「え? 雨佳ちゃんそうだったの? 知らなかったなぁ」
「そうですよ!」
氷川は最近仲良くなった後輩の
「やっぱり転校って親の都合とか?」
「いえ…私が父に相談したんです。転校したいって」
「どういうこと?」
「その高校、治安が悪いことで有名で…。カツアゲとかは日常茶飯事というか」
「ええ…」
美南の話に氷川は顔を青くする。
「しかも…耐えきれずに自殺してしまった生徒もいたようで」
「自殺…。そんな…」
「だから私はここに転校して来ました。自分自身が危ない…と思ったので」
「英断だよ本当に」
「今でもあの事件は忘れられないんです。自分の中に刻み込んでいます」
「なるほどね。私も色々あってさ、よくわかるんだ。その気持ち」
「先輩もですか…?」
「うん…こういうことがあってね…」
「あれ、
閑静な住宅街。大柄な男にその人物は名前を呼ばれる。
「お前は…
「ほう覚えててくれたんだなぁくくく…」
新野は自分を見てニヤつく士堂に嫌気がさす。
「何の用だ」
「おいおいまだ怒ってんのかよぉ? 恋人が死んだのは俺らのせいじゃないぜ?」
「お前らのせいだ。お前らがイジメを繰り返すから…亜美は命を絶ったんだ」
「そいつは逆恨みだなぁ。俺らはクラスの皆の意見を代弁してやっただけだぜ。命を絶ったのはあいつ自身さ。ああもしくは…新野が俺たちを説得できなかったのが原因かもなぁ? ハハハハ」
士堂が高笑いをする。
その言葉に新野はカチンとくる。そしてそばに落ちていた木の枝を拾い、士堂に目掛けて突き刺した。
「うっ」とうめき声が上がる。
「お、お前…」
士堂はその場で崩れ落ちる。
新野は血のついた枝を見つめた。
すぐに枝をバッグの中に押し込み、足早にその場を立ち去る。
(こうなりゃ全員殺してやる…!!)
朝、登校中の澪の目の前に人だかりが現れた。
気になった澪は野次馬をかきわけて最前列にやってきた。
するとすぐ前に「警視庁」の文字が印字されたバリケード、そしてその向こうに男が倒れていた。
「もしかして…事件…?」
よく見ると男の腹部が真っ赤に染まっている。刺されたようだ。
遺体の傍らに見覚えのある顔がかがむ。
「被害者は学生かね」
鬼立は麻倉刑事に問う。
「はい、士堂豪二といって、弓名高校に通う高校3年生です」
「弓名高校? 以前、自殺者が出たあの高校か」
弓名高校という名前は澪も知っていた。
このあたりで一番治安の悪い高校。そして、後輩の美南が転校する前通っていた高校である。
「今まで傷害事件やらなんやらでろくなことが無かったが、ついに殺人事件が起きてしまうとは…」
「士堂と対立しているグループがあるようですし、そこがまずは疑わしいかもしれません」
澪はそこまで聞いて、再び通学路へ戻った。
そのすぐそばで2人の男が話していた。
「おい、あれ士堂じゃねえか?」
「こ、殺されたっていうのかよ」
「畠中グループの仕業か…許せねぇ」
「待て。ここに血痕があるぞ」
「え? なんでだ。結構離れた位置だぞ」
「しかも、こいつは文字だ。…な、これは…!」
「…『アカクラアミ』だと…」
「犯人が残したメッセージってことなら…次に狙われるのは俺たち…」
「ば、馬鹿な…」
「弓名高校の人が?」
学校の廊下で偶然会った氷川と美南。氷川は今朝の殺人事件のことを美南に話した。
「士堂っていう名前みたい。そう聞こえた」
「士堂か。グループの頭でよく問題起こしてたやつですよ。ついに誰かに恨まれて殺されたんだと思いますよ」
美南はそう言った。
「例の自殺。あれも士堂が関わっていたって聞いたことありますし」
「なるほどねえ。ちなみに雨佳ちゃんは犯人に心当たりある?」
「探偵の真似事ですか? …士堂のグループと対立していた畠中グループとか怪しいと思いますね」
「畠中グループ?」
「ええ、
美南は鬱陶しいと言わんばかりの表情でそう続けた。
「…氷川先輩もしかして事件に首をつっこもうとしてますか」
「え」
氷川は驚く。
美南の指摘は的を得ていた。
「もしそのつもりなら、絶対にやめてくださいね。命がいくつあっても足りませんから」
その言葉に圧倒された。
冗談で言っているわけではない。美南は真剣な顔で氷川を見つめていた。
「わかったよ」
氷川が答えると美南は笑顔になって、
「約束です」
と返して、廊下を歩いて行った。
「…雨佳ちゃん。本気で心配してくれたみたい」
「ったく誰の悪戯だ」
とある手紙を受け取ったが、その署名はアカクラアミとなっていた。
「ボコボコにしてやる。俺は士堂みたいに簡単に死んだりしねぇからな」
静まり返った公園内には今のところ彼一人。
待っても姿を現さない手紙の主。段々と苛立ってきた飛藤は池の周りを歩き始めた。
「くそ」
その場に転がっていた石を蹴り、池に落とす。
突然飛藤に背後に影が現れる。
飛藤はその気配にすぐ気づいたが、既に遅かった。
飛藤の体はその影に押され、足は地面から離れ、水面の上にあった。
「うわああ」
ざっぱーんと豪快な音を立てて飛藤は池に転落した。
「た、助けてくれ」
飛藤は力を振り絞って顔面を水面から出して、自分を落とした人物の顔を見て絶望した。
「新野…! お前…!」
飛藤を突き落とした主…新野はただ無表情で、池の中でジタバタする飛藤を見ていた。
「次はお前が死ぬ番だ」
そう言い残して新野は踵を返して、消え去る。
意識が遠のいていく飛藤。数分後、飛藤の体は池の底へ沈んでいった。