これは時系列的には遡ってます。わかりますね?by紺野
悲鳴が上がると同時に、紺野の真横で、人の体が床へと崩れ落ちた。倒れたその人はぴくぴくと痙攣をしていた。
「下がって」
一言言った紺野は、既に痙攣も途切れた倒れた人間の傍らに座り込んで、右手首を手に取る。
「……死んでいる」
「ど、どうして……何が起こったって言うの!?」
「殺人事件ですよ」
「さ、殺人事件?」
「ええ、僕の勘では……この中に犯人がいます」
「被害者は
「やけに詳しいじゃないか」
鬼立は部下に言う。「ええ、まあ娘がハマってて」と部下。
「死因は毒か」
「はい。アーモンド臭がするあれです」
「青酸カリか……?」
「被害者が倒れる直前に食べていたショートケーキや、ほかの食べ物、スプーン等の食器類、全て調査しましたが毒は検出されませんでした」
「ふーん、こりゃ自殺だな。自分で毒を飲んだんだろう」
鬼立が決めつけていると後ろから声をかけられた。
「いいえ、これは殺人事件です」
「誰だね君は」
「僕ですか。……ただの居合わせた客ですよ」
「客?」
「被害者が倒れる瞬間を隣で目撃しました。おそらく、いや、確実に、100パーセント、命にかえても、神に誓っても、これは他殺です」
「何を根拠に」
「根拠ですか? そんなものありません」
「勘です」
「はぁ? 勘で殺人だと決めつけるのか」
「もう少し調べてみてください。被害者はこの喫茶店の常連だったらしいし、ここのマスターや被害者と同席してた人たちが何か恨みを買ってるかもしれません」
「お前何で松島が常連だってことを……」
「だから、勘だって言ってるじゃないですか」
不服そうな鬼立だったが、1人ずつ話を聞いて回ることにしたようだ。
「私は……
「あの女優の……」
「そうよ。……言っとくけど私は犯人じゃないわよ。確かに松島のことは恨んでたわ。いろいろあってさ」
「そ、そうですか。で、そちらは……」
「あ、白巻のマネージャーの
「マネージャーですか」
「そうです。今日は私と白巻と松島さんの3人で、ここに来たんです。もちろんプライベートでですよ。松島さんが誘ってきたんですけど……」
「行きつけの喫茶店があるから一緒に行かないかってね」
「はあ。それでここに……」
次に鬼立は喫茶店のマスターとアルバイトの女子高生に話を聞いた。
「
「どうも」
澪と言う女子高生は、ぺこりと頭を下げた。
「松島さんはここの常連だったそうですね」
「ええ、1ヶ月に2回は必ずいらっしゃいました」
2人が会話をしている間、紺野は3人が腰掛けていたテーブルを観察していた。
テーブルには、いちごののったショートケーキが3つ。そして片側にコーヒーが2つ、反対側には同じくコーヒーが1つ。
どのショートケーキも食べかけで、どのコーヒーも飲みかけだ。
ふと、紺野はマスターを見て、ある部分に目が止まった。
そういうことか、と紺野は心の中で納得した。
「あの君」
「わ、私?」
「そう」
紺野はアルバイトの澪を呼んだ。
「松島さんがいつも同じものを頼んでたとかそういうの無かった?」
「うーん、あ、あったあった」
澪がわざとらしく紺野から視線を逸らし、また戻した。
「この喫茶店のメニューで、ショートケーキのやつなんだけど。ショートケーキのトッピングが選べるんだけどさ、いつもあの人、アラザンだけトッピングしてたんだよ」
「アラザン?」
「うん。砂糖玉だよ。ほら、よくケーキの上とかに銀色の玉があるじゃん。あれのこと」
「なるほど」
「犯人わかりましたよ。警部さん」
「え? 嘘も休み休み言いたまえ」
「いやーそれほどでも」
「会話成立してないぞ」
「犯人は……マスターの四方田さん、あなたです」
「……何を言ってるんですかやだなぁ」
四方田は明らかに焦っている。
「あなたは松島さんがいつもショートケーキにアラザンをトッピングすることを知っていた。だからあなたは毒入りのアラザンをトッピングして、松島さんに提供したんだよ」
「証拠が無いですよ」
「……その口の中を見せてください」
「え?」
鬼立が驚いて紺野を見た。
「口の中?」
「推測……じゃなくて、勘が当たっていればおそらく彼は口の中に……毒入りのアラザンを隠しているはずです」
「何でそんなところに」
「もちろん、体を調べられても気づかれないようにするためです」
「しかし、被害者がそのアラザンを体内に入れて死んだなら、何で彼もアラザンを持っているんだ」
「アラザンは元々一つでした。ですがそのアラザンは2つに増えてしまった。アルバイトの澪さんの手によってね」
「え」
四方田と鬼立が同時に澪を見る。
澪は申し訳なさそうに言った。
「いつも来てくれてるから、サービスでこっそりアラザンを1つ増やしてショートケーキにのっけたんだ……。マスターがショートケーキをテーブルに運ぶよう言った時にこっそり」
「アラザンがのった状態でショートケーキが見つかれば、アラザンが毒だったことがバレてしまう。だからマスターは死体に意識が向いてるうちに素早くアラザンを口の中に放り込んだんです。普通のアラザンの可能性が高いですが、もし自身が仕込んだ毒入りのアラザンであれば、そこらに捨てる訳にもいきませんし」
すると観念したのか、四方田は口の中からアラザンを取り出した。
「まさかバレてしまうとは……」
「どうして彼を殺した」
「……妻と浮気してたんです。だから殺しただけです」
「ねぇ」
「ん?」
「私実は推理小説大好きでさ。いやかっこよかった」
「……そう」
「名前は?」
「……紺野優一。ただの大学生」
「紺野ってさ、何か自信無さげだよね」
「……」
「事件を解決する探偵役だってのに、推理をお披露目するのに抵抗があるのか知らないけど、自信のなさが見える」
「……」
「よかったら教えてよ。どうして自分の推理に自信が持てないのか」
「……大切な人を失ったからだよ」