捜査を始めた。
「犯人はかなり追い詰められているようです」
「その理由はなんだね」
「まず、傘を背後から刺していることです。今までは真正面の腹部からだったはずなのに。おそらく、白峰さんに正体を気づかれて、仕方なく背後から襲ったってところでしょう」
「なるほど」
「二つ目に、机の下に落ちているこのスマホです」
「ふむ…。壊されているようだね」
「犯人が壊したのでしょう。おそらくこの中に、犯人につながる手がかりがあるはずですよ」
「データの復元は依頼しておこう」
鬼立は紺野からスマホを受け取り、麻倉刑事に渡した。
「そして三つ目、この現場自体です」
「現場自体?」
「ここは高校の教室の中です。普通、学校は夜間は門を閉じて、出入りができないようにするはずです。しかし、彼女は昨日の夕方から翌朝までの間に殺害されている。つまり、犯人は学校を出入りできないんです」
「外部犯ではなく…高校の人間…」
「そうです。やはり犯人はかなり身近なところに潜んでるようです」
紺野がそう言うと、ドタバタと探偵団が姿を現した。
「楓ちゃん…」
「や、やっぱり…」
「月丘さん…やっぱりというのは?」
月丘の言葉を疑問に思った紺野は、質問を投げかける。
「昨日の夜に白峰さんからチャットが来てて…。こ、これです」
月丘はスマホの画面を紺野に見せた。
画面にはチャット欄が映し出されていた。相手の名前が「楓」となっている。
チャットの会話はこうなっていた。
楓「あたい今から会いに行くことにした」
ナル「え? 誰に?」
楓「犯人がわかりそうなの」
ナル「本当!?」
楓「だから関係者に話を聞きに行ってくる」
ナル「わかった。何かあったら連絡してね」
「それでこれ以降、白峰さんから連絡は?」
「い、1度もありませんでした…。嫌な予感はしてたんです。だから…場所を聞いてみたんですけど、もうその時点では何も返事が来なくて」
確かに「場所を教えて」というチャットをいくつも送っているが、返答した様子は無い。
「もうこの10時16分の時点では彼女は死んでいたということか?」
「いえ、スマホが使えない状態だった可能性もあります」
紺野の勘はどうやら調子が悪いようだ。困惑の表情を隠せない。
「月丘さん以外で白峰さんからメッセージを受け取っている方は?」
残りの3人に質問を投げかけるが、全員が首を横に振ってノーを示す。
「…待てよ?」
紺野はここでふと考えた。
「このメッセージ自体が犯人の仕組んだことかもしれません」
「犯人が白峰さんのスマホを使って成りすましたということですか」
舞浜も考えるポーズをとる。
「その可能性は大いにある。もちろん断定はできないが」
「調子悪そうだね紺野」
「そうだね。突然探偵団のメンバーを次々に殺害し出したのが引っかかる」
「自分の正体がバレる恐れがあるからじゃないの?」
「いや…何か違う理由があるはずなんだ。勘がそう言っている」
「犯人の目星はないわけ?」
「確実にあの探偵団のメンバーの中にいるだろう」
「うわ、勘じゃん」
「うわとは何だ。勘なのは否定しないが…」
「勘探偵だからね」
「…それにあのチャットについてだ」
「あれが何かあるの?」
「いや、不自然だと思わないか?」
「どういうこと?」
「何故『楓』は月丘さんだけにチャットを送ったのだろう?」
「たまたまでしょ」
「探偵団6人用のチャットもあるということは他のメンバーに確認している。そこにチャットを送れば、全員に自分が今から誰かと会うことを知らせられたはず」
「…やっぱ犯人が書いてて、もし誰かが変な詮索を始めたら困るからじゃない?」
「…」
「…不満そうな顔」
「納得できてないのに満足げな顔をするわけないしな」
「それはそう」
「それに、白峰さんは最後までスマホで何をしていたのかも気になる。わざわざ犯人がスマホを探して壊したとは思えんし」
「犯人にとって都合の悪いものがあったのは確実だね」
「口封じ…ってわけか」
「犯人はあたしたちを確実に狙ってきてる…」
三国は曇り空の下の通学路を歩く。
「白峰は傘の亡霊に殺された。でも、雨は降ってなかったしそもそも室内だから傘をさしてるはずがない」
ひとり呟くが、犯人像が浮かんでくる気配はゼロだ。
不意に、腕にはめている時計を眺める。
「腕時計が何だって言うんだろ…。それに傘へのこだわりがすごいし」
三国は再び考え込む。
彼女は後ろで響く足音に気づいていない。
「…考えてもわからないな」
立ち止まる。
背後の影はすぐさま三国の後ろへ駆ける。
寸前で足音に気づいた三国は、咄嗟に振り返る。
「な!?」
フードを被ったその人物は、持っていた白い傘を三国に突き刺した。
「う…」
三国の体は後ろへ倒れる。
朦朧とする意識の中で、彼女はフードの下から一瞬だけ覗いた顔を見て驚愕した。
「ど、どうしてあなたが…」
その場に呻き声が響く。
やがてピクリとも動かなくなった。
フードの人物はそれを見届け、姿を消した。