幻想の地に吹き荒れる熱風   作:うどんこ

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第4話 年の終わり

 季節が巡り、今年一年ももうすぐ終わりの冬真っ只中、ゾゾは毎日欠かさず霊夢の元へ顔を出していた。いつもと違う点を挙げるとするならば、場所は畑ではなく霊夢が生活している小屋であるが。

 そして今日も居間の囲炉裏で暖を取っている霊夢は玄関の扉の前に何時もの気配を感じ取り、面倒くさそうにしながらも扉を開ける。そこにいたのは一匹の蝗であった。

 

「やあやあ霊夢、おはよう。今日もぐーたらと過ごしているのかな? たまには運動しないと病気になっちゃうよ」

「おはようゾゾ、アンタは相変わらず暇そうなのね。入るならサッサと入ってくれない? 開けっ放しだと冷えるのよ」

 

 そう言い放って扉をを閉めはじめた。ゾゾは慌てて小屋の中に飛び込み、そして囲炉裏の前で暖を取り始める。

 

「あぁ〜、あったまるぅ……やっぱりこの寒さにはいつまでたっても慣れないなぁ」

 

 そう言いながら自身の足を(つくろ)っている。そんな様子を霊夢はただじっと眺めながら、暖を取りに囲炉裏の前へと戻った。

 

「アンタ、身体は蝗の癖によくこの寒さに耐えれるわね。蝗って冬を越せるものなの?」

「いや、普通は冬の前に死んじゃうと思うよ。寒さには弱い筈だからね」

「じゃあ何でアンタの入った蝗は平気そうなのよ……」

「そりゃあいっつもこの身体に私が入ってるからねぇ、私の魔力の影響を受けて妖怪化しちゃったんじゃないかなぁ」

 

 それを聞いた霊夢はなんとも言えない顔をしていた。大方ゾゾの影響を受けて妖怪化したと聞いて自分は大丈夫なのだろうかと思っているのであろう。

 

「前から言ってるけど、私になんか勝手にしようとするのはやめてよね。私の身に変な異常が起きたらアンタを真っ先に叩き潰すわよ」

「おぉ怖い怖い。そんな無粋な真似はしないさ。それに私が近くにいるからって人間はそう易々と妖怪化なんてするわけないから安心していいよ」

 

 穏やかな声で霊夢を安心させようとするものの、霊夢は相変わらず疑わしいものを見るかのような様子である。

 

「どうだかね、悪魔は人間を騙すのが得意らしいからね。あんまり信用できないわ」

「誰だい? そんなことを霊夢に吹き込んだやつは? 許しちゃおけないなぁ」

「アンタよ、アンタ。アンタが直々に私にそれを教えたんでしょうが」

「あれ、そうだったかな? 都合の悪いことは覚えていないなぁ」

 

 霊夢は呆れた表情を浮かべながらも、口元は少しだけ楽しそうに歪めていた。なんだかんだ言いながらも、くだらないやり取りを楽しんでいるのであろう。それを確認したゾゾも嬉しそうである。

 

「ったく、しょうもないお話を続けるのもいいけど、今日はどういった用で私の家に来たのよ? まあ聞かなくても分かるんだけどね」

「おっ、凄いね霊夢は! 私の言いたいことが話さなくても分かるなんて! そんな魔法使いに向いている霊夢にいいお話があるんだ〜」

 

 毎日のようにやっているやり取りである。すでに霊夢はゾゾのあしらい方に慣れてしまっていた。

 

「はいはい、いつも言ってるけど結構よ。他を当たりなさい」

「むぅ、まだ何も言ってないのに断られるとは……せめて話だけでも聞こうよ」

「毎日のように聞いてるから遠慮するわ。それにしてもアンタも諦めが悪いわね」

 

 霊夢の呆れたような視線を浴びながらもゾゾは楽しそうに声を弾ませた。

 

「そりゃあ悪魔だからね。執着心は凄いのさ。ま、正直今のような関係もなんだかんだで楽しいからいいけどね」

 

 霊夢はそんなゾゾに溜め息を吐きながらも、自分もなんだかんだでこの関係を楽しんでいるんだなと思った。

 悪魔と人間、普段は相容れぬ関係であるが霊夢とゾゾの間ではそんなことは問題でなかった。霊夢はいつも一人であったが、ゾゾが来るようになってからは寂しさが紛らわれた。ゾゾは何故だか知らないが霊夢を気に入っており、いつも楽しそうに霊夢と会話をしている。そんな二人の間には多少なりとも友情のようなものが芽生えていた。

 

「そういえば今年は私の家にいるけど、ゾゾは去年までは冬をどんな風に過ごしていたの?」

「ん? 去年までかい? 知り合いの家に上がったり、自分の住処でゆったりと過ごしていたねぇ」

 

 霊夢の素朴な質問に、囲炉裏でぬくぬくと温まっていたゾゾは気が抜けたように答える。

 

「へえ、アンタ私以外にも知り合いがいたんだ。意外だわ」

「失礼だなぁ〜。そりゃあ私にも知り合いはいるよ。そんなに多くはないけどね」

「アンタの知り合いってことは全員変な奴なんでしょうね。どんな素っ頓狂な奴らなのか少しは気になるわね」

「その理論でいったら霊夢もその素っ頓狂の一員になっちゃうけども大丈夫かな?」

「私だけは例外よ。私を素っ頓狂軍団の一員にするのはやめてくれない?」

「理不尽だなぁ……」

 

 霊夢の暴論を聞いてもゾゾは嫌な様子を感じさせることなくヘラヘラとした雰囲気を出していた。

 

「去年はお花が大好きな妖怪の友達のところでぐーたら過ごしてたね。冬以外の時期に行くと嫌な顔されるけど」

「何で?」

「大事な花を枯らされるとでも思ってんじゃない? 冬だと咲く花もほとんどないからまあ許してやるみたいなもんかなぁ」

「それ本当に友達なの?」

「友達さぁ。あいつ以外の知り合いはもっと酷い扱いしてくるからね。頭の固い老鴉や賢者は私に恩を売ろうと画策してくるし、角の生えたでっかいのやちっさいのは私を見るなり腕試ししようとしてくるんだ。たまったもんじゃないでしょ?」

「変な奴らばっかりじゃないの、私はそんな奴らとは関わり合いにたくないわよ」

 

 霊夢はゾゾにそんな奴らを紹介するなよと視線を送るが、ゾゾはそれを軽く受け流した。

 霊夢がお茶を啜ると同時にゾゾは何かを思い出したのかあっと声を上げる。何事だと視線を送るとゾゾは霊夢の方へ向き楽しそうに声を出した。

 

「今年もそろそろ終わりだし、今年一年良い子にしていた霊夢ちゃんへお年玉の代わりに何かプレゼントをあげようと思ってたんだ。何が欲しい? ママは太っ腹だからなーんでも欲しいものあげちゃうよ」

 

 もし人型であれば、胸を張っているような様子でそう豪語するゾゾを霊夢は呆れた目で見つめる。その目は「何馬鹿なこと言ってんの」と言いたそうな目であった。

 

「はいはい、どうせいつもの冗談なんでしょ。そう易々と騙されないわよ」

 

 そんな様子の霊夢を見て、ゾゾはキョトンとしていた。どうやらこんな反応をされるとは思ってなかったらしい。

 

「いやいや、これは冗談じゃないよ。ホントに霊夢が欲しい物をプレゼントするつもりなんだよ。なんか欲しいものないの?」

「そうなの? でもタダより高いものはないって言うし、なんかあんまり欲しいものを言いたくないのよね」

「あはは、大丈夫大丈夫。これはお年玉だからね、見返りなんて求めないさ。だから遠慮なく欲しいものを言っちゃいなよ」

 

 霊夢はフムと指を顎にあて、考え始める。それをゾゾは楽しそうに唯々ジッと眺めていた。少し時間が経つと霊夢は顎から指を離した。どうやら何をお願いするのか決まったようだ。

 

「……ぼた餅」

「え? なんて?」

 

 ゾゾはよく聞こえなかったのか聞き返す。霊夢は恥ずかしそうにもう一度口にした。

 

「だからぼた餅よ! 人里にある美味しい茶菓子屋のぼた餅! なんか文句でもある?」

 

 それを聞いたゾゾはポカーンとしていた。この答えはゾゾにとって予想外だったらしい。

 

「え、ぼた餅? それだけでいいの? ほら、他にもなんか欲しいものないの? 金銀財宝とか……」

「じゃあぼた餅の他に肉まんも持ってきてよ。今人里で人気の肉まん屋の肉まんよ、分かった?」

「……ホントにそんなのでいいの? もっと欲張ってもいいと思うんだけどなぁ」

「私がいいって言ってるんだからいいのよ。それとも何でも欲しいものくれるって言っときながら無理な訳? それなら諦めるわ」

 

 どうやら腑に落ちないようである。それでもゾゾはなんとも言えないような雰囲気を出しながらも、分かったと頷いた。

 

「はあ、霊夢がそれでいいならいいよ。そんな簡単なお使いも出来ないと思われるのも癪だからね。人里のぼた餅と肉まんね……明日沢山買ってきてあげるよ」

「そ、じゃあ宜しくね。私は明日もゴロゴロ部屋で暖をとっておくから、そのつもりでよろしく」

「はいはい、それじゃ私は帰るとするかな。それじゃ霊夢、また明日」

 

 そう言うとゾゾは扉前まで飛んでいき、扉をどうやってかは分からないが触れることなく開け放ち、外へと出て行った。出た後は律儀に開けた扉を閉めて。

 それを見送った霊夢は、明日ありつけるであろうご馳走に胸を膨らませながら、顔を綻ばせていた。

 

 

 

 

 

 次の日、霊夢一人では到底食べきれない量のぼた餅と肉まんをゾゾは持ってきたのだった。当然、全部食べきるなんてことは出来ず、2〜3日食事が肉まんとぼた餅となり、しばらくそれらを見るのを霊夢は嫌になる羽目になったのであった。




お年玉欲しい…
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