ゾゾは次の日も霊夢の家にやって来た。しかし、霊夢は居なかった。何処かに出かけたものと思い、帰ってくるまで待った。しかし、待てども待てども霊夢は帰ってこなかった。次の日もその次の日もゾゾは霊夢が帰ってくるのを待ち続けた。それでも霊夢は帰ってくることは無かった。ゾゾは何かを悟り、やがて霊夢が住んでいた家にやってくることは二度となかった。
風見幽香の元に連絡が来たのは少し前のことである。日課の花の手入れに精を出していた時のことだ。普段なら幽香の妖気を恐れて普通の虫は近づかないはずであるのに一匹の
数少ない友人の使い魔である。一体何事かと思いながら、使い魔の様子をうかがっていると蝗を通して言葉が発せられる──『今からそっちに行ってもいいか』と。
それを聞いた幽香はため息を吐きながらも確認をとる。
『スキマ妖怪からの許可は貰ったの』と。こんな時期に友人が自分を訪ねてくることはほとんどない。あるとしたら何か用事がある時かあるいは──
『今はイラついてるから紫の所に顔も出したくない』
嫌な予感は的中した。友人はいつも機嫌が悪くなるといつも自分のところに来て愚痴を言いにくるのだ。それが周りに許可を取ってならまだいい。しかし、大体の場合は自分以外に何の連絡も取らずにやって来る。
まあ、たまにある事なので特に気にせずに許可をだす。自分も別にあのスキマ妖怪の事は好きなわけではない。小言を言われるのはどうせ友人だけであるし、スキマ妖怪がピリピリしようと自分の知ったことではない。友人がやって来るまでの間、幽香はお茶会の準備を始めた。
幽香の花畑にやって来たのは幻想郷でも珍しい容姿の持ち主であった。獅子のタテガミの様に乱れた長い金髪に薄い褐色の肌、額には二本の角、背中には二対四翼の鷲の翼、蠍の尾を持ち、瞳は血の様に
その人物が幽香の家の前まで行き、軽くノックをする。
「やあ幽香、久々だね。会うのはどれくらいぶりかな?」
そんな軽い口調の客人に返事を返しながら幽香はドアをゆっくりと開けた。
「まだ一年も経ってないわよ。まあ入りなさい、ゾゾ」
「おや、そうだったかな? 最近毎日のように会ってた人がいたから、長く会ってないような気がしてたよ」
幽香に連れられて部屋に入ったゾゾは鼻をクンクンと鳴らし、テーブルの上に置いてあるティーセットに目を向ける。
「おや、前に私が美味しいと言った紅茶を用意してくれたんだ。ホント幽香は気が利くね」
「貴女にそう褒められてもあんまり嬉しくないわね」
そうこぼしながら幽香はイスに座り、ゾゾにも席に着くように促す。ゾゾもそれに従いながら自分の前にあるティーカップに紅茶を注ぎ、ゆっくりと味わい始めた。
「う〜ん、やっぱりいい味だなぁ。幽香の紅茶を選ぶセンスは見習いたいなぁ…」
「それはどうも……で、今回は一体何があった訳? 相談だけなら乗るわよ」
早速幽香が今回のゾゾの訪問について切り出す。そんな幽香へおちゃらけたようにゾゾは口を開く。
「何もなくても幽香の所には遊びに行きたいと思ったとは思わないのかい?」
「思わないわね。大体貴女、決まった時期にしか此処に来ないじゃない」
「そうだったかな? まあたまには違う季節の時にも来たいと思うのも不思議じゃないんじゃないかな? ほら、幽香の花畑の花も綺麗に咲いていたし、それを目的に来たという線もあるんじゃない?」
「ないわね。第一貴女から花には近寄ろうとしないじゃない。枯らすかもしれないからと言って……そんな貴女が花を目的に来ると思うわけ?」
それを聞いてゾゾは、軽く笑いながら手を上げ降参といった様子で言葉を続ける。
「おやおや、とんだ名探偵がいたものだ」
「誰でも分かるわよ。馬鹿にしているの?」
「ああ、すまなかったよ。軽い冗談のつもりだったんだ。気を悪くしないでくれ。
ええと、幽香の思った通り相談事があるんだ。聞いてくれるかい?」
幽香はため息を吐きながらもゾゾの方へ耳を傾ける。ちゃんと話を聞いてないと延々と同じ話を繰り返してくるからである。
「聞く気がないって言っても貴女、無理矢理にでも聞かせてくるでしょうに……で、一体何があったの?」
幽香の問いに、ゾゾは
「何処かの愚か者が、私が大事に大事に目を掛けていた人間を攫ったのさ。許せないだろう? はらわたが煮えくり返るとはこういった気持ちなんだね。初めての体験だよ」
幽香は耳を疑った。ゾゾが人間に目を掛けるなんて思いもしなかったからだ。人間の事を路傍の石としか思ってないような奴である。そんな奴が人間に興味を持つとは、ましてや贔屓にするとは流石に予想外であった。
そしてそんなゾゾのお気に入りに手を出した命知らずは一体何処のどいつだと思った。
「貴女が人間に興味を持つなんて驚きだわ。幻想郷で行動が制限される貴女がどうやって会ってたのかしら?」
「使い魔を通してだよ。連れ攫われるまでは毎日のように会ってたからねぇ」
「そもそもどうして連れ攫われたと思ったのかしら?」
「何の前触れもなく居なくなったからね。引き取られるなら前もって私に伝えてくれてもおかしくないし、何より人里をくまなく探し回ったけど見つけられなかった。これは人成らざる者に連れてかれたと思ってもいいんじゃないかな」
幽香は考え込む。人里で人攫いなど並の妖怪では出来まい。例え博麗の巫女が病気で弱っているといっても普通の妖怪なら恐れてそんな行動に出ることはないからだ。となると考えられるのは、博麗の巫女や妖怪の賢者を恐れない者が何の目的かは知らないが人間を連れ去っていったということである。そうなると数はだいぶ絞られてくる。
「そもそも、貴女とその人間が関係を持ってたって知ってる人はいるの?」
「誰もいないねぇ……霊夢が嫌がるかもしれないから
「まあ、そんな事してたら大騒ぎになってただろうからしなくて正解だったと思うわよ。それで、貴女はどうしたい訳?」
それを聞いたゾゾは凄惨な笑顔を浮かべながら、身の毛がよだつような声で言い放つ。
「霊夢を攫った奴に生まれて来た事を後悔させてやりたいなぁ」
その瞬間、凄まじい量の魔力がゾゾから溢れ出る。幽香の部屋の中のものが揺れ、空間が捻れる様に蠢く。これは相当頭にきているなと幽香は感じながらも宥めにかかる。
「とりあえず落ち着きなさい。それ以上されると私の部屋が散らかってしまうじゃない」
「おっと、これは失敬。少しばかし感情が
そう言って深呼吸を始めるゾゾ。幽香はこの爆弾みたいな友人をどうしたらいいか考えあぐねていた。
「だいたいどうやって犯人を探すつもり? 何の証拠も掴んでいないんでしょ?」
「そこなんだよね〜問題は。幽香はいい方法知らない? 犯人もしくは霊夢を探す手段をさ」
そんな事を言われてもと幽香は思ったのと同時に、一つの妙案が浮かびあがった。友人の助けになりそうであり、何よりこの面倒臭い問題を他人に押し付けられる良い案が。
「それなら天狗を頼ったら如何かしら?」
「天狗?」
ゾゾが顔を
「あら? 何か問題でもあるの?」
「いや……別に問題はないんだけど……アイツらメンド臭いんだよねぇ……こっちの弱みに付け込んできて、恩を売ろうとしていざという時に恩を返せとのさばって来るんだ。下手に出てくる癖に、こっちの力をどう有効に使おうか画策してくる嫌な連中だからあんまり頼りたくない……」
「でも天狗の情報収集力は侮れないわよ」
「でもなぁ……」
煮え切らないゾゾに幽香は最後の一押しとばかりに畳み掛ける。
「それに、天狗が神隠しとして貴女のお気に入りの子を連れ去った可能性もあるかもしれないわよ」
その言葉にゾゾが眉を動かす。どうやら決め手の一言になったようだと幽香は思った。
「そういえば天狗にはそういった習慣があるのを忘れていたよ……確か、人間に天狗の恐ろしさを忘れさせないようにする為だっけ? 実に馬鹿らしい理由だよ……そんな事をしないと人に恐怖を刻み込めないなんてね……」
ゾゾは紅茶を飲み干し、席を立ち上がる。どうやら次に取る行動が決まったようだ。
「あら、これから妖怪の山に向かうのかしら? スキマ妖怪に話を通しとかなくてもいいの?」
「アイツ、絶対止めてくるだろうからいいや。後で小言を言われるだろうけどどうせそれだけだろうから気にする必要もないね。
それじゃあ幽香、今日は相談に乗ってくれてありがとう。また何かあったら来ると思うからその時はよろしく。それじゃあ、バイバイ」
そう言い残すと二対の翼を広げ、飛び立っていった。
それを見送った幽香はやっと終わったかと息を吐きながら片付けを始めようとし、すぐにやめた。
「今日は来客が多いわね。それで、アポも取らずに来て一体何の用かしら、妖怪の賢者さん?」
空間に裂け目が生まれ、そこから一人の人物が現れた。
「ちょっと相談に乗って貰いたい事があるの。ゾゾとゾゾの探している人物の事についてね」
ゆうかりんマジ天使